殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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超絶美形のはかりごと

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 やはり自分の父親が死ぬところを見るのはショックだったのか、リンネは実家に戻ってから居間のソファに寝転ぶと何も喋らなくなった。

「主様が心配だッ!」

 リンネを心配し、何とかならないかという視線を向けてくるビャクヤを無視して、俺はテーブルに足を乗せて椅子に座ると、これまでの情報に見落としがないかを考えた。

 【再現】の魔法で得られた情報といえば、アトラスが逃亡する直前にイービルアイが現れて消えたという事だけだ。それ以外は鉄鎖騎士団団長のクライネ・アストレイヤの喋った内容と変わらない。

「そういや、アトラスの日記とか、そういうものはないのか?」

 もしかしたら何か手掛かりが書かれているかもしれねぇ。

「そういうのは騎士団に没収されたわ。お父さんがどういった人物だったかとか、騎士の典範に背く内容が書かれてないかを調べる為にね。調べ次第、押収品は随時返却するって言ってたし、まだ何も返ってきてないって事は調べてすらいないんじゃないかしら?」

 目の上に前腕を置くリンネは、実家に帰って来てから初めて口を開いた。

「それを見せてもらえないのか?」

「私もそれを訊ねてみたけど、駄目だって言ってたわ」

「騎士ってぇのは融通が利かねぇなぁ、おい」

 騎士か。俺は急にクライネの上気した顔を思い出した。ビャクヤの超絶美形顔を見てしまい、人前でエクスタシーに達してもそれが何だったのかが理解できなかった初心な女騎士。

 男に耐性がない女騎士様かぁ・・・。

「男に耐性がない・・・。そうか! これだ!」

 俺はパチンと指を鳴らし、テーブルから足を下すと立ち上がって、ビャクヤの肩に手を置いた。

「何がッ?!」

 仮面に不安そうな顔を浮かべるビャクヤの肩に手を回して、俺はヒソヒソ越えで喋り始めた。




 村の栄えた場所にある大通りに居を構えるクライネは、突然の訪問者のノックの音を聞いて、二階の窓から誰が来たのかを確かめる。

(あれは! リンネの使い魔・・・!)

 だらしなく開いていた白い服の胸元を正して、玄関に向かう。

 貴族で騎士団長と言っても、一人暮らしの田舎騎士にメイドや執事などはつかない。全てを自分でやらなければならないのだ。

 クライネはあの少年の素顔を見た時に味わった、不思議な感覚が忘れられなかった。もう一度あの幸せな感覚を味わいたい。

 逸る気持ちが階段を下りる足を急かした。

「今出る! (留守だと思って立ち去らないで!)」

 急いで開けた扉の向こうで、仮面を付けた魔人族と呼ばれる種族の少年が、深々とお辞儀をした。

「ご機嫌いかがですか、クライネ様」

 この島の外であれば、本来、お辞儀して尚且つ跪かなければならないのはクライネの方だ。

 西の大陸の半分を支配するツィガル帝国老皇帝ナンベル・ウィンの孫、時期皇帝に相応しいと噂されるビャクヤは、本来であれば田舎騎士が会えるような人物ではない。

 だがそんな事情など知らない(知るすべはないが)クライネはビャクヤのお辞儀と、手の甲へのキスに気を良くしている。

 ビャクヤも自分の身分を鼻にかける事はない。まぁ言ったところで誰も信じないのだから、自慢する意味はないのだが。

「君は・・・仕草が上品過ぎるな。こんな田舎で、都会の貴族のような真似事をしても、誰かに笑われるだけだがね」

「とんでもないッ! 見目麗しいクライネ様とお会いするのにッ! 無礼な態度では男を下げますゆえッ!」

「麗しい? この私がかね?」

「勿論(クッ! 心にもない事を言いたくはないというのにッ! キリマルめッ! ・・・ぽわんぽわんぽわ~ん。ここから回想に浸るんぬッ!)」

 ビャクヤはリンネの実家でキリマルに言われた事を思い出して、仮面の下で苦い顔をした。



「おい、ビャクヤ。お前はこのまま元気のないリンネを見ていたくはないだろう?」

「当たり前だのクラッカー、だがねッ!」

「(古ッ!)だったらよ、俺の案に乗れ」

「案とは?」

「クライネとかいう、美人だが色気のない騎士団長がいたろ?」

「彼女がなにかね?」

「おめぇ、あいつの心を読まなかったのか?」

「吾輩が心を読むのは基本的に君だけだと言ったはずだがねッ! ウゥゥウォンテッドッ! そもそも【読心】の魔法は存外に危険で・・・」

「その辺の魔法の話はまた今度な。とにかくだ。あいつはお前の素顔を見て頂点に達したんだ」

「は? 吾輩の顔を見ただけで? 何を馬鹿なことを」

「俺ぁよ。悪魔の力のせいか感覚が鋭いんだわ。だから鼻もいい。お前が、前の晩に自慰行為をしたら翌朝にはすぐに匂いで解るし、リンネが欲情していても即解る」

「主様の欲情の話、詳しくッ!」

「それもまた今度な(自分のオナニーの匂いがバレる事は気にしねぇのかよ)でよ、あの騎士団長様は、お前の顔を見た途端、漏らしやがった! それも匂いで解ったんだわ」

「え? 放尿してしまったって事かねッ? なんたる失礼な話ッ! あ、失礼というのは君の事だよッ! レディの恥ずかしい失禁話をッ! 他人に話してしまうデリカシーの無さが失礼ッ!」

「さっきクライネが頂点に達したって話をしたろうが! なんでおめぇの顔を見て、クライネが放尿する方向に考えるんだよ、アホが。それに失禁だろうが、欲情して濡らそうがどっちも恥ずかしい話だろうが!」

 こいつのボケはわかりずれぇから、時々マジでブチ切れそうになるわ。

「短気だねッ! 君はッ! で、吾輩の顔を見て頂点に達したクライネ殿が、なんだというのかねッ!」

 ここまでソファで寝るリンネに聞こえないように小さな声で喋っていたが、俺は更に声を潜める。

「つまりだ。クライネはお前にメロメロだって事だ」

「嗚呼ッ! それが本当ならばッ! 吾輩はなんて罪作りな男なのでしょうかッ! そういえばッ! まだ仮面をしていなかった幼き頃、メイドのお姉さんがッ! 吾輩に悪戯をした事があったッ! 彼女はッ! ねっとりとしたッ! 肉厚な舌を絡めてきた後、股間を触ろうとしたのだッ! 勿論ッ! 部屋に潜んでいた隠密に見つかって、そのメイドは捕まりッ! 牢獄送りになったのだがねッ!」

「お前の話なんかどうでもいいんだわ。まぁでもビャクヤの素顔は、それだけ破壊力があるってこったぁな。で、お前はクライネを魅了し、できるならばアトラスの遺体がある磔場まで、手引きをさせるよう仕向けてくれ。無理なら日記などの資料を渡すように言うだけでもいい。いいな?」

「しかしッ! それではクライネ団長を騙すようなものではないかッ!」

「騙すんだよ。アホが。なんか勘違いしてねぇか? 俺は悪魔だぞ。人を騙したり殺したりするのが仕事だろうが」

「立場が逆ではないかねッ! 吾輩がッ! 君に命令を出すのならまだしも、なぜ主従の従である君がッ! 吾輩に命令するのかねッ!?」

「あ~? 別にいいんだぜ? このまま禁固三十年のアトラスの遺体をここで待っていても。なんなら俺様が遺体を取り戻しに磔場まで行ってきてやろうか? きっと大騒ぎになるぜ? 俺たちは、リンネとも仲の良い鉄鎖騎士団を敵に回す事になるだろうなぁ? え?」

「解ったッ! キリマルの言う通りにするぼんぬッ! その案が一番穏便だと思えるのでねッ!」

「だろう? 解ったらさっさと行け。40秒で支度しな!」

(ぽわんぽわんぽわん。回想はここで終わりンゴッ! なぜ40秒なのかッ! 吾輩はそれが気になったがッ! 今は目の前の中年増を、何とかして落とさなくてはッ!)

 何かを期待するような顔をして自分を見るクライネの綺麗な顔を見て、ビャクヤは喉を鳴らした。

(これも主様の為ッ! 南無三ッ!)

「実はクライネ様・・・」

 先祖代々から受け継ぐ魔法の仮面にゆっくりと手をかける。

 焦らすように外して、ビャクヤは眩しいほどの美形顔をクライネに見せた。
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