殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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デレたリンネ

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(これは、主様が子供の頃に使っていたブランコだろうか?)

 太い幹にぶら下がるブランコは、体重65キロのビャクヤが乗っても平気なほどしっかりとした作りだった。細いながらもしっかりと編み込まれたロープ、無骨な見た目だが腐りにくいヒノキで作られた座板。

「なんて素敵なブラァンんんんコッ! アトラス様は娘思いの良い父親だったのですねッ! こんな素晴らしいブランコを作って、リンネ様を遊ばせていたなんてッ! 吾輩はこういう遊具で遊ぼせてもらえませんでしたからッ! 少し漕いでみますかッ! それっ!」

 ツィガル帝国皇帝の孫であるビャクヤは、危険な物には一切触れさせてもらえなかった。常に隠密やメイドが傍におり、当然一般庶民が楽しむような遊具のある公園にすら行かせてもらえなかったのだ。

 なので出掛けた行き帰りの馬車の中から、公園で遊ぶ子供たちを羨ましそうに見るのが常であった。

「こちらの世界に来てはや一年ッ! 何度かブランコに乗るチャンスはありましたがッ! 17歳の男子がッ! こういうものに乗っても大丈夫なのかッ! 変な目で見られないかが気になってッ! 乗る勇気がありませんでしたがッ! 今は庭に吾輩一人だけッ! 誰に気兼ねする必要がありましょうかッ!」

 ビャクヤは膝を屈伸させてブランコに勢いを付けていく。

「びゃあああ! 楽しい! 吾輩! こんなに高い位置まで漕げますよぉ! あははは!」

 ビャクヤが興奮して高い位置までブランコを漕いでいると、裏口からリンネが出てきた。どこか元気がない。

「ハッ!」

 帽子を手で押さえながらブランコから飛びりて、戦隊ヒーローのように上手く着地して自己陶酔する。が、後方から勢いの付いたブランコが、シルクハットを叩き飛ばしていった。ビャクヤは慌ててシルクハットを拾うと、リンネに近づく。

「日記にはッ! 何か手掛かりがありましたかなッ? 我が主様!」

 ブランコを楽しんだビャクヤの声は明るい。

「うん、あったよ。本当はビャクヤにも、秘密にしておきたかったんだけど・・・」

 ビャクヤとは対照的にリンネの声は沈んでいる。

 躊躇いながらも息を吐いて決心をすると、リンネは真っ直ぐとビャクヤを見る。

「お父さんはね、ネクロマンサーに頼んで、お母さんのゾンビをずっと地下室に匿っていたの。でね、お母さんの腐敗を遅らせて、状態を維持するためには、定期的にネクロマンサーが魔法をかけ続けなくてはならなかったの。そのためには触媒代とかが必要で、お父さんは何年もネクロマンサーにお金を払い続けていたわ」

「主様の学費も仕送りしながらでは、大変だったでしょうに!」

「ええ。でも最近ネクロマンサーが呪術代を値上げしたみたいで、お金に困っていたのよ」

「だから仕送りが滞っていたと?」

「うん。その事でお父さんは凄く悩んでた」

「アトラス様が禿げあがっていたのは、それが原因ですね・・・」

「元からあんな頭よ。お父さんは私を取るか、お母さんを取るかで迷っていて、結局お母さんを選んだ。そりゃそうよね。私は多少仕送りが遅れても何とかなるけど、お母さんは一度術が切れたらお終いだから。一度ゾンビ化した遺体への術が途切れると、二度目の術が効かないのはビャクヤも知っているでしょう?」

「ええ・・・」

「きっと盗賊討伐時に現れたイービルアイは、お金の催促でもしてたんじゃないかな。で、今すぐ払わなければ術を切ると。で、お父さんは任務を放棄して、急いでお金を取りに戻ろうとしたところを攻撃されたんだわ」

「いえ、主様。それはおかしいんヌッ! あの当時ネクロマンサーは盗賊に捕まりッ! 城で監禁されていたはずですッ! そんな余裕があったでしょうか?」

「別に催促目的じゃなかったかもしれないわ。お父さんに助けを求めていたのかも。どのみち、ネクロマンサーは監禁されてたのだから、お母さんのゾンビ化を維持する魔法の準備なんてできなかったと思うし」

「なるほど。イービルアイは、このままでは母上であるアンナ様は、ただの死体になると伝えたのかもしれませんねッ! それでアトラス様は焦ってあの場を離れようとした・・・」

「ええ・・・。ねぇ、ビャクヤ」

 急にリンネが泣き出したのでビャクヤは肩を抱き寄せて、心配そうに彼女の顔を見る。

「どうしたのですッ! 我が主様ッ!」

「キリマルは、お父さんとお母さんを生き返らせてくれるよね?」

 涙声で喋る彼女の心内に巣食う不安は、【読心】の魔法を使わずともビャクヤにも伝わってきた。

「勿論ですともッ。彼の能力はッ! まだ公になってはいないもののッ! あの蘇生の力を知っている一部の者の間でッ! キリマルがなんと呼ばれているかを知っていますか?」

「ううん」

「彼は聖なる悪魔、聖魔キリマルと呼ばれているのですよッ!」

「ぷふっ!」

 リンネが泣きながらも笑う。

「矛盾する呼び名ね。悪魔なのに”聖なる“だなんて・・・」

「彼は卑劣な悪魔ですが・・・。何をどう望もうが、結果的に人を助ける運命にあるのです。現に彼は沢山の不幸な人を救ってきました。ゾンビ村の人々や、レッドキャップに殺された子供たち。その助けられた人物リストの中に、主様の両親が加わるだけの話ですよッ! 気楽にしてくださいッ! 彼はきっと主様の両親を生き返らせてくれますでしょう!」

「うん。励ましてくれてありがとう、ビャクヤ。で、キリマルはどこに行ったの?」

「確か情報収取しに、街へ向かったはずですッ!」

「そう・・・。じゃあその内に帰って来るわね。それから・・・」

「それから?」

「ごめんね、ビャクヤ。これまでずっと私に勉強や魔法を教えてくれたり、ピンチの時に助けてもらったりしてたのに邪険にしてて」

 遂に主様がデレる日がやって来たッ! ビャクヤの目と鼻腔が仮面の下で開く。と、同時にリンネに変身した悪魔に騙された苦い記憶も蘇る。果たして、このリンネは本物なのかという疑い。

「急にどうしたのですか? 別に謝らなくてもいいのですよッ! 我が主様のッ! そのお心遣いだけでもッ! 吾輩は嬉しいですからッ!」

 【読心】の魔法を使うべきかどうか。ビャクヤは悩む。彼女の様子がおかしいし、いつもより元気がない。やはり、偽者なのだろうか?

「あと・・・。ビャクヤは、私の事好きだって言ってくれたけど、私も・・・、ビャクヤの事が好きだよ」

 照れて、はにかむリンネを見て、ビャクヤは全身の毛が逆立つ。たったこれだけの言葉で、ビャクヤを苛むを全て吹き飛ばしてしまった。

(もういい、これが偽リンネ様だとしてもッ! 吾輩に悔いはないッ! 信じたいッ! この甘美なる青春の時を!)

「あぁぁぁ! 報われたッ! 今この時ッ! この瞬間ッ! 吾輩の魂が昇天しそうなほどッ! 報われまんしたッ!」

 ぎゅっとリンネを抱きしめて、ビャクヤは喜びに震えた。すると腕の中から、リンネが尋ねる。

「なんでビャクヤは、そんなに私の事を好きなの?」

「なぜって、主様は美人で可愛くて・・・。ツンデレですが優しいですしッ! 得体の知れない吾輩を嫌がりながらもッ! 決して見捨てようとはしなかったッ! 貧乏なのにッ!」

「もう! 貧乏って言うな~!」

「でも実際、主様はッ! 一年間、私の食費や触媒代をッ! 少ないお金の中からッ! 捻出してくれたではありませんかッ!」

 リンネが愛おしいという気持ちが暴走しないように理性で抗い、ビャクヤは少し強く抱きしめるだけに止めた。

「吾輩はッ! この島に来るまでッ! 他人が自分の為に何かをするのは、当たり前だと思っておりましたッ! なぜならっ! 吾輩は皇帝の孫ですからッ! それに吾輩の周りには、裕福な者しかおりませんでしたッ! リンネ様はそんな人々とは違って貧乏なのにッ! 毎日自分の食費を削って、お腹を空かせながらでも、吾輩の面倒を見てくれたではありませんかッ! 重みが違うのです! お金持ちの施しと、貧なる主様の施しとではッ! 重みがッ! 自己犠牲ッ! 献身ッ! 慈悲ッ! 主様を見るといつもその言葉が頭を巡りますッ!」

「だって・・・。ビャクヤは私の使い魔だもん。お世話をするのは当たり前でしょ」

「もうツンはしなくてもいいのですよッ! もっとデレてください、我が主様! それに吾輩の事を好きだというのであればッ! 異性として興味を持ってくれたのでしょうッ! それは、いつからですッ?」

「もごもご」

 顔を赤くして口籠る主に、ビャクヤは大げさな素振りで耳を寄せた。

「なんです?」

「召喚した時からよ! 覚えてる? 皆が校庭で使い魔の召喚の儀をしている時に、霧の向こう側からデッドスコルピオンが現れたでしょ? あの時、ビャクヤは大きな毒針から、私をマントで守ってくれたわ。それに【闇の炎】で霧の魔物を一撃で倒したじゃない! 騎士団が束になっても負ける事のある霧の魔物なのに! その時に私は既にビャクヤに心を奪われていた、のかも・・・」

 それならば、最初から吾輩に素直にデレてほしかったとビャクヤは思ったが、主がここまで自分を褒めてくれる事はこれまでなかったので嬉しくなり、まだなにか素敵なビャクヤエピソードを語ってくれるのではないかと、次を欲しがった。

「それから時々ビャクヤが寝ぼけて、私の部屋に転移してきて、ベッドに潜り込んできた事があったでしょ? あの時は、ほんとドキドキしたんだから!」

「つまり吾輩が何かをしてくる事をッ! 期待していたと?」

「べ、別に期待してたわけじゃないけど・・・。でもドキドキしたのは事実よ」

「ベッドから直ぐにでも追い出せたはずなのにッ! 朝まで寝かせてくれるなんてッ! やはり主様は優しい! ではッ! これからもう一度ドキドキしてくれませんかッ!」

「えっ?」

 リンネは困惑する。どういう意味で自分はドキドキするのかと。

「吾輩の事が好きであるという証をいただければとッ! ・・・さぁ、キスをしてくださいッ!」

「どこに? ほっぺ?」

「口にッ!」

 ビャクヤが仮面を外すと、顔の辺りにモザイクが広がる。

「だって、どこが口だか解らないじゃない・・・」

「ここですッ!」

 ビャクヤの魅力を封じるという仮面のマイナス効果がなければ、丁度良い大きさの、ぽってりとした唇がリンネには見えただろう。しかしどう頑張っても見えるのは、モザイクだけだった。

 そのモザイクが自分の顔に迫ってきて、柔らかい唇の感触が自分の唇に重なる。

「んんっ!」

 驚きつつも、リンネはビャクヤの腰に手を回してキスを受け入れた。

 キスをしただけでリンネの顔は上気し、顔の熱が自分の体を巡って、次第に発情させていくのが解った。

「ビャクヤぁ・・・」

 主のトロンとしたメスの顔を見て、ビャクヤは下腹部がムズムズした。

「なんです?」

「キスだけ?」

 瞬時にビャクヤの股間がいきり立つ。リンネもそれに気づいたが、焦らすように無視をしている。

「この先もご所望で?」

「うん・・・。だって今までビャクヤの気持ちを無下にしてきたから。お詫びにビャクヤの全てを受け止めてあげたい(受け止めてあげたい)(受け止めてあげたい)」

 歓喜で白目を剥くビャクヤの耳に、「受け止めてあげたい」という言葉が何度も響く。

「ああ、今日はなんて幸せな日なのだろうか。(クライネ様とのあれはノーカンです。吾輩自身がまぐわったわけではないので)」

 分身とリンクして、クライネとの快楽に身悶えしていたあの時も男としては幸せだったが、今はそれを無かった事にしたいほどだった。

 ビャクヤはリンネを家の中にエスコートしながらも、キリマルの位置を探る。抱き合っている最中に彼が帰って来るような事があってはならない。キリマルに二人のまぐわう姿など見らようものなら、一生笑いのネタに使われそうだ。

 契約者であるビャクヤは、その気になればいつでも支配した悪魔の場所が解る。自身の【地図】の魔法と組み合わせて、初めて正確な位置が解るのだ。

(今、キリマルはあの廃城の近くにいるッ。ネクロマンサーの事に気が付いたのでしょう。彼なら今あるボーン家の問題をまるっと、解決してくれるかもしれませんねッ! キリマルがッ! 命を懸けているかもしれないこの時にッ! 申し訳ないのですがッ! 吾輩はッ! これから主様と念願のッ! 愛の合体をしますッ! アマリちゃんと共に頑張ってくださいッ! 貴方ならできますッ! キリマルッ!)

 リンネが更に何かを隠している気がしたビャクヤは、警戒が薄くなるだろうベッドの中で、その真相を聞こうと心に決め、リンネの部屋の扉を開けた。

(はぁ! ドキドキします! さてッ! 何かを隠す主様を突っついてじゃが出るかヘビがでるか。って、どっちも蛇やないかーいッ! ちーん!)

 そう心の中で突っ込んで、ビャクヤはマントの中でビキニパンツが意味をなさない程、いきり立つ蛇を恥ずかしそうに見つめた。
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