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ネクロマンサーの城
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誘っているのか、ネクロマンサーが所有する元廃城の大扉は開いており、盗賊に荒らされた形跡はあるものの、外観と違って内装はちゃんとしたものだった。
床には絨毯が敷き詰められ、廊下には一定間隔で調度品が並んでいる。
俺は金の額縁に入った陰気そうな黒ローブの男の肖像画を見て、これがディンゴだろうと予想した。
「金持ってんだな、ネクロマンサーってのは」
「一般的に、死体から聞き出したい秘密なんかがあると、ネクロマンサーに頼ると聞いた。中には法に触れるような依頼もあると思う。だから儲かる」
アマリがカタカタと音をさせて話しかけてきた。
「まぁ死霊術云々ってだけで胡散臭いし、胡散臭い依頼はどんどん入ってくるだろうよ」
広い廊下の奥からカシャカシャと音を立てて、スケルトンたちがやって来る。いい加減うんざりだ。
「また骨か。何度挑んでこようが結果は見えてるのによ。ディンゴって奴はアホなんだな」
爆発の拳で殴るのも面倒なので、俺は調度品の小さな壺をスケルトンに投げてみた。一応打撃武器みたいな役割はするはずだぜ?
放物線を描いて飛んでいく小さな壺程度でスケルトンがどうにかなるとは思ってはいないが、戦いが楽に倒せるように少しでもダメージを与えて、動きを鈍らせておきたい。
―――ガシャン!
―――ドカーン!
「は? どうなってる?」
大きな音を立てて、スケルトンの足元でツボが割れると同時に爆発したのだ。スケルトンは粉々に爆散していく。
「壺が爆発した」
「見りゃあ解る。なんで爆発した?」
「恐らくはキリマルの固有能力だと思う。この世界には能力持ちと呼ばれる者がいる。その誰もが特殊な能力を持っていて、重宝されたり恐れられたりしている。キリマルは以前から、相手に触れて爆発させる手を持っていたけど、それが成長したのかもしれない」
「まじか。こりゃあ殺しが楽しくなるな」
俺は適当な壺を掴んで投げては、爆発させる。
「やめろぉ! やめろよぉ!」
ん? 子供? 黒ローブを着た子供がいるな。ディンゴの息子か?
涙目で拳を握って俺を睨み付ける小僧は、爆発で滅茶苦茶になった廊下を見て地団駄を踏む。
「せっかく! せっかく盗賊が散らかした廊下を、元通りにしたんだぞ! やめろよ! なんでこの城は、お前のような悪魔や、ならず者を呼び寄せてしまうんだ!」
「知らねぇよ。たまたまだろ。お前は誰だ?」
「まず貴様が名乗るべきだろう! 悪魔!」
「前から気になってたんだが、なんでお前らは人の姿をとる俺を悪魔だって見抜くんだ?」
「馬鹿か! 負のオーラを放つ白目が黒くて、黒目が白い者が、悪魔じゃないわけないだろ!」
「あ? 鏡で自分の顔を見たが普通だったぞ?」
そう言って広間の端まで行き、窓ガラスに映る自分の顔を見たがいつもの見慣れた顔だった。
「そんなことは知らないね! 僕にはそう見えるんだ! 貴様の勘違いだろう!」
「まぁどうでもいいか。で、お前の父ちゃんと話がしたいんだが?」
「父ちゃんだと? この城には僕と召使いしかいない!」
は? じゃああの肖像画はなんだったんだ? 別人か? 歴代のご先祖様の肖像画か?
「じゃあお前がネクロマンサーのディンゴでいいんだな?」
「そうだ! 早く名乗れ!」
「人修羅のキリマルだ。俺ぁアトラスの事で話をしに来たんだ」
「彼は死んだだろう? もう僕に用はないはずだ」
「お前が殺したのか?」
「まさか! 彼は自分のヘマで死んだんだよ。僕が盗賊に捕まっている時に、イービルアイを放って彼に助けを求めたんだ。もし助けてくれるなら、すぐにでも儀式を始めるから、彼女の髪を一本用意しておいてくれ、時間がないからと伝えた。すると彼は焦ってすぐに家に帰ろうとした。別にそこまで急かしたつもりはなかったんだけどね・・・。彼は愚かな事に、盗賊の前で背中を見せてしまった」
「彼女とは誰だ?」
「貴様は本当にアトラスの関係者か? やっぱり盗賊の仲間じゃないのか? 彼女とはアトラスの妻アンナに決まっているだろう。死んでしまった愛しい妻を傍においておくために、アトラスは僕を頼ってきたんだ!」
子供のくせに偉そうな態度だな。その可愛いぷにぷにの手足を切り落としてやろうか。
「ふーん。ところでお前は子供のくせに、随分とご立派な城に住んでいるじゃねぇか」
「僕は子供じゃない! もう三十路だぞ!」
「どう見ても子供だろうが」
「レッサーオーガ・・・、じゃなかったニンゲン・・・、人間からすれば僕は子供に見えるかもしれないけど、これでも立派な地走り族の大人なんだよ! というか、今僕は幻術の指輪で人間の姿に見えているはずだぞ!」
「俺みたいな悪魔は真実を見抜く目を持っているんだわ。死体専門のお前さんは知らねぇかもしれんがよ」
「あっそ。どうでもいいよ、そんな事! もう話すことは話しただろ? 帰ってくれよ」
くぅ~。生意気なクソガキ・・・じゃなかった。オッサンか。嫌がらせに少し長居してやろう。
「まぁそう慌てるなって。まだ聞きてぇ事はあんだわ。茶でも出せや。アトラスは死んだ妻を、お前の術で蘇らせて傍に置いていた、でいんだな?」
ディンゴはこの客は長居するつもりだと感じたのか、ため息をつくと手を叩いた。
するとどこからともなくメイドたちが現れて、広間の端にあったテーブルに紅茶の準備を始める。
「彼女たち、ヴァンパイアなんだ」
ニヤニヤしながら聞いてもいないのに、そう言って自慢げな顔をするディンゴに長距離射撃の鼻くそを飛ばした。
「わ! やめろよぉ!」
俺の鼻糞を察知したディンゴは、わざわざ【物理防壁】の魔法を唱えて防ぐ。
「あ? そいつらが吸血鬼だからなんだってんだ?」
「くそ! 悪魔にとっては珍しくないのか・・・。異世界の強力なアンデッドなんだぞ。あまり調子にのるなよ。これだけの数がいれば、いくら貴様が強くてもコテンパンなんだからな!」
これだけの数って4人しかいねぇじゃねぇか。
「話を聞いて、茶を飲んだら帰るから心配するな」
「それが賢明だね! で、話の続きはなんだったかな?」
茶の準備が終わると、ディンゴは大広間の階段をスタコラと短い脚で下りてきて、メイドの吸血鬼が引いた椅子に座った。
「お前の術でアトラスの妻は蘇ったのかって話だ」
「正確には蘇っていない。ゾンビにしただけだ。凄く状態の良いゾンビにね。ただそれを維持するには触媒が沢山必要でお金がかかるんだ。だからアトラスさんは毎月、僕にお金を支払っていた。腐敗しながら朽ちていくゾンビなら維持費はほぼ必要ないんだけど、彼は美しい状態のアンナさんを望んだのさ。だからそうしてやった。ズズズ」
ディンゴはクッキーを齧ってから紅茶を啜った。
クッキーを手に取って頬張る度に、彼の手を拭く吸血鬼の目は全部赤黒く爪は長く尖っていた。
「なるほどねぇ、アトラスが村人に話した借金ってのはそういう事だったのか。他になんか情報はねぇのか?」
「そういえば、アトラスさんの娘は・・・」
急に空気が冷えた。なんだ? ディンゴもキョロキョロしている。
「私の花嫁を、勝手に召喚したのは君かな?」
霧の塊のようなものが現れて人型を作る。まぁこういった登場の仕方をするのは大抵、強キャラのなんかなんだわ。
「何者だ! 僕は悪魔で手いっぱいなんだよ!」
「ほう? 人修羅か。ではその人修羅に、君が殺されるのを待つとしよう」
赤いジュストコールを着た貴族のような男は、吸血鬼のメイド同様に目が赤黒かった。
「おめぇも吸血鬼か?」
「いかにも。私は異世界から来たヴァンパイアロード。我が花嫁たちを勝手に召喚した者がいたので、追いかけてきたのだ。この世界は魔素が濃いので居心地が良いな。住むには悪くない」
「言っとくが俺はディンゴを殺したりはしねぇぞ。本当はお前含め、ここにいる全員をぶち殺したいんだけどよ」
「なにゆえ?」
「まぁそれはこっちの事情だ。(こいつが生きてりゃアトラスの弱みを握り続ける事ができるかもしれねぇからな)」
「そうか、ならば私が直接手を下そうか。私の妻たちを勝手に召喚した罪は重い。罪を償うのだ、子供」
「子供じゃないと言ってるだろ! お前たち、そのキザ男を殺せ!」
ディンゴが吸血鬼メイドたちに命令する。
「ハハ! それは無理だな、子供。君の召喚の絆よりも、我ら夫婦の絆の方が上なのだから!」
自分の味方だと思っていた吸血鬼のメイドたちは、牙を剥いてディンゴに襲い掛かった。
「え! なんでだよぉ! ひえぇぇ!」
頭を抱えてディンゴは椅子の上で怯える。ネクロマンサーってのはメイジと違って、瞬間的な反撃ができないんだな。入念な準備がないとまともに戦えない。糞雑魚じゃねぇか。
「無残一閃!」
勿論俺が必殺技を叫んだわけじゃねぇ。鞘から刀をに抜いて水平に薙ぎ払った時点で、アマリ叫んだんだ。
刀が作った光の軌跡は吸血鬼メイドの首を綺麗に斬り落とした。頭のない彼女たちはマネキンのようにバタバタと倒れる。
「俺様がそいつを殺さないって事は、殺させないって事でもあるんだわ。ヴァンパイアロードの・・・」
「マーセルだ」
「妻たちが死んだのに冷静だな? もっと怒っていいんだぜ? クハハ!」
「妻は幾らでも作れる。ただ私の所有物を勝手に持って行ったり、壊したりする事が許せないのだよ、人修羅の・・・」
「キリマルだ」
「奇妙な名前だ。素体は東洋人だな?」
「へぇお前の世界にも東洋人がいるのか。如何にも俺は日本人だ。さぁ邪魔をするなら死ね」
至近距離からの突きを後方に飛んで避け、マーセルは霧となる。
「悪魔か・・・。我らよりも上位の存在。とはいえ、悪魔と一口に言ってもピンキリなのは知っている。その中でも君はキリの方だ。だがな、人修羅は凄まじい攻撃力とスピードを誇るというが・・・、打たれ弱いという弱点もある!」
霧が猛スピードで俺に近づいて包み込むと、途端に倦怠感が襲ってきた。
「ぐぁ! 体の力が抜けていく・・・」
「そうだろうとも。エナジードレインの味はどうだ? 君が攻撃する前に攻撃したの正解だったな。君が一度動き出せば、いくらヴァンパイアの支配者である私でも、ただでは済まないのでね。これで私の勝ちだ。ゆっくりと弱体化していきたまえ、人修羅のキリマル」
「ぐあぁぁぁ!」
意識が途切れる・・・。これまでに得た知識と力が抜けていくような感覚もある。糞ったれが。だがよぉ、ただではやられねぇぞ。
俺は霧から実体化して羽交い絞めをするマーセルの腕に触れた。
(こいつが俺より格下であってくれ・・・)
ロードと名の付くアンデッドが、最近この世界に生まれ変わった俺より格下とは思えねぇ。しかも今はエナジードレインを受けている。この瞬間にも俺の格や能力は、下がっているかもしれねぇんだ。
それでも!
まだ大して人を殺してねぇうちに負けるのはムカツクんだよ! こんなキザ野郎に負けるのもな!
俺様にイキりながら攻撃してきた奴は絶対に殺す! 絶対にな!
発動しろ! 爆発の手!! 爆ぜて消えろ! 糞吸血鬼!
床には絨毯が敷き詰められ、廊下には一定間隔で調度品が並んでいる。
俺は金の額縁に入った陰気そうな黒ローブの男の肖像画を見て、これがディンゴだろうと予想した。
「金持ってんだな、ネクロマンサーってのは」
「一般的に、死体から聞き出したい秘密なんかがあると、ネクロマンサーに頼ると聞いた。中には法に触れるような依頼もあると思う。だから儲かる」
アマリがカタカタと音をさせて話しかけてきた。
「まぁ死霊術云々ってだけで胡散臭いし、胡散臭い依頼はどんどん入ってくるだろうよ」
広い廊下の奥からカシャカシャと音を立てて、スケルトンたちがやって来る。いい加減うんざりだ。
「また骨か。何度挑んでこようが結果は見えてるのによ。ディンゴって奴はアホなんだな」
爆発の拳で殴るのも面倒なので、俺は調度品の小さな壺をスケルトンに投げてみた。一応打撃武器みたいな役割はするはずだぜ?
放物線を描いて飛んでいく小さな壺程度でスケルトンがどうにかなるとは思ってはいないが、戦いが楽に倒せるように少しでもダメージを与えて、動きを鈍らせておきたい。
―――ガシャン!
―――ドカーン!
「は? どうなってる?」
大きな音を立てて、スケルトンの足元でツボが割れると同時に爆発したのだ。スケルトンは粉々に爆散していく。
「壺が爆発した」
「見りゃあ解る。なんで爆発した?」
「恐らくはキリマルの固有能力だと思う。この世界には能力持ちと呼ばれる者がいる。その誰もが特殊な能力を持っていて、重宝されたり恐れられたりしている。キリマルは以前から、相手に触れて爆発させる手を持っていたけど、それが成長したのかもしれない」
「まじか。こりゃあ殺しが楽しくなるな」
俺は適当な壺を掴んで投げては、爆発させる。
「やめろぉ! やめろよぉ!」
ん? 子供? 黒ローブを着た子供がいるな。ディンゴの息子か?
涙目で拳を握って俺を睨み付ける小僧は、爆発で滅茶苦茶になった廊下を見て地団駄を踏む。
「せっかく! せっかく盗賊が散らかした廊下を、元通りにしたんだぞ! やめろよ! なんでこの城は、お前のような悪魔や、ならず者を呼び寄せてしまうんだ!」
「知らねぇよ。たまたまだろ。お前は誰だ?」
「まず貴様が名乗るべきだろう! 悪魔!」
「前から気になってたんだが、なんでお前らは人の姿をとる俺を悪魔だって見抜くんだ?」
「馬鹿か! 負のオーラを放つ白目が黒くて、黒目が白い者が、悪魔じゃないわけないだろ!」
「あ? 鏡で自分の顔を見たが普通だったぞ?」
そう言って広間の端まで行き、窓ガラスに映る自分の顔を見たがいつもの見慣れた顔だった。
「そんなことは知らないね! 僕にはそう見えるんだ! 貴様の勘違いだろう!」
「まぁどうでもいいか。で、お前の父ちゃんと話がしたいんだが?」
「父ちゃんだと? この城には僕と召使いしかいない!」
は? じゃああの肖像画はなんだったんだ? 別人か? 歴代のご先祖様の肖像画か?
「じゃあお前がネクロマンサーのディンゴでいいんだな?」
「そうだ! 早く名乗れ!」
「人修羅のキリマルだ。俺ぁアトラスの事で話をしに来たんだ」
「彼は死んだだろう? もう僕に用はないはずだ」
「お前が殺したのか?」
「まさか! 彼は自分のヘマで死んだんだよ。僕が盗賊に捕まっている時に、イービルアイを放って彼に助けを求めたんだ。もし助けてくれるなら、すぐにでも儀式を始めるから、彼女の髪を一本用意しておいてくれ、時間がないからと伝えた。すると彼は焦ってすぐに家に帰ろうとした。別にそこまで急かしたつもりはなかったんだけどね・・・。彼は愚かな事に、盗賊の前で背中を見せてしまった」
「彼女とは誰だ?」
「貴様は本当にアトラスの関係者か? やっぱり盗賊の仲間じゃないのか? 彼女とはアトラスの妻アンナに決まっているだろう。死んでしまった愛しい妻を傍においておくために、アトラスは僕を頼ってきたんだ!」
子供のくせに偉そうな態度だな。その可愛いぷにぷにの手足を切り落としてやろうか。
「ふーん。ところでお前は子供のくせに、随分とご立派な城に住んでいるじゃねぇか」
「僕は子供じゃない! もう三十路だぞ!」
「どう見ても子供だろうが」
「レッサーオーガ・・・、じゃなかったニンゲン・・・、人間からすれば僕は子供に見えるかもしれないけど、これでも立派な地走り族の大人なんだよ! というか、今僕は幻術の指輪で人間の姿に見えているはずだぞ!」
「俺みたいな悪魔は真実を見抜く目を持っているんだわ。死体専門のお前さんは知らねぇかもしれんがよ」
「あっそ。どうでもいいよ、そんな事! もう話すことは話しただろ? 帰ってくれよ」
くぅ~。生意気なクソガキ・・・じゃなかった。オッサンか。嫌がらせに少し長居してやろう。
「まぁそう慌てるなって。まだ聞きてぇ事はあんだわ。茶でも出せや。アトラスは死んだ妻を、お前の術で蘇らせて傍に置いていた、でいんだな?」
ディンゴはこの客は長居するつもりだと感じたのか、ため息をつくと手を叩いた。
するとどこからともなくメイドたちが現れて、広間の端にあったテーブルに紅茶の準備を始める。
「彼女たち、ヴァンパイアなんだ」
ニヤニヤしながら聞いてもいないのに、そう言って自慢げな顔をするディンゴに長距離射撃の鼻くそを飛ばした。
「わ! やめろよぉ!」
俺の鼻糞を察知したディンゴは、わざわざ【物理防壁】の魔法を唱えて防ぐ。
「あ? そいつらが吸血鬼だからなんだってんだ?」
「くそ! 悪魔にとっては珍しくないのか・・・。異世界の強力なアンデッドなんだぞ。あまり調子にのるなよ。これだけの数がいれば、いくら貴様が強くてもコテンパンなんだからな!」
これだけの数って4人しかいねぇじゃねぇか。
「話を聞いて、茶を飲んだら帰るから心配するな」
「それが賢明だね! で、話の続きはなんだったかな?」
茶の準備が終わると、ディンゴは大広間の階段をスタコラと短い脚で下りてきて、メイドの吸血鬼が引いた椅子に座った。
「お前の術でアトラスの妻は蘇ったのかって話だ」
「正確には蘇っていない。ゾンビにしただけだ。凄く状態の良いゾンビにね。ただそれを維持するには触媒が沢山必要でお金がかかるんだ。だからアトラスさんは毎月、僕にお金を支払っていた。腐敗しながら朽ちていくゾンビなら維持費はほぼ必要ないんだけど、彼は美しい状態のアンナさんを望んだのさ。だからそうしてやった。ズズズ」
ディンゴはクッキーを齧ってから紅茶を啜った。
クッキーを手に取って頬張る度に、彼の手を拭く吸血鬼の目は全部赤黒く爪は長く尖っていた。
「なるほどねぇ、アトラスが村人に話した借金ってのはそういう事だったのか。他になんか情報はねぇのか?」
「そういえば、アトラスさんの娘は・・・」
急に空気が冷えた。なんだ? ディンゴもキョロキョロしている。
「私の花嫁を、勝手に召喚したのは君かな?」
霧の塊のようなものが現れて人型を作る。まぁこういった登場の仕方をするのは大抵、強キャラのなんかなんだわ。
「何者だ! 僕は悪魔で手いっぱいなんだよ!」
「ほう? 人修羅か。ではその人修羅に、君が殺されるのを待つとしよう」
赤いジュストコールを着た貴族のような男は、吸血鬼のメイド同様に目が赤黒かった。
「おめぇも吸血鬼か?」
「いかにも。私は異世界から来たヴァンパイアロード。我が花嫁たちを勝手に召喚した者がいたので、追いかけてきたのだ。この世界は魔素が濃いので居心地が良いな。住むには悪くない」
「言っとくが俺はディンゴを殺したりはしねぇぞ。本当はお前含め、ここにいる全員をぶち殺したいんだけどよ」
「なにゆえ?」
「まぁそれはこっちの事情だ。(こいつが生きてりゃアトラスの弱みを握り続ける事ができるかもしれねぇからな)」
「そうか、ならば私が直接手を下そうか。私の妻たちを勝手に召喚した罪は重い。罪を償うのだ、子供」
「子供じゃないと言ってるだろ! お前たち、そのキザ男を殺せ!」
ディンゴが吸血鬼メイドたちに命令する。
「ハハ! それは無理だな、子供。君の召喚の絆よりも、我ら夫婦の絆の方が上なのだから!」
自分の味方だと思っていた吸血鬼のメイドたちは、牙を剥いてディンゴに襲い掛かった。
「え! なんでだよぉ! ひえぇぇ!」
頭を抱えてディンゴは椅子の上で怯える。ネクロマンサーってのはメイジと違って、瞬間的な反撃ができないんだな。入念な準備がないとまともに戦えない。糞雑魚じゃねぇか。
「無残一閃!」
勿論俺が必殺技を叫んだわけじゃねぇ。鞘から刀をに抜いて水平に薙ぎ払った時点で、アマリ叫んだんだ。
刀が作った光の軌跡は吸血鬼メイドの首を綺麗に斬り落とした。頭のない彼女たちはマネキンのようにバタバタと倒れる。
「俺様がそいつを殺さないって事は、殺させないって事でもあるんだわ。ヴァンパイアロードの・・・」
「マーセルだ」
「妻たちが死んだのに冷静だな? もっと怒っていいんだぜ? クハハ!」
「妻は幾らでも作れる。ただ私の所有物を勝手に持って行ったり、壊したりする事が許せないのだよ、人修羅の・・・」
「キリマルだ」
「奇妙な名前だ。素体は東洋人だな?」
「へぇお前の世界にも東洋人がいるのか。如何にも俺は日本人だ。さぁ邪魔をするなら死ね」
至近距離からの突きを後方に飛んで避け、マーセルは霧となる。
「悪魔か・・・。我らよりも上位の存在。とはいえ、悪魔と一口に言ってもピンキリなのは知っている。その中でも君はキリの方だ。だがな、人修羅は凄まじい攻撃力とスピードを誇るというが・・・、打たれ弱いという弱点もある!」
霧が猛スピードで俺に近づいて包み込むと、途端に倦怠感が襲ってきた。
「ぐぁ! 体の力が抜けていく・・・」
「そうだろうとも。エナジードレインの味はどうだ? 君が攻撃する前に攻撃したの正解だったな。君が一度動き出せば、いくらヴァンパイアの支配者である私でも、ただでは済まないのでね。これで私の勝ちだ。ゆっくりと弱体化していきたまえ、人修羅のキリマル」
「ぐあぁぁぁ!」
意識が途切れる・・・。これまでに得た知識と力が抜けていくような感覚もある。糞ったれが。だがよぉ、ただではやられねぇぞ。
俺は霧から実体化して羽交い絞めをするマーセルの腕に触れた。
(こいつが俺より格下であってくれ・・・)
ロードと名の付くアンデッドが、最近この世界に生まれ変わった俺より格下とは思えねぇ。しかも今はエナジードレインを受けている。この瞬間にも俺の格や能力は、下がっているかもしれねぇんだ。
それでも!
まだ大して人を殺してねぇうちに負けるのはムカツクんだよ! こんなキザ野郎に負けるのもな!
俺様にイキりながら攻撃してきた奴は絶対に殺す! 絶対にな!
発動しろ! 爆発の手!! 爆ぜて消えろ! 糞吸血鬼!
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