殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
73 / 299

筋肉の神

しおりを挟む
 体のあらゆる場所から腐臭を漂わせ、腐汁を零す死体たちはとうとう村を取り囲んでしまった。

 村を囲む太い木の杭からは、爪で引っかく音が聞こえてきて村人たちは戦慄し、耳を塞いでいた。

「守られるだけの糞どもは、ゾンビの囮にでもなって死ねばいいのによ」

 村人を見ながらそう呟いて、俺は櫓の上から放った技でゾンビの首を刎ねていく。

「こりゃ限がねぇな」

 俺は無残一閃の撃ち過ぎで、頭がクラクラしてきた。

「なんで必殺技を撃つと、スタミナが減ったり、頭が疲れてくるんだ?」

「必殺技はマナを消費する。マナを使い終わると、今度はスタミナを消費する。更に撃ち続けると気絶する」

 アマリが重要なお知らせを教えてくれた。もっと初期に教えておいてくれや。道理でしんどいはずだわ。

「ぎゃああ!」

 ん~! 心地良い悲鳴だ。誰だ? とうとう味方に犠牲者が出たか?

 違うな。俺が斬った元盗賊のゾンビが、普通に時間経過で蘇生して、またゾンビに襲われてんだわ。ハハハ! わりぃな!

 そしてゾンビに殺されてゾンビに逆戻りすると・・・。

「こうなるといよいよビャクヤがいねぇと駄目だな」

 バリケードもボロボロで、そう長くは持たねぇ。

 俺は櫓から降りて、村の入り口でゾンビどもを待ち構えようかと思っていると、突然雷鳴のような大声が近くの櫓から聞こえてきた。

「きぃぃぃん肉ッ! マッソォォォ!」

 誰だ、こんな時にふざけてる奴は。

 大柄な誰かが、そう叫びながらゾンビの真ん中に飛び下りた。どうやら死にたい馬鹿がいるようだな。

「筋肉の神に愛されし男が今! 魂を失いし亡者らを打ち叩いて浄化する! アトラァァァァス☆インパクト!」

「おお?」

 禿げた筋肉達磨は着地と同時に地面に拳を叩きつけて、周囲に衝撃波を発生させやがった。腐ったゾンビ達がバラバラになって吹き飛んでいく。

「ヌハッ! ヌハッ! ヌハハハ!」

 ストレッチマンみたいな笑い方しやがって。ようやくお目覚めか、リンネの父親アトラス・ボーン。

「これはいったいどういう事ですかな、モンジャス護衛長殿!」

 群がって来るゾンビを無視して、アトラスは筋肉ポーズを決めてモンジャスに訊ねた。

 鋼のような肉体はゾンビ達の攻撃をものともしない。嘘だろ・・・、アトラス。おめぇは盗賊のバックスタブでは簡単に死んだのに。

 アトラスが前線に出て村を守っている事に驚きつつも、モンジャスは質問に答えた。

「廃城のディンゴじゃよ! 奴が村人全員をゾンビにしようとしたんじゃわ! 人修羅のキリマルがそれを阻止してディンゴを倒したんじゃがの、それが切欠かは解らんが、ゾンビの大群が押し寄せてきたんじゃ!」

「ディンゴ・・・」

 まぁ関係の深いディンゴには思うところはあるだろうよ、アトラスさん。

「あんた、生き返ったばっかりで、マナもスタミナも有り余ってるだろ? ビャクヤが来るまで暫くゾンビ達を引き付けておいてくれ」

「わかった! それから村を守ってくれて感謝する! 悪魔キリマル!」

 ゾンビに引っかかれながらも、アトラスは腕を広げると突然回転を始めた。

「我が聖なる小手が敵を打ち砕く! アトラス☆スピンラリアット!」

 アトラスの腕全体を覆う――――、大きな魔法の小手が鈍く赤色に光ると、丸太のような腕がゾンビたちを吹き飛ばす。

 が、如何せん元盗賊たちは小さい者が多く、アトラスの腕はゾンビの頭の上で空振りをしている。

 アトラスが攻撃をし損ねたゾンビを、レンジャーたちが間髪入れず矢で仕留めていった。良い連携だ。

「技に自分の名前を付け加えるとか、恥ずかしくねぇのかねぇ」

「恥ずかしい事ではない。実質的だと思う。なぜなら自分の名前を技名に加える事で、思入れが深くなり、威力が上がるから」

 アマリは暇があると本を読んで知識を吸収しているが、その名前云々のソースは疑わしいな。

「ほんとだな? じゃあやってみるぞ?」

 俺はあまり残っていないマナに気を使いながらも、刀を構えた。

「霧丸☆無残一閃!」

 よくよく考えりゃよ・・・。威力が上がろうが下がろうが、俺の広範囲の薙ぎ払いはゾンビの首を必ず刎ねる事を忘れていたわ。

「フフフ、キリマルが技名を言った。しかも自分の名前と一緒に」

「さてはてめぇ! 担ぎやがったな? 嘘か?」

「嘘」

 こんの糞アマァ! 温存しておきたかったマナが減っただろうが!

「おお! じゃが、二十匹ぐらいは数を減らせたゾイ!」

 少し離れた櫓でガキャージが飛び跳ねて喜んでいる。

 それでもまだ残りは何匹いるかはわからねぇ。二百匹ぐらいで打ち止めかと思っていたゾンビは、今も続々と森の中から現れているしよ。

 アトラスのラリアットは意外と効率が悪く、派手な動きの割に周囲の6匹ぐらいしか倒さない。アトラスインパクトの方が効率がいい気がするが、きっとマナの消費量が上なんだろうな。

 俺もアトラスも一対一、或いはある程度の人数相手なら強いが、大量の雑魚一掃には向いていない。やれねぇことはねぇが、時間が掛かるし体力も持たねぇ。

「何してんだ、ビャクヤの糞は」

 肝心な時に雑魚一掃用の移動砲台であるビャクヤはいねぇ。雑魚専とはあいつの事だろ。

「まさか今頃、クライネとチョメチョメしてんじゃねぇだろうな? え?」

 俺は二人が愛し合っているところを想像して、忌々しく思う。

「チョメチョメなどしておらんぬッ!」

「後でする事になるがな!」

 全身を赤と銀色の装飾がある鎧を着た赤髪のクライネと、ビャクヤがいつの間にか櫓の下にいた。

「しませんッ! (クライネ様のおマンマンなんかには負けないんだからッ! ・・・負けてアへ顔になるフラグ立て、二回目ッ)」

「で、状況はどうだ? モンジャス、ガキャージ!」

 クライネはビャクヤの仮面の顎部分を愛おしそうに撫でてから、櫓の上で戦況を見守る老騎士に訊ねた。

「駄目じゃ。ジリジリ押されておる。レンジャーの矢が尽きそうじゃし、この大群相手に戦士や騎士達を放り込むのは自殺させるようなもんじゃわい」

「神の与えたもう奇跡なのか、生き返ったアトラスがゾンビを引き付けておる! だが、ずっとは無理じゃゾイ!」

 クライネは俺とアマリの蘇生の力を知っているのか、少し仰け反って「よし!」とガッツポーズを取るとこっちを見てサムアップした。

「アトラスを生き返らせてくれた事に感謝する、悪魔キリマル!」

「なぬ?」

「ゾイ?」

 モンジャスがガキャージが首を伸ばして俺を見ている。

「俺の事はどうでもいいだろ。さっさと魔法を撃てよビャクヤ。いい加減、この死臭には我慢できなくなってきた」

「言われなくともッ!」

 ビャクヤは少しだけ足幅を広げると両手から黒い炎を浮き上がらせる。炎はどこか禍々しく、そして中二病臭く見えた。

「闇は恐怖ではなく安らぎッ! 安らぎは哀れなる君たちを包み込んでッ! 来世へと送り届けるだろうッ! この世に残した全ての罪とともにッ! 灰となれッ! 【闇の火炎】!」

 炎はビャクヤの手から消えたと思うと、一斉にゾンビたちが呻き声を上げ始める。

 これまではウーウー言ってたゾンビだったが、今は「オオオオ!」と煩い。

「団長! ゾンビ全員が黒い炎で焼けていくゾイ!」

 単体魔法の【闇の炎】と違って【闇の火炎】はゾンビ全体がターゲットなのか、森の中にいるゾンビも黒い炎で燃えている。

 あれだけ苦労したゾンビの大群が、ビャクヤの言葉一つで灰になるのは、見ていて爽快だった。

「あの炎は飛び火しねぇのか?」

「あれはターゲットしか焼かない炎なのだよッ! ゾンビたちは吾輩の天才的、芸術的なッ! 魔法をレジストできないからッ! 彼らは必ず燃え尽きるだろうッ!」

 不思議なことにこの黒い炎は煙も匂いも出さない。村を取り囲んで充満していた死臭が消えていく。

「やった! やったぞぉぉぉ! 村を守りきったぞぉぉ!」

 冒険者の誰かが勝どきをあげた。

 恐らくこの国で、これほどのゾンビの大群に襲われて、壊滅しなかった村はないだろう。生き残った冒険者たちは戦いの最中でも冷静だったが、心の底では死を覚悟していたのかもしれねぇ。今は抱き合って喜んでいる。

「また村の英雄ビャクヤがやってくれた! ビャクヤ万歳・・・いや! ビャクヤ様万歳!」

 村人が諸手をあげてビャクヤを取り囲んだ。が、入り口の方から悲鳴が聞こえ場が凍りつく。

「ひえぇ! 死んだはずのアトラス様が! ゾンビか?」

 家の中で外の様子を見ていなかった村人たちは、アトラスがバリケードを跳躍して村に入ってきた事に驚く。

「落ち着け! 皆の者! アトラスは神の奇跡で生き返ったのだ!」

 閉じるとバサリと音がしそうなほど、長いまつ毛の目で俺にウィンクをし、クライネは皆に教えた。

 それは、俺とアマリの奇跡の力を黙っててやる、という意味でのウィンクだろう。

「アトラスは聖騎士にもなれるほどの信心深き騎士! 神が彼を見放さなかったのだ!」

「おお! そうか! アトラス様ならあり得る! いつも自分より他人の幸せを願う人だったものな! 神の恩恵があったとしても不思議じゃない!」

 村人たちはクライネの言葉をすぐさま信じて、アトラスを取り囲み喜ぶ。

 ヒハハ! そんな簡単にクライネの言葉を信じるのかよ。間抜けな羊どもめ!

 大柄の割に音をさせずにこちらへ近づいて来るアトラスは、クライネの説明に「そうであったか!」と手を叩いてポーズを決めた。嘘クセェ笑顔が不気味だ。

「筋肉の神よ! 私は捧げます! 感謝の気持ちを表すこの筋肉ポーズを! きんにぃぃぃぃく! マッソォ!」

 ゾンビ戦開始時は夕方だったが、いつの間にか夜になっていた。明るい月明りの中でアトラスの肌に浮いた汗が月光を反射する。

「おお! なんという神々しさか! 流石は聖騎士にもなれるお方!」

 村人があまりの眩しさに手で光を遮っている。

「へぇ。この世界には筋肉の神様なんているのか?」

 俺は櫓から降りると、アトラスにつられてフロント・ラット・スプレッドをするビャクヤに訊ねた。

「そんなもの! おらんぬッ!」

 はぁ? どこが信心深いんだぁ? アトラスはいもしねぇ神様を崇めているじゃねぇか! 何が聖騎士にもなれる男だ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

処理中です...