殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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現人神ヒジリ

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 グランデモニウム王国にいる、全てのアンデッドを浄化するという偉業を成し遂げたヒジリは、自分を神と崇めて祈る僧侶の中を歩いてどこかへ向かおうとしていた。

「あいつ、樹族や地走り族の僧侶に祈られてるぜ。まぁ神様なんだから当たり前か」

「吾輩だって! 祈りたい気持ちでいっぱいだがッ! 祈っている間にもヒジリ様は行ってしまうのでねッ! 追いかけなくては!」

 ビャクヤと俺は、騎士やメイジの仲間に囲まれて歩くヒジリに駆け寄ろうとしたが、ビャクヤは緊張しているのか、脚に力が入らずフニャフニャした変な走り方になっていた。

「お~い! ヒジリさまぁ~!」

 んだ? その上ずったか細い声は。蚊でも鳴いているのか?

 当然ヒジリに、ビャクヤの屁みたいな声は届かない。

 チッ! 仕方ねぇな。俺はビャクヤを置いて隠遁スキルを使った。こいつは敵に見つかりにくくなる他に、邪魔な障害物を避けやすくなるんだわ。

 俺は神に群がる僧侶や、ゾンビ化しなかった生き残りの間を縫っていく。

 よし、ここまで近づけば気付いてもらえるだろう。

「ヒャッハー! 見つけたぜ! ここは通さねぇ!」

 おっといけねぇ。北斗の拳の雑魚みたいな登場の仕方をしてしまった。

「うわぁ! 悪魔だ! 急に悪魔が現れたよ!」

 ビャクヤがタスネと呼んだ地走り族が驚いて、ヒジリの脚にしがみ付くと、黒髪の少女がワンドで猛烈にタスネを突き始めた。

「お姉ちゃん、ヒジリの事が好きじゃないって言ってるくせに、よく抱き着いている! ずるい!」

 妹なのか。そういや似てるな。

「ほう、悪魔が何用かね?」

 仲間の騎士やメイジ、ひいては周囲の僧侶からも警戒される中、ハンサムな大男が顎を撫でて、興味深そうに俺を見て顔を近づける。ヤイバといい、こいつといいでけぇな。俺でも身長190センチはあるんだがよ。

「ああ、ちょっと待ってくれ。おい! ビャクヤ! ヒジリを足止めしたぞ! 早く来い!」

 神を呼び捨てするとは何事かと、周りの僧侶が怒りを露わにしたが俺は無視する。

「わかっているッ! 今行くともッ!」

 ビャクヤは一生懸命走っているつもりだが、やはり脚に力が入らないのか中々来ない。

「ウメボシ、彼をここまで」

「かしこまりました」

 目だけの・・・ロボット? アンドロイド? この世界に似つかわしくない未来的な一つ目の何かが、ビャクヤに視線を向けると、ビャクヤの体が浮いてこちらに引き寄せられた。

「また変なのが現れたな! クカカ!」

 前髪ぱっつんの金髪美少女が持っていた杖が渇いた声で笑う。アマリと同じくインテリジェンスウェポンか?

(大お兄ちゃん!!)

 アマリは実際声を出してそう言ったわけではないが、テレパシーで聞こえた。

 今、確かに大お兄ちゃんって言ったよな? って事はこいつはアマリの兄の・・・、なんて名前だったかな。そう、聖なる光の杖のデルフォイか。

(お前の兄妹の再会は後にしてくれ。まずは緊張して声の出ないビャクヤの代わりに、話を取り次がねぇといけねぇんだ)

(・・・。わかった)

「俺の主様から話がある。ここではなんだから、どこか落ち着ける場所で話をしてぇんだが」

 しかし、俺の影から何かが現れて、喉元にナイフを突きつけた。

「お前の主様は悪魔使いなのかナ? 少し信用できませんねぇ。キュキュキュ」

 俺の背後にいる何者かは明らかに殺意を放っていた。こいつは俺と同類だ。いつでも簡単に人を殺す事ができるクズだ。くそ、背後を取られるとは迂闊だった。

「お爺様! おやめください! その悪魔は吾輩が契約した悪魔! 害はありませんぬッ!」

 ビャクヤがウメボシに浮かされて空中でジタバタしながら、いつものようにシュバシュバと動いて叫んだ。

 は? って事は後ろのアサシンみたいなのは、お前のお爺ちゃんのナンベルかよ。

「ほう。ナンベルには孫がいたのかね?」

 ハンサムな神様は、俺の後ろのナンベルを見てニタニタしている。

「はて? 小生に孫? 娘以外に子供がいて、その子供が結婚していれば可能性はあります。寿命の長い魔人族ですから、そういう意味では、小生に孫がいてもおかしくはないですが・・・。小生は浮気などしませんし、こんな変態仮面の孫はいませんねぇ。キュキュ」

「ナンベルさんも変なメイクしているし、なんか雰囲気は似ているぜ? 孫の可能性はあるんじゃないの?」

 前髪ぱっつんの美少女が意地悪そうにそう言うと、杖がカラカラと笑った。

「確かに似ているねぇ。孫じゃなくても親戚かなんかじゃないのかい? カカカ」

 ナンベルも俺の背後で笑っている。いい加減ナイフを下せよ。

「キュキュキュ! そうかもしれませんねぇ。でも、魔人族は数が少ないので親戚の顔を忘れる事などないのですが」

 ここでようやくナンベルは俺の背後から消えた。文字通り影に沈んで消えたのだ。どうやってんだ? それ・・・。

 ヒジリは怪しい悪魔である俺を警戒しているようには見えない。それにしても、こいつに常に漂う余裕はなんだろうか? 強者の傲りか?

 腹が立つ事に、俺の人殺しの勘がこいつを殺すのは無理だと言っている。劣等感を抱いているから、ヒジリの顔が傲慢に見えるのかねぇ? 未来から来たおめぇの息子ヤイバですら、そんな慢心した顔はしてなかったぞ。

 ハァ・・・。弱者側にいるのはどうも落ち着かねぇ。あぁ! むかつくぜ! 憂さ晴らしに誰かを殺してぇな。

 俺が密かにイライラしていると、ヒジリは酒場らしき場所に向かって歩き出した。

「まぁいいさ。私はこれからシュラス国王陛下に報告に行かねばならん。手短に頼むよ、ええっと・・・」

「吾輩の名はビャクヤでございますッ! 現人神のヒジリ様ッ!」

 ビャクヤは空中でバランスが取れないのか、クルクル回りながら元気に敬礼をした。

 時々マントの中のほぼ裸体が見え隠れするので、周囲から否定的な男のどよめきと、肯定的な女の黄色い声が飛ぶ。

「俺は人修羅のキリマル。そしてこいつは魔刀天邪鬼だ。そこのお嬢ちゃんの杖と同じくインテリジェンスウェポンで、人格があるから一応紹介しといた」

 俺はアマリの為にさり気なく、ここにお前の妹がいるぞ、とデルフォイにアピールをしておいたが、これといった反応は返ってこなかった。

「キリマル・・・。日本人か」

 ヒジリはそう呟くと、ゾンビの腐汁が染み付いた酒場の扉を開いて、中へと入って行った。
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