殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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とぅいまてーん

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 俺はリンネの通う学園の宿舎で、これまでのように住んでいる。

 以前と違うのは、アマリがやたらと俺の体を求めてくるようになった事だ。まるでセックスを覚えたての中高校生みたいな感じでよ。

 昨夜も散々上の口と下の口から精液を搾り取ったアマリは、俺の胸に頭を置いてこちらをじっと見つめている。いつものようにジト目の無表情だが、瞳孔がハート型になっていた。どうやってんだ、その目。

「おはよう、キリマル」

 愛してる光線を目から放つアマリの顔を見ていると、ふとこいつの兄貴の事を思い出した。

「ん。そういやほったらかしにしてたけどよ。アマリはデルフォイとかいう兄貴と、話をしたかったんじゃなかったのか?」

 ヒジリの仲間のメイジが持っていた喋る杖がコイツの兄貴なのだが、向こうは妹の事をすっかり忘れているみたいだった。

「いい。大お兄ちゃんとはそんなに親しくない。大お兄・・・、デルフォイは博士のお気に入りだったので、私たちと共にいた時間は短い。ワイルダーお兄ちゃんとは仲が良かった」

「人格を失った兄ちゃんだったか?」

「うん。でもワイルダーお兄ちゃんの事はあまり覚えていない。親しかった事だけは覚えている」

「まぁお前らは寿命がないから、過去にあった出来事を一々覚えてたら限がないもんな」

「多分ワイルダーお兄ちゃんは、ゴデの街にいると思う」

「なんでそんな事が解る?」

「お兄ちゃんの体から剥がれた、ナノマシンが漂っていたから」

「ふ~ん。じゃあまたゴデの街に行きたいのか?」

「行きたい・・・。行ってお兄ちゃんの人格が元通りにならないか試したい」

「そのうちな。それにしてもビャクヤの転移魔法には驚いたな。西に飛ぶと未来に進み、東に飛ぶと過去に戻るなんてよ。ビャクヤは上手くやったので、ほぼ出発した時間に戻って来る。アトラスしてみりゃ、すぐにリンネが生き返ったんだから驚いてたな」

「うん。でも私はアトラスが苦手。不気味な笑顔のまま泣いて、リンネに抱き着いていた。気持ち悪かった」

 悪意のない率直な感想を言うアマリが可笑しく思えた。

「気持ち悪いって・・・。ヒヒヒ。もしビャクヤの転移魔法で時間が戻らなけれりゃ、リンネは今頃は退学になってただろうし、俺らは学園を追い出されて気持ちの悪いアトラスと一緒に暮らしていたかもしれねぇな」

 毎日あの暑苦しい筋肉と不気味な笑顔を見せつけられるかと思うと、俺は鳥肌が立った。

「ひゅう。寒気がする。時間経過でリンネが退学になるシナリオは回避されて良かったぜ。だが今後はビャクヤの長距離転移魔法には頼らない方がいいな。やり過ぎると絶対おかしな事になるからよ。下手すりゃ同じ世界に俺らが複数いる、何てことにもなりかねねぇ。次にゴデに行く時は、ノームの飛空艇にでも乗せてもらうか」

 アマリからの返事はなく、俺の乳首を軽く弄りながら何かを考えていた。

「これは私の推測なのだけど、ビャクヤは未来から来た時に、何かしらの力が働いてこの世界と重なる四次元に、足を突っ込んだ状態にあるのだと思う。四次元は三次元に時間の概念が足された世界だから、四次元に重なって生きるビャクヤは、大きく移動をすると彼とその周辺の時間も変わる」

「普通の移動じゃなんともねぇから、長距離転移魔法限定かもな」

「多分」

 話に一区切りつくと、タイミングを見計らったようにドアがノックされた。

「キリマルッ! 早く起きたまえよッ! んんんん主様が学園に行く時間だッ!」

 ビャクヤの声を聞いてアマリは刀に戻る。

「はぁ、今日も退屈なリンネのお守りが始まるのか・・・」

 俺は黒いTシャツとジーパンを穿くと、アマリを腰のベルトに差して廊下に出た。



「あれ、お前ら今日も普通だな」

 俺は前を歩くリンネとビャクヤにそう言った。

「普通って?」

 リンネは今日はカチューシャで前髪を上げていた。だが気が変わったのか、前髪を出すべきかどうかカチューシャを付けたり外したりして迷いながら俺の言葉に反応した。

「死に別れという難壁を乗り越えたんだ。愛の炎が燃え上がって、毎日のようにセックスをしているかと思ったが、全然してねぇな。そういう事をしたがる盛りだろ、お前らみたいな年頃は」

 俺は鼻をスンスン鳴らしながら、二人から少しでも生臭い匂いがしないかを確認した。

「君のその鋭敏な鼻にッ! ピーナツでも詰め込んで使えなくしたいねッ!」

「キリマルって意外とスケベなのね」

 ―――ドシャ!

 顔を赤くしてジト目をするリンネの後ろで、地面に叩きつけられた人間の手足や頭が、バウンドして奇妙な形に捩じれる。俺は上を見上げた。塔からの飛び降り自殺か? いや、なにか不自然だな・・・。

 普通は重い頭から落ちるのに、この女は背中から落ちてきた。しかも地面に激突して骨が粉々になるまでは意識があった。

 なぜなら死ぬ瞬間まで何か掴めるものはないかと、必死になって足掻いていたからだ。自殺を覚悟した奴は生きようとして足掻いたりはしねぇ。

「え? なに? 何の音?」

「グロいのを見たくないなら、振り向かない事だな」

「え? え?」

 リンネは冷や汗をかいてこっちを向いたまま動揺している。

 俺はリンネを押しのけ、女の死体を観察した。

 魔法学園の制服を着ているのでここの生徒だ。腹の肉が避けたのか、スカートの下から腸が飛び出ているのが見える。

「キリマルッ! すぐさま蘇生をッ!」

 ビャクヤは仮面に気の毒そうな表情を浮かべて指を鳴らした。

「チッ!」

 俺は舌打ちをする。そしてビャクヤに向けて念じる。

(蘇生した相手から金でもとったらどうだ? ビャクヤ。お前もリンネも自発的に金を取ろうとしないから、そのお人好し加減に腹が立つぜ)

 そう心の中でビャクヤに伝えたが、生憎ビャクヤは読心の魔法を常駐させていなかった。

「ったくよぉ。お前の神様も言ってたろ? 無暗に人を生き返らせるなと。死ぬべき運命の人間が生き返るなんて、運命の神様も頭を悩ましている事だろうぜ」

 そう言いつつも俺は殺意を籠めて女の心臓をアマリで刺す。骨が砕けているせいか、綺麗に切り分けた刺身でも切っているような手応えのない感触だ。

「それにしても、この学園はよく人が死ぬんだなぁ? ええ? 呪われた学園なんじゃねぇのか」

「人が死ぬのはここに限らずだよッ! 人間は色んな要因で割と簡単に死ぬと前に言っただろう? だからこの国の平均寿命は五十歳なのだよッ!」

「さよか」

 腕時計を見ながら蘇生するのを待っていると、女はきっちり五分後に生き返った。意識もある。

「うそ・・・。私、落とされたのに生きている?」

「生きてたんじゃなくて、俺が生き返したんだ。蘇生料、金貨百万枚な」

「頭の悪い人のイメージする大金は、なぜか金貨百万枚説ッ!」

「うるせぇぞ、ビャクヤ」

「誰に落とされたの?」

「誰かは解らない・・・。でも屋上で空に向かって魔法の練習をしていたら、突然背中を押されて・・・」

「屋上は立ち入り禁止でしょ?」

「ごめんなさい、ボーンさんは風紀委員だったわね。お願い、この事は先生に黙ってて!」

「何言ってんの? 貴方は誰かに突き落とされて殺されたのよ? キリマルがいなければ今頃は大騒ぎになってたわ!」

「で、でも・・・。騒ぎになって経歴に傷がついて、王宮勤めできなくなるのは嫌よ。貴方は例え王宮に就職できなくても竜騎兵騎士団に入団できるでしょ? あそこは魔法騎士も数名欲しがってるって聞いたわ。キラキ様に気に入られている貴方みたいな、エリートコースまっしぐらの貴族には私の苦労なんて解らないのよ! だからお願い! 黙ってて!」

「生き返らせてもらって礼も言わず、自分の将来ばかり気にしてるようなクズを、助けるんじゃなかったなぁ」

 俺がぼやくと女は凄い剣幕で怒り出した。

「誰が生き返らせてくれって言った? 貴方が勝手にやった事で恩着せがましく言わないで! そんなにお礼が欲しけりゃ私を抱けばいいじゃない! お金なんてないわよ! 貴族様と違って、私は平民出身なんだから!」

 お前にそんな価値はねぇよ、ドブスが。どの顔で言ってんだ。ピグモンみたいな顔しやがって。

「わかったから、怒らないで。この件は私が預かっておく。勿論誰にも言わない。でも貴方も気を付けて! また命を狙われるかもしれないから。キリマルの奇跡の力も失敗する事もあるかもしれないし、死なないようにしてね!」

「あ、ありがとう! ボーンさん!」

 ドブスはリンネの手を両手で包み込むようにして握ると、もう一度感謝を述べて走り去って行った。

「平民でも貴族でも普通に会話するんだな、この学園は」

「マギ学園長が身分よりも実力を重視する方だからね。学園内は基本的に平等なの」

 まぁそれでもエリーみたいに、威張り散らしている貴族もいるみたいだがな。

「で、この件を預かるって言ってたけど、どうすんだ?」

「そりゃ、また探偵団の結成するに決まってるじゃない」

「またって・・・。以前の殺人事件の時はお前と、ビャクヤしかいなかったろ。団って呼べる程のものか」

「でも今回は貴方がいるわ。強くて五感が優れてて、隠遁術も使えるキリマルっていう悪魔が」

 はぁ・・・。めんどくせぇ。

「報酬は? 本で読んだが、契約主は悪魔に報酬を渡さないといけないらしいぞ。なんか報酬あるのか? ビャクヤ」

「いつもみたいに戦う(殺し)、が報酬じゃだめなのかなッ?」

「あれも最初は良かったんだが、倒した敵が生き返るだろ? ちょっと物足りないんだわ」

「じゃあ・・・わ、私の体・・・。なんちゃ・・・」

 リンネがさっきの女と同じ事を言う。お笑い業界で天丼と呼ばれる冗談を言い終わる前に、ビャクヤがリンネの腰に手を回して顔を近づけた。

「ちょいちょいちょいちょいッ! リンネ様は吾輩の愛を受け入れてくれたはずですYO! なぜッ! キリマルに色目何か使うのですかッ!」

「冗談に決まってるでしょ! 私だって冗談くらい言うわよ!」

「冗談だったとしても・・・! ハッ? 吾輩を試したのですね? 嫉妬する吾輩を見て主様は楽しんでらしゃるッ!」

「そこまで意地悪じゃないわよ。はいはい、すみませんでした、すみませんでした! あーい、とぅいまてーん!」

 だからよ・・・。お前らギャグが一々古いんだよ。それもヒジリからビャクヤ経由で伝わったんだな? ってかリンネもふざける事あるんだな。

「浮気?」

 アマリが人間化して、俺とリンネをジト目で睨む。

「お前まで出てくるな、ややこしくなるだろ」

 授業開始のベルが鳴るまで、皆でこの件について、ワーワーギャーギャー騒いだので、結局大主であるリンネが教師に叱られる羽目になった。ザマァ。キヒヒ。
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