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ヒジリの首を狙ったが
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リンネの蘇生を完了させたウメボシの様子が、明らかにおかしいな。
瞳が虹色で混乱しているようだし、浮遊状態を維持もできていねぇ。フラフラと浮いたり沈んだりを繰り返している。
ウメボシやヒジリの様子を見て、何か良くない事が起きると感じ取ったビャクヤは、まだ意識の戻っていないリンネにマントをかけて抱きかかえると、テーブル席のソファに寝かせた。
「遮蔽フィールドによるシステム干渉率86%。マスター・・・。申し訳ありませんが、シャットダウンを開始します」
そう言うとウメボシは、カウンターの上にいつの間にか置いてあったふかふかの座布団の上に降りて目を閉じた。
「蘇生には間に合ったか。よくやったぞ、ウメボシ。私もシャットダウンをして、やり過ごすことが出来たら楽なのだがな・・・」
ヒジリも妙に息が荒かった。なんだ? どうしたどうした?
「あのッ! ヒジリ様、大丈夫ですか?」
ビャクヤはリンネの復活を喜びたかったが、自分の信仰する神のただならぬ様子が気になって仕方がない。
体調を崩して跪くヒジリの背中を撫でるべきかどうかで迷っているように見える。馴れ馴れしく撫でるのも恐れ多いと考えているのだろう。
「ああ、問題ない。いつも通りならば、数分で回復する」
「一体何が・・・」
ヒジリはビャクヤの質問には答えなかった。当たり前だ。これはきっと奴らの弱点だからだ。何らかの理由で奴らは弱体化している。
ヒヒヒ。解るぞ・・・。今ならヒジリを殺せる。後々厄介な事になるかもしれねぇが、俺はやるぜ?
腰のアマリの柄を握ると、眠っていたアマリが目を覚ました。
「エッチの時間?」
俺とのセックスが余程良かったらしい。昨日からずっとセックスの事ばかり聞いてくる。
「お天道様はまだ空に高い。そんな時間じゃねぇだろ。ところでよ、お前は神殺しなんだろ? その役目を果たす時が来たぞ」
「私が神殺しなのは、私のせいじゃない!」
こいつは自分が呪いの武器であるという事を自覚させられるのを凄く嫌う。
「いいから戦う準備しろ。いや、殺す準備だ。一方的に殺すんだからな。キヒヒッ!」
「やだ!」
いっちょ前に殺しを拒否しやがった。いつもは俺の言う事を聞くのに。
「あ? だったら、もうエッチしてやんねぇぞ?」
「えっ?!」
暫し悩んでいるのか間が空く。さっさとしろ、この糞ボケが。
「わかった、やる・・・」
ヒャハハ! おチンポ様に負けた女ってのはこうも変わるもんかねぇ。チンポ欲しさに人殺しをするんだぜ?
皆がヒジリを心配して注目している中、俺は一人腰を下ろして神速居合斬りの構えをとった。
と同時に酒場の入り口のドアを開いて誰かが入ってくる音がする。
入ってきた奴がヒジリの仲間だと困るな。特にナンベルだったら最悪だ。あれは間違いなく、俺の殺気に気付いて攻撃を仕掛けてくる。間抜けな善人のビャクヤとはえらい違いだ。
ナンベルじゃない事を祈りつつ、ちらりと入り口を見たがフードを目深に被った樹族が立っていただけだった。よし、問題ねぇ。
「いくぜ? アマリ」
俺は殺気を誰にも悟られないように、殺意を抑えて柄を握る手に力を籠める。
そして小さな声で囁いた。
「必殺!」
「神速居合斬り・・・」
俺が放った居合斬りの進路には誰もいねぇ。邪魔をする障害物がない。
このまま真空刃が飛んでいけば、跪いてる奴の首に、見事直撃するってわけだ。そしたら、俺の勝ちだ。俺は奴より強いって事になる。
―――ザン!
良い音だ。肉と骨を断ち切った音を、俺は目を閉じて楽しんだ。
「うぎゃあああ!!」
ん? これは奴の、シャア・アズナブルみたいな声じゃねぇぞ。誰だ?
目を開けて悲鳴の主を見ると、さっき入り口に立っていた樹族がそこにいた。
ヒジリの首の代わりに、右手首を失った樹族はみっともなくのたうち回っている。
「キリマルッ! 凄いじゃないかッ! よくやったんごッ!」
状況をすぐさま把握したビャクヤが俺にサムアップするのに対し、俺はまだ状況を飲み込めていない。なんでだ? なぜ俺を褒める?
「ん?」
斬り落とした樹族の右手をよく見ると、鈍く赤色に光る魔法のダガーが握られていた。
なるほど、暗殺者か。という事は俺はヒジリを助けた事になるな・・・。しかし、この男は瞬間的にヒジリの前まで移動したのか? 間の悪い奴め。
のたうち回っていた樹族は痛みを堪えて起き上がると、懐からポーションを取り出して飲み干した。試験管みたいなガラス容器を投げ捨てたので破片が床に飛び散る。
回復ポーションか。まぁ治したと言っても、止血をしただけで腕は元通りにはなっていねぇがな。
「よくも邪魔をしてくれたな、悪魔め! 貴様の顔は覚えておく!」
負け犬がよくいうセリフだな。出来ればヒジリから聞きたかったがよ。
次の瞬間、樹族はパッと消えた。転移魔法とかそういったものではなく、動画編集で時間を飛ばしたかのように消えたのだ。
「今のは・・・、危なかった」
ヒジリがそう呟いたのを聞いて、ビャクヤは頷いた。
「確かにッ! ヒジリ様でも今のは危なかったですッ! あれは能力者ですねッ! 移動魔法であればマナの痕跡が残りますが、それがありませんでしたッ! あの暗殺者はッ! 能力者の中でもッ! 対抗手段の殆どない時間操作系ですよッ!」
「ん? ・・・そうなのかね?」
気が付いてなかったのかよ。
「恐らくですがッ! 攻撃の瞬間だけ時間が動き出すタイプの能力者ですッ!」
「なに・・・? それは怖いな」
意外と普通の反応をするんだな、ヒジリさんよ・・・。ちょっと可愛らしいじゃねぇか。
「だったらヒジリに向かって、ナイフを沢山投げて逃げ場を失くしてから、時間を動かせばよかっただろうによ」
「私にそんなチープな攻撃は効かないな。パワードスーツが全て弾く」
その薄っぺらい未来の服は、パワードスーツなのかよ。狡いぞ! チートじゃねぇか、チート!
「しかし、ヒジリ様。これは厄介なダガーでしたッ! 刺した相手の存在自体をなかった事にするというッ! 希少で危険な魔法のダガーなのですッ! ただ手に持って相手を刺さないと魔法効果が発動しないので接近戦は必至ッ! 接近戦の鬼であるヒジリ様相手だとリスクが高いですねッ!」
興奮して説明しながらもビャクヤは、ダガーをうっかりとヒジリに渡してしまった。ヒジリも興味深そうにダガーを受け取る。おいおい、さっきウメボシが言ってたろ。ヒジリがマジックアイテムを持つと・・・。
「ほう、これがそんなに危険なもの・・・」
―――バキャン!
貴重で高価であろう魔法のダガーは、ヒジリの手に渡ってから数秒で粉々に砕けた。
「あ~、勿体ねぇ。売ればいい値段になったろうによ。なんだよ、お前のその魔法の品を拒否する能力はよ」
「ぐむ・・・。しまった、私はついその事を忘れてしまうのだ。これであの暗殺者が誰の差し金か解らなくなってしまったな・・・。まぁ大凡の察しはつく。ワンドリッターか、ブライトリーフあたりだろう」
元気になったのか、ヒジリは何事もなかったように立ち上がった。
「霞の干渉時間は、思いの外短かったな・・・」
そう呟いて現人神はウメボシを撫でて起動させると、カウンターに座って淹れたての珈琲を飲み始めた。
「命を狙われるのは日常茶飯事なのか?」
命を狙われた後でも、平然と珈琲を飲むヒジリの図太さに俺は驚いて呆れる。
「ああ、しょっちゅうだ。樹族の中には私のような存在を、疎ましく思う輩もいるのでね。それからキリマル。助けてくれてありがとう。君の助けがなければ今頃、私は存在を消されていたかもしれない」
それは嘘だな。今気が付いたが、こいつらの蘇生はデータからの復元だ。例え存在を消されたとしても、どこかに保管してあるデータに情報が残っている限り、何度でも蘇るだろうさ。
はぁ・・・。クソチート野郎じゃねぇかよ。こいつの首を狙う意味がねぇな。
「これで貸し借りは無しだ。それでは私は行く」
珈琲を一気に飲み干して、ヒジリは立ち上がると酒場の入り口に向かう。ビャクヤが慌てて礼を言おうとしたが、その時間すら与えない程素早く出て行った。
「ヒジリ様は・・・、照れ屋さんなのかなッ?」
「ここ・・・。どこ?」
意識を取り戻したリンネは、オーガやオークが寛いでいる酒場の中で困惑する。
そのリンネの前にウメボシは浮いてウィンクした。
「ビャクヤ様とお幸せに! うふふ!」
「?」
突然の一つ目の祝福にリンネは混乱する。
「待ってください、マスター!」
「今のイービルアイはなに? もう何がなんだかわからない! あれ?! 私なんで裸なの?」
ビャクヤはマントに包まるリンネに抱き着くと、オイオイと泣き始めた。
「あああああ! 主様が帰ってきたッ! しかも完璧になって! こんなに嬉しい事はないッ! 主様がいない間、吾輩の心は沈んで気が狂いそうだったがッ! もうこれで泣きながら夜を迎える事はないのだッ! あぁ! 主様! 主様!」
蘇生の奇跡を目の当たりにした周りのオークやオーガ達も、指笛を鳴らしてリンネの復活を祝福している。意外と良い奴らなんだな。もっとファンタジーのダンジョンとかに出てくる敵みたいなのを想像してたけどよ。
「ちょっとビャクヤぁ! 抱き締め過ぎぃ!」
「主様はズルイですッ! 愛の営みの最中に逝ってしまわれるのですからッ! 幸せの絶頂で絶望に叩き落すなんて事はッ! もうやめてくださいましッ!」
「ちょ! 愛の営みって! 人前で何言ってんの!」
「ヒューヒュー!」
野次馬が茶化す。
「もう! 馬鹿ビャクヤ! さっさと帰るわよ! 転移の魔法の準備して!」
「んんんん! ラジャーッ! 我が主様ッ!」
いつもの元気なビャクヤが戻ってきた。シルクハットをとって、野次馬達にお道化てお辞儀をすると、詠唱を開始する。
「グレイタァァ! テレポーテイションヌッ!」
なんか呪文の名前がころころ変わるんだが大丈夫か? 前はロケーションムーブとか言ってなかったか?
こうして体感的に長かったように感じるリンネ復活の旅は終わった。
この旅で、俺は少しは強くなっただろうか? まだまだ絶対強者への道のりは遠い。早くヒジリやヤイバのような高みに登りてぇ。
それから帰ったら、リンネは学校を退学になってたりしねぇだろうな? ビャクヤの長距離移動は時間まで進むからな。帰ったら住むところがなくなっていて、イノリスの村でアトラスと一緒に暮らすのは勘弁な。
瞳が虹色で混乱しているようだし、浮遊状態を維持もできていねぇ。フラフラと浮いたり沈んだりを繰り返している。
ウメボシやヒジリの様子を見て、何か良くない事が起きると感じ取ったビャクヤは、まだ意識の戻っていないリンネにマントをかけて抱きかかえると、テーブル席のソファに寝かせた。
「遮蔽フィールドによるシステム干渉率86%。マスター・・・。申し訳ありませんが、シャットダウンを開始します」
そう言うとウメボシは、カウンターの上にいつの間にか置いてあったふかふかの座布団の上に降りて目を閉じた。
「蘇生には間に合ったか。よくやったぞ、ウメボシ。私もシャットダウンをして、やり過ごすことが出来たら楽なのだがな・・・」
ヒジリも妙に息が荒かった。なんだ? どうしたどうした?
「あのッ! ヒジリ様、大丈夫ですか?」
ビャクヤはリンネの復活を喜びたかったが、自分の信仰する神のただならぬ様子が気になって仕方がない。
体調を崩して跪くヒジリの背中を撫でるべきかどうかで迷っているように見える。馴れ馴れしく撫でるのも恐れ多いと考えているのだろう。
「ああ、問題ない。いつも通りならば、数分で回復する」
「一体何が・・・」
ヒジリはビャクヤの質問には答えなかった。当たり前だ。これはきっと奴らの弱点だからだ。何らかの理由で奴らは弱体化している。
ヒヒヒ。解るぞ・・・。今ならヒジリを殺せる。後々厄介な事になるかもしれねぇが、俺はやるぜ?
腰のアマリの柄を握ると、眠っていたアマリが目を覚ました。
「エッチの時間?」
俺とのセックスが余程良かったらしい。昨日からずっとセックスの事ばかり聞いてくる。
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こいつは自分が呪いの武器であるという事を自覚させられるのを凄く嫌う。
「いいから戦う準備しろ。いや、殺す準備だ。一方的に殺すんだからな。キヒヒッ!」
「やだ!」
いっちょ前に殺しを拒否しやがった。いつもは俺の言う事を聞くのに。
「あ? だったら、もうエッチしてやんねぇぞ?」
「えっ?!」
暫し悩んでいるのか間が空く。さっさとしろ、この糞ボケが。
「わかった、やる・・・」
ヒャハハ! おチンポ様に負けた女ってのはこうも変わるもんかねぇ。チンポ欲しさに人殺しをするんだぜ?
皆がヒジリを心配して注目している中、俺は一人腰を下ろして神速居合斬りの構えをとった。
と同時に酒場の入り口のドアを開いて誰かが入ってくる音がする。
入ってきた奴がヒジリの仲間だと困るな。特にナンベルだったら最悪だ。あれは間違いなく、俺の殺気に気付いて攻撃を仕掛けてくる。間抜けな善人のビャクヤとはえらい違いだ。
ナンベルじゃない事を祈りつつ、ちらりと入り口を見たがフードを目深に被った樹族が立っていただけだった。よし、問題ねぇ。
「いくぜ? アマリ」
俺は殺気を誰にも悟られないように、殺意を抑えて柄を握る手に力を籠める。
そして小さな声で囁いた。
「必殺!」
「神速居合斬り・・・」
俺が放った居合斬りの進路には誰もいねぇ。邪魔をする障害物がない。
このまま真空刃が飛んでいけば、跪いてる奴の首に、見事直撃するってわけだ。そしたら、俺の勝ちだ。俺は奴より強いって事になる。
―――ザン!
良い音だ。肉と骨を断ち切った音を、俺は目を閉じて楽しんだ。
「うぎゃあああ!!」
ん? これは奴の、シャア・アズナブルみたいな声じゃねぇぞ。誰だ?
目を開けて悲鳴の主を見ると、さっき入り口に立っていた樹族がそこにいた。
ヒジリの首の代わりに、右手首を失った樹族はみっともなくのたうち回っている。
「キリマルッ! 凄いじゃないかッ! よくやったんごッ!」
状況をすぐさま把握したビャクヤが俺にサムアップするのに対し、俺はまだ状況を飲み込めていない。なんでだ? なぜ俺を褒める?
「ん?」
斬り落とした樹族の右手をよく見ると、鈍く赤色に光る魔法のダガーが握られていた。
なるほど、暗殺者か。という事は俺はヒジリを助けた事になるな・・・。しかし、この男は瞬間的にヒジリの前まで移動したのか? 間の悪い奴め。
のたうち回っていた樹族は痛みを堪えて起き上がると、懐からポーションを取り出して飲み干した。試験管みたいなガラス容器を投げ捨てたので破片が床に飛び散る。
回復ポーションか。まぁ治したと言っても、止血をしただけで腕は元通りにはなっていねぇがな。
「よくも邪魔をしてくれたな、悪魔め! 貴様の顔は覚えておく!」
負け犬がよくいうセリフだな。出来ればヒジリから聞きたかったがよ。
次の瞬間、樹族はパッと消えた。転移魔法とかそういったものではなく、動画編集で時間を飛ばしたかのように消えたのだ。
「今のは・・・、危なかった」
ヒジリがそう呟いたのを聞いて、ビャクヤは頷いた。
「確かにッ! ヒジリ様でも今のは危なかったですッ! あれは能力者ですねッ! 移動魔法であればマナの痕跡が残りますが、それがありませんでしたッ! あの暗殺者はッ! 能力者の中でもッ! 対抗手段の殆どない時間操作系ですよッ!」
「ん? ・・・そうなのかね?」
気が付いてなかったのかよ。
「恐らくですがッ! 攻撃の瞬間だけ時間が動き出すタイプの能力者ですッ!」
「なに・・・? それは怖いな」
意外と普通の反応をするんだな、ヒジリさんよ・・・。ちょっと可愛らしいじゃねぇか。
「だったらヒジリに向かって、ナイフを沢山投げて逃げ場を失くしてから、時間を動かせばよかっただろうによ」
「私にそんなチープな攻撃は効かないな。パワードスーツが全て弾く」
その薄っぺらい未来の服は、パワードスーツなのかよ。狡いぞ! チートじゃねぇか、チート!
「しかし、ヒジリ様。これは厄介なダガーでしたッ! 刺した相手の存在自体をなかった事にするというッ! 希少で危険な魔法のダガーなのですッ! ただ手に持って相手を刺さないと魔法効果が発動しないので接近戦は必至ッ! 接近戦の鬼であるヒジリ様相手だとリスクが高いですねッ!」
興奮して説明しながらもビャクヤは、ダガーをうっかりとヒジリに渡してしまった。ヒジリも興味深そうにダガーを受け取る。おいおい、さっきウメボシが言ってたろ。ヒジリがマジックアイテムを持つと・・・。
「ほう、これがそんなに危険なもの・・・」
―――バキャン!
貴重で高価であろう魔法のダガーは、ヒジリの手に渡ってから数秒で粉々に砕けた。
「あ~、勿体ねぇ。売ればいい値段になったろうによ。なんだよ、お前のその魔法の品を拒否する能力はよ」
「ぐむ・・・。しまった、私はついその事を忘れてしまうのだ。これであの暗殺者が誰の差し金か解らなくなってしまったな・・・。まぁ大凡の察しはつく。ワンドリッターか、ブライトリーフあたりだろう」
元気になったのか、ヒジリは何事もなかったように立ち上がった。
「霞の干渉時間は、思いの外短かったな・・・」
そう呟いて現人神はウメボシを撫でて起動させると、カウンターに座って淹れたての珈琲を飲み始めた。
「命を狙われるのは日常茶飯事なのか?」
命を狙われた後でも、平然と珈琲を飲むヒジリの図太さに俺は驚いて呆れる。
「ああ、しょっちゅうだ。樹族の中には私のような存在を、疎ましく思う輩もいるのでね。それからキリマル。助けてくれてありがとう。君の助けがなければ今頃、私は存在を消されていたかもしれない」
それは嘘だな。今気が付いたが、こいつらの蘇生はデータからの復元だ。例え存在を消されたとしても、どこかに保管してあるデータに情報が残っている限り、何度でも蘇るだろうさ。
はぁ・・・。クソチート野郎じゃねぇかよ。こいつの首を狙う意味がねぇな。
「これで貸し借りは無しだ。それでは私は行く」
珈琲を一気に飲み干して、ヒジリは立ち上がると酒場の入り口に向かう。ビャクヤが慌てて礼を言おうとしたが、その時間すら与えない程素早く出て行った。
「ヒジリ様は・・・、照れ屋さんなのかなッ?」
「ここ・・・。どこ?」
意識を取り戻したリンネは、オーガやオークが寛いでいる酒場の中で困惑する。
そのリンネの前にウメボシは浮いてウィンクした。
「ビャクヤ様とお幸せに! うふふ!」
「?」
突然の一つ目の祝福にリンネは混乱する。
「待ってください、マスター!」
「今のイービルアイはなに? もう何がなんだかわからない! あれ?! 私なんで裸なの?」
ビャクヤはマントに包まるリンネに抱き着くと、オイオイと泣き始めた。
「あああああ! 主様が帰ってきたッ! しかも完璧になって! こんなに嬉しい事はないッ! 主様がいない間、吾輩の心は沈んで気が狂いそうだったがッ! もうこれで泣きながら夜を迎える事はないのだッ! あぁ! 主様! 主様!」
蘇生の奇跡を目の当たりにした周りのオークやオーガ達も、指笛を鳴らしてリンネの復活を祝福している。意外と良い奴らなんだな。もっとファンタジーのダンジョンとかに出てくる敵みたいなのを想像してたけどよ。
「ちょっとビャクヤぁ! 抱き締め過ぎぃ!」
「主様はズルイですッ! 愛の営みの最中に逝ってしまわれるのですからッ! 幸せの絶頂で絶望に叩き落すなんて事はッ! もうやめてくださいましッ!」
「ちょ! 愛の営みって! 人前で何言ってんの!」
「ヒューヒュー!」
野次馬が茶化す。
「もう! 馬鹿ビャクヤ! さっさと帰るわよ! 転移の魔法の準備して!」
「んんんん! ラジャーッ! 我が主様ッ!」
いつもの元気なビャクヤが戻ってきた。シルクハットをとって、野次馬達にお道化てお辞儀をすると、詠唱を開始する。
「グレイタァァ! テレポーテイションヌッ!」
なんか呪文の名前がころころ変わるんだが大丈夫か? 前はロケーションムーブとか言ってなかったか?
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この旅で、俺は少しは強くなっただろうか? まだまだ絶対強者への道のりは遠い。早くヒジリやヤイバのような高みに登りてぇ。
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