殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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リンネの復活

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 ベルの付いたドアを開いて入って来ると、ヒジリはなぜか俺の横に座った。デカい割りに動きに無駄がなく、足音一つ立てやしねぇ。

 ヒジリの後ろにはウメボシが浮ていて、俺にウィンクをしてきた。説得が上手くいったというサインだろう。

「やぁ、人修羅のキリマル。そしてナンベルの孫のビャクヤ。昨日は野宿したそうだね。よく眠れたかね? ミカティニスおはよう、珈琲を頼む」

 ミカティニスと呼ばれたオーガの女将は、サイフォン式のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる準備を始める。

「お前がくれたこのコーシーセットはやる事が多すぎどぅ。お昼の忙しい時間になると色々と大変だ」

 女将はヒジリに文句を言いながらコーヒー豆をハンドミルで挽いている。

「ふむ、では全自動のものを用意しておこう。人の少なくなったこの国で、食事を提供する店は少ないからな。皆がこの店を頼って来るのも解る。ところで、ヘカはどこに?」

「砦の戦士たちと街の外を警邏しとるど。昨日、おでを心配してやって来た妹家族が、途中で盗賊に襲われたと言ってたかだな」

「その妹家族を助けたのがこの悪魔キリマルだ。感謝するのだな。それにしてもグランデモニウム王国壊滅の噂がそんな直ぐに隣国に伝わるとは・・・。火事場泥棒が来るにしても早すぎる。誰かが情報をばら撒いていると考えるのが妥当か」

 ヒジリは癖なのか、顎をさすりながらブツブツと言っている。

「そんな事、おで知らね」

 まぁ酒場の女将がそんな話をされても答えに困るわな。

(女将と話すのはいいけどよ、もっと離れて座れよ。ラーメン屋のカウンターで、お前みたいなデカブツが横に座るとマジで邪魔だった)

 ぴっちりとした黒い服に、鋼線をより合わせたような筋肉が浮く腕が、俺の肩に当たって邪魔で仕方がねぇ。

「そうだ・・・。もうすでに話をしてしまったが・・・。君は悪魔なのにミカティニスの妹の娘を、変質者から助けてくれたそうだな。私の国の民になる者を助けてくれて感謝する」

「ん? どういう事だ? 私の国? お前さんは確か樹族国の奴隷だったはずだろう。しかも樹族国国王に謁見できるとなれば、奴隷なのに重要なポストにいると見た。という事は樹族国を裏切ってここに自分の国を作るつもりか?」

 ヒジリが口を開く前に、俺の左隣に座るビャクヤが肘突きをしてきた。

「裏切るなんて人聞きの悪い事を言うもんじゃないッ! ヒジリ様は、帝国と樹族国の緩衝国でもあるグランデモニウム王国を支配してッ! 両国の仲を取り持とうとしてくれているのだよッ! 樹族国がこのままグランデモニウム王国に侵攻して占領すればッ! 帝国が待ってましたとばかりにグランデモニウム王国を助けるという名目でッ! 樹族国に戦争を仕掛けてくるからねッ! ヒジリ様のお陰で帝国と樹族国は戦争を回避できたのだッ!」

 なんでヒジリ目線なんだよ。お前の祖国が悪の帝国みたいな感じになってんぞ。

「戦争を回避できた、か。まだ回避していないのだがね。流石は未来から来たナンベルの孫。しかしあまりネタバレしないでくれたまえよ。この先どうなるかを知っている未来ほど、つまらないものはないからな」

 お湯が足管を通ってロートの中に入り、コーヒー粉を踊らせている様子をヒジリは退屈そうに眺めている。

 なるほどねぇ。退屈な未来とは、この一連の動作しかしないコーヒーメーカーのようなものか。

 俺もコーヒーメーカーを眺める。お? このサイフォン式コーヒーメーカーには電源がねぇな。エネルギー源はなんだ? 電池でもなさそうだし。便利なもんだ。きっと未来のテクノロジーかなんかだな。

「ヒジリ様は吾輩を、ナンベルお爺様の孫だと信じてくれるのですか?」

 暫く黙ってコーヒーメーカを眺めて、何かを考えているヒジリにビャクヤはおずおずと訊いた。

「いや、最初は信じていなかったとも。だがウメボシが君のことを、ナンベルの孫で間違いないというから信じたのだよ。ウメボシがスキャニングでDNA鑑定をして、そういう結果がでたならば私は信じるほかないからな」

「ではッ! 我らが怪しいものではないと解ったところでッ! 主様を蘇らせてもらってもよろしいでしょうかッ!」

「ああ、構わないとも。蘇生をしないとウメボシが煩いからな。では、ウメボシ・・・」

 ヒジリは振り向いてウメボシに視線を送ると、一つ目のドローン型アンドロイドは目から光を放って、ビャクヤが手に握りしめている桐の箱をスキャニングした。

「おや?」

 スキャニングを瞬時に終えたウメボシが不思議そうな顔をした。

「へその緒とは別に髪の毛も持っていますね? ビャクヤ様」

「はい、ここにッ!」

 ビャクヤは首から下げるロケットペンダントの中から、リンネの髪を取り出す。

「どうしたね? ウメボシ」

 ヒジリも興味深そうに髪の毛とへその緒見てからウメボシを見る。

「微妙に違うのです。へその緒の方は確かに本物なのですが、髪の毛の方はその劣化版と言いましょうか・・・。拙い技術で人体構成を試み、不安定な要素を一つずつ排除していった痕跡が見られますね。完成した頃にはテロメアがすっかりとすり減っていて、寿命が五分の一程になっています」

 そりゃあまぁ、リンネは人造人間だったからな。

「流石はウメボシ様ッ! 我が主様は訳があって人造人間でしたから。そのホムンクルスである主様の蘇生は、キリマルでも無理でしたので、せめて本物のリンネ様をヒジリ様に復活していただこうと、西と東の大陸の間にある、絶海の島国からやって来たのでありますッ!」

「人造人間か・・・。中途半端な科学力と魔法の力があると、そんなものを作り出してしまうのだな。感心はしないが興味深い。・・・となるとビャクヤの主は、赤ん坊として蘇るが、いいのかね?」

「はいッ! 吾輩はッ! 心の底からッ! 我が主リンネ様を愛しているのですッ! ですから、彼女がどんな状態であれッ! この世に戻って来てさえくれればッ! それだけで幸せなのですッ!」

「まぁ!」

 ウメボシが感動したのか、目からホログラムの大きな涙を一粒零した。

「なんて素敵な愛の物語!」

「ビャクヤ曰く、魔人族は寿命が長いから成長するまで待つとよ」

 俺がそう言うとウメボシは少し困惑した目をした。

「しかし、リンネ様の成長を待ったとしても、魔人族と人間では交配は不可能です。結婚しても子供を授かる事はできません。それでもいいのですか?」

「はい。子供は養子を貰いますゆえッ!」

「わかりました。ウメボシには、二人が養子に囲まれて幸せに暮らす素敵な未来が見えますよ! マスター、ウメボシもマスターと結婚したら養子を貰おうと思いますので、よろしくお願いします」

「こちらに拒否権はないのかね」

 ウメボシはヒジリの質問には答えずに、ビャクヤを見てにっこりと笑った。

「では蘇生しますよ! あ! それから蘇生時にリンネ様は裸になりますので、服をご用意下さいませ」

 赤ん坊の裸なんて見たところでなんとも思わねぇよ。

「解りまんしたッ! ビャクヤ☆クリエーションヌッ!」

 ビャクヤがそう言ってワンドを頭上で振ると、変態紳士なりきりセットがボタボタと落ちてきた。なんでそのチョイスなんだ? マントはお包みの代わりになるがよ。シルクハットとビキニパンツは要らねぇだろうが。

 ヒジリが興味深そうに空中から現れたシルクハットを手に持って調べると、シルクハットがスッと消えてしまう。

 科学者だから何でも調べようとするな、この男は。しかし、なんでシルクハットが消えたんだ?

「駄目ですよ、マスター。我々が魔法の品に触ると、消えたり壊れたりするのをお忘れですか?」

 って事はビャクヤの作り出す物は魔法を帯びているのか。まぁ魔法で作るんだから当然か。

 なぜヒジリが振れると魔法の品が消えるのかは質問しないでいいか。どうせ能力とかそんな感じだろう。この世界であれこれ一々驚いていたら身がもたねぇ。出鱈目な世界だからな、ここは。

「では、改めて!」

 ウメボシの目が光ると、目の前に光の塊が発生した。それは徐々に人の形をとり・・・。ん? 赤ん坊にしては大きくねぇか?

 ビャクヤも察したのか、仮面の表情が驚きに変わる。

「こ、これは・・・! もしかして、ウメボシ様ぁ!」

「はい、ホムンクルスのデータと本来のリンネ様のデータを合わせて再構成しました。つまり記憶はホムンクルスの時のもので、身体データは本来のリンネ様のものです」

「すげぇ! 俺たちは神の奇跡を目の前で見ているぞ!!」

 酒場の野次馬たちがリンネの蘇生を見て騒ぎ出した。うっとおしいな。見ているのは金を持ってそうなオークとオーガが殆どだ。ゴブリンはいねぇ。この酒場は結構高級店なんだな。

 蘇生が進む中、ヒジリが急に緊迫した声を上げた。

「今、カプリコンから連絡があった。星の遮蔽フィールドが降下し始めたそうだ。急げ、ウメボシ」

「はい!!」

 なんだ? 遮蔽フィールド? 何の事だ?

 ヒジリは焦っている割に汗の一粒も流してはいない。しかし、なにか大変な事が起ころうとしているのは解る。それが、俺たちに関係する事なのか、或いは彼らだけの話なのかはわからねぇがよ。
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