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ビャクヤ視点の学園生活
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「さてさて、梅雨のうっとおしい季節がやってきたが、今日は皆を祝福するがごとく見事な快晴となった。これまでの成果を見せ合い、互いに切磋琢磨するには良い日じゃ。後二ヶ月ほどで今学期も終わるが、そろそろ獲得単位が気になる者もいるのではないかね? しかし・・・」
三年にもなると授業は殆どなく担任もつかない。目の前でマギ学園長が朝礼台の上で話をしているが、誰も聞いておらず、早く終われという顔をしていた。
生徒がお互いにひそひそ声で囁き合う声が、吾輩の耳に入ってくる。
「お前、二つ名を貰えたか?」
「ダメだった。鼻息荒くして、仲間とダンジョンに行ってみたんだけどさ、二階層に降りてすぐに魔物が怖くなって逃げかえってきた」
(ほうほうッ! 新米冒険者でもいきなり二階層へ向かうのはきついッ! 学生の貴方たちが二階層までたどり着けただけでもッ! 誇りに思うべきですよッ!)
「あたしはもう宮廷魔術師になるの諦めた。王都で魔法店の店員やろうと思って応募したわ」
「え~、それでもいいじゃん! 王都で働けるなんて!」
そうですよッ! 人の歩む道は一つだけではありませんからねッ!
とはいえ、生徒の中には王宮勤めを目指す事を既に諦めてしまった者も多い。皆が目指す王宮勤めの枠はそうそう空かない上に、新規の募集も僅かだ。
三年生となると社会に出て、これまで学習した事を実践するようになるが、それでも成果を出せない者が沢山いる。
三年生諸君に今、必要なのは成果とは評判である。手っ取り早いのが冒険者ギルドに行くことだッ! あそこで二つ名が付く程の成果が出せれば、その学期は安泰だと言えるだろうッ!
それに時々、救済措置として単位を補填できる日があるのだッ! 今日のようにッ!
先ほどもッ! 習得した魔法を披露する事で単位を得た者もいたッ!
我が主様はもう既に今学期の単位は獲得しているので、魔法を披露する必要はなかったのですがッ! 雷撃やら小さな土の精霊を召喚して、自分の実力を確認していたようですッ! 偉いですぞッ!
「主様の魔法は至って普通なのですが、得手不得手がないのは羨ましいですねッ! 常に安定した力を出せるッ! 土属性なのに雷撃も撃てるなんて素敵ですよッ!」
「ビャクヤは火魔法とか苦手だもんね。光魔法に関しては全くだし」
「一応苦手な属性の魔法も覚えてはいるのですがッ! 威力は心地よい春風の如しッ!」
「敵を心地よくしてどうすんのよ・・・」
主様と会話を楽しんでいると、リッドがハンカチで額の汗を拭きながらこちらにやって来る。
彼はついさっきまで教師の目の前で、光の攻撃魔法【光の玉】を披露してはいたが、反応がイマイチだったのを吾輩は目の端で見ていた。
「はぁ、メイジの君たちが羨ましいよ。僕も少しぐらいは魔法を覚えておこうと思って、この学園に入学したのはいいけど・・・。結局三年生になっても、魔法の最後の一枠が決められないままだ」
「リッド殿はッ! ゾンビ村の一件で既に単位を獲得しておられるでしょうッ? そんなに焦る必要はないのでは? 今いくつ魔法をお覚えで?」
吾輩はふざけて、彼が覚えた魔法の数を聞き直したッ! 魔法職以外の者は、最高五つまで魔法を覚える事ができるが、彼はまだ一枠残している。
普通は二年生ぐらいで自分の魔法の方向性を見定めて、五つ全部を覚えていたりするものだがッ!
「言わなくても解るだろ? 四つだよ、四つ。なんでそんなに恥をかかせるのかね? (リンネ君の前で!)君は時々僕に意地悪だね」
そりゃあリンネ様を狙っている男ですからねッ! 貴方はッ!
「失礼。あと一つは何にするかお決めですか?」
戦士職の者が攻撃魔法などを覚えても、本職の半分ほどの威力だ。なので殆どの者が【弓矢そらし】や【魔法防壁】、【魔法探知】などの補助魔法を覚える。
彼が攻撃魔法である【光の玉】を覚えているのはッ! 恐らく牽制用だろうッ!
「色々と魔法書の目次を立ち読みしてみたけど、どれも難しそうでね」
「リッド殿は身に宿している属性が一つだけですからねぇ・・・。光属性のみという珍しいお方・・・。何系を覚えたいのですかな?」
「光属性は、意外と氷魔法と相性がいいと聞いたのだがね」
「ふむふむ、複合魔法の【聖なる氷霧】ですね? 確かにあれは光魔法の割合が大きいですからね。広範囲のアンデッドに効く稀有な氷魔法。でしたら、普通に初歩魔法の【氷の槍】を覚えればいいですよッ!」
「それができれば苦労はしないのだが・・・。ビャクヤは氷魔法が得意と聞いた。少しコツみたいなものを教えてくれないだろうか?」
「よろしいですともッ!」
吾輩が華麗なる氷魔法を披露しようとすると、運動場の土の地面にドスンドスンと、何かが突き刺さるような音がした。
音のする方を見るとサムシン・ディダイドーが教師の目の前で得意の魔法を披露し、単位を荒稼ぎしているのが見えた。
「きゃああ! 凄い! 流石は大魔導士の息子、サムシン君! 【氷の槍】が太くて逞しいわぁ!」
なんと性的な言い方かッ!
「氷魔法が得意なビャクヤでも、彼の足元には及ばないわ!」
「なによ・・・。ビャクヤの事何も知らないくせに」
主様がベンチに座っておやつの干しリンゴを齧りながら文句を言った。あぁ、吾輩の為に腹を立ててくれるなんてッ! 愛おしい! 愛おしい過ぎるッ!
主様を今すぐ抱きしめたい気持ちを抑えて、吾輩は魔法の指導を続ける。
「【氷の槍】の仮覚えは済んでいますか? リッド殿」
「いや、まだだ。その・・・、魔法書が高くてね・・・」
そうだった。リッド殿は聖騎士の家系とはいえリンネ様と同じく騎士の子。決して裕福ではないのだッ! 普段もボランティア活動ばかりしていて、冒険者ギルドなどで金を稼いだりはしていない人ッ!
「では、これを差し上げましょう」
吾輩は無限鞄の中を雑に漂う魔法書を取り出して、リッド殿に手渡した。
「これは【氷の槍】の魔導書! いいのかい? こんな高価なもの!」
「氷系の魔法を全て覚えている吾輩がッ! これを持っていても仕方のない物ですしッ! 余り物なのでお気になさらずッ!」
「ありがとう、ビャクヤ君。君は心の友だ」
金髪碧眼のイケメンの彼が吾輩をハグしたので、良からぬ想像をした女子たちがキャーキャーと騒いで煩い。
「その魔導書は超初心者向けでんすッ! 一分もあれば前頁読めますゆえ、早速読んでみてください。本来はそこから魔法が何たるかを突き詰めてッ! 頭でよく理解してから身に宿すものですがッ! 貴方たち人間は魔法種族ではないのでサラッと読んでッ! 体の表面にイメージを宿すだけでいいのでんすッ!」
「わかった」
リッド殿は目が滑らないように文字に人差し指を添えて、一文一文を噛みしめるように読んでいる。凄い集中力だ。
「この本、凄いな・・・。魔法のイメージ方法を噛み砕いて書いてあるので、とても分かりやすい。子供向けなのかな? 魔人族は子供の時から魔法が使えるのかい?」
「ええ。我らは魔の人と書いて魔人族なのです。悪魔以外にッ! 魔法において我らを超越する種族はおりませんぬッ!」
「ではキリマル殿が、君をその内に追い抜くのかもしれないね」
「それはないです。彼は戦闘馬鹿ですからッ! 戦闘馬鹿にしては魔力がありますが、どう頑張っても初心者メイジ止まりですよッ!」
「ハハハ。安心した。キリマル殿が魔法も強かったらズルイなと思っていたのだ。よし、大体イメージは掴めたぞ!」
どれどれ? 吾輩は魔法書を覗き込む。うむ、確かに白紙になっているッ!
これはリッド殿が魔法を仮覚えをした証拠。これから詠唱をして、魔法のコツを掴めばいよいよ身に着けた事になるッ! 魔法が身に着かなかった場合、魔法書はまた元通りになる。
「おっと! さっき魔法を使ったから使用回数がゼロだった・・・」
「では背中からマナを送りますので、氷の槍を想像してみてください」
「背中からマナを送る・・・、だって?」
吾輩の言葉に驚きながらも、詠唱を開始したリッド殿の背中に手を当ててマナを送った。
「我ら魔人族はこうやって仲間にマナを分け合う事ができますッ! 魔法の術式も他種族とは違いますので、マナが尽きるまで同じ魔法をッ! 何回も唱える事もできたりするのですッ! しかも時間経過でマナは回復しますッ!」
「正に魔の人だね」
「ええ」
そんな話をしているとリッド殿は、空中に氷のジャベリンを形作った。
「うわ! これが【氷の槍】? こんなに大きい物なのか?!」
先程、サムシン君が見せた氷の槍よりも太くて大きい。
サムシン君を取り巻いていた女子たちが、唖然としてこちらを見ているッ! こんなに大きいと刺すというよりは、叩きつけてすり潰すといった感じだものねッ! その驚き顔は当然ッ!
「勿論、吾輩がサポートをしているからですが。この氷の槍の大きさは、将来リッド様が氷の魔法を極めた時に出せる限界なのです。勿論極める必要はないですが」
寧ろ彼の場合、光の魔法を極めてほしい。光属性の者なので当然、光魔法の伸び代が多い。
「僕でも極めれば、こんなに大きな氷の槍を出せるのか・・・」
喜びに震えるリッド殿を見ていると自分も嬉しくなりますッ!
吾輩は弾む声で次の指示を出した。
「ではこの氷の槍を、粉々に砕くイメージをしてみてください」
「わかった!」
リッド殿の背中から興奮が伝わってくるし、鎧越しでも手に熱を感じたッ!
「えい!」
太くて大きい氷の槍は砕け散ると、日差しを浴びて煌めいた。今日のような夏日に見ると、冬に見る自然な氷霧と違って涼しげだ。その代わり幻想的な感じはしなかった。
「お見事! 綺麗なダイアモンドダストが作れました!」
「ハハハ! 失敗しているじゃないか! 槍が砕けたぞ!」
うん? サムシン君が勘違いして笑っているッ! 恥ずかしい奴だなッ!
「外野の声は気にしないように、リッド殿。では、その氷霧が消えない内に、【光の玉】か【閃光】を叩きこんで下さい!」
「そんな連続魔法みたいな事はできない!」
「大丈夫ですよッ! 氷霧は結構な時間滞空してくれますからッ!」
「そうなのか? よし、やってみる、やってみるさ!」
本当は・・・、やってみる! などと言ってできるものではないのだ、複合魔法というものはッ!
しかし・・・! 賢い人ってのは要領を掴むのが上手いんごッ! 初めてでも上手くやる人は、事の本質を捉えているからだッ!
リッド殿はその賢い人であるッ! 直ぐにイメージを掴んで自分がやろうとしている魔法がッ! どういうものかを理解してしまう人間ッ! もし、魔法の才能があれば彼は将来、大魔導士になっていただろうッ!
氷霧が光属性を宿して、自ら眩く光り始めた。素晴らしいッ! 【聖なる氷霧】の完成だッ!
正直言うと、羨ましいんぬッ! 吾輩がやっても氷属性が強すぎてッ! ただの【吹雪】になってしまうからだ。
彼の純粋な光属性とッ! オマケ程度の氷魔法はッ! この複合魔法に一番適しているッ!
「うわぁ! すげぇ!リッドが複合魔法を使いやがった!」
回りの生徒たちがざわめく。
「これは本当に僕が発動させているのか?! ありがとう! ビャクヤ! 君のお陰だ!」
「ビャクヤって教えるの上手だもんね!」
あぁ! 主様が尊敬の眼差しで吾輩を見ている! もっと・・・もっとキラキラした目で吾輩を見て下さいッ!
―――ザン!
え?
リッド殿の肩当てを貫いて氷の槍が地面に突き刺さっていた。彼の右手を道連れに・・・。
「魔法の暴走だ! リッドは魔法を失敗したんだ!」
激痛と出血で気を失ったリッド殿を見て、吾輩の視界がぐにゃりと歪む。
違う! そんなはずはない。この氷の槍は明らかにマナの練り方がリッド殿のそれとは違う! 他所から飛来してきたものだ!
吾輩は、魔法の暴走だと叫んだサムシンを見た。と同時に【読心】の魔法を唱えたが、彼は咄嗟に心を閉ざしてこちらを警戒した。吾輩が真っ先に疑う事を予測していたかのように!
この氷の槍はッ! 十中八九! サムシンのものだッ!
「早く医務室に連れて行かないと!」
無数の考えが頭に浮かんで、それに囚われていた吾輩の耳に、主殿の緊迫した声が入ってきた。今はリッド殿の手当てを優先しなくてはッ!
「御意! ロケーション・ムーーーゥブッ!」
三年にもなると授業は殆どなく担任もつかない。目の前でマギ学園長が朝礼台の上で話をしているが、誰も聞いておらず、早く終われという顔をしていた。
生徒がお互いにひそひそ声で囁き合う声が、吾輩の耳に入ってくる。
「お前、二つ名を貰えたか?」
「ダメだった。鼻息荒くして、仲間とダンジョンに行ってみたんだけどさ、二階層に降りてすぐに魔物が怖くなって逃げかえってきた」
(ほうほうッ! 新米冒険者でもいきなり二階層へ向かうのはきついッ! 学生の貴方たちが二階層までたどり着けただけでもッ! 誇りに思うべきですよッ!)
「あたしはもう宮廷魔術師になるの諦めた。王都で魔法店の店員やろうと思って応募したわ」
「え~、それでもいいじゃん! 王都で働けるなんて!」
そうですよッ! 人の歩む道は一つだけではありませんからねッ!
とはいえ、生徒の中には王宮勤めを目指す事を既に諦めてしまった者も多い。皆が目指す王宮勤めの枠はそうそう空かない上に、新規の募集も僅かだ。
三年生となると社会に出て、これまで学習した事を実践するようになるが、それでも成果を出せない者が沢山いる。
三年生諸君に今、必要なのは成果とは評判である。手っ取り早いのが冒険者ギルドに行くことだッ! あそこで二つ名が付く程の成果が出せれば、その学期は安泰だと言えるだろうッ!
それに時々、救済措置として単位を補填できる日があるのだッ! 今日のようにッ!
先ほどもッ! 習得した魔法を披露する事で単位を得た者もいたッ!
我が主様はもう既に今学期の単位は獲得しているので、魔法を披露する必要はなかったのですがッ! 雷撃やら小さな土の精霊を召喚して、自分の実力を確認していたようですッ! 偉いですぞッ!
「主様の魔法は至って普通なのですが、得手不得手がないのは羨ましいですねッ! 常に安定した力を出せるッ! 土属性なのに雷撃も撃てるなんて素敵ですよッ!」
「ビャクヤは火魔法とか苦手だもんね。光魔法に関しては全くだし」
「一応苦手な属性の魔法も覚えてはいるのですがッ! 威力は心地よい春風の如しッ!」
「敵を心地よくしてどうすんのよ・・・」
主様と会話を楽しんでいると、リッドがハンカチで額の汗を拭きながらこちらにやって来る。
彼はついさっきまで教師の目の前で、光の攻撃魔法【光の玉】を披露してはいたが、反応がイマイチだったのを吾輩は目の端で見ていた。
「はぁ、メイジの君たちが羨ましいよ。僕も少しぐらいは魔法を覚えておこうと思って、この学園に入学したのはいいけど・・・。結局三年生になっても、魔法の最後の一枠が決められないままだ」
「リッド殿はッ! ゾンビ村の一件で既に単位を獲得しておられるでしょうッ? そんなに焦る必要はないのでは? 今いくつ魔法をお覚えで?」
吾輩はふざけて、彼が覚えた魔法の数を聞き直したッ! 魔法職以外の者は、最高五つまで魔法を覚える事ができるが、彼はまだ一枠残している。
普通は二年生ぐらいで自分の魔法の方向性を見定めて、五つ全部を覚えていたりするものだがッ!
「言わなくても解るだろ? 四つだよ、四つ。なんでそんなに恥をかかせるのかね? (リンネ君の前で!)君は時々僕に意地悪だね」
そりゃあリンネ様を狙っている男ですからねッ! 貴方はッ!
「失礼。あと一つは何にするかお決めですか?」
戦士職の者が攻撃魔法などを覚えても、本職の半分ほどの威力だ。なので殆どの者が【弓矢そらし】や【魔法防壁】、【魔法探知】などの補助魔法を覚える。
彼が攻撃魔法である【光の玉】を覚えているのはッ! 恐らく牽制用だろうッ!
「色々と魔法書の目次を立ち読みしてみたけど、どれも難しそうでね」
「リッド殿は身に宿している属性が一つだけですからねぇ・・・。光属性のみという珍しいお方・・・。何系を覚えたいのですかな?」
「光属性は、意外と氷魔法と相性がいいと聞いたのだがね」
「ふむふむ、複合魔法の【聖なる氷霧】ですね? 確かにあれは光魔法の割合が大きいですからね。広範囲のアンデッドに効く稀有な氷魔法。でしたら、普通に初歩魔法の【氷の槍】を覚えればいいですよッ!」
「それができれば苦労はしないのだが・・・。ビャクヤは氷魔法が得意と聞いた。少しコツみたいなものを教えてくれないだろうか?」
「よろしいですともッ!」
吾輩が華麗なる氷魔法を披露しようとすると、運動場の土の地面にドスンドスンと、何かが突き刺さるような音がした。
音のする方を見るとサムシン・ディダイドーが教師の目の前で得意の魔法を披露し、単位を荒稼ぎしているのが見えた。
「きゃああ! 凄い! 流石は大魔導士の息子、サムシン君! 【氷の槍】が太くて逞しいわぁ!」
なんと性的な言い方かッ!
「氷魔法が得意なビャクヤでも、彼の足元には及ばないわ!」
「なによ・・・。ビャクヤの事何も知らないくせに」
主様がベンチに座っておやつの干しリンゴを齧りながら文句を言った。あぁ、吾輩の為に腹を立ててくれるなんてッ! 愛おしい! 愛おしい過ぎるッ!
主様を今すぐ抱きしめたい気持ちを抑えて、吾輩は魔法の指導を続ける。
「【氷の槍】の仮覚えは済んでいますか? リッド殿」
「いや、まだだ。その・・・、魔法書が高くてね・・・」
そうだった。リッド殿は聖騎士の家系とはいえリンネ様と同じく騎士の子。決して裕福ではないのだッ! 普段もボランティア活動ばかりしていて、冒険者ギルドなどで金を稼いだりはしていない人ッ!
「では、これを差し上げましょう」
吾輩は無限鞄の中を雑に漂う魔法書を取り出して、リッド殿に手渡した。
「これは【氷の槍】の魔導書! いいのかい? こんな高価なもの!」
「氷系の魔法を全て覚えている吾輩がッ! これを持っていても仕方のない物ですしッ! 余り物なのでお気になさらずッ!」
「ありがとう、ビャクヤ君。君は心の友だ」
金髪碧眼のイケメンの彼が吾輩をハグしたので、良からぬ想像をした女子たちがキャーキャーと騒いで煩い。
「その魔導書は超初心者向けでんすッ! 一分もあれば前頁読めますゆえ、早速読んでみてください。本来はそこから魔法が何たるかを突き詰めてッ! 頭でよく理解してから身に宿すものですがッ! 貴方たち人間は魔法種族ではないのでサラッと読んでッ! 体の表面にイメージを宿すだけでいいのでんすッ!」
「わかった」
リッド殿は目が滑らないように文字に人差し指を添えて、一文一文を噛みしめるように読んでいる。凄い集中力だ。
「この本、凄いな・・・。魔法のイメージ方法を噛み砕いて書いてあるので、とても分かりやすい。子供向けなのかな? 魔人族は子供の時から魔法が使えるのかい?」
「ええ。我らは魔の人と書いて魔人族なのです。悪魔以外にッ! 魔法において我らを超越する種族はおりませんぬッ!」
「ではキリマル殿が、君をその内に追い抜くのかもしれないね」
「それはないです。彼は戦闘馬鹿ですからッ! 戦闘馬鹿にしては魔力がありますが、どう頑張っても初心者メイジ止まりですよッ!」
「ハハハ。安心した。キリマル殿が魔法も強かったらズルイなと思っていたのだ。よし、大体イメージは掴めたぞ!」
どれどれ? 吾輩は魔法書を覗き込む。うむ、確かに白紙になっているッ!
これはリッド殿が魔法を仮覚えをした証拠。これから詠唱をして、魔法のコツを掴めばいよいよ身に着けた事になるッ! 魔法が身に着かなかった場合、魔法書はまた元通りになる。
「おっと! さっき魔法を使ったから使用回数がゼロだった・・・」
「では背中からマナを送りますので、氷の槍を想像してみてください」
「背中からマナを送る・・・、だって?」
吾輩の言葉に驚きながらも、詠唱を開始したリッド殿の背中に手を当ててマナを送った。
「我ら魔人族はこうやって仲間にマナを分け合う事ができますッ! 魔法の術式も他種族とは違いますので、マナが尽きるまで同じ魔法をッ! 何回も唱える事もできたりするのですッ! しかも時間経過でマナは回復しますッ!」
「正に魔の人だね」
「ええ」
そんな話をしているとリッド殿は、空中に氷のジャベリンを形作った。
「うわ! これが【氷の槍】? こんなに大きい物なのか?!」
先程、サムシン君が見せた氷の槍よりも太くて大きい。
サムシン君を取り巻いていた女子たちが、唖然としてこちらを見ているッ! こんなに大きいと刺すというよりは、叩きつけてすり潰すといった感じだものねッ! その驚き顔は当然ッ!
「勿論、吾輩がサポートをしているからですが。この氷の槍の大きさは、将来リッド様が氷の魔法を極めた時に出せる限界なのです。勿論極める必要はないですが」
寧ろ彼の場合、光の魔法を極めてほしい。光属性の者なので当然、光魔法の伸び代が多い。
「僕でも極めれば、こんなに大きな氷の槍を出せるのか・・・」
喜びに震えるリッド殿を見ていると自分も嬉しくなりますッ!
吾輩は弾む声で次の指示を出した。
「ではこの氷の槍を、粉々に砕くイメージをしてみてください」
「わかった!」
リッド殿の背中から興奮が伝わってくるし、鎧越しでも手に熱を感じたッ!
「えい!」
太くて大きい氷の槍は砕け散ると、日差しを浴びて煌めいた。今日のような夏日に見ると、冬に見る自然な氷霧と違って涼しげだ。その代わり幻想的な感じはしなかった。
「お見事! 綺麗なダイアモンドダストが作れました!」
「ハハハ! 失敗しているじゃないか! 槍が砕けたぞ!」
うん? サムシン君が勘違いして笑っているッ! 恥ずかしい奴だなッ!
「外野の声は気にしないように、リッド殿。では、その氷霧が消えない内に、【光の玉】か【閃光】を叩きこんで下さい!」
「そんな連続魔法みたいな事はできない!」
「大丈夫ですよッ! 氷霧は結構な時間滞空してくれますからッ!」
「そうなのか? よし、やってみる、やってみるさ!」
本当は・・・、やってみる! などと言ってできるものではないのだ、複合魔法というものはッ!
しかし・・・! 賢い人ってのは要領を掴むのが上手いんごッ! 初めてでも上手くやる人は、事の本質を捉えているからだッ!
リッド殿はその賢い人であるッ! 直ぐにイメージを掴んで自分がやろうとしている魔法がッ! どういうものかを理解してしまう人間ッ! もし、魔法の才能があれば彼は将来、大魔導士になっていただろうッ!
氷霧が光属性を宿して、自ら眩く光り始めた。素晴らしいッ! 【聖なる氷霧】の完成だッ!
正直言うと、羨ましいんぬッ! 吾輩がやっても氷属性が強すぎてッ! ただの【吹雪】になってしまうからだ。
彼の純粋な光属性とッ! オマケ程度の氷魔法はッ! この複合魔法に一番適しているッ!
「うわぁ! すげぇ!リッドが複合魔法を使いやがった!」
回りの生徒たちがざわめく。
「これは本当に僕が発動させているのか?! ありがとう! ビャクヤ! 君のお陰だ!」
「ビャクヤって教えるの上手だもんね!」
あぁ! 主様が尊敬の眼差しで吾輩を見ている! もっと・・・もっとキラキラした目で吾輩を見て下さいッ!
―――ザン!
え?
リッド殿の肩当てを貫いて氷の槍が地面に突き刺さっていた。彼の右手を道連れに・・・。
「魔法の暴走だ! リッドは魔法を失敗したんだ!」
激痛と出血で気を失ったリッド殿を見て、吾輩の視界がぐにゃりと歪む。
違う! そんなはずはない。この氷の槍は明らかにマナの練り方がリッド殿のそれとは違う! 他所から飛来してきたものだ!
吾輩は、魔法の暴走だと叫んだサムシンを見た。と同時に【読心】の魔法を唱えたが、彼は咄嗟に心を閉ざしてこちらを警戒した。吾輩が真っ先に疑う事を予測していたかのように!
この氷の槍はッ! 十中八九! サムシンのものだッ!
「早く医務室に連れて行かないと!」
無数の考えが頭に浮かんで、それに囚われていた吾輩の耳に、主殿の緊迫した声が入ってきた。今はリッド殿の手当てを優先しなくてはッ!
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