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リンネピンチ
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医務室のベッドに寝かせたリッドを、学園に常駐するシスター・ジャンヌが祈りで回復を試みている。
「シスター! リッド殿の腕は治りますか?」
老婆は少しズレた丸眼鏡を元の位置に戻すと、かぶりを振る。
「ごめんなさいねぇ。私には血を止めるだけが限界みたい。言い訳するみたいで恥ずかしいのだけど、年齢による能力の低下には抗えないの・・・」
神の奇跡は信仰心だけでは、どうにもならない部分もある。集中力やら精神力の衰えは奇跡の祈りの効果を弱める。
基本的に学校に常駐するヒーラーは、軽い怪我を治す程度の祈りで十分なのだ。それ以上を要求するとなると別途で教会側に支払いをしなければなくなり、コストが嵩む。国立とはいえ、田舎の学園に割り振られる予算は多くはない。
「私、教会のボィズーさんを呼んでくる!」
リンネが医務室を出て行こうとしたのを、吾輩は呼び止めた。
「それなら吾輩が行った方が早いですッ! リンネ様はここでリッド殿を見ていてください」
そう言うとビャクヤは少し前に知り合った、僧侶のボィズーを探して転移した。
「ボーンさん、セイク君を頼めるかしら? 私は薬を調合してくるわね」
「はい」
年老いたシスターは杖を手に持つと部屋を出て行った。シスターに慌てた様子はないので、リッドに命に別状はないのだろうとリンネは少し安心する。
今は薬で痛みを取り除かれて眠るリッドをリンネは覗き込んだ。
「薬はよく効いているみたいね。死んでるみたいに眠っているから怖いわ。でも痛くて眠れないよりはいいか。それにしても魔法が暴走したって本当なのかな? 超初心者や逆に魔力が高過ぎる人が起こすものでしょ? 複合魔法とはいえ、私が見た限りではビャクヤの教え方も上手だったし、凄く安定してたけど・・・」
「そうかなぁ? 本当に失敗じゃないと思うのかい?」
リンネは自分の背後に音もなく現れた気配に驚いて、背筋を伸ばす。
「誰?」
振り向くとそこには、サムシン・ディダイドーが立っていた。さっきまで女生徒に見せていた爽やかな笑顔はどこにもなく、冷たい顔でリッドを見ている。
「お見舞いに来るのに【音消し】の魔法をする必要があるの? サムシン君」
リンネの青い目がサムシンを睨む。そういえば、【聖なる氷霧】を完成させる前に、サムシンは【氷の槍】を自慢げに披露していた。
(あの暴走して発生した氷の槍・・・。まさか・・・。でも、もしそうならなぜ?)
「僕は大魔導士の息子だからね。どんな魔法だろうが修練を怠らない。今使っている【音消し】もその一環さ」
「・・・(嘘だ。私は男の人が嘘をつく時の感じ、解るよ。だってビャクヤがよく嘘をつくから)」
「なんだい? その目は。大魔導士の息子である僕を睨んで、何か得する事があるのかい?」
この国において、魔法を極め、その頂点に君臨する者の権力は大きい。
彼の父は平民出身の現魔法院の院長で、多くの弟子を持つ大魔導士グレアト・ディダイドー。エリーのような大貴族とも十分に渡り合える力がある。
「貴方でしょ? リッドの【聖なる氷霧】を邪魔したのは」
「ああ、そうだが? 僕より目立った彼が悪いんだよ。僕に使えない魔法なんて唱えるから。僕より優れた奴は邪魔なんだ」
まさかサムシンが白状するとは思っていなかったので、魔法水晶の録音機能を作動させていなかった事をリンネは悔やんだ。
(今からでも遅くはない・・・)
リンネは腰のポーチに触れて魔法水晶を作動させる。
「あぁ! 親友のリッド君は無事かなぁ? 僕はとても心配だよ!」
急にサムシンの態度が変わった。声しか録音していないというのに、芝居がかった動きが白々しい。
(魔法水晶を作動させた事に気付いた?)
「何で私に白状したの?」
「何の事だい? 僕はリッド君の事が心配で心配で・・・。なんだか眩暈がしてきたよ・・・。なのでこれにて退室させてもらうよ」
「待ちなさい!」
騎士という――――、貴族としては最低の地位ではあるが、それでも貴い存在であろうと努力するリンネにとって、理由なく人に危害を加える者を放ってはおけない。
リンネは振り向いたサムシンの顔に、唐突にワンドを投げつけた。
ワンドは軽く、大して痛みもないが、サムシンは大袈裟によろめいて見せる。
「ほほう! この僕に決闘を申し込むというのかい? でも僕は貴族じゃないのだがね。父さんが貴族嫌いで有名なのは君も知っているだろう? 貴族が平民に決闘を申し込むなんて恥ずかしい事なんじゃないかなぁ?」
「身分なんて関係ない! 貴方が罪を認めないからこの方法をとったまでよ!」
「相変わらず意味不明な妄想で僕を弾劾する。なら君を黙らせる為にも、決闘を受けるしかないようだね」
サムシンはワンドを拾うと、リンネに投げ返した。これで決闘が成立した事になる。
「私が勝ったら自首して。貴方が勝ったら好きにしたらいいわ」
サムシンの目色が変わった。舐めるようにリンネの全身を見ている。特にリンネの形の良い尻は念入りに。
「好きにするとは? それは君を好きにしていいということかい?」
「これまで通り自由にしていいって事よ!」
「それじゃあ僕になんの得もないじゃないか。疑われただけ損って事だね」
「じゃあ何が望みよ!」
「さぁ。それは君が誠意を見せて謝罪と賠償をすべきだと思うがね。そうだね、君自身が僕に奉仕するんだ」
「いやらしい・・・」
「いやらしい? 何の事だい? 奉仕と言ってもメイドとしてタダで働けという意味だが? 貴族の君が」
「解ったわよ! じゃあ今すぐ、陽光草原で決闘よ! いいわね?」
「いいだろう。ただ僕は大魔導士の息子。魔法に関してはかなり自信があるんだがね? 大丈夫かい?」
「勿論、私だって勝つ自信はあるわ。それに貴族は平民の鑑となって、不正を正す事も仕事の内なのよ! 貴方には絶対罪を認めてもらいます!」
「ハ! 偉そうに。何が貴族だ。平民から金を搾り取って、贅沢な暮らしをしているだけの傲慢な物乞いのくせに」
「そうじゃない貴族もいるわ。さぁここでずっと口喧嘩しているわけにはいかないでしょ。さっさと陽光草原に移動するわよ!」
「ふん、言われるまでもないさ!」
二人は睨み合った後に廊下へ出ると、魔法で移動速度を上げて陽光草原へと向かった。
リッド以外誰もいなくなった医務室に、ビャクヤとボィズーが現れる。
「主様! ボィズー殿をお連れしました! ってあれ? 主様?」
ビャクヤがリンネを探して部屋の中や廊下を探している間、ボィズーはリッドの怪我を見て、直ぐに千切れた腕を肩に添えて祈り始めた。
「これでよし」
リッドの腕の付け根と肩が光ったかと思うと、もう傷が治っていた。
「はやいんぬっ!」
主を見つけられなくて戻ってきたビャクヤは、ボィズーのあまりの早業に驚く。
「一応治りましたが、まだ安静にしておくように。下手に動くと出血してしまいますよ」
「ありがとうございますッ! して、寄付金はお幾らでしょうか?」
「いや、いいよ。君たちを誤解して討伐しようとした罪が私にはありますから・・・。それに君たちは教会でも噂になっていましてね。特に司教様がキリマル殿の事をえらく気に入っているみたいなのです。これは秘密にしてほしいのだけど、司教様はキリマル殿が蘇生術を使えると聞いて、身辺調査をしていたようなのです。そしてその結果、彼を聖なる悪魔と認めました」
「へ? 司教様が? いつの間に。(よくボロが出さなかったな、キリマルは)」
「では転移をお願いしてよろしいですか?」
「勿論ですとも! では教会まで送ります! ロケーション・ムーブッ!」
「きゃあ!」
陽光草原の草の上に、尻もちをついたリンネの制服はボロボロだった。破けた制服からは素肌や下着が見えている。
「どうだい? 僕の魔法の威力は。これでも抑えているほうなのだがね」
「さっきから風魔法を使って、私の服ばかり攻撃してるわね? スケベ!」
「君はどうも自意識過剰のようだな。僕は風の魔法使いだよ? 得意な魔法を使うのは当然だろう?」
「嘘ね。普通だったら最初に牽制や様子見として、あまり使わない位階の魔法を使うもの! 得意な魔法は最後までとっておくものよ!」
「実際の戦いで、教科書に書かれている内容をなぞって戦う馬鹿がどこにいるんだい?」
「【雷撃】!」
不意を突いたリンネのワンドから稲妻が発射された。それをサムシンの【魔法防壁】が防ぐ。
「おっと! 不意打ちとは卑怯だね。君の雷は防壁をいくらか貫通してきた。体が少し痺れているよ」
「実戦にセオリーはないんでしょ? だったら不意打ちだって普通の事よ」
「そうかもね。そういえば君は確か・・・、土のメイジだったね。土のメイジってのは防御や補助に特化しているから攻撃手段がない。だから君の事を舐めていたのだが、まさか君の属性と反する属性の攻撃魔法を撃ってくるとはね。しかもこの威力。中々やるじゃないか。貴族の癖に」
「あまり貴族を舐めない方が良いわよ」
「なんでだい? 貴族の殆どは形式的かつ装飾的な魔法の覚え方をするから、実戦向きではないよ。本道を行く僕らのようなものに、舐められて当然だろう?」
「そうじゃない貴族もいるわよ、私のようにね!」
地面から土の精霊の手が出てきて、サムシンの足を掴んだ。
「これは! 下位の土精霊! 普通はデコイとして使うものだろう!」
「あら? もう一度言うわ。実戦にセオリーなんてないのでしょう?」
(くそ! 風のメイジは素早く動いて戦うのが得意なのに、これでは・・・)
「ビャクヤが言っていたのだけど、メイジ同士の戦いに魔力の大きさは関係ないそうよ。だってメイジって生命力が低いでしょ? だからレジストされずに一発貫通させた方が勝ちななんだって」
「へぇ。でも僕の防御魔法は強力だし、君がどんなに魔法を撃とうが防いでみせるが?」
「知ってる? 魔法でも物理的な働きをするものもあるのよ? 例えば、これ」
サムシンの顔に大きな影が差す。
威力は高いが命中率が低く、誰も覚えようとはしないコモンマジック【魔法の槌】。武器召喚だと思われがちだが、純粋にマナを具現化したその槌には、百トンと書かれてある。
「止めろ! そんなもので叩けば、僕は即死してしまう! いいのか! 君は人殺しになるぞ!」
「貴方も人を殺そうとしたでしょ? いやもう殺したのかしら? 塔の屋上で魔法の練習をする女生徒を突き落としたのも貴方でしょ?」
リンネは狙いを定める為に、一度サムシンのおでこに大きな槌の面を当てる。
「あれは、違う! 事故だ! 強風が吹いてあの女が勝手に落ちたんだ!」
「へぇ? 誰かに押されたって言ってたけど? それにあの子ってマニアックな魔法を覚える事で有名だったのよね。貴方が知らないような魔法もいっぱい覚えていたでしょうね」
このやり取りとしている間に、サムシンがリンネを魔法で攻撃すればいいと思うかもしれないが、メイジが接近戦に不利な理由がある。
それは動揺や混乱による集中力の低下だ。バトルメイジと違って接近戦に慣れていないスタンダードなメイジは敵が近づいただけで動揺するのだ。
ここまで近づかれると魔法詠唱が終わる前に攻撃されるだろうし、反撃できたところで集中力を欠いた魔法は、簡単にレジストされる。
サムシンの額に粘っこい冷や汗が浮かぶ。
(優秀な生徒であるリンネとはいえ、その成績の殆どが高得点の筆記試験と、使い魔を使役して得た実績によるものだ。彼女の魔法は中の中で、目立ったところがない。なのに!)
これまで天才と持ち上げられて生きてきたサムシンは、凡才のリンネに負けようとしている。悔しさと恐怖で顔が醜く歪む。
「これでチェックメイトね!」
リンネが大きな槌を振り下ろそうとしたその時。
―――フッ!
首筋に僅かな痛みが走った。誰かが首筋に吹き矢を命中させたのだ。
魔法の槌は消え、リンネの視界が暗転する。そしてどこからか、「オフッ! オフッ!」と笑い声が聞こえてきた。
「ごめんなさいねぇ。リンネちゃん。君は拙者の美少女ランキング上位に入っていたし、卒業まで静かに見守っていてあげたかったのだけど、お給金貰ってるからサムシン様には逆らえないんだ。おふぅ、おふぅ」
意識を保とうと、もう一度目を開けたリンネの目に用務員の笑う顔が映った。
「余計な事を言うな、マサヨシ。リンネを仕置き部屋に連れていけ」
「御意の意~!」
どことなくオークに似たマサヨシの肩に担がれて、無言で地面を見つめるリンネは、最初から一対一の勝負でなかった事に怒りつつ意識を失った。
「シスター! リッド殿の腕は治りますか?」
老婆は少しズレた丸眼鏡を元の位置に戻すと、かぶりを振る。
「ごめんなさいねぇ。私には血を止めるだけが限界みたい。言い訳するみたいで恥ずかしいのだけど、年齢による能力の低下には抗えないの・・・」
神の奇跡は信仰心だけでは、どうにもならない部分もある。集中力やら精神力の衰えは奇跡の祈りの効果を弱める。
基本的に学校に常駐するヒーラーは、軽い怪我を治す程度の祈りで十分なのだ。それ以上を要求するとなると別途で教会側に支払いをしなければなくなり、コストが嵩む。国立とはいえ、田舎の学園に割り振られる予算は多くはない。
「私、教会のボィズーさんを呼んでくる!」
リンネが医務室を出て行こうとしたのを、吾輩は呼び止めた。
「それなら吾輩が行った方が早いですッ! リンネ様はここでリッド殿を見ていてください」
そう言うとビャクヤは少し前に知り合った、僧侶のボィズーを探して転移した。
「ボーンさん、セイク君を頼めるかしら? 私は薬を調合してくるわね」
「はい」
年老いたシスターは杖を手に持つと部屋を出て行った。シスターに慌てた様子はないので、リッドに命に別状はないのだろうとリンネは少し安心する。
今は薬で痛みを取り除かれて眠るリッドをリンネは覗き込んだ。
「薬はよく効いているみたいね。死んでるみたいに眠っているから怖いわ。でも痛くて眠れないよりはいいか。それにしても魔法が暴走したって本当なのかな? 超初心者や逆に魔力が高過ぎる人が起こすものでしょ? 複合魔法とはいえ、私が見た限りではビャクヤの教え方も上手だったし、凄く安定してたけど・・・」
「そうかなぁ? 本当に失敗じゃないと思うのかい?」
リンネは自分の背後に音もなく現れた気配に驚いて、背筋を伸ばす。
「誰?」
振り向くとそこには、サムシン・ディダイドーが立っていた。さっきまで女生徒に見せていた爽やかな笑顔はどこにもなく、冷たい顔でリッドを見ている。
「お見舞いに来るのに【音消し】の魔法をする必要があるの? サムシン君」
リンネの青い目がサムシンを睨む。そういえば、【聖なる氷霧】を完成させる前に、サムシンは【氷の槍】を自慢げに披露していた。
(あの暴走して発生した氷の槍・・・。まさか・・・。でも、もしそうならなぜ?)
「僕は大魔導士の息子だからね。どんな魔法だろうが修練を怠らない。今使っている【音消し】もその一環さ」
「・・・(嘘だ。私は男の人が嘘をつく時の感じ、解るよ。だってビャクヤがよく嘘をつくから)」
「なんだい? その目は。大魔導士の息子である僕を睨んで、何か得する事があるのかい?」
この国において、魔法を極め、その頂点に君臨する者の権力は大きい。
彼の父は平民出身の現魔法院の院長で、多くの弟子を持つ大魔導士グレアト・ディダイドー。エリーのような大貴族とも十分に渡り合える力がある。
「貴方でしょ? リッドの【聖なる氷霧】を邪魔したのは」
「ああ、そうだが? 僕より目立った彼が悪いんだよ。僕に使えない魔法なんて唱えるから。僕より優れた奴は邪魔なんだ」
まさかサムシンが白状するとは思っていなかったので、魔法水晶の録音機能を作動させていなかった事をリンネは悔やんだ。
(今からでも遅くはない・・・)
リンネは腰のポーチに触れて魔法水晶を作動させる。
「あぁ! 親友のリッド君は無事かなぁ? 僕はとても心配だよ!」
急にサムシンの態度が変わった。声しか録音していないというのに、芝居がかった動きが白々しい。
(魔法水晶を作動させた事に気付いた?)
「何で私に白状したの?」
「何の事だい? 僕はリッド君の事が心配で心配で・・・。なんだか眩暈がしてきたよ・・・。なのでこれにて退室させてもらうよ」
「待ちなさい!」
騎士という――――、貴族としては最低の地位ではあるが、それでも貴い存在であろうと努力するリンネにとって、理由なく人に危害を加える者を放ってはおけない。
リンネは振り向いたサムシンの顔に、唐突にワンドを投げつけた。
ワンドは軽く、大して痛みもないが、サムシンは大袈裟によろめいて見せる。
「ほほう! この僕に決闘を申し込むというのかい? でも僕は貴族じゃないのだがね。父さんが貴族嫌いで有名なのは君も知っているだろう? 貴族が平民に決闘を申し込むなんて恥ずかしい事なんじゃないかなぁ?」
「身分なんて関係ない! 貴方が罪を認めないからこの方法をとったまでよ!」
「相変わらず意味不明な妄想で僕を弾劾する。なら君を黙らせる為にも、決闘を受けるしかないようだね」
サムシンはワンドを拾うと、リンネに投げ返した。これで決闘が成立した事になる。
「私が勝ったら自首して。貴方が勝ったら好きにしたらいいわ」
サムシンの目色が変わった。舐めるようにリンネの全身を見ている。特にリンネの形の良い尻は念入りに。
「好きにするとは? それは君を好きにしていいということかい?」
「これまで通り自由にしていいって事よ!」
「それじゃあ僕になんの得もないじゃないか。疑われただけ損って事だね」
「じゃあ何が望みよ!」
「さぁ。それは君が誠意を見せて謝罪と賠償をすべきだと思うがね。そうだね、君自身が僕に奉仕するんだ」
「いやらしい・・・」
「いやらしい? 何の事だい? 奉仕と言ってもメイドとしてタダで働けという意味だが? 貴族の君が」
「解ったわよ! じゃあ今すぐ、陽光草原で決闘よ! いいわね?」
「いいだろう。ただ僕は大魔導士の息子。魔法に関してはかなり自信があるんだがね? 大丈夫かい?」
「勿論、私だって勝つ自信はあるわ。それに貴族は平民の鑑となって、不正を正す事も仕事の内なのよ! 貴方には絶対罪を認めてもらいます!」
「ハ! 偉そうに。何が貴族だ。平民から金を搾り取って、贅沢な暮らしをしているだけの傲慢な物乞いのくせに」
「そうじゃない貴族もいるわ。さぁここでずっと口喧嘩しているわけにはいかないでしょ。さっさと陽光草原に移動するわよ!」
「ふん、言われるまでもないさ!」
二人は睨み合った後に廊下へ出ると、魔法で移動速度を上げて陽光草原へと向かった。
リッド以外誰もいなくなった医務室に、ビャクヤとボィズーが現れる。
「主様! ボィズー殿をお連れしました! ってあれ? 主様?」
ビャクヤがリンネを探して部屋の中や廊下を探している間、ボィズーはリッドの怪我を見て、直ぐに千切れた腕を肩に添えて祈り始めた。
「これでよし」
リッドの腕の付け根と肩が光ったかと思うと、もう傷が治っていた。
「はやいんぬっ!」
主を見つけられなくて戻ってきたビャクヤは、ボィズーのあまりの早業に驚く。
「一応治りましたが、まだ安静にしておくように。下手に動くと出血してしまいますよ」
「ありがとうございますッ! して、寄付金はお幾らでしょうか?」
「いや、いいよ。君たちを誤解して討伐しようとした罪が私にはありますから・・・。それに君たちは教会でも噂になっていましてね。特に司教様がキリマル殿の事をえらく気に入っているみたいなのです。これは秘密にしてほしいのだけど、司教様はキリマル殿が蘇生術を使えると聞いて、身辺調査をしていたようなのです。そしてその結果、彼を聖なる悪魔と認めました」
「へ? 司教様が? いつの間に。(よくボロが出さなかったな、キリマルは)」
「では転移をお願いしてよろしいですか?」
「勿論ですとも! では教会まで送ります! ロケーション・ムーブッ!」
「きゃあ!」
陽光草原の草の上に、尻もちをついたリンネの制服はボロボロだった。破けた制服からは素肌や下着が見えている。
「どうだい? 僕の魔法の威力は。これでも抑えているほうなのだがね」
「さっきから風魔法を使って、私の服ばかり攻撃してるわね? スケベ!」
「君はどうも自意識過剰のようだな。僕は風の魔法使いだよ? 得意な魔法を使うのは当然だろう?」
「嘘ね。普通だったら最初に牽制や様子見として、あまり使わない位階の魔法を使うもの! 得意な魔法は最後までとっておくものよ!」
「実際の戦いで、教科書に書かれている内容をなぞって戦う馬鹿がどこにいるんだい?」
「【雷撃】!」
不意を突いたリンネのワンドから稲妻が発射された。それをサムシンの【魔法防壁】が防ぐ。
「おっと! 不意打ちとは卑怯だね。君の雷は防壁をいくらか貫通してきた。体が少し痺れているよ」
「実戦にセオリーはないんでしょ? だったら不意打ちだって普通の事よ」
「そうかもね。そういえば君は確か・・・、土のメイジだったね。土のメイジってのは防御や補助に特化しているから攻撃手段がない。だから君の事を舐めていたのだが、まさか君の属性と反する属性の攻撃魔法を撃ってくるとはね。しかもこの威力。中々やるじゃないか。貴族の癖に」
「あまり貴族を舐めない方が良いわよ」
「なんでだい? 貴族の殆どは形式的かつ装飾的な魔法の覚え方をするから、実戦向きではないよ。本道を行く僕らのようなものに、舐められて当然だろう?」
「そうじゃない貴族もいるわよ、私のようにね!」
地面から土の精霊の手が出てきて、サムシンの足を掴んだ。
「これは! 下位の土精霊! 普通はデコイとして使うものだろう!」
「あら? もう一度言うわ。実戦にセオリーなんてないのでしょう?」
(くそ! 風のメイジは素早く動いて戦うのが得意なのに、これでは・・・)
「ビャクヤが言っていたのだけど、メイジ同士の戦いに魔力の大きさは関係ないそうよ。だってメイジって生命力が低いでしょ? だからレジストされずに一発貫通させた方が勝ちななんだって」
「へぇ。でも僕の防御魔法は強力だし、君がどんなに魔法を撃とうが防いでみせるが?」
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「貴方も人を殺そうとしたでしょ? いやもう殺したのかしら? 塔の屋上で魔法の練習をする女生徒を突き落としたのも貴方でしょ?」
リンネは狙いを定める為に、一度サムシンのおでこに大きな槌の面を当てる。
「あれは、違う! 事故だ! 強風が吹いてあの女が勝手に落ちたんだ!」
「へぇ? 誰かに押されたって言ってたけど? それにあの子ってマニアックな魔法を覚える事で有名だったのよね。貴方が知らないような魔法もいっぱい覚えていたでしょうね」
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それは動揺や混乱による集中力の低下だ。バトルメイジと違って接近戦に慣れていないスタンダードなメイジは敵が近づいただけで動揺するのだ。
ここまで近づかれると魔法詠唱が終わる前に攻撃されるだろうし、反撃できたところで集中力を欠いた魔法は、簡単にレジストされる。
サムシンの額に粘っこい冷や汗が浮かぶ。
(優秀な生徒であるリンネとはいえ、その成績の殆どが高得点の筆記試験と、使い魔を使役して得た実績によるものだ。彼女の魔法は中の中で、目立ったところがない。なのに!)
これまで天才と持ち上げられて生きてきたサムシンは、凡才のリンネに負けようとしている。悔しさと恐怖で顔が醜く歪む。
「これでチェックメイトね!」
リンネが大きな槌を振り下ろそうとしたその時。
―――フッ!
首筋に僅かな痛みが走った。誰かが首筋に吹き矢を命中させたのだ。
魔法の槌は消え、リンネの視界が暗転する。そしてどこからか、「オフッ! オフッ!」と笑い声が聞こえてきた。
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意識を保とうと、もう一度目を開けたリンネの目に用務員の笑う顔が映った。
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