殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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半狂乱のビャクヤ

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 半狂乱の仮面の男が学園を走り回る姿は、生徒たちを恐怖に陥れる。

「わぁぁ! ビャクヤが狂った!」

「きえぇぇぇ! 主様! 主様ぁぁ!!」

 生徒が逃げ惑う中、エリーがビャクヤに捕まる。

「エリー様! リンネ様を知りませぬかッ!」

 メイジとは思えない怪力で肩を掴まれて、エリーは苦痛に顔を歪ませる。

「し、知らない! 貴方、なんだか怖いですわ。クドウ! 何とかして!」

 エリーの影から忍者のクドウが現れて、ビャクヤを引き離そうとしたが、触れる前に転移魔法で消えてしまった。

「な、なんなのよもう・・・」

 エリーは少し痛む肩を擦って頬を膨らませた。



「こんなもんか」

 俺は無駄に高い器用さを活かしてアマリの髪を短く切ってやった。これは美容師になれるレベル、などと自画自賛する。

「なんか誰かに似ているな・・・。そうだ、ヒジリの仲間にお前に似たのがいたな。姉貴をワンドで突っつき回してた黒髪のメイジだ」

「覚えてる。可愛かった」

 それはすなわち、黒髪のメイジに似ている自分も可愛いという事だろう。自信満々だな。

 髪も短くなり更に幼さが増すかと思ったが、今まで腰まであった長髪で隠れていた体の線がはっきり見えるようになり、逆にエロくなってしまった。

(そうだった。こいつは結構なトランジスタグラマーだったんだわ)

「キリマル、勃起した? エッチする?」

「勃起はしてねぇ」

 俺の視線の中に潜む僅かな劣情を感じ取ったのか、アマリはぴったりと寄り添って、上目遣いでこちらを見ている。ほんとこいつは素直クールから、素直エロクールになってしまったなぁ。

「わぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 なんだ? あの声は? ビャクヤだな。宿舎の住人全員が何事かと飛び出してきそうな程の大声だな。

「キリマル! キリマル! キリマル! キリマンジャロ~!」

 俺はタンザニア北東部にある標高5,895メートルの山か!

「アルアルアル、主様が消えた! 吾輩を置いて消えたッ!」

「どっかでウンコでもしてんだろ」

 ウンコというワードを聞いた途端、アマリの目が輝く。

「ウンコ! 今ウンコって言った? キリマル! ウンコぉ! キャハハ!」

 しまった、アマリはウンコという言葉に過剰反応するんだった。

「ウンコ! ウンコ―!」

 ウンコという言葉を連呼して飛び跳ねるアマリを見て、ビャクヤが目を点にしている。

「アマリちゃんのイメージが崩れていく・・・。いやっ! そんな事よりもッ! 主様を見かけなかったかねッ!」

「知らねぇな。お前の魔法かなんかで追跡できねぇのか?」

「【人探し】の魔法はッ! まだ覚えておらんぬッ!」

「お前は以前に、主様がどこにいても解る、と豪語していなかったか?」

「あれは吾輩の愛の深さを表す意味で言ったのだッ! キリマルはッ! 嗅覚が鋭いだろうッ! だったら、犬みたいに匂いでッ! 主様を追えるのではッ?」

「まぁ出来ねぇことはねぇけどよ。人を犬扱いするなよな」

「そんなつもりはない。頼む、この通り!」

「おい! 何、マントをばたつかせてパンチラしてんだ? お前のビキニパンツなんて見ても嬉しくねぇんだよ、アホが」

「いや、ほら。キリマルは吾輩にキスされてッ! 射精しそうになってたからッ! もしかしたら色仕掛けでなんとかなるかと思ってッ!」

 結局ビャクヤはマントから体をさらけ出して、股間を強調するように仰け反っている。

「舐めてんのか! ぶっ殺すぞ! えらく余裕があるな? お前はリンネを探してたはずだがぁ?」

「わぁぁぁぁああああ! そうだった! 頼むッ! いやお頼み申すッ! 主様を探してくださいぃぃ! もし誰かに誘拐されて酷い目に遭っていたら吾輩はッ! 吾輩はッ! リンネ様の恋人兼使い魔として失格ですぅぅぅ!」

 俺は縋るビャクヤを金色夜叉の間貫一がやるように蹴り離し(勿論ダメージは与えられない)、アマリに刀に戻れと命令する。

 刀に戻ったアマリを腰に差すと宿舎から出て、鼻から肺いっぱいに息を吸った。

「匂うぜ~! リンネがいつもつけている手作り香水の匂いが。なんかの花の抽出液と、なんかの植物オイルの匂いだ。独特だからすぐに解るぜ」

「やだ! キリマル、頼もしいッ!」



 こちらを睨み付けるようにして股の間で匂いを嗅ぐサムシンが、リンネは心底気持ち悪かった。

(私の表情をじっと観察しているのが気持ち悪い。でも匂いを嗅ぐ以上の事はしてこないだけマシだわね・・・。マサヨシはどうしているかしら)

 リンネはキャスよりも少し優遇されたのか、頭を固定する器具は外されていたので、マサヨシを一瞬だけ見る。あまり長くよそ見をすると、色々と勘繰られる可能性があるからだ。

「今、入り口を見たね?」

 実際は入り口近くで鼻くそを穿って退屈そうにしているマサヨシを見たのだが、サムシンは勘違いをした。

「そりゃ見るでしょ。逃げたいんだもの」

「逃げられないし、助けも来ないよ」

「どうして?」

「まずこの隠れ家の周りには、方向感覚を狂わせる魔法の罠が敷き詰められている。正しい道順を歩かなければ永遠に辿り着く事は不可能だ。何とかして辿り着いても庭にケルベロスを複数匹放っている。見つかれば囲まれて炎のブレスで消し炭になるだろう」

「オエッ!」

 その話を聞いたキャスが、ストレスから胃液を吐く。

「じゃあもう、私は貴方の玩具にされた挙句に死ぬしかないじゃない・・・。ブェッ!」

 ピシャアと石の床を叩いて透明な吐瀉物が跳ねる。

「おい、僕の聖地を汚すんじゃない。さっきも言ったろう? 僕の気分を害すとお仕置きが酷くなるって」

 サムシンはリンネの股の間から顔を抜くと立ち上がり、天井からぶら下がる小さなフックをキャスの鼻に引っ掛けた。そして壁際まで行くとハンドルをゆっくりと回し始める。

「痛い! 止めてよ! 鼻が豚みたいになっちゃう!」

 フックは上に引っ張られてキャスの鼻腔を広げる。

(あんまり見た目変わらないっすね)

 鼻が元々上向いているキャスの顔に変化がなかった事に、マサヨシはがっかりした。

「さて、もう少し刺激が欲しくなってきたな・・・。マサヨシ、キャスとセックスしちゃっていいよ」

 セックスしちゃっていいよと言われても、マサヨシにはその気がない。

「(は? 嘘でそ? それって俺にとっても罰ゲームなんだがぁ?)いや、いいでつ。だってその子、今ゲロ吐いたし」

「はぁ・・・。このピッカピカのチャリチャリが欲しくないのかね?」

 サムシンは革袋に入った金貨を鳴らす。

「あれ? 急にエッチな気分になってきますた! ちんこビーン!」

 さも勃起をしたかのような事を言うマサヨシだが、リンネは彼が乗り気じゃないのを股間を見て悟った。小さいだけかもしれないが、と顔を赤くもする。

「いやだぁぁぁぁ! 私の初めてがタクトじゃないは、嫌だぁぁあああ!」

 キャスが泣いて喚く。

「さっきから、ちょくちょく出てくるタクトって誰なんでつか!」

「タクトはタクトよぉ! 銀河で一番の美少年なんだから!」

(え? 綺羅星ッ! の人?)

「タクトって・・・、その・・・。学園で今流行ってる。絵付きのロマンス小説に出てくる主人公なの」

 リンネが恥ずかしそうな顔をしてタクトが誰かを説明する。つまりキャスは二次元男子に惚れたオタク少女なのだ。

「架空の人物にどうやって、操を捧げるというのでつか! (まぁ拙者もマジカル☆プリティ、ティンカラー&ホイの主人公二人に恋してますが! オフッオフッ!)」

 マサヨシが笑っていると、通気口から激しく吠える犬の鳴き声が聞こえてくる。

「おや? 間抜けな侵入者がやって来たようだな。回転床を突破したようだ。となると次はケルベロスが待ち構えている。どれ、侵入者が無残に食い殺される姿でも拝みに行くか。どうせやって来たのはリンネの使い魔だろう? 学園でも有名な自称大魔法使いのビャクヤだ。・・・そうだ! 魔法水晶で奴が食い殺されるシーンを主であるリンネに見せてあげるよ!」

 そう言ってサムシンは自分の持っている魔法水晶を一つ、テーブルの上に置いた。

 その水晶の前にランプを置くと、水晶を通して照らされた部屋の壁に何かが投影される。

 そこにはサムシンがもう一つ持っている、記録用魔法水晶の映像が浮かんでいた。今はリンネとキャスが壁に映っている。

「ビャクヤがケルベロスに腹を噛みつかれて、派手に腸をぶちまけるシーンを、この記録用水晶で撮影したいものだよ。フハハ!」

(しめた! サムシンは三年生になってから転校してきたからビャクヤの強さを知らない! ビャクヤならケルベロスくらい簡単に倒せるわ。この間にマサヨシを味方にして脱出しないと!)

「では行ってくる。大事な使い魔の最期をその目に焼き付けるのだね。見張りを頼むよ、マサヨシ」

 そう言って部屋を出ていくサムシンの背中を見送ってから、リンネは視線をテーブルに向ける。魔法水晶を見るためではない。

 サムシンがテーブルに魔法水晶を置いた時に、金貨袋も一緒に置いたからだ。

(守銭奴のマサヨシは、お金さえ手に入れれば、サムシンに従う義理なんてなくなるはず。あの金貨袋に気付かせてなんとか説得しないと・・・)
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