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インビジブル・クーガー
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書斎で召喚術に関する本を読むキラキは、目が虚ろだった。
「そもそも生粋の竜騎士たる私が、召喚術書の内容を理解できるはずもなく・・・」
「そうですよ。スペルキャスターでもないキラキ様には無理です。さぁ、どんなお顔をして本を読んでいらしたかを鏡でご覧になって下さいませ」
ヤンデレメイドのシーン・ハットが手鏡をキラキの前に出した。ぼんやりとした顔が鏡の前でシャキとする。
「美しい・・・」
キラキは自分の整った顔にうっとりする。
「ふにゃ! そんな顔してなかったですよ! もっとこう・・・、口と目が半開きでアホな顔してましたーだ!」
シーンは左目の瞳を上へ、右目の瞳を下に向けるという器用な事をして主のアホ面を再現する。
「その顔はシーンのオリジナルの顔として覚えておこう。ところで魔法院の様子はどうなっている?」
もう自分の顔の話はいいといった感じで、キラキは話を変えた。
「はい、キラキ様が書庫へ魔術書を借りに行った時とそう変わりありません。騒然としております」
「グレアトが自分の弟子と関係者で魔法院を私物化していたからな。貴族からの弾劾が激しい今、辞職するのも時間の問題。辞職となれば現在魔法院に在籍するウィザードたちは、総入れ替えとなるだろう。そうなると各地の魔法学園の若い貴族のメイジたちが大喜びするだろうな。王もこの異常事態に対策を取り始めた」
「対策? と言いますと?」
「総入れ替え時にグレアト一派が魔法院での研究知識やら技術を勝手に持ち去ったり、破棄したりしないように監視しているのだ。主要な施設や研究部屋に王国魔法騎士をすでに配置済みだ」
「ああ、あの青鎧たちですか。そういえば魔法院の色んな所に立っていました」
「餅は餅屋だ。魔法の事は魔法騎士に任せておけば問題ないだろう。さてと、私はこの本を持って、リンネ君がいる第十三王国魔法学園までひとっ飛びしてくる。留守を頼んだよ」
「はい。あ、キラキ様! そろそろツケをお支払いくださいませ」
ツケとはキラキがシーンにやらせた情報収集の報酬だ。
この世界では希少な黒髪族のメイドは、光のない黒い目を潤ませてキラキに寄り添う。
「そうだったかね? 仕方ないな」
キラキはシーンの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。髪が乱れようがお構いなしでだ。
「よーしよしよしよし、よぉぉしよしよしよし!」
「ふにゅ~!」
撫でられる事で垂れた三つ編みがほどけていくシーンだったが、それでも主の褒美を受け入れ喜んでいる。
「では行ってくる」
急に素に戻ってキラキは扉まで歩き出す。
まだまだ撫でてほしかったシーンは、手で髪を撫でつけて整えながら、主と共に書斎の入り口までついていく。
廊下を優雅に歩くキラキの背中を見送ってメイドは頬を染め、ため息をついた。
「はぁ。素敵な時間は一瞬ですわね。でも、キラキ様の愛で方って犬猫を可愛がる時と同じような・・・。私は犬猫扱いなのかな? 手も出してこないし・・・。もっと凄い事してほしいな~。さーてと、キラキ様もいなくなった事だし部屋の掃除しなきゃ」
そう言いつつも、シーンは少し何かを考えて動きを止めた後、もう一度部屋の外をに誰かいないかを確認し、キラキの机の角に股間を押し付けて悩ましい声を上げた。
(う~ん、ファンタジー世界に似つかわしくねぇなぁ・・・)
俺は少し伸びてきた無精ひげを撫でて、電子レンジのような機械を見る。
「もしかして料理が得意ってこういう事か? 機械に食材を入れてチンみたいな・・・」
「そうだけど何カナ?」
電子レンジみたいな機械を開けると、カナは食材の乗った皿を回転皿の上に置いた。ミルクの入った椀、何かの肉、ブロッコリー、ニンジン、芽キャベツ、ジャガイモ、そしてよくわからんキノコ。
(まさか本当に食材をチンして温めるだけじゃないだろうな? それだと味もそっけもないぞ)
一分ほどでチンと鳴り、出来上がりを知らせる音がした。
(一分程度じゃ、食材に熱が通ってないだろ・・・)
しかし、出てきたのは見事なミルクシチューだった。
「どういう事だ? 何でシチューが皿に入ってんだ?」
「ほーらね、キリマルが未来から来たってのが嘘だって証拠カナ、これが」
「あ?」
「未来から来たなら、この自動料理マッシーンを知らないわけないし、未来にはもっと発達したマッシーンがあるはずカナ」
「(マッシーンって言い方はなんだ?)いや、こんなのはなかった。皆、普通に料理していたぞ。そういやビャクヤが、クリエイトフードみたいな魔法を使えたよな? アマリ」
「うん、術者に料理の知識がないと、不味い料理が現れる【食料創造】」
「う、嘘カナ。そんな便利過ぎる魔法なんてないカナ」
知った事か。俺はシチューを手繰り寄せて食おうとしたが、また腹がグルグル鳴りだした。
「しまった、トイレに行くのを忘れていた」
「トイレなら廊下の突き当りにあるカナ」
俺は急いでトイレに向かい、便座に座る。
「ほー。未来だと木の板に穴を開けただけの不衛生な便座だったけど、ここのは地球のとそう変わらねぇな。なんで大昔の方が、未来未来してんだよ」
用を足すと、尻を照らす光のシャワーの絵が描いてあるボタンを見つけたので押してみる。
すると便器の受け口が光ったが、俺は何が起きたのかはすぐに理解できず暫く座ったまま考え込む。
「ん? そういやティッシュがねぇな? おや? なんだか尻穴がスッキリしてるわ。どうしてだ? さっきの光で尻に付いていた糞やチンコの雫が消え去ったのか。こりゃあ便利だな」
感心しつつ立ち上がって流すボタンを探したが、そもそもひったはずの糞がどこにもねぇ。
「すげぇな。俺は過去の未来に生きている」
ビャクヤがこの場に居れば、「意味の分からない事を言うなしッ!」と言っただろう。だが、確かに俺は過去にいながら未来の技術に驚いている。超古代文明ってやつか?
部屋に戻ると、アマリが俺のシチューを物凄い勢いで食べていた。
もにゅっ! カリッ! ナポッ! と、どうやったらそんな音がするんだとツッコみたくなる音がしたが、無視して椅子に座り新しいシチューを待った。
ガツガツ食べる無表情の女を見ながら俺は喉を鳴らす。
「美味いのか? アマリ」
「美味しい。今まで食べた事ない美味しさ」
「まじか・・・。やべぇ。糞したら猛烈に腹が減ってきた」
「はい、出来上がり。でもお肉は硬い鹿のすね肉しかなかったからトロトロのイメージで作ってみたカナ。すね肉はプルップルカナ」
俺は目の前に出されたミルクシチューのいい匂いを嗅いでからスプーンを持つ。
猫舌なので少し冷めるのを待つ間、気になる言葉を拾って質問した。
「イメージ?」
「自動料理マッシーンは料理する人のイメージを元に料理を作るから、結局料理ができる人じゃないと美味しく作れないカナ」
「【食料創造】の魔法と同じだな。魔法だと触媒に術者の精子や、受精していない卵子を使うらしいけど、これは触媒要らずでいいな」
「食べ物を作る魔法の触媒がそれだと、げんなりするカナ・・・」
「触媒はイメージ力を高める為のものだから、創造した料理に精子や卵子を使うわけではない」
アマリは暇さえあれば本を読んでいるので、ため込んでいる蘊蓄を披露した。時々どこからか出すポーションもその豊富な知識で調合しているらしい。
そろそろいい温度になってきたので俺は、シチューをすくって口に運ぶ。円やかなミルクの香りと丁度いい柔らかさの具材。
「美味い! いい塩加減だし、ミルクに素材の旨味が染み出している。しかもカナが言ってた通り、すね肉はトロットロで柔らけぇしよ」
カナを殺すのは止めておこう。美味いものが食えなくなるからな。あと、こいつは人間じゃねぇし。俺が殺したいのは人間なんだわ。樹族じゃあねぇ。まぁでも殺せるなら殺すけどな。
「そんなに喜んでもらえると嬉しいカナ」
俺も夢中になってシチューを食べる。アマリがあんなにガツガツ食ってたわけだわ。ほんと美味い。
シチューを貪り食い、デザートのよく解らん緑色の小さな木の実を食べていると、外から牛の鳴き声が聞こえてきた。かなり必死になって鳴いている。
「やだ! 家から連れてきた乳しぼり用の牛が、何かに襲われてるカナ!」
「どれ、飯の分くらいは働いてやるか。アマリ、刀に戻れ」
ご飯を食べ終えて本を読んでいたアマリは、静かに頷いて刀へと戻る。
俺はアマリを掴むと小屋を出た。
「なんだ、ありゃあ」
闇の中を透明な四足歩行の何かが、牛舎の前を音もなく歩き回っている。
なぜ透明なのに見えるかというと、背景と体のラインの間に微妙な歪みが発生するから、そこに何かがいると分かるのだ。透明な何かは動きを止めると途端に見えなくなる。
「あれは・・・、インビジブルクーガーカナ!! とても危険な生物カナ!」
「姿を隠してるだけのピューマなら、大して脅威ではないだろうよ」
「とんでもないカナ! あぁ! どうしようカナ! あの魔物は通常攻撃に即死効果があるカナ! しかも麻痺の閃光を使うカナ! なんでこんなところにいるカナ! もっと険しい山奥にいるのに!」
「ゲームでもたまにいるよな、初期のマップに迷い込んできた最強の敵とか。レイダーしかいないはずのショッピングモール周辺に、何故かデスクローがいたりよ」
「なんの話カナ?」
「いや、こっちの事だ。まぁでも攻撃に当たらなければどうという事はねぇな。基本的に敵の攻撃は俺には当たらねぇようになってる。問題は麻痺だな。閃光を放つ前に予備動作はあるのか?」
「触手のような髭が激しく動くと閃光を放つ前触れだと、冒険者が言っていたカナ」
「なるほどな。が、透明化してる奴の髭の動きを見極めるのは至難の業だな。まぁいいさ。攻撃を受ける前に殺してやるぜ」
ちょっと前まで対人に特化した能力だったが、今は流石に魔物ともそれなりに戦えるようにはなっているだろ。俺だって成長してんだ。
こちらに気付いて唸る透明のネコ科に、俺は刀の切っ先を向けて笑う。
「ヒハハ! お前もシチューの具にしてやっぜ!」
「そもそも生粋の竜騎士たる私が、召喚術書の内容を理解できるはずもなく・・・」
「そうですよ。スペルキャスターでもないキラキ様には無理です。さぁ、どんなお顔をして本を読んでいらしたかを鏡でご覧になって下さいませ」
ヤンデレメイドのシーン・ハットが手鏡をキラキの前に出した。ぼんやりとした顔が鏡の前でシャキとする。
「美しい・・・」
キラキは自分の整った顔にうっとりする。
「ふにゃ! そんな顔してなかったですよ! もっとこう・・・、口と目が半開きでアホな顔してましたーだ!」
シーンは左目の瞳を上へ、右目の瞳を下に向けるという器用な事をして主のアホ面を再現する。
「その顔はシーンのオリジナルの顔として覚えておこう。ところで魔法院の様子はどうなっている?」
もう自分の顔の話はいいといった感じで、キラキは話を変えた。
「はい、キラキ様が書庫へ魔術書を借りに行った時とそう変わりありません。騒然としております」
「グレアトが自分の弟子と関係者で魔法院を私物化していたからな。貴族からの弾劾が激しい今、辞職するのも時間の問題。辞職となれば現在魔法院に在籍するウィザードたちは、総入れ替えとなるだろう。そうなると各地の魔法学園の若い貴族のメイジたちが大喜びするだろうな。王もこの異常事態に対策を取り始めた」
「対策? と言いますと?」
「総入れ替え時にグレアト一派が魔法院での研究知識やら技術を勝手に持ち去ったり、破棄したりしないように監視しているのだ。主要な施設や研究部屋に王国魔法騎士をすでに配置済みだ」
「ああ、あの青鎧たちですか。そういえば魔法院の色んな所に立っていました」
「餅は餅屋だ。魔法の事は魔法騎士に任せておけば問題ないだろう。さてと、私はこの本を持って、リンネ君がいる第十三王国魔法学園までひとっ飛びしてくる。留守を頼んだよ」
「はい。あ、キラキ様! そろそろツケをお支払いくださいませ」
ツケとはキラキがシーンにやらせた情報収集の報酬だ。
この世界では希少な黒髪族のメイドは、光のない黒い目を潤ませてキラキに寄り添う。
「そうだったかね? 仕方ないな」
キラキはシーンの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。髪が乱れようがお構いなしでだ。
「よーしよしよしよし、よぉぉしよしよしよし!」
「ふにゅ~!」
撫でられる事で垂れた三つ編みがほどけていくシーンだったが、それでも主の褒美を受け入れ喜んでいる。
「では行ってくる」
急に素に戻ってキラキは扉まで歩き出す。
まだまだ撫でてほしかったシーンは、手で髪を撫でつけて整えながら、主と共に書斎の入り口までついていく。
廊下を優雅に歩くキラキの背中を見送ってメイドは頬を染め、ため息をついた。
「はぁ。素敵な時間は一瞬ですわね。でも、キラキ様の愛で方って犬猫を可愛がる時と同じような・・・。私は犬猫扱いなのかな? 手も出してこないし・・・。もっと凄い事してほしいな~。さーてと、キラキ様もいなくなった事だし部屋の掃除しなきゃ」
そう言いつつも、シーンは少し何かを考えて動きを止めた後、もう一度部屋の外をに誰かいないかを確認し、キラキの机の角に股間を押し付けて悩ましい声を上げた。
(う~ん、ファンタジー世界に似つかわしくねぇなぁ・・・)
俺は少し伸びてきた無精ひげを撫でて、電子レンジのような機械を見る。
「もしかして料理が得意ってこういう事か? 機械に食材を入れてチンみたいな・・・」
「そうだけど何カナ?」
電子レンジみたいな機械を開けると、カナは食材の乗った皿を回転皿の上に置いた。ミルクの入った椀、何かの肉、ブロッコリー、ニンジン、芽キャベツ、ジャガイモ、そしてよくわからんキノコ。
(まさか本当に食材をチンして温めるだけじゃないだろうな? それだと味もそっけもないぞ)
一分ほどでチンと鳴り、出来上がりを知らせる音がした。
(一分程度じゃ、食材に熱が通ってないだろ・・・)
しかし、出てきたのは見事なミルクシチューだった。
「どういう事だ? 何でシチューが皿に入ってんだ?」
「ほーらね、キリマルが未来から来たってのが嘘だって証拠カナ、これが」
「あ?」
「未来から来たなら、この自動料理マッシーンを知らないわけないし、未来にはもっと発達したマッシーンがあるはずカナ」
「(マッシーンって言い方はなんだ?)いや、こんなのはなかった。皆、普通に料理していたぞ。そういやビャクヤが、クリエイトフードみたいな魔法を使えたよな? アマリ」
「うん、術者に料理の知識がないと、不味い料理が現れる【食料創造】」
「う、嘘カナ。そんな便利過ぎる魔法なんてないカナ」
知った事か。俺はシチューを手繰り寄せて食おうとしたが、また腹がグルグル鳴りだした。
「しまった、トイレに行くのを忘れていた」
「トイレなら廊下の突き当りにあるカナ」
俺は急いでトイレに向かい、便座に座る。
「ほー。未来だと木の板に穴を開けただけの不衛生な便座だったけど、ここのは地球のとそう変わらねぇな。なんで大昔の方が、未来未来してんだよ」
用を足すと、尻を照らす光のシャワーの絵が描いてあるボタンを見つけたので押してみる。
すると便器の受け口が光ったが、俺は何が起きたのかはすぐに理解できず暫く座ったまま考え込む。
「ん? そういやティッシュがねぇな? おや? なんだか尻穴がスッキリしてるわ。どうしてだ? さっきの光で尻に付いていた糞やチンコの雫が消え去ったのか。こりゃあ便利だな」
感心しつつ立ち上がって流すボタンを探したが、そもそもひったはずの糞がどこにもねぇ。
「すげぇな。俺は過去の未来に生きている」
ビャクヤがこの場に居れば、「意味の分からない事を言うなしッ!」と言っただろう。だが、確かに俺は過去にいながら未来の技術に驚いている。超古代文明ってやつか?
部屋に戻ると、アマリが俺のシチューを物凄い勢いで食べていた。
もにゅっ! カリッ! ナポッ! と、どうやったらそんな音がするんだとツッコみたくなる音がしたが、無視して椅子に座り新しいシチューを待った。
ガツガツ食べる無表情の女を見ながら俺は喉を鳴らす。
「美味いのか? アマリ」
「美味しい。今まで食べた事ない美味しさ」
「まじか・・・。やべぇ。糞したら猛烈に腹が減ってきた」
「はい、出来上がり。でもお肉は硬い鹿のすね肉しかなかったからトロトロのイメージで作ってみたカナ。すね肉はプルップルカナ」
俺は目の前に出されたミルクシチューのいい匂いを嗅いでからスプーンを持つ。
猫舌なので少し冷めるのを待つ間、気になる言葉を拾って質問した。
「イメージ?」
「自動料理マッシーンは料理する人のイメージを元に料理を作るから、結局料理ができる人じゃないと美味しく作れないカナ」
「【食料創造】の魔法と同じだな。魔法だと触媒に術者の精子や、受精していない卵子を使うらしいけど、これは触媒要らずでいいな」
「食べ物を作る魔法の触媒がそれだと、げんなりするカナ・・・」
「触媒はイメージ力を高める為のものだから、創造した料理に精子や卵子を使うわけではない」
アマリは暇さえあれば本を読んでいるので、ため込んでいる蘊蓄を披露した。時々どこからか出すポーションもその豊富な知識で調合しているらしい。
そろそろいい温度になってきたので俺は、シチューをすくって口に運ぶ。円やかなミルクの香りと丁度いい柔らかさの具材。
「美味い! いい塩加減だし、ミルクに素材の旨味が染み出している。しかもカナが言ってた通り、すね肉はトロットロで柔らけぇしよ」
カナを殺すのは止めておこう。美味いものが食えなくなるからな。あと、こいつは人間じゃねぇし。俺が殺したいのは人間なんだわ。樹族じゃあねぇ。まぁでも殺せるなら殺すけどな。
「そんなに喜んでもらえると嬉しいカナ」
俺も夢中になってシチューを食べる。アマリがあんなにガツガツ食ってたわけだわ。ほんと美味い。
シチューを貪り食い、デザートのよく解らん緑色の小さな木の実を食べていると、外から牛の鳴き声が聞こえてきた。かなり必死になって鳴いている。
「やだ! 家から連れてきた乳しぼり用の牛が、何かに襲われてるカナ!」
「どれ、飯の分くらいは働いてやるか。アマリ、刀に戻れ」
ご飯を食べ終えて本を読んでいたアマリは、静かに頷いて刀へと戻る。
俺はアマリを掴むと小屋を出た。
「なんだ、ありゃあ」
闇の中を透明な四足歩行の何かが、牛舎の前を音もなく歩き回っている。
なぜ透明なのに見えるかというと、背景と体のラインの間に微妙な歪みが発生するから、そこに何かがいると分かるのだ。透明な何かは動きを止めると途端に見えなくなる。
「あれは・・・、インビジブルクーガーカナ!! とても危険な生物カナ!」
「姿を隠してるだけのピューマなら、大して脅威ではないだろうよ」
「とんでもないカナ! あぁ! どうしようカナ! あの魔物は通常攻撃に即死効果があるカナ! しかも麻痺の閃光を使うカナ! なんでこんなところにいるカナ! もっと険しい山奥にいるのに!」
「ゲームでもたまにいるよな、初期のマップに迷い込んできた最強の敵とか。レイダーしかいないはずのショッピングモール周辺に、何故かデスクローがいたりよ」
「なんの話カナ?」
「いや、こっちの事だ。まぁでも攻撃に当たらなければどうという事はねぇな。基本的に敵の攻撃は俺には当たらねぇようになってる。問題は麻痺だな。閃光を放つ前に予備動作はあるのか?」
「触手のような髭が激しく動くと閃光を放つ前触れだと、冒険者が言っていたカナ」
「なるほどな。が、透明化してる奴の髭の動きを見極めるのは至難の業だな。まぁいいさ。攻撃を受ける前に殺してやるぜ」
ちょっと前まで対人に特化した能力だったが、今は流石に魔物ともそれなりに戦えるようにはなっているだろ。俺だって成長してんだ。
こちらに気付いて唸る透明のネコ科に、俺は刀の切っ先を向けて笑う。
「ヒハハ! お前もシチューの具にしてやっぜ!」
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