殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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キリマルの子

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「キリマル!」

 俺はビンタで叩き起こされた。

「いてぇ! 誰だ、ゴラァ!」

 飛び起きた俺の前でアマリが膨れっ面をしている。そして黙ってカナを指さした。

「あぁ?」

 カナは妊娠した母親のような顔で、ロッキングチェアーに座って編み物をしている。

 そして何より驚いたのが、本当に腹が膨れている。実際に妊娠しているのだ。

「お前、なんで腹が膨れてんだ?」

 カナは照れながら、切った蒲鉾のような口をして笑う。なんだその満ち足りた笑顔はよ。

「妊娠したカナ」

「はぁ? 昨日までお前の腹はまっ平だったろ。クソでも詰まってんじゃねぇのか?」

「ううん、妊娠したカナ。キリマルの子」

「キィィィ!」

 アマリが奇声を上げて、パンツを穿こうとする俺の背中を引っかく。待て、パンツくらい穿かせろ。

「第一、俺ぁ、お前とはヤッてねぇだろうがよ」

「今朝、中にいっぱい出されたカナ」

「おい、待て! あれ、アマリじゃなかったのかよ! お前だったのか!」

「そうカナ」

「眠くて目ぇ閉じてたからよ、てっきりアマリだと思ってたぜ。それにしてもよぉ、そんな直ぐに妊娠するものか、アホが」

「でも現にお腹が大きい」

 アマリと間違えたからエッチをした、と言ったところで魔刀人型の顔が一瞬緩んだが、やっぱり圧が凄い。普段使うスキルとは違った、“負のオーラ”がでけぇ。

 俺がどうやってアマリの機嫌を取るかを考えていると、カナがポンと手を叩いた。

「そうだ! 博士に妊娠したって報告に行くカナ! きっと喜んでくれるカナ! キリマルも挨拶に行くカナ」

 俺はマタニティードレスを着るカナに引っ張られて、大きな公衆電話ボックスみたいなものがある部屋に連れてこられた。

「転送ポータル・・・」

 後ろでアマリがそう呟く。

「これでディヴァイン研究所まで一気に行けるカナ」

「じゃあ小屋で寝泊まりする必要なくねぇか?」

「ここは一人になりたい時用でもあるカナ」

「挨拶ったって何を言えばいいんだ? カナを孕ました男、キリマルですってか?」

「博士はざっくばらんな人だから、細かいことは気にしなくていいカナ」

 確か博士の名前は・・・。ようやっと・大工だ・坂本だったか? 元大工なのか? 始祖の神様とか呼ばれてんだよな。会ってみるのもいいかもしれねぇ。

「じゃあ行くカナ」

「待て、これは転送酔いとかしないだろうな?」

「酔う人は酔うカナ」

「やっぱ、酔うのか。よし、覚悟はできた。転送してくれ」

 俺とアマリとカナがぎゅうぎゅうになって転送ポータルに入ると、装置は前触れもなく俺たちをディヴァイン研究所まで飛ばした。



 転送酔いをしてフラフラとしながら白い未来的な廊下を歩いていると、突き当りの部屋の前でカナが止まる。

「カナカナ! 入るカナ!」

 恐らく音声認識で開く扉なんだろう。カナの声を認識した自動ドアがスライドして開いたので、俺とアマリも広い研究所に入る。

 研究所内も白色で統一されており清潔感があったが、それとは対照的に不気味な姿をした数々の生き物が培養液の中に浸かって並んでいた。

「博士ー!」

「おお、カナ! ん? お主、妊娠したのか?」

「うん、悪魔の子を宿しましたカナ!」

「悪魔? お主の後ろのヒョロでかい悪魔か?」

 禿げ頭のサイドに、白くて大きなボンボリを付けているような博士は、俺を見て嫌悪するかと思ったがニッコリと笑っただけだった。

「神様なのに悪魔を嫌がらないのか?」

「ワシは神様なんかではないからの。皆が勝手にそう呼ぶだけじゃよ。ただの科学者じゃ」

 ん? どこかで聞いたセリフだぞ? ヒジリも同じ事を言っていたな。こいつが実はヒジリでしたってオチじゃないだろうな?

 いや、全然似てねぇか。そもそも大きさからして違う。ゴリマッチョ大男のヒジリが歳をとってもこんなに小さくはならねぇ。

 というかここは過去の世界だし、未来の現人神がいるわけねぇか。

「ようやった! 悪魔の! 名前は?」

「キリマル」

「ん? キリマル・・・? お前さんは悪魔じゃよな? 日本人・・・?」

「ああ、2018年の東京から転生してきた」

「なるほど! この世界は他世界との繋がりが緩いからな。驚きはせんよ」

 そんなんで納得するのか、この爺さんは。科学者にしてはいい加減だな。

「どれ、カナ。ちょっとお腹の子を診てやろうか。健康診断ルームへ行ってきなさい」

「はい! 行ってきますカナ。行ってくるね、キリマルパパ」

 カナがそう言って俺の手にキスをして研究所から出ていった。

「キィィィ!」

 無表情のままアマリが奇声を上げたので博士が驚く。

「なんじゃ! このトランジスタグラマーな可愛い子ちゃんは! 結婚してくれ!」

 いきなりアマリに抱き着こうとした博士が顔を引っかかれる。

「おわっ!」

 博士が尻もちをついたが、他の樹族やノームの研究員たちは誰も博士を心配していない。いつもの事だと言わんばかりに肩を竦める者もいる。

(博士がアマリに気が付いていないって事は、まだ魔刀天邪鬼は完成していないって事か)

「クカカ! 相変わらず色ボケしてんねぇ、爺さん」

 博士が尻もちをついた時に、手から離れて床に落ちた杖が笑う。

「デルフォイ大兄ちゃん・・・」

 嫉妬をするのを止めて、アマリは杖を見つめて小さく呟いた。

 この杖は数千年後の未来にも存在する。

 魔法と科学の融合した武器、神シリーズの聖なる光の杖デルフォイは、本来の主である坂本博士に拾われて陽気に笑った。

「こないだは、地下書庫のホログラム婆の尻を触ろうとして、怒られてたのに懲りないな、坂本博士」

「しーっ! それを言うでない! だまっとれ! デルフォイ!」

 頭の白髪ボンボリを揺らして咳をすると、坂本博士は俺に向き直った。

「もう知っとるかもしれんが、ワシの名はハイヤット・ダイクタ・坂本。四十世紀の地球からやってきて、帰る事ができんから暇を持て余して、この星で樹族を導いておる。変な名前だと思ってるな? これはな、アメリカ地区出身の父親が、侍に憧れて付けた名前じゃ。・・・まぁそんな名前の侍なんておらんかったがの! 全くでたらめの名前だったんじゃ!」

「爺さんの名前の由来なんてどうでもいいぜ。それより、なんでカナはセックスして直ぐに妊娠したんだ?」

「ああ。あの子は不憫な子でな。他種族としか交配できない上に、お腹の中であっという間に子が大きくなる体質なんじゃ。この星は地球では考えられないような、極端に変わった個体が時々現れる。カナはその体質のせいで同族に興味を持たないどころか心を開かなかった。なので親に捨てられて泣いていたところを、ワシが見つけて連れ帰り、我が子のように育てたんじゃ。で、キリマルが見事カナを妊娠させたってわけじゃな」

「まぁ、こっちは一夜の間違い(文字通り)でパパになってしまったわけだが・・・」

「どういう経緯であれ、もう寿命の少ない彼女に子を授けてくれた事を、ワシは感謝しとるよ! ありがとうな、キリマル」

「まぁいいけどよ。俺は子の面倒なんて見ないし、結婚する気もねぇぞ」

「かぁ~! 流石は悪魔だねぇ! とんでもねぇクズだ! 聖なる光で地獄に送り返してやろうか。クカカ!」

 デルフォイが笑う。本気じゃないのは解るが、地獄送りは勘弁だぜ。地獄送り寸前までは体験した事があるからな。

「そりゃそうだろ。俺が寝ている間にカナが勝手に俺の子種を貰ったんだからよ」

「ああ、構わんよ。この世界では家族という単位が、あまり意味をなさんからの。捨て子だって沢山おるわい。この研究所所員の七割ほどがワシの育てた子供たちじゃし。お前さんはこれまで通りで結構じゃ」

「そうさせてもらう。ところで、この黒くてでかいのはなんだ?」

「そいつは吸魔鬼じゃな。その培養液の中の黒いのは意思もなにもない、ただの肉塊じゃ。プロトタイプは、そこのモニターの向こうにいる小さな勾玉みたいな虫じゃ」

「こんなもん作ってどうすんだ?」

「拠点支配用に作ったんじゃよ。最近は樹族の謀反が増えてきたんでな」

「へぇ。俺は腕っぷしには自信があるから、雇ってくれれば鎮圧に行くぜ?」

「いや、いいわい。鉄傀儡やらオーガやらがおるでの、間に合っとる」

「さよか。でもなんで、樹族が神であるあんたに謀反を起こすんだ?」

「彼らがこの星の真の住人じゃからじゃよ。異星人に支配されて、気に食わない者もおる」

「でもあんたは暴君なんかじゃねぇんだろ?」

「勿論! 樹族が屁みたいな魔法で、なんとか生き延びていた原始人時代の頃からワシはおる。当時の樹族ときたら魔法体系は滅茶苦茶、簡単に病気で死ぬ、無駄に寿命が長いので、中々子供を作らない、すぐに魔物に食われる! と、これまで樹族が存在できていた事が不思議なくらいじゃった! じゃからワシは、魔法の種類を分別して体系立てて、医療施設を充実させ、子供が作りたくなるようなHな教育をし、魔物に食われないように、新たなる種族に樹族を守らせた」

 そう一気に言った後、博士はハァーと深いため息をつく。

「じゃのに・・・。種としての反抗期なんじゃろうな・・・。これまで身を尽くして文明的な暮らしをさせてやったのに、もうワシなんか要らんと言う奴が現れ始めたんじゃ・・・」

「博士・・・。元気を出して」

 アマリが博士を抱きしめて頭を撫でた。

「むほぉ! なんじゃ? 結婚してくれるのか? ムチムチのお嬢ちゃん!」

 口をタコのようにして、アマリにキスをしようとした博士は、禿げ頭に赤い三本筋を作る羽目になった。

「あたたた! ワシの頭頂部は、猫の爪研ぎ用ダンボールか!」

 顔と頭の三本筋が繋がりそうになっている博士は、それでもアマリの大きな胸に顔を埋めている。

「ほんとにスケベな爺さんだな」

「キリマル、嫉妬した?」

 珍しくアマリの表情が変わった。むふーと鼻息を出して得意げな顔をする彼女は、自分の胸に顔を埋める博士の頭を撫でながら俺を見ている。

「ん? ああ、嫉妬し過ぎて、憤死しそうだぜ」

 こう言ってりゃ機嫌直してくれそうだな。ヒヒヒ。

「私の気持ちがわかってくれて嬉しい」

 アマリはもっと得意げな顔をしてから笑顔を見せた。

 ほらな! チョロイわ。クハハ!

 俺が内心でほくそ笑んでいると、研究所のドアが音もなく開いて、カナの元気な声が聞こえてくる。

「赤ちゃん、生れたカナー!」

 カナがお包みに包まれた赤ん坊を抱いて入って来る。もう生まれたのか! はえぇな! おい!

「キィィィ!」

 アマリは嫉妬の余り、目と歯を剥いて博士の頭頂部をバチーンと叩いた。
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