殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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キリマルの願い

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「ねぇビャクヤ。退屈だから魔人族の由来を教えてくれる?」

 貴重な召喚術書を見つけたキラキが、学園に到着するまでの時間を持て余すリンネは、ビャクヤにそう訊ねた。

「んんん! 大して興味は無さそうな訊き方でしたがッ! まぁ良いでしょうッ! 我ら魔人族を作りし者はッ! 世界の滅亡から人々を救った偉大なる神ッ! オーガの始祖神ことハイヤット・ダイクタ・サカモト様ッ! ニムゲイン王国のッ! 赤き鎧の導き神と同じく、星の国出身ッ! しかぁしッ! 我らが始祖神は、東の大陸からニムゲインの民を導いてやってきただけの神とは格が違うんごッ!」

「ひとの国の神様ディスるのやめてよね。一応ニムゲインの神様も強大な悪魔と相打ちになって国を守ったわよ? まぁあまり信仰されてない神様だけどね・・・」

 リンネはキラキを待つ学園の門の近くにある、赤い鎧を着る戦士とお姫様の道祖神を見た。

 自分たちの先祖をこの島に導いた神があまり信仰されてないのは、あまりに身近な存在だからだろうか?

 ニムゲインの神はこのとおり、道端の祠の中で微笑む道祖神のような扱いである。

 赤い鎧の戦士とお姫様のお伽話は老若男女に親しまれてはいるものの、信仰の対象としては弱い。

「人間は神への関心が薄いですからなッ!(魔人族も割とそうですが)」

 ニムゲインの神どころか、軽く人間族までディスり始めたビャクヤの尻を、「なによ」と言って叩いてリンネは話を変える。

「あれ? そういえば魔人族を作った神様は、ビャクヤが信仰している神様とは別人なんだ?」

「はぁいッ! 我らを作ったのは始祖の神。吾輩自身が信仰する神は、この時代では、まだご存命の現人神様なのですッ! ほら、リンネ様を生き返らせてくれたヒジリ様の事ですよッ! というかッ! 吾輩の神様の話はこれまでに何度かしたはずですがッ!」

「ん~。そうだったかしら? それに私はヒジリって人を見てないから、ほら! と言われても・・・。私が目覚めてから見たのは、ピンク色をした羽のないイービルアイだけだし」

「ああッ! もうッ! 主様の恩知らずッ! ホムンクルスを普通の人間にして生き返らせるなんてッ! 神様以外の誰にできるというのですかッ!」

「まぁそうなんだけど・・・」

 神の話をしている二人の前を、ボィズーが門前を横切る。

「また髪の話をしてますね・・・。誰もかれも、そんなに髪が大事なのですか」

 禿げ頭のボィズーはそう呟いて頭をひと撫でして、通り過ぎる。

 ボィズーがいなくなると、今度は道の向こうから馬車がやってきた。

 馬車が学園の門前でとまると、客車のドアが開いて長髪の優男がひょこっと現れる。

「やぁ、リンネ君にビャクヤ君。門まで出迎えてくれるとは嬉しいね。ハグしちゃおう」

 キラキはリンネとビャクヤにハグをすると、学園へと歩き出した。そのキラキを御者が呼び止める。

「キラキ様、門から学園のエントランス前までまだ距離がありますが?」

 キラキは振り向かずに手を上げて答えた。

「少し歩きたい気分なんだ。君は先に馬繋に行って、帰りの時間が来るまで食堂でお茶でも飲んでいたまえ」

「はぁ・・・」

 御者は帽子を少し上にあげてキラキの後ろ姿に会釈をすると、馬に鞭を入れて学園へと向かった。

「それで、キラキ様。召喚術書はありましたか?」

 リンネの期待がこもった青い目を受けて、キラキは眉毛を上げて目を瞑り、自信たっぷりに頷く。

「勿論だとも。この魔法書がキリマルを呼び戻す足掛かりになるのは間違いない。ただ・・・」

「ただ?」

「この書の下巻がない・・・」

「ええ~! それじゃあ・・・」

「いや、がっかりする事はないよ。この本の入手経緯が記録書に載っていたからね。この本はノームが樹族国に行った時に、冒険者から購入したものらしい。その冒険者は樹族国首都アルケディアの地下迷路の先で、この魔法書を入手した。地下墓地を通り抜け、大きな門を潜り、その奥にあった怪しい図書館から、命がけで盗んできた一冊だそうだ。それを聞いたノームはこれをなんと! 金貨十枚で買ったそうな。正直、その記録を読んだ時、私はノームが騙されていると思ったね。だが、私の考えは甘かった。この魔法書にはそれ以上の価値があったのだよ。なぜならノームが、この本を魔法院に売った時には金貨二十枚になっていたのだから。ノームは商売の才能がある・・・。いや、商売だけだろうか? 私は常々ノームの万能性を・・・」

「んんん! キラキ様ッ! 話が横道にそれておりますッ!」

 ビャクヤが両手を合わせてゆっくりと上に動かしてから、左右斜め上の空にシュバシュバと手刀を突き刺している。どうやら話がブレているという事を体で表現しているようだ。

 ビャクヤの滑稽な動きにキラキはウフフと笑う。

「おっと、すまない。きっと私は苦手な魔法の話を避けたいがゆえに、無意識にノームの話をしてしまったのだと思うよ。話を戻そうか。ノームの話が本当ならば、下巻は恐らく樹族国の地下図書館にあるというわけだ。転移魔法の得意なビャクヤ君なら問題なく行けるだろう?」

 ビャクヤは直ぐに返事はせず、仮面の上に渋い表情を浮かべていた。

 長距離転移魔法で飛べば時間が進んだり戻ったりするからだ。前回はたまたま上手くいったが、今回も上手くいく保証はない。失敗すれば同じ時間に、同じ人物が二人いるなんてことにもなる。

 ビャクヤが何も言わないので、リンネが代わりにキラキに質問する。

「でも冒険者が命がけで本を盗んできたって事は、その地下図書館には恐ろしい魔物がいるって事ですよね?」

「十中八九、アンデッドの類だろうね」

「吾輩ッ! アンデッドはあまり得意ではありませんぬッ! それから長距離転移魔法は、不具合があるのであまり使いたくないのデスッ!」

「う~ん・・・そうか。君にも苦手があるのだね。でもリンネ君は、アンデッドが苦手だという事はないだろう?」

「はい、光魔法も火魔法もそれなりに使えますから、中級アンデッドぐらいまでなら倒せると思います」

「では攻撃魔法を撃つリンネ君を、ビャクヤ君がリフレクトマントで守ればいい。あと、長距離転移魔法に問題があるなら、小舟に乗って船べりを掴んで普通の転移魔法を使うのだよ。途中の小島を繋ぎにして、ノーム国を目指せばいい。過去にこれを試した者がいるのだがね、やはり転移距離が足らず潮流に手こずったり、マナの充填に時間がかかり過ぎて、断念して帰ってきたのだよ。通常の転移魔法でも転移距離が長い上に、マナの回復速度が速い魔人族の君なら問題ないだろう」

「そうなると結構な長旅になりまんすッ! リンネ様は休学届を出さなくてはッ!」

「いや、それは問題ないよ、ビャクヤ君。今日、学園に来たのは召喚術書の件だけではない。君たちの就職先が王国竜騎兵騎士団であるとマギ学園長に伝えに来たのと、魔法院での活躍を以てして、卒業までの単位を保証してくれと交渉しに来たのだ。君たちは明らかに、他の平凡な学生たちとは違う。学園が単位などという下らない事で足を引っ張るべきではない。なので卒業まで存分に腕に磨き、経験を積んできてくれたまえ。出来れば即戦力になるぐらいになってくれると助かる」

 少し意地悪な顔をして笑うキラキに、リンネもビャクヤも照れてはにかむ。ここまで自分たちを買ってくれている大物騎士に対し、どう返事をしていいのかわからないのだ。

「この本は地下図書館へ出発するまでに、熟読しておいてくれたまえ」

「はいッ!」

 話している間に寮の前まで来ていたので、キラキは本をビャクヤに渡すと懐中時計を見て時間がないことに気付く。

「それでは私は他の用事を済ませてくる。キリマル君を呼び戻すのは困難だろうが頑張ってくれたまえよ。君達ならきっとやり遂げると信じている。読み終えた魔法書はマギ学園長に渡してくれればいい」

「はいッ! 吾輩はッ! 決してキリマルを見捨てたりしませんぬッ!」

「素晴らしい!(そうでなくては困る) では!」

 白い歯を光らせてキラキは立ち去った。

「はぁ・・・。私たち凄く期待されているね・・・」

 小さくなるキラキの後ろ姿を見てリンネが溜息をついた。そのリンネの小さな肩を抱き寄せてビャクヤは励ます。

「何を臆する事がありましょうか? 我々はキラキ様の期待に応えられるだけの実力があるのですよッ! ああ・・・。もし我らが王国竜騎兵騎士団の騎士になればッ! 下級騎士のアトラス様には悪いのですが、身分的には吾輩やリンネ様の方が上になりますねッ! 主様は父越えをするのですよッ!」

「それもキリマルを呼び戻してからの話だけどね・・・。多分、私たちはキラキ様に試されているのだと思う。キリマルを呼び戻す事が入団の条件じゃないかな?」

「問題ありません。吾輩が必ずやあのイキリ悪魔を呼び戻してみせますンヌッ! さぁ話はこのくらいにして保存食などの買い出しに向かいましょう。長い旅が待っておりますゆえ」

 ビャクヤの口から長い旅という言葉を聞いて、リンネの背中に不安が走る。

 目的地までどのくらい時間がかかるのだろうか?

 なんとかノームの島に辿り着けても、ノームの飛空艇には乗せてもらえるのだろうか?

 あわてんぼうでせっかちなノームたちは、ちゃんと樹族国へと送ってくれるのだろうか?
 
 漠然とした旅が待っているような気がする、とリンネは思ったが、隣で「ノームの島は変幻自在~♪ 巨大な鉄傀儡にもなるのさ~♪」と機嫌よく歌っているビャクヤを見ていると、どうでもよくなってきた。




 一人の樹族の長い耳に、刀で切れ目を入れて俺は目を細める。

「お前が最もカナとミドリの近くにいたそうじゃねぇか? お前か? 二人を殺したのは!」

「ち、ちがっ! いぎゃあああ!!」

 樹族のプライドの象徴である耳を容赦なく半分にした。

 樹族の耳は敏感な場所で痛覚も集中しており、痛みも尋常ではないだろうよ。

「待ってくれ! 俺じゃない! やったのはあいつだ! だから止めてくれ!」

 樹族は助かりたいが為に仲間を指さした。

 建前では正義を振りかざすが、自分の命や利益が絡むと容易に仲間を裏切るのが樹族だ。ゴブリンとそう変わらねぇ。

「お願いだ! もう痛い目には遭いたくないんだ! 頼む!」

 魔法無効化フィールド発生装置を再起動したこのディヴァイン研究所で、この造反者たちに抗う術はねぇ。だからお前らはこうやってただ俺に慈悲を乞うしかできねぇんだ。

「待たねぇなぁ。お前が嘘をついていないという保証はねぇからなぁ? そもそも俺はよぉ、人の命なんてなんとも思わねぇ悪魔なんだが?」

 名も知らぬ樹族の肩に刀を沈めてると、苦痛で叫ぶ声の他に捕虜からも悲鳴が上がる。

「お前らの下らねぇプライドのせいで、俺は大事な玩具を失った。ミドリが将来どうなるか楽しみだったのによぉ・・・。そこで見ているお前ら! 次はお前らだからな。男はチンコを削いで、その傷口に塩をたっぷり擦りこむ。女は子宮を取り出してサッカーボールにしてやんよ。クハハハ!」

 フォースフィールドの牢屋の中で頭を抱えて恐怖から目を背けようとする者、泣いて母親の名を叫ぶ者、憎しみと呪いのこもった眼差しを俺に向けてくる者。

 お前ら全員ネチネチと拷問しては生き返らせて、また拷問だ。精神が崩壊するまでな!

「待て、悪魔キリマル」

 茶色い栗毛の眼鏡樹族が俺の背後に立つ。ほぉ~。俺の背後を気取られずにとるなんて中々やるじゃねぇか。

「誰だ?」

「私はここの副所長、ミルト・アルケディアだ。拷問をするのは止めはせんが、もう少し先延ばしにしてはくれないだろうか?」

 くそちびが。俺は博士に研究所の事を任されてんだ。何をしようが勝手だろうよ。

「なぜだ?」

「我々も彼らから聞き出したい情報があるのでな」

 白衣のポケットに手を突っ込んだまま微動だにしないこのミルト・アルケディアって男は・・・。相当の手練れだな。魔法を使わせたらの話だけどよ。

「なるほど・・・。おい、お前」

 俺はまだ拷問されていない、造反者の幹部らしき樹族に刀を向ける。

「知ってることを洗いざらい話せ。そうすればお前は拷問せずにいてやる」

 男は間を開けずに直ぐに喋り始めた。

「はい! この謀反の首謀者であるブライトリーフ様は、戦況が不利になると邪神を召喚するつもりでいます!」

「なに?! 邪神・・・? フハハ、バカな」

 アルケディアが驚いた後に馬鹿にして笑う。

「確かにブライトリーフは優れた召喚術師だが・・・。邪神などと大それた者を召喚すれば制御できずに自滅するぞ。そもそも邪神などいるのか?」

 確か・・・現代には暗黒大陸に魔王がいると、ビャクヤから聞いた事があるぞ。

 邪神ぐらいいてもこの魔法の星の住人は驚きそうもないのに、なぜミルトは驚いている? そういやカナも邪神と聞いて笑っていたな。

「召喚というよりも、契約に近いかもしれない・・・」

 これ以上拷問を受けずに済むと安堵した男は、肩の傷を押さえながら楽な姿勢になって座り直した。

「という事は、邪神はこの世界に既にいると?」

「そうだ。遥か宇宙の果てにいる。アヌンナキとかいう奴らを追っているそうだ。なぜ追っているのかは知らないが、アヌンナキの情報の代価として力を貸すと言っていた」

 何言ってんだこいつ。

 ムーにでも掲載されてそうな内容を、ペラペラ喋るこの男を殺そうかと柄を握ったが、ミルトは最後までこいつの戯言に付き合うつもりでいるようだ。

「アヌンナキ? 聞いたこともない種族だな。ブライトリーフはアヌンナキの情報を持っているのか? なぜ邪神はブライトリーフにコンタクトを取った?」

「偶然だ。邪神は種族全体を一個体と見なしている。だから誰でも良かったのだと思う」

「お前たちはなぜそいつを邪神と呼ぶ?」

「それは・・・。少し支離滅裂なところがあり、邪悪さを感じたからだ。男の声で論理的に話していたかと思うと、ヒステリックな女の声で叫んだり、優しい母親の声で皆を安心させた次の瞬間に、酒焼けした男の声で怒鳴り散らしたりと・・・」

「狂ってるじゃねぇか」

「ああ、狂神と呼ぶ者もいる」

「で、実力はどれほどのものなのだ?」

「手段を選ばないでいいのであれば、星を一日で壊滅させる事ができるそうだ」

「嘘くせぇな。騙されてんじゃねぇのか? 実際、召喚したら糞の役にも立たなかったってパターンだろ。よくそんな得体の知れねぇ奴を心の支えにして、博士に戦いを挑んだな?」

「それだけ我らも必死だ、という事なのだ」

 それを聞いたミルト・アルケディアは、眉間に指を当ててため息をついた。

「はぁ・・・。なぜ今なのだ? これからも博士から学ぶことはあっただろう。我々は種として精神的進化をする余地がまだまだあるのだぞ?」

「そうやって飼いならされていくうちに俺たちは骨抜きにされていたのだよ、ミルト! 二千年の間に樹族の姿が微妙に変化しているのを知っていたか? 竜の時代の樹族はもっと深い緑の肌をしていた! 成熟した葉のように! それが、今はどうだ! 博士が我らを導くようになって肌が、段々とオーガのような色になってきている! 我々は博士によって人体実験をされているのだ! 少しずつ別の何かに変えられようとしているに違いない!」

 知った事か、そんな事。何の問題があるんだ?

「竜の時代の我らがどんなものだったか知っているか? ルティン。異世界から来た気まぐれな竜たちに教えてもらった魔法は、非効率的で殆ど使い物にならず、戦う術が殆どない我らは、霧の魔物にも喰われ放題だった。竜たちは我らを憐れんでも助ける事はなく、飽きると飛び去っていった。そして惨めな我らは、地面に穴を掘って土蜘蛛のように隠れて暮らし、飢えや病気でどんどん人口を減らしていった。先細りする未来を見て、絶望する我らを救ってくれたのは誰だ? サカモト博士だ。立派な住居と安全、そして食料を博士は与えてくれた! 我らの発展は博士なくして成しえなかった! なのに! その恩ある親に歯向かうとは何事か!」

 冷静沈着そうに見えたミルトは眼鏡を振るわせて手を横に薙ぎ払い、怒りの感情を露わにした。

「いつまでも子でいられるものか! 大体お前は・・・」

 ルティンと呼ばれた男も負けじと反論する。

 はぁ。興ざめしてきたな。糞が。

「勝手にやってろ。拷問は明日に延期してやる」

 どのみち、お前らの導き手である博士は死ぬ。いや、行方不明だったか? どうでもいいか。

 俺は廊下に出ると、死体安置所へと向かった。

 カプセルの中で安らかに眠る、カナとミドリをじっと見ていると胸が苦しくなってきた。これほどまでに科学が発達した世界でも蘇生は容易ではないのだろうか?

 博士はどうやって生き永らえている? 二千年間も。

 俺はアマリに訊いてみた。

「なぁ、アマリ。博士はどうやって寿命を延ばしているんだ?」

 ドロンと煙が上がってアマリが人型になる。そしてカプセルに手をつくとミドリの顔を、悲しそうな目で見つめた。こいつも兄貴を失って悲しいだろうに・・・。

「博士も普通に寿命で死ぬ。ただ博士専用の再構成蘇生装置があるので何度でも蘇る」

「そいつを使えば・・・」

「可能性はある。だけど、それには博士の許可が必要。博士はこれまでに何度か他者を、その装置で蘇生してきた。だけど、蘇生装置に記憶させることができる情報は一人分しかない。つまり博士は自分の情報をリセットしたのちに、生き返らせたい誰かのデータへと書き換えて蘇生装置を起動している」

「それがなんだってんだ?」

「博士が歳をとった状態で誰かを生き返らせた場合、次に自分の情報を書き込む時に歳をとった状態、という事になる。なので誰かを生き返らせるたびに、博士の寿命は短くなる」

「じゃあ、もしかして博士はずっと年寄の姿のままで蘇っているのか?」

「そう。博士が若い頃の姿が記録に残っているので、二千年の間に博士はそうやって寿命を減らしていった」

「若い時に他者を生き返らせればいいだけの話じゃねぇか」

「長い年月の間、そうはいかない時もあったのだと思う」

「じゃあ老い先短い爺に頼んでも無理クセェな・・・」

 俺は内心がっかりしてカナとミドリを見た。こいつらとは知り合って間もないというのに、この胸の中の虚無感はなんだ?

 アマリも同じ気持ちなのだろうか? 部屋の隅に立てかけてあるワイルダーをじっと見つめて動かない。この時代のアマリは別の部屋で厳重に保管されている。呪いの武器であるという事がバレたからだ。

 魔刀天邪鬼もいずれ戦争のどさくさでノームに持ち出されて、あの不気味な森で気の遠くなるほどの年月を孤独に過ごすのだ。

 この時代のアマリは自分が兄を殺した事を、幼過ぎて自覚できていない。なので孤独の時間の中で自分を責めて苦しむ事はない。それがせめてもの救いか・・・。

「なんだか疲れたな・・・。もう寝るか」

「うん」

 勿論今日はアマリとセックスするような気分ではなかったので、俺はアマリを抱き寄せて頭を撫でながら眠った。
 



(またここか)

 闇の中で無を照らす太陽を見て胡坐に頬杖を突いた。今回は体が動くな。なんでだ?

「君でヤンスか・・・。何し来たでヤンス?」

 甲高い声が闇の中に響く。

「俺が聞きてぇわ。糞神が。お前が飛ばした先は八千年前だったぞ。さっさと元の時代に戻せ」

「そんなはずは、ないでヤンスがねぇ・・・」

 眼鏡のゴブリンは、皮鎧の胸ポケットから布を取りだすと眼鏡を拭き始めた。お約束通り、奴の目は3になっている。

 眼鏡をかけ直すとゴブリンの姿をした神は、じっと俺を見つめている。

「おや? これは・・・。どういう事でヤンス? 悪魔のくせに・・・」

「なにがだ?」

「マナというものは、とてつもなく強い思い込みや、願望を持つ人に集まりやすいんでヤンス。あとは徳を積んだりしても集まってくるでヤンス」

「だからなんだ?」

「ヤンスは神様だけども、自身の能力は大したことないでヤンスよ。瞬間移動能力と吟遊詩人のような歌による支援効果のみでヤーンス」

「で? 自分がショボい事を俺に告白してどうしようってんだ? 糞神様」

「糞神言うなでヤンス! 神様だけあって、あっしには人の願いを叶える力があるでヤンス。でも対象の周りに強烈なマナ溜ができていない限り、願いを叶える事ができないでヤンス。しかもマナ溜を抱えていても、邪な者はその対象外でヤーンス」

「色々条件が多すぎだろうが」

「まぁそうなんでヤンスがね。どうしてこういうシステムなのかは、説明できないから訊かないでくれでヤンス。で、キリマル」

「なんだ。さっさと要点を言え」

「君の願いを一つ叶える事が可能でヤンスよ」

「願いだと? 俺は邪な人間・・・。いや、悪魔なのにか?」

「だからヤンスも不思議に思っているでヤンス。君は悪魔なのに、体の周りには感謝や喜びのマナが溢れているでヤンスよ」

「はぁ? ああ、俺が生き返らせた奴の念が、纏わりついているって事か? 気持ち悪いな」

「正の想念を気持ち悪いと言うなんて、流石は悪魔でヤンス。さぁ、さっさと願いを言ってこの場から消えるでヤンスよ」

 願い・・・。言うまでもなく、この村雨霧丸にも夢がある。こんな簡単に叶っていいのか?

 ヒジリやヤイバを超える・・・唯一無二の強者になるという願いが! クハハ!
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