殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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リュウグ

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「あははは! それそれ~んぬッ!」

 ビャクヤはノーム島手前の島で買った水着を着るリンネに、水を掛けていた。

「やったな~! お返しだよ!」

 リンネから【火球】が飛んでくるが、ビャクヤは「あらよっ!」と躱して、仮面に冷や汗を流す。

 一見すると浜辺で水を掛け合うバカップルのようだが、リンネのお返しがえげつない。

「き、気のせいかなぁ? 今、リンネが攻撃魔法を撃ってきたようなッ!」

「さぁ? 気のせいじゃないかなぁ? ウフフ!」

(やはり怒っている・・・。ノーム島に渡る前にこの有人島に寄るべきではなかったッ! あの占い師めッ!)

「ポワン、ポワン、ポワワワワ~ン」

 ビャクヤがそう言って回想に入ろうとしたが、今度はマジックハンマーが脳天を狙ってきたのでリフレクトマントで弾く。

「ちょっと! 回想にはいれないでしょうがッ!」

「なんの話よ! クライネとあんな事したくせに!」

「だからッ! それもッ! 君を助ける為だったんだ! リンネッ!」

 リンネの怒りの原因はビャクヤの浮気。それに対する嫉妬だったのだ。

 二人の相性を見ようとして寄った占い師の館で、水晶はビャクヤの全身を舐めるクライネの映像をなぜか映してしまった。

 気まずそうな顔をする占い師は取ってつけたように「二人の相性は百点満点!」と言ったが、時すでに遅しだった。

 流石にその場で爆発する事のなかったリンネだが、買い物をして海で戯れる頃には嫉妬の炎が業火に変わっていたのだ。

 リンネを生き返らせる情報(その情報の精度がどうであれ)と引き換えに、ビャクヤは一時間の間クライネのベッドで寝転ぶという約束をしてしまった。

 リンネが生き返って学園生活に戻り、暇な時間を見つけてビャクヤはその約束を果たそうと、律儀にもリンネの故郷イノリスに行ったのだ。そして占い師はその時の映像を映してしまった。

「ビャクヤ、勃起してた」

「そりゃするでしょうがッ! 全身を美女に舐められて勃起しない十七歳男子なんてこの世にいませんぬッ! リンネだってッ! 例え相手が冷酷無比な顔をしたキリマルでもッ! 乳首を舐められると自動的に勃起するでしょう?  それと同じ事でごんスっ!」

「ふーんだ。キリマルはああ見えてカッコイイから私は感じちゃうかもね!」

「なんですとーーっ! あの三白眼の顎シャクレーゼのどこが! リンネの浮気者!」

「浮気者はビャクヤでしょうが! どこまでされたの? え?」

 リンネはワンドの先をビャクヤの頬に押し付ける。

「ど、どこまでって・・・。吾輩はクライネ様との約束通り寝転んでただけなので・・・。ごもごもごも」

「最後までされたんだ? うぐぐぐ! き、気持ち良かったの?」

「まさかッ! リンネに申し訳ない気持ちでいっぱいでしたよッ! 吾輩が愛しているのはリンネだけですからッ!」

「でも、イッたんでしょ?」

「そりゃあイキますよ! 擦れば出る仕組みになっていますからね! おチンチンはッ!」

「クライネもあれほどエッチな人だとは思わなかった! お姉ちゃんみたいに思ってたのに!」

 クライネを娼婦のようにしてしまったのは、自分だとは流石にビャクヤは言えなかった。正確には自分の分身なのだが・・・。

「あんたら、さっきから大声で勃起とかおチンチンとか言って恥ずかしくないの?」

 ふと横を見ると、赤いビキニを着るノームの女の子が、眉間に皺を寄せてこちらを見上げていた。

「やだぁ! ちっさかわいい!」

 リンネの怒りはどこへやら、ノームを見ると抱き上げて頬ずりをした。

「ちょっと! 初対面でそれは慣れ慣れし過ぎるやろ! 私はもう十五歳やで! 小さな子供やないんやから、そういうの止めて!」

 銀髪というよりは白い髪に近いノームは、ほぼ黒目の可愛い目を細くして怒りを表現した。が、逆にその仕草が可愛いのでリンネはまた彼女を抱きしめる。

「ごめんなさい、なんだか貴方の可愛さに抗えなくて!」

 ノームは殆どの種族から好かれている。それは神話時代以降、他国を侵略した事がないからだとビャクヤは思っていたが、ノームをろくに見た事がないリンネがこんな反応をするという事は、やはり種族としての魅力値が関係しているのだと思った。

「でもなんでノームがいるの? まだノーム島じゃないでしょ?」

「なんでって、この小島はもうノーム領やで。レッサーオーガ族ばかりやからそうは思わんかったんやろうけど。それにしても、魔人族がこんなとこにおるのは珍しいなぁ」

「吾輩はビャクヤ・ウィン! (リンネの怒りを瞬時に収めた偉大なる)君の名はッ?」

「私はリュウグ・ウーノオト・ヒメノモート・ユイノキリハズや」

「長くて覚えられんぬッ! リュウグでいいかねッ?」

「ええで。皆そう呼ぶし。そっちの人は?」

「私はリンネ。リンネ・ボーン。ビャクヤも私もニムゲイン王国のメイジよ」

「へぇ~。旅人?」

「そうだね。樹族国を目指しているの」

「あ~、それやったら難しいかもな。あそこは魔人族を絶対入国させてくれへんで」

「そうだったッ! この時代の樹族国は魔人族を排斥していたのだったッ!」

 この時代、というビャクヤの言葉を訝しみながら、リュウグは更にダメだしをする。

「あと、ニムゲイン王国って世界でも殆ど知られてないからなぁ。世界で認知されてない国の人を、高慢ちきな樹族が入れてくれるやろか?」

「確かに・・・。ニムゲイン王国という絶海の島国を知るのは、ノームと各国のッ! 知識レベルの高いウィザードくらいですからねッ! しかも知ってても殆どの者が興味を持たない! 地理的にも重要でない場所にありますからッ! 誰もがしょうもない人間族の国程度にしか思っていないッ!」

 リンネが不貞腐れるようにして砂浜の砂を蹴ると、大きくも小さくもない胸がプルンと揺れる。

「なによ・・・。世界のニムゲイン王国の扱い、酷くない?」

「仕方ありませんよッ! リンネッ! ニムゲイン王国は毒にも薬にもならない国なのは事実ですから。何より知名度が低いのはどうしようもありませんッ! ニムゲイン王国の事を知っているノームでさえッ! ニムゲイン王国の事をすぐに忘れてしまいますから、他国に滅多に話さないのでしょうしッ!」

 ビャクヤにそう言われて、リンネはクラスに一人はいる目立たない生徒を思い浮かべて、それが我が国だという現実に下唇を噛む。

「レッサーオーガは時々、他国でもひょこっと異世界から現れるけど、殆どが直ぐに魔物に襲われたり、ならず者に殺されたりして死んでしまうからね。雑魚扱いなんやわ」

 下唇が白くなるほど噛んでいるリンネは、とうとう怒りを爆発させた。

「ひどーい! くやしいー! じゃあ私が世界に人間族の力を見せつけてやるんだから!」

 地団太を踏んでワンドを頭の上で振りまわすリンネを見て、ビャクヤはとんでもない魔法をぶっぱなすのではないかと冷や冷やしたが、そんなことはなかった。

「でも、そこまでがっかりせんでええで。最近、樹族国にオーガの英雄が現れたらしいから、レッサーオーガの扱いもええかもしれへんし。オーガの印象が良くなってるみたいで、オーガの奴隷も次々と解放されてるんやて」

「ああ、その英雄はヒジリ様の事ですな」

 一度はリンネの蘇生を冷たく断ったヒジリの顔と声を、ビャクヤは思い出す。あの時の彼は本当に冷たい顔をしていた。

 いや、あれは元々そういう顔なのだ。ただ声まで冷たかったのは今も心に引っかかる。

 自分が幼い頃に話しかけてきた精神思念体の彼は優しい声をしていただけに、あの時はそのギャップでショックを受けたが。

 精神思念体になる前の、生きていた頃のヒジリは科学者とかいう学者で、英雄的な行動の裏には、自分の研究の追求という思考が見え隠れしていた。

 リンネを生き返らせた理由も、ヒジリが支配する予定の国の民をキリマルが救ったからなのと、彼にとってリンネがホムンクルスという珍しい存在だったからだ。

(ヒジリは神なんかじゃねぇ、とキリマルは言ってはいたが・・・。それでもあの方は吾輩の神なのだッ! 利己的な考えがあっての行動だとしてもッ! あの方は今後も世界を幾度となく救うのだから)

「どうしたの? ビャクヤ。急に黙りこくっちゃって」

 急に襲った白昼夢のような思考を遮って、大好きなリンネの声が頭に染み入ってくる。

「いやっ! 少しリュウグの可愛さに呆けていただけですッ!」

「いややわ~。急に愛の告白せんといて~」

 頬を染めて体をくねらせるリュウグを見て、リンネはいかり肩になった。誤魔化し方を間違えたビャクヤは瞬時に後悔する。

「ビャクヤ~!」

(リンネは蘇ってから嫉妬しやすくなったように思えるッ!)

「まぁまぁ、落ち着きなさい。嫉妬深きリンネッ! 今はそれどころではないでしょうッ! 我らの目下の目的はッ! どこかの国の国籍を手に入れる事ッ! そこでリュウグッ! お願いがあります」

「ノーム国の国籍が欲しいんやな?」

「流石はノーム! 頭が良いから話が早いッ! ノーム国の国籍を手に入れる方法を教えてほしいんごッ!」

「簡単やで。ノームの興味を引く何かと、それに関するレポートを持っていくだけや!」

 簡単そうにそう言ったリュウグだが、実際それがどれだけ難しい事なのかをビャクヤは知っていた。

「国民全員が知識の探求者でッ! ありとあらゆる事を研究するノームの知らない何かを持参しろとッ? ああっ! 吾輩ッ! 眩暈がッ!」

 ビャクヤが額に手を当てよろめくと、リンネが彼の腰に手を回して支える。

「大丈夫? ビャクヤ」

「はぁはぁ・・・。吾輩ッ! 少し休憩がしたいッ! ・・・そうだッ! 少し落ち着こうッ! 珈琲でも飲むんごッ! あの木陰で珈琲の準備をしますんッ!」

 リンネがビャクヤを支えて木陰に向かって歩くと、リュウグが後ろをちょこちょことついて来る。

「ねぇねぇ! 珈琲ってなんや? 飲み物? 美味しいの?」

 それを聞いてビャクヤとリンネは顔を合わせて目を丸くした。

「これだ!」
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