殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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M字開脚のレッド

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「うわぁぁ! 見るなぁ! 見ないでくれぇ!」

 迷宮に少年と大人の中間のような、ハスキーな声が木霊する。

「レッド!」

「今助ける!」

 一番初めに攻撃を仕掛けたレッドは、粘液の触手にからめとられて、M字開脚で空中に持ち上げられている。

 まだ他の奴らは気が付いていないが、俺はレッドが化け物に何をされているのかが解ってしまい、こみあげる笑いを飲み込むので必死だった。

 イエローの魔法のグレートハンマーがダスターに撃ち込まれると、体中にあるゴミの一部が粉砕され、埃を舞い上がらせた。

「ゴホッ! この野郎!」

 イエローの攻撃はゴミを砕いただけで、本体にまでは届いていない。

 その砕かれたゴミの隙間から見える本体らしきどす黒い粘液を目指して、ブラックがサーベルを挿し込む。

「くそ、手応えがねぇ」

 だろうな。俺もスライムと戦った事があるが、戦った当時はお手上げだった。今は幾らでも対抗手段はあるがよ。

「ふっ! ふっ! ふっ!」

 ドンが顔を真っ赤にして変な声を上げて歯を食いしばっている。まぁそうなるだろうな。童貞なら尚更。

「痛いのか? ドン! クソ! 早くしねぇとドンが殺される!」

 クハハ! ドン太郎は殺されはしないと思うがなぁ? 寧ろ・・・。

「え? あれって・・・」

 男たちよりも先に、俺の隣で戦いを観察していたアオが、レッドの異変に気が付いた。

「お? 気が付いたか? 流石はそういう事に興味があるアオだな」

 俺の言葉に自分の考えが正しかった事を確信したアオは頬を赤らめながらも、顔に少し色気を滲ませて虹色の閃光のリーダーをボーっと見つめている。

 アオは欲情してやがる。匂いですぐばれるんだよなぁ。クハハ!

 アオが特に集中して見ているのが、ドンの股間だった。

 蠢く触手が腰当ての下で激しくのたくっている。ズボンの股間部分は溶かされているが、恐らくいきり立っているであろうソレは触手に隠れて見えない。

 セオリー通りならよ、こういう目に遭うのはヒロインとか、お色気担当キャラだったりするのだが、どうやらこのパーティのヒロインはドン太郎のようだ。まぁ、あいつはボーイッシュな女子にみえなくもねぇ。まつ毛もなげぇし。プスス。駄目だ、笑いを堪えきれねぇ。

「どうしたらいいでしょうか?」

 困惑しつつも上気する顔でアドバイスを求めてくるアオに、俺は対抗策を言ってみる。

「お前、【闇の炎】は使えるか?」

 【闇の炎】は射程距離は短いが任意の場所に、闇属性の炎を発生させられるからな。

「いえ、それは闇種族の魔法なので・・・」

 まぁそうか。獣人は光側だからな。

「じゃあ無理だな。【火球】を当ててもゴミに阻まれるだろうしよ。【雷撃】だとドンも巻き込んでしまう。それにどうもあれはダスターとかいうスライムじゃないような気がするんだわ」

 俺がのんびりと考えているとレッドが叫んだ。

「うわぁぁ! 早く助けてくれ! 俺、もう! もう・・・!」

「ふぇぇ!」

 堪りかねたモモが走ってレッドに近づき、M字になった脚の片方を持って引っ張り始めた。モモはパーティの中でもイエロー、レッドに次ぐ腕力の持ち主だ。

「こらぁ! ドンを離しなさぁ~い!」

 しかし触手はモモを掴んで、レッドの股間に押し付けた。

「ふわぁ! え? これってぇ・・・。わぁ! もごっ!」

「モモ!」

 イエローはモモも捕まったのを確認して、焦りながらもダスターの体の表面に張り付くゴミを叩き飛ばしていく。

「アオ! こっちに来てくれ! ゴミの間に大きい隙間ができた! そこに【火球】を撃ちこむんだ!」

「はい!」

 ブラックに呼びかけられてアオは彼らの傍に走り寄った。

 レッドの股間に押し付けられたモモの「んーーんーーー!」という悲鳴を聞きながら、アオは顔を赤くしたまま魔法を素早く唱えて、ダスター思しき魔物の体に【火球】を撃ち込んだ。

 と同時に、レッドの「あ゛っ!」という声が迷宮に反響する。

「きゃああ!」

 レッドの奇妙な声から少し遅れて、魔物が女の声で悲鳴を上げた。途端に体表に付いていたゴミがボトボトと落ちて中から人の形をとるが現れた。

「熱いじゃない! 馬鹿! ちょっとからかっただけでしょ! 私、もう帰る!」

「水の精霊! じゃあ、俺たちが戦ったのはダスターじゃなくて水の精霊だったのか!」

 ブラックロックが驚いていると、水の精霊は「バーカ」とパーティを罵って、近くにあった泉に潜って消えてしまった。

「くっそ! 無駄な戦いをさせやがって! 水の精霊の悪戯かよ!」

 ブラックが悔し紛れに蹴飛ばしたゴミの中から、ウッドペックが何かを見つける。

「これ・・・」

 ウッドペックは転がる何かを拾って、アオに鑑定しろと無言で差し出した。

「ノミ?」

「うん、金属部分が気になった。紫色の金属はアダマントしかない」

 アオがノミに手をかざし、すぐに鑑定を止めた。鑑定はさほど難しくなかったようだ。

「確かに、貴重なアダマントのノミですね。恐らくこれの持ち主はダイアモンドゴーレムを、ノミで砕こうと思ったのでしょうが、この地下九階で力尽きたか落としたかしたのでしょう」

 そう、この階層は地下九階。コズミックノートまであと少しの階層だ。魔物も強力になり、悪魔や強力な魔獣などが多い。悪魔は同族との争いを避ける傾向にあるのか、俺を見ると手を振って立ち去ってしまう。

 なのでこれまで魔獣を相手にしてきたが、実力値が10あるこいつらでも俺のサポートなしではきつい。とにかくブレス攻撃をしてくる厄介な魔獣が多いのだ。このノミの持ち主はとっくに魔獣の腹の中だろうよ。

「いいもん拾ったな。ダイアモンドゴーレムを削る手段は多い方がいいからよ」

 俺が褒めるとウッドペックは童顔をほころばせた。アマリもそうだが、普段無表情な奴が、たまに見せる笑顔は破壊力があるな・・・。

 少し離れたところでモモがレッドを癒している。いや、癒しているふりをしているだけだ。何かヒソヒソと喋っている。

 ブラックとイエローは泉からまた水の精霊が出てこないか見張っているので、モモとドン太郎の近くにいねぇ。

 俺の地獄耳が、ハスキーボイスともったりしたヒソヒソ声を捉えた。

「俺の精液飲んじゃったのか?」

「うん・・・。吐き出すと皆にばれちゃうから・・・」

 ドン太郎は鼻の下を指で擦りながら、泣きそうな顔をしている。

「くぅーーー!おまえ・・・。良い奴だな! 俺の名誉のために・・・。すまねぇ」

「いいの。私もよくお漏らししちゃうから・・・。人前でしゃ・・・、射精をするのって凄く恥ずかしい事だもんね・・・」

「今までお前のお漏らしをからかったりしてごめんな? 今後はお前のお漏らしをからかったりしねぇ! 約束する! これからは困った事があったら何でも言ってくれ! 絶対手伝ってやっから!」

「うん!」

 モモは恥ずかしそうに笑って、股間隠し用にとレッドに布切れを渡した。傷口に巻くためにいつも持ち歩いているのだ。

「サンキュー! 助かる!」

 レッドは布をベルトに引っ掛けて股間を隠してモモと一緒にブラックロックたちがいる泉の方へと歩き出した。

「あの二人、なんだかいい雰囲気ですね・・・」

 ドン太郎がどういう状況だったのかも、モモがレッドのそれを口で受け止めた事も知っているアオは、眉間に皺を寄せて二人を見ている。

「ん? 焼きもち焼いてんのか?」

「まさか! パーティ内での恋愛は御法度ですし、そうならないように心配していただけですよ」

 俺は慌てるアオを見て茶化す。

「別に恋愛してもいいじゃねぇか。そういう感情が絡むと迷宮では命とりになったり、判断が鈍ったりするかもしれねぇが、それらのデメリットを凌駕するだけの力や戦い方を、身に付けりゃあいいんだ。だからもしお前がパーティ内で好きな人が出来たんならよ、お前が強くなって守ってやりゃあいい。簡単な事だろ?」

「簡単じゃないですよ! そんな軽い感じで言わないでください」

「クハハ!」

 俺は腰かけていたゴミの上から立ち上がると尻を叩く。

「さぁ、コズミックノートまで後ひと踏ん張りだ。行くぞお前ら」

「おう!」

「はーい!」

 コズミックノートには然程興味はねぇが・・・。さて、どんな質問をするかな。なんたって宇宙的なノートなんだしよ。聞けばなんだって答えてくれるのは面白いな。変な質問をして台無しにするのも一発芸としてはアリか? クハハ!

 いや、勿体ないな、それは。なんだったらビャクヤたちのもとへ簡単に帰れる手段が解るかもしれねぇってのに・・・。

 ―――ん?

 契約の縛りによる帰巣本能みたいな気持ちの他に、俺は純粋にビャクヤのもとに帰りたがっているような気がするな・・・。まぁそう考えるのも仕方ねぇか。こいつら同様、ビャクヤとリンネには腐れ縁というか絆みたいなもんができちまったからよ。

 俺はちょっとずつ丸くなってる気がしねぇでもない。このままいけばいつか善人になっちまうんじゃねぇかな? ニムゲインの僧侶たちが呼ぶように、そのうち本当に聖魔キリマルになってしまうかもな! クハハ!

 いや、それはねぇか・・・。今も人間を殺したくてウズウズしているしよ・・・。

 さて、コズミックノートに何を質問するか考えるか・・・。手っ取り早く強くなるにはどうすればいいかを訊くか・・・? やはり質問の幅を広くして世界の仕組みを知るか? 

 俺は悩みながら虹色の閃光の後ろを歩いて、気が付くと地下十階への階段を降りていた。
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