殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
146 / 299

揺らぐ信仰心

しおりを挟む
「で、召喚の魔法を唱えたのは誰だ? そいつはこれまでの間抜けども同様、漏れなく死ぬことになる」

 俺は眠たくなって欠伸を噛み殺しながら、黒ローブの者たちにそう言った。

 黒ローブのフードには長い耳を入れる袋があるので、こいつらはゴブリンか樹族だ。ゴブリンだって上等なローブを着る事があるが、まぁ目の前の小人たちは間違いなく樹族だ。

 袖やフードの縁を金色の茨のような刺繍が入っており、植物から進化した樹族が、いかにも着そうなローブだからよ。

 そして、それらのローブが薄らと赤く光っているので魔法のローブであることは間違いない。少なくとも貧乏貴族ではねぇ。

 訳ありであろう、三人の貴族はなにやら揉め始める。

「だから言ったじゃない! 司祭か僧侶を同伴させるべきだって!」

「馬鹿か! 悪魔を召喚する儀式に、司祭が参加するわけないだろ!」

「もうよいわ! 下がれ! この状況が解ってないのか! 名無しの神の名に懸けて! お前らもワシも首受け篭を用意すべきじゃ!」

 名無しの神の名、という矛盾しないでもない言葉を吐いて、一際小さな男がフードを下した。その顔には見覚えがある。

「んん? お前は・・・。どこかで見た事があるな」

 俺はそう言って刀の柄頭を指先でトントン叩いて思い出そうとしたので、アマリが咳払いをして嫌がった。

「ほう? ワシを知っているのか? 数多の世界を渡り歩く悪魔が、その中の一つの、更に小さな国の王の顔を知っていると?」

 どこから咳払いの声がしたのか? と不思議そうに辺りを見る栗毛の樹族は、探すのを止めて俺からの返事を待った。

「ああ、そうだそうだ。お前はたしか樹族発祥の地、樹族国アルケディアの王だ。おっと、アルケディアってのは首都の名前だったか? 光の騎士と呼ばれる7人の大名を従える、中規模の王国で小さくはないな。ビャクヤの本を盗み見た時には顔も載っていた。だからお前がシュラス・アルケディアだ。間違いねぇ。ミルトの遠い子孫」

「我が先祖を知っているのか!」

「俺は神話戦争直前までいたからなぁ。ミルトは樹族にしては背が高かった。それに奴は・・・」

 俺はカナとミドリが生き返った時に真っ先に喜んでくれたミルトの顔を思い浮かべたが、いつそんなシーンを見たのかと首を捻り、結局思い返すのを止めた。

「それに?」

「いやなんでもねぇ。クハハッ! そうだ! お前らに衝撃の事実を教えてやろうか。ミルトはお前らの言うところの闇の勢力側だったんだ。サカモト博士・・・、いやサカモト神に従っていた! つまりお前らの先祖様は、光側の敵だったという事だ!」

「戯けた事を! 悪魔はそうやって僕たちをたぶらかすんだ!」

 シュラスの横で同じ顔をした樹族がフードを外してワンドを構えたが、樹族の王は落ち着けと言って制止した。

「我が弟サラサスは、地獄のダンクキャット並に短気でな。許してくれ悪魔殿」

「いや、いいさ。で、俺を召喚した奴は誰だ? 俺を呼ぶに相応しいか実力を見てやる」

 顔を見せない黒ローブの最後の一人が、震える手でフードを後ろにやった。

「私ですが・・・。お願い! 殺さないで、人修羅さん!」

「ひゅー、べっぴんさん!」

 俺がブラックの真似をすると、アマリがカタカタと揺れて嫉妬するが、無視して女に近づく。

 紫の髪と紫の目、肌は雪のように白く、まつ毛も長い。ついでに特に意味はねぇが匂いも嗅いでみた。爽やかな大葉の香りがしたので、急に冷や麦が食べたくなった。

「妹を匂うなよ! 気にしているのだぞ!」

 シュラスの弟が激昂して飛び掛かってきたが、顔面に鞘の先をお見舞いしてやる。

「ぎゃ!」

 サラサスは小さな鼻を押さえてジタバタと床で転げ回った。その動きはお笑い芸人のリアクションレベルだ。面白れぇ。

「クハハ。愉快だな。お前はお笑い芸人に向いている。道化師でもやればどうだ?」

 道化師と言ってから、俺はビャクヤの祖父の顔と声を思い出した。聖飢魔Ⅱのメンバーみたいなメイクと「キューッキュッキュ!」と甲高い笑い声が頭に響く。あれも俺の子孫なんだよな、そういえば・・・。

「弟をイジメるのはそこまでにしていただきたいのじゃが、悪魔殿」

「キリマルだ。気が変わった。そこの道化に免じて、お前らの頼みを聞いてやらんでもねぇ」

「本当ですか!」

 俺を召喚した女が脚に抱き着いてきた。さっきまであった俺に対する恐怖はどこへいった?

「近づきすぎるなよ、シソ! いつ悪魔の爪で引き裂かれるかわからないぞ! それにお前はもうすぐワンドリッター家に嫁ぐんだ! 悪魔に抱き着いたなんて知られたら、シュラス兄さんが恥をかく!」

「そもそも、我らが召喚術師に頼らず、太古の儀式で悪魔を召喚した事が世間に知られれば、聖騎士が討伐に来るかもしれんがな。弟よ。恥どころの話ではない」

 へぇ、シソって名前か! 大葉みたいな体臭はたまたまだろうけどよ、クソ笑える。

「それにしてもこんなにおっとりした悪魔は初めてじゃ・・・」

「は? 俺がおっとりしているだって? どこがだ?」

「ああ、おっとりは言い過ぎじゃな。悪魔にしてはおっとりしているという事じゃ! 大抵の悪魔は悪魔のルールに従って、実力のない召喚者を瞬時に引き裂くと聞いたからの。聞く耳を持つ悪魔など聞いた事がない。正直、今回は一か八かの賭けじゃった。それぐらい切羽詰まったものだった、という事を知ってほしい・・・」

「これまで俺を召喚した者は、皆俺の手によって殺されている。油断はしない事だな、シュラスさんよ」

「ハッハ! 優しい悪魔じゃ! 非情な悪魔はそんな忠告なんてしないからの!」

「うるさい。今は俺の気まぐれで殺さないだけだ。で、お前らの下らない問題とはなんだ?」

「キリマルに頼みたい事とは・・・」

 シュラスはそこまで言って嗚咽を漏らして泣き始めた。それを見た弟妹が心配して近寄る。

「大丈夫かい? 兄さん」

「兄さま、辛いのであれば私が代わりに説明します・・・」

「いや、ワシが言う。これはワシの問題でもあるのだから」

「さっさと言え。お前らの茶番に付き合う気はないぞ」

 鼻水をハンカチで拭ってシュラスは涙に濡れた目で俺を見た。

「我が息子を殺してほしいのだ」




 冷たくニーの死体を見下ろす彼の家族に、ビャクヤは怒りを覚えた。

 彼らは暫く父親の遺体を見た後、今にも降りだしそうな雨を気にして、そわそわと空を見ている。

(なんなのだッ! その目はッ! 彼はッ! 彼はぁッ! 歴史上の重要人物を救って死んだのだッ! 勇敢なる騎士なのだぞ!)

「一応、この人は元父親だから駆け付けたけどさ・・・。もう帰っていい?」

 遺体を引き取りに来たコーワゴールド家の騎士に、ニーの息子がだるそうに訊いた。

 ニーの同僚である騎士二人は、ジロリと肥満気味の息子を睨んだ後、殉職者が腐らないように【保存】の魔法をかけ、棺桶に入れる。

 その様子を見ながら、息子はポケットから綺麗な包み紙に入った飴を取りだして、こっそりと頬張った。

(こんな時に飴なんか舐めてッ!!)

 ビャクヤは下膨れをしたニーの息子の頬を打ちたくなったが堪える。

「ママ、もうおうちに帰ろう? 雨が降りそうだよ? それにこの人は誰?」

 緑色の髪を綺麗に編み込んでいるニーの娘は、遠くで降る雨に押されて強くなる風を嫌がった。飛んでくる草や葉っぱが髪にくっつくのを嫌って頭を押さえている。

「あなたのお父さんよ」

「違うよ。私のお父さんはコーワゴールド様のお屋敷で、今もお仕事をしているもの」

「そうね」

 眼鏡をかけた、如何にも貴族の貴婦人といった感じのニーの妻の目には、何も感情が見受けられない。ここにいるのは世間体を気にして前夫の死を確認しに来ただけといった感じだ。

 マムシが根回ししたのか、ニーは我々を庇って越境してきた盗賊の攻撃で死んだという事になっていた。殺した盗賊は逃げた事になっている。

 同僚の馬車に乗せられて出発した元夫を見送ると、ニーの家族はビャクヤたちを一瞥して馬車に乗り込み、さっさとこの場を立ち去ってしまった。

 ええい! とやりきれない気持ちを、路傍にある草を蹴ることで、八つ当たりをしたビャクヤはシルクハットを地面に叩きつける。

「嗚呼! 吾輩のッ!! 神への信頼が揺らぐッ!! ヒジリ様はッ!!! 吾輩のォ!! 信仰心を!! 試しているのかッ! いいいい! 脳みそが痒い!」

 わけのわからない事を言う恋人のシルクハットを拾うとリンネは、変身の魔法の効果が切れかけて本来の姿に戻りつつあるビャクヤを心配した。

「大丈夫? 気分が悪いならもう少し休もうか? それから今は周りに人がいないからいいけど、早く変身し直した方がいいわよ。【変身】じゃなくて【完璧なる変身】を使ったら?」

 甘やかされて育ったビャクヤと違って、リンネはニーの死や、起きてしまった理不尽をしっかりと受け止めている。その図太いともとれるリンネの神経がビャクヤは少し嫌になった。

 すぐに特徴のない太った樹族に変身をし直したビャクヤの八つ当たりの矛先が――――、俯いたままのエストに向かう。

「そもそも! 国境騎士殿は君を庇って落命したのにッ! エストッ! 君は何も気にしていないように見えるがねッ! ニー・ウンズ殿の死をッ! まるで過ぎ去った、そよ風かのようにッ! 全く! 何もッ! 気にしてはいないッ!」

「わ、私は・・・」

 エストは気にしていないわけではない。元々物調面なので、そのように見えるだけだ。実際は自分を庇って死んだ騎士の事で頭がいっぱいなのだが、ビャクヤには彼女が澄ました顔をしているように見えた。

「ビャクヤ! しゃんとして! 背筋を伸ばして前を向きなさい!」

 リンネの一括にビャクヤはびくりとする。リンネがこんなに大きな声を出すことはあまりないからだ。

「エストを責めて何になるの! 私たちには目的があるでしょう! キリマルを召喚するという目的が! その為にはさっさとアルケディアに向かわないと! それにキリマルさえいれば、ニーさんもきっと生き返るわよ!」

 そう言ってウインクするリンネに、ビャクヤは内心で頭を横に振っていた。

(恐らくニー殿は生き返らない。吾輩の成功率95%の即死魔法をマムシが何回も回避できたのはマグレではない。奴が死ななかったのはッ! 運命がそれを許さなかったからだ・・・。ニー殿も・・・)

 神への信仰が揺らぎ、少しずつ心に闇が沈殿するビャクヤは、間瞬きをせず空を見つめた。

 それから変身魔法で作り出された幻の顔の下にある仮面を、両手で引っ掻いてから深呼吸をする。

「ええ、そうですね。ニー殿は悪魔が自分を蘇らせたと知ったらきっと驚くでしょうね! さて! すぐ近くに大きな街がありますし、今日はそこで休みましょう。雨も降りそうデスッ! 急ぎましょうかッ!」

 空元気を見せてビャクヤは街道を歩きだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...