殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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魔法の合わせ鏡

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 「ほう。街道の警邏に砦の戦士たちを・・・。更には巨大な塔に貧民を住まわせていたと? 経済状況はどうじゃった?」

 ビャクヤは報告書を読む、半円形の目をしたゴブリンの皇帝に跪きながら答える。

「はい、ヒジリが樹族国から商人を招いて物資の取引をしたり、国民に対してはゴデでの商売を優遇したりしていました。樹族の騎士もおりましたので、間違いなくグランデモニウム王国は樹族国の傀儡国家となっておりまするッ!」

「樹族の元奴隷オーガが治める国・・・。現人神と呼ばれておるそうじゃな。神聖国モティが黙っておらんじゃろう。この世に神がおっては、神聖国としての権威を振るえんからな」

「既にヒジリは暗殺者に幾度も狙われているそうですが、街の者によると毎回ヒジリは、鼻くそを穿るよりも簡単に暗殺者を撃退しているとのこと。ある者は地平の彼方に吹き飛ばされ、ある者は頭を叩かれて釘のように地面に埋まり、ある者は記憶を失くして立ち去ったりとッ!」

「中々の実力の持ち主だな。それでも狂王と対峙するよりはマシじゃが。狂王がいなくなったのは幸い。あれに睨まれると誰しもが狂うからのう。さてさて、頼んだヒジリ監視用のイービルアイは放ってくれたかな?」

 これが一番肝心な事だったのか、ヴャーンズ皇帝は期待するような目で両手の指先を何度も合わせて、答えを待っている。

「勿論でございまんもすッ! んんん皇帝陛下ッ!」

「うむ。ウェイロニー、魔法水晶をここへ」

「は~い」

 玉座のうしろにある扉から明るい声が聞こえてきた。

 扉が開くと、胸の先と陰部を辛うじて黒いレザーアーマーで隠しているサキュバスが、魔法水晶を持って現れる。

(むっちりしているのに、貧乳となッ?!)

 ムチムチの幼女のような肌とサキュバスらしい淫猥なるオーラ。

 股間部分はスリットが入っており、しゃがめば間違いなく陰部が見える。いつでも男のソレを股で咥えこむ事ができるのだ。

 ピンクの癖毛を揺らしてサキュバスはビャクヤに微笑むと、舌なめずりしてウィンクした。

 ビャクヤも皇帝の使い魔に不愛想なのも悪いと思い愛想笑いを返したが、隣で膝まづくリンネが嫉妬して肘突きをしてくる。

「吾輩はいつだってリンネの事が一番好きですよッ! 焼きもちを焼かないで下さいッ!」

 小さな声でビャクヤはリンネに囁く。

「だといいけど」

 リンネは自分が見ていない範囲での浮気には寛容だが、他の女を見て鼻の下を伸ばす恋人を見るのは許せないのだ。

「早く水晶を渡しなさい」

 せっかちなヴャーンズの催促に少し拗ねて、つっけんどんに水晶を渡すとウェイロニーはドロンと消え、皇帝の横に立った。

 ヴャーンズは水晶を確認して、ビャクヤが約束を守った事に満足して頷く。

「エクセレント! フハハ! 奴はイービルアイに気付かずに、間抜けな顔をしてお茶を飲んでいる」

 そんな満足そうな顔をするチョールズ・ヴャーンズ皇帝に、ビャクヤは心の中で首を振る。

(いや、ヒジリは監視に気付いているはずッ! 気にしていないだけだッ!)

「よしよし。よくやった。ビャクヤとリンネ。だが有能な冒険者が、お前たちだけだったのは実に残念な事だ・・・」

「へ? と言いますと?」

「他の斥候依頼を受けた2パーティは、砦の戦士やヘカティニスに見つかって殺された」

「種族構成が帝国と変わらないグランデモニウム王国で、どうやって帝国の冒険者を識別できたのですかッ?」

「わからん。噂ではヒジリの使い魔の索敵能力は高いという話じゃ。お前らは運が良かったのか、それともヒジリと内通しているスパイなのか。で、一応スパイを疑って身元を調べさてもらったが、スパイではなさそうじゃな。ノーム国の者よ」

 ヴャーンズの手の中には、ノーム国が発行するパスポートが二つあった。

(しまった! いつの間に! 無限鞄に入れておくべきだった・・・)

 見せるとほぼ無条件で他者から信頼が得られるノーム国のパスポートをビャクヤは常に持っていた。これがあると何かと有利になる。宿屋で空き部屋があるのにないと言われる意地悪が無くなったり、こちらを怪しむ兵士や騎士からの誤解を解くのも容易になる。

 しかし、取られるという可能性を忘れていた自分のミスに気が付き、一瞬混乱しかけたが、相手の出方を見る事にした。この歴史的人物には抗っても無意味だ。恐らく殺そうとしてもできないだろう。

「ノーム国国民は他国の政治には介入せんはずじゃが。どういう意図で介入した?」

 ヴャーンズ皇帝はビャクヤ同様【読心】の魔法を使う。油断をすれば内心を見透かされてしまうだろう。だったらある程度本当の事を言ってしまおうと考えた。

「実は宝物庫にある、魔法の合わせ鏡が欲しいのです」

「ほう。ゆえに帝国政府からの依頼を受けたと?」

「はい。それがあれば異世界に消えた仲間を呼び戻せますので」

「皆はそこの三面鏡を欲しがるのに、お前はそんなちっぽけな物を欲しがるのか?」

 ビャーンズが顎で指した先に大きな三面鏡があった。玉座の間の隅にある三面鏡は様々な風景を映し出している。ビャクヤも時々祖父に見せてもらったのでよく知っている。

 よくわからない鉄の鳥が空を飛んでいたり、光る奇妙な石板を耳に当てて独り言をつぶやき歩く沢山の人々、骨と荒野だけの世界、人のような人でない奇妙な生き物が蠢く世界が見えたりと。

「そこの鏡に入れば、その時に映し出された世界に行けるぞ。行ってみるかね? 二度とは帰ってこれないが」

 意地悪そうにそう言って、ヴャーンズはまた全ての指をトントンと合わせている。

「いえ、吾輩が欲しいのはッ! 小さな合わせ鏡、二つデスッ! 皇帝陛下ッ!」

「あれは基本的に、ただ人や物を探す魔法のかかったアイテムだと思っていたがね。他にも高価だが代用品はあるのでは? それにお前は転移魔法を易々と使う優秀な魔法使いだろう? だったら【人探し】の魔法を既に習得しているのでは?」

「陛下は、あれが宝物庫にある意味を知らないようですなッ。あれはありとあらゆる世界から自分が探す人物や物を見つけるアイテムなのデスッ。だからこその宝物ッ!」

「勿論知っているとも。お前の知識を試したのだ。ただし、あれを使ったところで欲しい物や人物を取り寄せる術がなければ、絵に描いた宝と同じ事。結局は価値の低いマジックアイテムとそうは変わらんよ。欲しいならくれてやる。仲間を召喚するという話も嘘なのだろう? どうせノームの研究者が欲しがっておるとかその程度の事じゃ。お前らは合わせ鏡を持ち帰る条件を飲んで、ノームに国民にしてもらった。そうじゃろう?」

「ぬはっ! つるっとまるっとお見通しでしたか! 流石はヴャーンズ皇帝陛下ッ! 御見それいたしまんしたぁ~!(せっかく正直に話したのに、信用してもらえなかったんごッ!)」

「用が済んだらさっさと帰れ。ノーム国とは友好関係にあるが、外国人をまるっきり信用するほど、ツィガル人はお人好しではないのでな」

「御意。それではこれにて失礼します、皇帝陛下」

 転移した事で、正規ルートではない入国がバレた事に一瞬ヒヤッとしたビャクヤだったが、ゴブリンの皇帝は意外にも寛大だった。

(ヴャーンズ皇帝は余所者には冷たいと聞いたが、そうでもなかったッ!)

 これが歴代の武闘派皇帝だったら、自分は容赦なく首を刎ねられていたかもしれないと想像して少し動揺しながらも退室する。

 外に出るとサキュバスのウェイロニーが待っており、ウフフと笑ってノーム国のパスポートをリンネに、魔法の合わせ鏡をビャクヤに渡した。

「彼女がいるなんて残念~」

 そう言ってウェイロニーはビャクヤの耳にフッと息を吹きかけると煙となって消えた。

「ファーッ!」

 耳に息を吹きかけられて鏡を落としそうになったが、ビャクヤはしっかりと鏡を持ち直した。

 そう、念願の魔法の合わせ鏡を手にれたのだ。これでようやくキリマルを召喚できる。

 魔法の二枚鏡とも呼ばれるが、なぜか一枚しかない。しかし鏡を見ると自分の前にあるはずのない鏡があって無限ループのような様相を作り出している。それが二枚手元にある。

「フぃーッ」

 ビャクヤは腋汗を拭った手の甲が、とても濡れている事に気が付いた。

(小さなゴブリンの皇帝とはいえ、能力持ちな上に数少ない虚無魔法の使い手の一人。大魔法使いチョールズ・ヴャーンズには凄味があったッ! 凄味すごあじッ!)

「見てください、リンネ。腋汗がこんなに」

「どれどれ」

 普通の女子ならそこドン引きするのだが、リンネは違った。クンクンとビャクヤの手の甲を匂っている。

「柑橘系ね。グレープフルーツみたいな匂いで私は好きよ」

 ビャクヤの胸がキュンとなる。嫉妬が激しい事以外、寛容なる彼女に何の不満があろうか。ない。

 エリートオーガの衛兵がいる廊下だったが、オーガ達はリビングアーマーの如く動かない。なのですっかり存在を忘れてビャクヤは、リンネに抱き着くと無理やり彼女の腋を嗅いだ。

「わっ! びっくりした! 私の腋、臭いの?」

 驚くリンネは匂いを気にしている。

「いいえッ! 寧ろッ! 甘いミルクみたいな匂いがしますんごっ!」

 そう言ってビャクヤはリンネの腋を舐めた。

「ん! ちょっと、そんなところを舐めたら汚いよ? 汗かいてるから!」

「リンネに汚いところなんてありませんぬッ!」

 リンネの腋をもう一度舐めたその時。

 ガシャンと後ろで音がする。振り返って見ると衛兵のズボンが盛り上がっていた。

「おまえら! 人前でイチャイチャするな! こっちは三日も女を抱いていないのだ! 勃起してしまっただろう! どうしてくれる! さっさと立ち去れ!」

「ひえっ!」

 ビャクヤとリンネは自分たちが如何にバカップルだったかを思い知って、急いで城から出て行った。



「ふ~。恥ずかしい目に遭いましたね。外でイチャイチャするのは控えないと。でもリンネが愛おしくてつい・・・」

「それだけ私のことを愛してくれてるって事だよね。女としては嬉しいよ? でもビャクヤがサキュバスの色目に喜んでいたのはちょっとねぇ~」

「とぉんでもないッ! 吾輩、愛想笑いを返しただけでごんすっ!」

「ほんとに?」

「ほんとッ!」

「じゃあ許す。チューして」

「はい! 喜んでぇ!」

 ビャクヤはリンネの唇にキスをしながら指を鳴らした。

 すると予め詠唱が済んでいたのか、転移魔法が発動して地下図書館へと飛んでいた。

「おやおや、若いってのはいいねぇ」

 ホログラムの老婆がキスをする二人の間で、冷めた目をして見上げている。

「どうやって転移してきたんだい? 樹族国は中から外への転移は容易だが、外からとなると結界があるから難しいはずだよ」

「吾輩、大魔法使いですから」

 ビャクヤの説明は説明にはなっておらず、司書であるナビも詳細を聞く気がないのか鼻を鳴らして肩を竦めた。

「で、例の物は見つかったんだろうね?」

 ビャクヤは仮面にカートゥンキャラが自慢げに爪を磨く時のような表情を浮かべて、魔法のアイテムをナビに見せた。

「もぉちろん!」
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