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マナと虚無
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ナビは目を細めて魔法の合わせ鏡を見ている。喜んでいるのか、疑っているのかは表情からは汲み取れない。
だしかビャクヤが合わせ鏡を差し出しても、決して受け取ろうとはしなかった。
「気が変わって要らなくなったのですかなッ?」
ビャクヤは星の国の者にある特性を忘れていた。それはマジックアイテムに触れると魔法効果が弱まる、或いは消えるという特性だ。
「勿論貰うよ。取り敢えずテーブルの上に置いておくれ。お茶とお菓子を出すから少しお待ち」
老婆に言われるがまま、ビャクヤはアイテムをテーブルの上に置いた。
ナビは杖をカツカツと突いて、デュプリケーターに向かうとミルクティーの入ったマグカップとベイクドチーズケーキを持って戻ってくる。
「さぁお食べ。おや、なんであたしがマジックアイテムに触れないのかを不思議に思っているようだね、お嬢ちゃん」
老婆もテーブルにつくと、杖は消えた。いくら魔法に慣れているリンネでも、杖を消す意味が理解できなかった。座るたびに、杖を保管庫にでも転移させているように見えるのだ。
(マジックアイテムに触れない事よりも、杖を転移させて魔法点を消費する事のほうが不思議よ)
リンネは思わずそう言いそうになりながらも、黙ってチーズケーキを見ている。
「わたしがマジックアイテムに触ると魔法の力が消えてしまうからさ。さぁ遠慮せずに召し上がれ」
「いただきます」
リンネは焼き目の美味しそうなチーズケーキを口に入れた。美味しいがチーズが濃厚過ぎて、ミルクティーと合わない。ストレートティーが飲みたかったなどと思いながら、横目で恋人を見る。
ビャクヤは上品な手つきでティーカップを口まで持ち上げて喉を湿らし、チーズケーキをフォークで切って食べている。
「濃厚なチーズの味と少しの酸味、そして小さな一切れなのにッ! これ一個でお腹が膨れそうなほど材料がギュッと詰まっておりまんすッ!」
当然ながらマスクを外しているので、ビャクヤの表情はモザイクで見えない。どんな顔をして食べているのだろうかと考えながら、リンネはノームの老婆、ナビに質問をする。
「どうしてお婆さんが触ると魔法が消えるの?」
「魔法を信じていないからさ。この世の全ては計算で解明できるとあたしは思っているからねぇ。そういう者にはマナ粒子が寄ってこないんだよ。なんでだろうねぇ」
「マナは意思を持っているって、死んだお婆ちゃんが言っていました」
「かもしれないねぇ。とある博士がマナは虚無という絶望の中から作り出された希望だと言っていたよ。だから夢を見ない者や、想いの強くない者には近寄らないんだってさぁ。絶望から生まれたものがもう一度絶望に近寄りたいとは思わないだろう? ってね。ジジイは科学者なのに幻想的な事をよく言って、夢想していたもんだぁよ」
ノームの老婆は遠い目をして昔を懐かしんでいる。
ビャクヤは味覚全部を総動員して、濃厚なチーズケーキを堪能していたが、老婆の話に矛盾点がある事に気がついてフォークを置いた。
「ではなぜ、悪のメイジがいるのですッ? 彼らは絶望しか振りまきませんよッ?」
「悪のメイジや、時折歴史に現れる強力な狂人は強烈に魔法を信じているし、尚且つ他者に災厄を落とすという希望に満ちているからさ。博士の言うとおりならね」
「マナに意思があったとしても、善悪の判断はできないという事ですか・・・」
「そういう事だね」
(では虚無と魔法を同居させているヤイバという神の子はどうなるのか。いわば絶望と希望をその身に宿しているという矛盾があるッ! 父親に比べ彼の精神が不安定なのもそのせいなのか?)
「虚無ってなんなの?」
リンネが紅茶を飲みながらビャクヤに訊く。
「何度かこれまでにも説明したような・・・。虚無魔法は・・・」
しかしナビがそれに横入りをして説明を始めてしまった。
「虚無とは別名サカモト粒子と呼ばれていてね。サカモト神が見つけた素粒子で・・・。まぁ目に見えない小さな粒だね。この小さな粒を更に深く覗けば、やがて小さな空間を見つける事が出来るんだよ。で、その中にも宇宙があってね・・・。おっと話が横道にそれたね。まぁ簡単に言うと絶望した人に集まるマナみたいなもんさね」
「そのサカモト粒子はどのように影響するの?」
「集まった後、拡散する際に空間のエネルギーを削り取って別宇宙に放り出すのさ」
「??」
「時々聞かないかい? 強い絶望に打ちひしがれた人が、涙の水溜まりを残して消える話を」
「あれは妖精スクォンクの仕業だと思ってた」
「違うよ。強い絶望を抱いた人を虚無が削り取っていったのさ。サカモト粒子は安定しないから、発生した時のエネルギーに見合った何かを一度削り取る。すると、さっき言った小さな世界へと旅立って消えてしまう。だから跡形も残らないのさ」
「なんだか怖いね。私はなるべく絶望しないようにしよう・・・」
「それがいいね。人は常に希望を抱いて生きるべきさ。だからあたしも、あんたたちに出会えた。ヒッヒッヒ」
「それで、いつ我が仲間を召喚出来るのですかな? レディ」
「召喚の準備には時間がかかるから明日来てくれるかい? それから魔法の合わせ鏡は二つとも置いて行っておくれ。一応本物かどうか調べたいからね」
「了解しました。では明日10時ごろに来まんもすッ!」
「あいよ」
ビャクヤはシルクハットを軽く上げるとまた樹族に変身して、転移魔法でアルケディアへと飛んだ。
だしかビャクヤが合わせ鏡を差し出しても、決して受け取ろうとはしなかった。
「気が変わって要らなくなったのですかなッ?」
ビャクヤは星の国の者にある特性を忘れていた。それはマジックアイテムに触れると魔法効果が弱まる、或いは消えるという特性だ。
「勿論貰うよ。取り敢えずテーブルの上に置いておくれ。お茶とお菓子を出すから少しお待ち」
老婆に言われるがまま、ビャクヤはアイテムをテーブルの上に置いた。
ナビは杖をカツカツと突いて、デュプリケーターに向かうとミルクティーの入ったマグカップとベイクドチーズケーキを持って戻ってくる。
「さぁお食べ。おや、なんであたしがマジックアイテムに触れないのかを不思議に思っているようだね、お嬢ちゃん」
老婆もテーブルにつくと、杖は消えた。いくら魔法に慣れているリンネでも、杖を消す意味が理解できなかった。座るたびに、杖を保管庫にでも転移させているように見えるのだ。
(マジックアイテムに触れない事よりも、杖を転移させて魔法点を消費する事のほうが不思議よ)
リンネは思わずそう言いそうになりながらも、黙ってチーズケーキを見ている。
「わたしがマジックアイテムに触ると魔法の力が消えてしまうからさ。さぁ遠慮せずに召し上がれ」
「いただきます」
リンネは焼き目の美味しそうなチーズケーキを口に入れた。美味しいがチーズが濃厚過ぎて、ミルクティーと合わない。ストレートティーが飲みたかったなどと思いながら、横目で恋人を見る。
ビャクヤは上品な手つきでティーカップを口まで持ち上げて喉を湿らし、チーズケーキをフォークで切って食べている。
「濃厚なチーズの味と少しの酸味、そして小さな一切れなのにッ! これ一個でお腹が膨れそうなほど材料がギュッと詰まっておりまんすッ!」
当然ながらマスクを外しているので、ビャクヤの表情はモザイクで見えない。どんな顔をして食べているのだろうかと考えながら、リンネはノームの老婆、ナビに質問をする。
「どうしてお婆さんが触ると魔法が消えるの?」
「魔法を信じていないからさ。この世の全ては計算で解明できるとあたしは思っているからねぇ。そういう者にはマナ粒子が寄ってこないんだよ。なんでだろうねぇ」
「マナは意思を持っているって、死んだお婆ちゃんが言っていました」
「かもしれないねぇ。とある博士がマナは虚無という絶望の中から作り出された希望だと言っていたよ。だから夢を見ない者や、想いの強くない者には近寄らないんだってさぁ。絶望から生まれたものがもう一度絶望に近寄りたいとは思わないだろう? ってね。ジジイは科学者なのに幻想的な事をよく言って、夢想していたもんだぁよ」
ノームの老婆は遠い目をして昔を懐かしんでいる。
ビャクヤは味覚全部を総動員して、濃厚なチーズケーキを堪能していたが、老婆の話に矛盾点がある事に気がついてフォークを置いた。
「ではなぜ、悪のメイジがいるのですッ? 彼らは絶望しか振りまきませんよッ?」
「悪のメイジや、時折歴史に現れる強力な狂人は強烈に魔法を信じているし、尚且つ他者に災厄を落とすという希望に満ちているからさ。博士の言うとおりならね」
「マナに意思があったとしても、善悪の判断はできないという事ですか・・・」
「そういう事だね」
(では虚無と魔法を同居させているヤイバという神の子はどうなるのか。いわば絶望と希望をその身に宿しているという矛盾があるッ! 父親に比べ彼の精神が不安定なのもそのせいなのか?)
「虚無ってなんなの?」
リンネが紅茶を飲みながらビャクヤに訊く。
「何度かこれまでにも説明したような・・・。虚無魔法は・・・」
しかしナビがそれに横入りをして説明を始めてしまった。
「虚無とは別名サカモト粒子と呼ばれていてね。サカモト神が見つけた素粒子で・・・。まぁ目に見えない小さな粒だね。この小さな粒を更に深く覗けば、やがて小さな空間を見つける事が出来るんだよ。で、その中にも宇宙があってね・・・。おっと話が横道にそれたね。まぁ簡単に言うと絶望した人に集まるマナみたいなもんさね」
「そのサカモト粒子はどのように影響するの?」
「集まった後、拡散する際に空間のエネルギーを削り取って別宇宙に放り出すのさ」
「??」
「時々聞かないかい? 強い絶望に打ちひしがれた人が、涙の水溜まりを残して消える話を」
「あれは妖精スクォンクの仕業だと思ってた」
「違うよ。強い絶望を抱いた人を虚無が削り取っていったのさ。サカモト粒子は安定しないから、発生した時のエネルギーに見合った何かを一度削り取る。すると、さっき言った小さな世界へと旅立って消えてしまう。だから跡形も残らないのさ」
「なんだか怖いね。私はなるべく絶望しないようにしよう・・・」
「それがいいね。人は常に希望を抱いて生きるべきさ。だからあたしも、あんたたちに出会えた。ヒッヒッヒ」
「それで、いつ我が仲間を召喚出来るのですかな? レディ」
「召喚の準備には時間がかかるから明日来てくれるかい? それから魔法の合わせ鏡は二つとも置いて行っておくれ。一応本物かどうか調べたいからね」
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