殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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殺しの快楽

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 金色の瞳をした樹族の女騎士が間一髪で【沈黙】を唱えていなければ、今頃オビオは床に倒れて死んでいただろうよ。

 そんなつまんねぇ死に方はねぇよなぁ? もっと悲鳴を上げて死んでもらわねぇと。呪文の中でも即死系だけはどうも好きになれねぇ。あれはある意味ご褒美だ。簡単に死ねるからな。

(ん? 樹族の嬢ちゃんの後ろに、見覚えのある顔が・・・)

 獅子人がオビオに声を掛ける。

「よぉ、オビオ。助けに・・・。って、お前なにやってんだ!」

 この獅子人、匂いがトウバと似ているがトウバじゃねぇな。息子か親戚か。

 全部剥がれきっていないカーテンの向こう側での疑似口淫の影絵を見て、獅子人は苦い顔をしていた。こりゃあ親父が息子のオナニーを見てしまった時のような顔だ。クハハ!

「トウスさん!」

 オビオが嬉しそうな顔をして獅子人の名を呼ぶと、獅子人は素早く状況を察して、声の出せないホキキの頭をブロードソードの腹で叩いて昏倒させた。

(クハハ! わかり易い名だな。トウスか。って事はトウス・イブン・トウバという名前だな)

 ホキキが魔法を唱えた途端に隠遁スキルを使って気配を消していた”邪悪なる“ピーター君は、形勢が逆転したのを見計らって姿を現し、オビオを指さして女騎士に告げ口した。

「見てよ! 騎士様! オビオったら修道騎士様とエッチな事をしているよ! 口淫をさせてるよ! 口淫! それに修道騎士様の頭を振る速さったら、口淫矢の如しだよ!」

 クハハ! 上手い駄洒落だな。くそが、面白くて集中できねぇ。それにしてもホキキが意識を失っても結界が無くならないってこたぁ、やはりアイテムでの結界だからか。

「オオオオ、オオッ! オビオビオビオ、オォォォビチビチビチ、オビオォォ!」

 オビオを助けた女騎士様は、顔と長い耳を真っ赤にして茹で蛸のようだ。

 なるほどなるほど? あのストロベリーブロンドの騎士様はオビオの事が好きなんだな?

 そう女騎士様に訊いても、即座に否定しそうな頑固な顔をしているが。

 それにしても集会場に雪崩れ込んできた王国騎士と教団の一手一手がまどろっこしい。王国騎士のなんと練度の低い事か。坊ちゃんのステコとガノダの方がもう少し強かったぞ。

「イメージはもう固まったはず。キリマルにこの結界を突破する力はない」

 アマリが感情のない声でそう告げた。

「タイミングぐらい自分でわかるわ。白雨微塵切り!」

 悪魔の力が成長したせいか、幅のある斬撃が―――、ようやく技名通りの微塵切りとなった今。

 樹族の結界は必殺技に耐えられず、爆発するようにして扉を巻き込んで粉となった。

「ドラァァァ!! よくも俺様を都合よく使役しようとしたなぁ! 糞どもぉ!」

 修道騎士をここまで連れてきてやったのに、俺ごと一緒に封印するその性根が気に食わねぇ。

 俺は台所から出ると、狂信者と王国騎士どもが混戦する中、流れ弾のようにして飛んできた火球をぶった切る。

 そして近くにいた青いローブの信者の腹をぶっ刺した。肝臓を刺したから出血大サービス死だ。痛かろう? クハハッ!

「なにも殺さなくても・・・!」

(何言ってんだ、オビオ。ここは強者が弱者を一瞬で殺せる魔法の星だぞ。お前もさっき死ぬ一歩手前だったろうが。それに俺には悪魔の力があるんだ。使わないでどうする、勿体ないだろうがよ。そんな事よりも殺し、殺し!)

 俺は取り敢えず殺しても面倒な事にならなさそうな信者どもを殺していく。青いローブの真ん中には星のマークがあるからわかり易い。

 もしかしてこいつら、星のオーガの信者か? だったら殺すのは気持ちいいなぁ。博士かヒジリの信者って事だろう? ヒジリの信者ならいいんだけどよぉ。ヒヒヒ。

 流れるように動く俺に斬られて死んでいく信者の顔には、悪魔に負けた悔しさと恐怖が必ず浮かんでいる。脳内麻薬がドバドバ出てくるぜ。射精しそうだ。

 白目をむきそうになりながらも、俺はオビオの方を何となく見た。

(まだフェラチオごっこしてんのか。あの修道騎士にソーセージをくれてやればいいのに、アホだな)

 いや、オビオはもうソーセージから手を離している。メリィは食い意地が張ってるのか何なのかはわからないが、夢中になってオビオのお尻を掴んで魚肉ソーセージを食べている。

(そんなにうめぇのか、あれ。いいな、地球の食いもん)

 【沈黙】の魔法でオビオを助けたシルビィの部下は、今も続く疑似フェラチオを見て地団駄を踏んで悔しがっている。この乱戦の中でえらく余裕だな。

 いや、余裕なはずだ。気が付くと俺はホキキと残り一人の信者以外を殺していた。ホキキは気絶しているから、今殺しても面白くねぇ。先にあの美少年信者を殺すか。

 そう思った瞬間、その信者はワンドを投げ捨てて降参のポーズをとった。

「チッ!」

 思わず舌打ちしてしまう。少しは抵抗してくれねぇと面白くねぇだろうがよ。

「あんたはホキキの命令に従いたくないって態度だったけど、なんでだ?」

 ようやくフェラチオごっこの終わったオビオが服を着ながら、その信者に訊ねた。

「そりゃそうさ、僕の支部は奴に乗っ取られたようなものだからな」

 ほう、って事はこいつは純粋な星のオーガの信者って事か?

「だったらなんで抗わなかったんだ?」

 そうだ、なぜ抗わねぇ?

「君も体験しただろ。ホキキは闇魔法使いの闇樹族だ。逆らえるわけがない・・・」

 まぁ【死】の魔法を唱えた時点でそれはわかってたがよ。

 騎士たちはホキキが【死】の魔法を唱えた事に気が付いてなかったみたいだな。まぁどっかのICPOよろしく、騒がしく雪崩れ込んできたからな。

 だとしたら集会場へ突入する際に保険として【沈黙】を唱えたあの女騎士は有能だ。並みの騎士ならば真っ先に信者を目視して攻撃魔法を放っている。

「闇樹族だと・・・?」

 騎士たちが騒めいていると、気絶しているホキキの変身時間が切れて真の姿が現れた。

 黒い髪に青白い肌。ん? 俺が獣人国の遺跡で見た闇樹族は黒い髪に浅黒い肌をしていたけどな。個人差があるのか?

 オビオの彼女も王国騎士もホキキを見て鼻に皺を寄せている。騎士の誰かがホキキの顔に唾を吐きかけた。

「一族の恥さらしめ」

 おいおい、他人の顔に唾を吐くってのは騎士がしていい行為なのか? まぁそこまでするって事は殺しても問題なかろう。ホキキは気絶しているし、後で、だがな。

「なるほどなぁ」

 さも全ての事情を察した風な顔を装って、俺はゆっくりと刀を鞘に戻し、降参した信者の少し斜め後ろ横に立つ。

「闇樹族に教団を乗っ取られて仕方なく従ったと。ハハハ! そんな言い訳が通じると思うか?」

 俺は王国騎士どもに審判を委ねるような口調でそう言った。誰もそんな言い訳が通じるわけがないという顔をしている。

 勿論、そんな顔に見えたのは俺の主観だが―――。

「え!?」と振り向いた信者の男の顔が、青ざめて震えていた。

 何せおめぇの腹からアマリが突き出ているからなぁ。キヒヒ!

「あ、悪魔め・・・。ゴフッ!」

 そうそう、その顔。これから死んでいく者の顔!

(あぁぁぁ。気持ちいい。勃起する。よし! 後でアマリを抱こう)
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