殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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ビャクヤのパンチ

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 そのタイツのような黒いパワードスーツのどこに、駆動するギアなり何なりが入っているんだ?

 ヒジリの体からキュイーンと耳障りな音がしている。

 現人神の拳を沈めたままの俺の腹に、衝撃がもう一度突き抜ける。ゼロ距離、予備動作無しでも、この男はパンチが打てるのだ。

「グワッ!」

 それが本人の技なのか、パワードスーツのお陰かはわからねぇ。

「酷いッ! キリマルは人々を生き返らせようとしただけなのにッ!」

 ビャクヤが駆け寄ってきて、俺の体からヒジリの拳を引き抜こうとしている。クハハ。可愛いやつだ。

「それが余計だというのだ。ビャクヤ君」

「貴方だってッ! 沢山の人々を蘇生したはずですよ! バートラでの吸血鬼との戦いの時はどうです? 魔物化して死んだも同然のゴブリンたちを元に戻したでしょう!」

「あれは病気を治しただけだ。吸血鬼病という病をな」

 それを聞いたウメボシが半眼で主を見ている。

「そんな病、ありませんが? マスター。あの時のゴブリンたちは完全に死亡しており、死体の脳内や神経に微弱な電流を流して操る何かしらの力が、主である吸血鬼にあったという結論に至ったではないですか」

「そうだったかね」

 飄々と嘘をつきやがって。

 くそったれが、こうしている間にも体の何かが消えていくような気がする。なんとかこのめり込んだ拳を抜かねぇと・・・。

 震える手でヒジリの腕を掴もうとしたその時。

 そっと現人神の腕に触れる、全身ミスリル銀のプレートアーマーを着たオーガが一人。

「やめど、ヒジリ。王様であるお前の命令に従わなかったこの悪魔に怒っているのはわがる。おでたちの掟は、力こそ全てだかだな。あそこで死んで地べたに寝転んでいる奴らも、弱かったから死んだ。でも・・・」

 銀髪に金色の瞳。黙っていれば美女だが、如何せんオーガ。喋り方はアホっぽい。そのアホっぽいヘカティニスちゃんの金色の瞳に涙が浮かんでいる。

「見ど。生き返った奴らの喜ぶ家族や仲間の顔を。おでもお母ちゃんが死んだら悲しいし、今も仲間のスカーが死んで悲しい。悲しみは弱者の証拠。でもおでは強いのに悲しい」

 丁度スカーが蘇ったのを見て、ヘカティニスは地面に魔剣へし折り――――、意思を失ったワイルダーを突き立てて、スカーに走っていき抱きついた。

「お兄ちゃん・・・」

 アマリの兄は、この国で英雄傭兵ヘカティニスという戦士の武器として残っていた。

 アマリが以前、ゴデの街に兄の気配を感じると言っていたのはこういう事だったんだな。

「ヒジリ国王陛下」

 ゴブリンの召喚士ロロムがやって来て、ローブを少し託し上げてからヒジリに跪く。

「彼を召喚したのは私です。罰ならキリマルの主である私が受けましょう」

「この強力な悪魔への罰はこれで十分だ。私の魔法無効化能力で、そのうちこの世界から消えていなくなるだろうからな。だが、帝国の者が他国のトラブルに許可なく加わった以上、国際法違反になるな。君たちにもツィガル帝国にもペナルティを負ってもらう」

 よく言うぜ。お前だって樹族に力を貸して他国で動いていたんだろう? どうせ。

 ロロムもリツもやむなしという顔をして黙っていたが、ビャクヤが立ち上がって必死になって二人を庇う。

「彼らは政治的な意図があってやってきましたがッ! イグナ様を助けッ! 更に増えていたであろう犠牲者の数を抑えましたッ! 言うなればッ! 正義を成したのですッ! なのにッ! 貴方はッ! 後からやって来てッ! 自分が活躍できなかった事に腹を立てているッ! 今やっていることはッ! 単なる八つ当たりですよッ!」

「正義というあやふやな言葉は、言った本人の耳に心地良いものだ。八つ当たり? 私の心を読んでからそう言ってもらおうか、できるのであればね」

 できるわけがねぇ。魔法が一切通じねぇんだからな。ビャクヤが得意とする【読心】も弾いているだろうよ、ヒジリは。

「マスターの心拍数が上がっています。どうやら図星だったようですね」

 ウメボシが意地悪くそういった。おほぉ! ウメボシちゃんは可愛いねぇ。

「余計な事を言うな、ウメボシ」

「申し訳ありません」

「くだらないッ!」

 ビャクヤは怒ってマントを翻して両手を広げた。

 俺にはなんとなくわかるぜぇ。お前が信仰していた神は思いの外、非情で利己的だ。お前も神に八つ当たりぐらいはしてぇよなぁ?

「この星は貴方の実験や観察の場ではないのですよッ! ハッキリいいましょうかッ! 我らもこの世界もッ! 貴方のものではないッ! 自分の思い通りにならなかったからといってッ! 八つ当たりするような神はッ! この手で・・・! この手で修正してやるッ!」

 薄っすらとビャクヤの右腕が灰色に光っているように見える。

(あの拒絶の光・・・。まさかな・・・。いやいや、無理だろう。お前はヤイバじゃねぇんだ。虚無魔法なんてどうやって習得した? 虚無を纏ったりなんかしたら自分の右腕も失う事にもなるぞ! 止めろ!)

「止めとけ、ビャクヤ・・・」

 くそが、デカい声が出せねぇ。神属性の者から攻撃を受けると、こんなにも力を奪われるのか・・・。

 喧嘩をしたことがない者がよくやるような、ヘッピリ腰の灰色の拳は、ウメボシがヒジリの前に張ったフォースシールドを簡単に砕いた。

 と同時に灰色の光は消えて、魔人族の力ない拳が、慢心していたヒジリの頬を叩く。

 ――――ペチ!

 一秒ほど間が空いた。

 それは、周りの誰もがこの国の王を怒らせた瞬間だと考えて恐怖した時間だ。

 ――――ズドドドドドド!!!

「は?」

 俺は思わずそう叫んだ。俺の前にいたヒジリが突然消えたからだ。

 なぜか屁っ放り腰のビャクヤのパンチはヒジリを吹き飛ばし、かの現人神は建物を壊しながら地面にバウンドして吹き飛んでいった。

「わぁぁぁ・・・」

 ビャクヤは驚いて、腰が砕けへたり込んでいる。

 自分でやっといて、なんでお前が一番驚いてんだよ!

「サカモト粒子が、フォースシールドエネルギーの、“次元の網”をすり抜け、別宇宙に移動したのを確認しました。つまりビャクヤ様の弱々しいパンチは、フォースシールドを打ち破ったのです。その後、マスターが吹き飛んだ原因は解析できませんでした」

「クハハ・・・! 冷静に分析している場合か? ウメボシちゃんよぉ。お前さんの主様が、ビャクヤのへなちょこパンチで大ダメージを食らったんだぜぇ?」

「問題ありません。マスターはすぐにでも回復するでしょう。それよりもさっさとお逃げになられたほうが宜しいかと。マスターは今の事象に興味を持ちました。とても興奮しておられます。ビャクヤ様を実験台にするかもしれません」

 科学者ってのは時に無慈悲だ。

 サカモト博士も善人ではあったが、実験の事となると話は別だ。なるべく人道的にはやるとは言っていたし、周囲にもそのように啓蒙はしていたがよぉ。実際のところはどうだか。

 無生物に知能を与えたり、永遠に生きる吸魔鬼のような存在を作り出すのはやり過ぎだ。

 ビャクヤもヒジリからの仕返しが怖くなったのか、ロロムに叫んだ。

「ロロム様! キリマルとの契約を吾輩に!」

「うむ! 直様!」

 ロロムも理解している。ビャクヤが恐怖し、本気で逃げるつもりでいることを。

 ゴブリンの召喚士がロングスタッフを掲げると、よくわからん紋章がビャクヤの左胸に輝く。

「我はお前の主にして命! この命尽きるその時まで、我に従え! キリマル!」

 そう言ってビャクヤは仮面を外して、俺の閉じたギザギザ牙の口にキスをした。

 キャッ! とウメボシが顔を真赤にしている。妙な妄想でもしてんだろうな。

 俺の左胸にもビャクヤと同じ紋章が刻まれた。真名を知られた時よりも紋章の光は強い。

 ――――ドゴン!

 壊れた建物を無視し真っ直ぐやって来るヒジリが見えた。どうやっているのか、触れる前から壁を突き破り、足元に転がる破片を弾き飛ばしている。

「フハハハ! まだ地球でも明かされていないサカモト粒子の仕組み! それを知る機会が今、ここに!」

 俺とはまた違った狂気。

 知識欲という欲望の塊を顔に浮かべ、科学者兼格闘家はやって来る。

 サカモト粒子の仕組みだぁ? だったらお前の息子であるヤイバでも調べりゃいいだろうが!

「うわぁぁぁぁ! 来たぁぁぁ!! リンネ、キリマル! 行きますよぉ! グレイタァァァァ!!! テレポーーーーーテーーーーションヌッ!!!」

 あと少しでヒジリの手がビャクヤに届く、というところで転移魔法が発動した。
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