殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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強力な暗黒騎士

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「ジョン!」

 母親が、俺の腕の中のガキの名を叫ぶ。

 名を聞いてしまった。

 それは縁を作ったという事だ、と俺は心のなかで呻く。

(やっちまった)

 縁を作ったからには始末をつけねぇと。殺すなり助けるなりな。

 子を助けようとする母親のスカートを引っ張って、必死に引き止めるピーターを見ながら俺は吠える。

「おおおおおおおおおお!!」

 背中が痛ぇ。ミリミリ、ムリムリと奇妙な音がした。最初は次元断に体が吸い込まれているのかと思ったがそうでもなかった。

 なにか骨っぽいものが背中から突き出ているのは分かる。そして、それを動かせる事も本能的に理解できた。

 あぁ背中に羽が生えたんだわ。

 出来れば見栄えの良い聖なる天使の羽みたいなのを期待したが、視界の端で羽ばたくそれは、コウモリのものだった。

 急に何もなくなった空間を埋めようとする空気の流れに逆らって、力いっぱい羽ばたくと少しずつだが、次元断から距離が開く。

「よし、いいぞ。もうそろそろ次元断も消えるはずだ」

 時間差次元断は技として扱い難い分、亀裂を作っている時間が長いし、吸引力も半端ねぇ。

 しかし、消えてしまえばその後を心配する要素は何一つない。

 が、未だ空間の裂け目はある。

 後少しで吸引の範囲から逃れられるってのに! くそが!

「【蜘蛛の巣】ッ!」

 ビャクヤだ! あの野郎、いいタイミングで来やがって!

 ビャクヤとリンネが捕縛系の魔法を使って綱引きのように糸を引っ張って、俺を吸引の範囲から出した。

 流石は腕力と頑強さが急成長したリンネだけはあるな。

「すまねぇな、お前ら」

「なんのッ!」

 俺はビャクヤとリンネに礼を言いながらジョンを母親に渡すと、多少加減してダーク・マターを殴りつけた。

「こんな場所であの技を使うバカがいるか! コノヤローッ!」

 手加減したのは、殺すとこいつがQかどうかわからねぇからだ。

 死ぬのは宿主だけでQ本体は不死身。もしこいつがQならば、また誰かに憑依して邪魔をしてくるだけだからな。

 憑依も簡単じゃないみたいな事を言っていたし、固定しとけるならそれに越したことはねぇ。

 だが、どうする? お前はQか? なんて聞いて「ハイ、そうでぃす。ダッフンダー」なんて言うわけもないしな。

 悪魔の目が発動してくれればいいが、同じ人物や物を見るにはリキャストタイムが割とランダムなんだよなぁ。

 悪魔の目は俺が成長するたびに情報量が多くなるのはいいが、発動条件がコロコロかわるのが面倒なんだわ。

 最近は長いとリキャストに一週間ぐらいかかる。短いとそれこそ一分だ。その乱数の中で約7.7%の確率で相手の能力なり変装なりを見抜く事ができる。

「す、すみませぇん!」

 ダークは土下座をする。

 だから中二病設定はどこにいったんだよ。仮面ライダーみたいな、カッコいい黒の全身革鎧着ているのによ。

 そのダークの頭に小さな足が乗っかった。

「お前な、自分の実力示すのは良いけどよ、うっかり人を殺しそうになってたんだぞ。周りに迷惑かけてんだ。全方位に土下座しろよな!」

 邪悪なるピーター君は楽しそうだ。それは俺がやりたかったねぇ。

「はいぃ!!」

 ダークは土下座したポーズのまま垂直に跳ね跳び、ピーターを弾き飛ばして空中でギュルギュル回転しながら謝罪をした。

 どうやったらそんなガメラみたいな芸当ができる?

「迷惑をおかけしてすみまぁ死えぇぇんでしたァァァ! 皆様ぁぁぁ!!」

 ロータリースピーカーのように、謝罪の声にコーラス効果が乗る。

「あ、あれはッ!! 伝説のッ! 空中回転ッ! 土下座ッ!!」

 ビャクヤが驚いて少したじろいでから、尊敬の眼差しをダークに向けた。まるで貴重で眩しい宝石でも見ているかのようだ。

「なんで土下座なんかに驚いてるの? 彼は謝っているだけでしょ?」

 リンネの意見はもっともだ。

「ただの土下座ッ?! リンネはあれを知らずしてッ! 十八年間生きてきたというのですかッ!」

「知らないわよ!」

 恋人の反応に、ビャクヤはやれやれと両手を肩まで上げて首を振っている。

「まず瞬間的に脚の筋力と腕力をパンプアップして垂直に跳ぶ、なんて芸当が難しいのですよッ! そして土下座をしたまま尻と頭を互いに逆方向に向けて、体をコマのように回転させるッ! なるべく滞空時間を伸ばすためにッ! 更にッ! 魔法点を消費してッ! 【軽量化】と【浮遊】の魔法を自身にかけるのですッ! 行動中の魔法詠唱が難しい事をリンネも知っているでしょうッ!」

 ビャクヤはリフレクトマントで防御態勢を取る時以外は、簡単に行動しながら詠唱をするが、普通のメイジは呪文を唱える時に動きが止まる。

「そ、そう言われれば・・・」

「つまり彼は、攻撃しながら魔法も唱えられるッ! 優秀な暗黒騎士でもあるという事ですよッ!」

 なんで時間差次元断で評価を得られずに、土下座で評価されてんだよ、ダーク・マターは。

「キリマルッ!」

 嫌な予感がする。

「彼を闘技大会の仲間として迎え入れて下さいんぬッ! 彼も喜んで仲間になるはずですよッ!」

「ククク・・・。我の実力、土下座だけで漏れ出てしまったか」

 土下座で痺れた脚でヨロヨロと立ち上がって、ジョンとその母親に腰低く謝罪をしたダークは、振り返ってジョジョ立ちをして笑った。

 そのダークの頭を鞘で小突く。

「調子に乗んな。お前は技が俺と被っているし、キャラがビャクヤと被っているだろう。コズミックペンの書き分けが大変になんだろうが!」

 Qであるかどうかを確認するために、メタい事を言ってみた。

 奴なら「ペンがページに隙間を見つけて書き込まない限り、話は既に決まっている」とか言いそうだが・・・。

「???」

「ビャクヤ! こいつの心の奥底を読め! ダークは精神抵抗するなよ!」

「へぃ!」

 なんだその三下風返事は、ビャクヤ。

「実力値15! 属性(アライメント)は混沌(カオティック)・善(グッド)。本名はッ! ダーク・マター!」

 本名なのか・・・。

「腕力はなななな! なんとッ! 脅威の18+! 怪力ですッ!! 魔力も16ありますッ! 頑強さも紙装甲の暗黒騎士なのに16ッ! それ以外は並ですね。ですが、人間族にしていは凄い実力者です」

 どうやらQではなさそうだな。奴はビャクヤに惚れてるからな。あの美形顔を見てこんな素っ気ない態度は取れない。

 なにせリンネですら、ビャクヤにべったり寄り添って他の女を警戒するレベル。

「ククク! 我が実力を視たのか! 魔なる者よ! さぁひれ伏せ! 跪け! そして我が足を舐めるのだ! 暗黒の前に恐怖せよ! 威圧スキル発動!」

 ・・・しかし威圧スキルは誰にも効果を与えなかった。

 ピーターが走ってきて、短い脚でローキックをダークにかます。

「調子に乗るなつってんだろ!」

「――――つぅッ!」

 痛がり方まで中二病だな・・・。

「いいか、ダーク。お前はパーティ内では最下層だ。能力があるからって威張るなよ。先輩である俺にまず頭を下げろ」

 もうマウント合戦か・・・。まだ仲間に入れるかどうかは決めてないんだがよ、ピーター。

「彼は邪悪なるピーター君ですッ! 欲望に忠実なので色々と気をつけて下さいッ! ダークッ!」

「こんな子供が闘技大会に?」

 ダークはまた脛をピーターに蹴られて、痛がる。頑強さが高くても、ピーターのしなるような蹴りは痛いんだな。

「子供じゃない! 大人だ! 俺は地走り族ってんだよ! よく覚えておけ! レッサーオーガ!」

「フハハハ! いいだろう! 邪悪なるピーター! 我眷属とも思えるその名! 未来永劫、心に刻んでおこう!」

 くそが。もうダークが仲間に入る雰囲気になってんじゃねぇか。

 なんだこのパーティ。中二病が二人、サイコパスの父親を持つ娘が一人、邪悪なるピーター君が一人・・・。

 まだレッド達のほうが扱いやすかったぜ・・・。
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