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オビオ蘇生
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この未知なる時代・世界で、ビャクヤは自分の置かれた状況をすぐに察知したのか、慌てる事もなく俺の腕の中で詠唱を開始し始めた。
左手に干からびた何かを持っている事から、ビャクヤが触媒を使っているのが分かる。
こりゃあ特大魔法が来るぜぇ。
「ブチュリ・・・。ビヨーンド・・・。ウーーーーリタァァァリホォォンヌッ!」
なんだその詠唱は・・・。
高位のメイジ程、詠唱はいい加減らしい。それを簡略化とか効率化とか言っているが、要は魔法のイメージさえ掴めれば何を唱えようが、魔法名がデタラメでも発動するのだ。
「【極寒地獄】ッ!」
それを見たサーカが泣き喚く。
「氷系最上位魔法だと?! やめろぉぉ! なんとか躱せ、オビオォォォ!」
相手の魔法の総合能力をオーラで見ることのできる樹族にとって、この魔人族の発動させる魔法が常軌を逸するものだと分かる。
「この魔人族の魔法の総合能力は、闇魔女様以上だ! 聞こえているのか、オビオ!」
最早、自我を失っているように見えるオビオに、助言などしても無意味だと思うがな。
そもそもビャクヤの魔法を躱しようがない。
勿論、魔法無効化や魔法回避率という概念があるが、生まれついたその時からその数値は変わらない。
ヒジリやマサヨシのようなチート能力者じゃない限り、魔法なんてものは基本的に無効化できないのだ。
抵抗数値を上げる為のアイテムが見つかるのは稀で、目玉が飛び出るほどの高額なのに、上位冒険者たちが即買いしてしまうので、店からはすぐに消える。なので市場には中々出回らない。
よって普通の冒険者は基本的に、自前の魔法防御力と精神力による呪文抵抗に頼ってダメージを軽減するしかない。
ナノマシンで竜化したオビオがどこまで竜を再現しているのかによって、ビャクヤの最上位魔法のダメージ量が決まる。
あの姿が魔法に対してハリボテならば、魔法抵抗に成功しても瀕死、更に即死判定もある。二重の抵抗を試みるのは無理だ。
しかしオビオはヒジリと同じ地球から来た人間。普通よりは魔法抵抗力が高いはず・・・。
ヒト種というのは複数の魔法抵抗が必要な場合、ダメージ軽減を優先する。
オビオの体の芯から発生した冷気は、菌糸のように氷の枝を張り巡らせて竜の体を包み込む。
どうやらビャクヤの魔法が勝ったようだ。物理防御は高いが、竜のような高い魔法抵抗力は、ナノマシンでも再現できなかったらしい。
「ふぅ、やっぱ魔法使いってのは必要だな。物理攻撃が効かない相手にはビャクヤみたいなのが頼りだぜ」
俺がビャクヤを褒めるも、本人は項垂れている。
「はぁ・・・。吾輩は・・・・。善人を殺してしまった」
気落ちするビャクヤを、サーカが短い足を伸ばして蹴ろうとした。
「貴様ぁぁぁ! オビオを殺したな! 許さんぞ!!」
しかし、ビャクヤのマントが自動的にそれを弾いた。
「おい、勝負はほぼついただろ。お前単体でどうやって俺らに勝てるんだ? そもそもここはどこだ」
俺の言葉にサーカの勝気な目が返ってくる。
「うるさい! ここがどこかなんて、最早どうでもいい!」
諦めの悪い樹族だなぁ。
が、勝ちを確信したその時、氷が砕ける音がした。
「チィ! やっぱり簡単にはいかねぇか」
俺は空中に飛んで逃げようかと考えたが、結局その必要はなかった。
砕けた氷の中で竜も砕けて、機能を停止したナノマシンが氷の割れ目から灰のように風に飛ばされていく。
そして、浜辺に転がる死体が一つ。
オビオの亡骸が砂浜と波の間でうつ伏せになって倒れていた。
「オビオォォ!」
「もう諦めろ、サーカ」
腕の中で暴れるサーカのポニーテールの紐が解けて、モモと同じ色の髪がストレートになる。
俺はサーカを離すとしたいようにさせた。
サーカはオビオを波の近くから引っ張って砂浜へと移動させ、蘇生を試みる。
蘇生つっても鼻を摘んで接吻をして、息を通し心臓を押す、を繰り返しているだけだ。
「嫌だぁ! お前は私のクマちゃんなんだぞ! 死んでいいはずないだろ! 私をもうこれ以上、一人ぼっちにしないでよぉ!」
その光景を見たビャクヤが、仮面にショボーンとした顔を浮かべて俺を見ている。
やだねぇ、善人ってのはすぐに相手の感情に共感して可哀想がる。
「勿論、キリマルはオビオ君を生き返らせてくれますよねッ? (´・ω・`)
俺が渋っていると、段々顔を寄せてくる。ショボーンの顔に影が増す。
「顔が近いな! おい! いいか、ビャクヤ。あいつは俺を相当憎んでいる。生き返らせても厄介なだけだぞ。俺だけが憎まれるのはいいが・・・」
そこまで言って俺は言葉を飲み込んだ。
(お前をオビオの憎しみに巻き込みたくねぇんだわ)
「ウフフッ! 問題ありませんよッ! 吾輩、料理人に負けるほど弱くありませんからッ! それにしてもキリマルはどうしたのです? 金槌みたいな悪魔の心から親みたいな感情が伝わってきますんごッ!」
「こら、心を読むな! それから受け口で俺の顔マネをするな! 仮面が少し浮いているからわかるんだぞ! いいか、お前と離れていた間、おれは自由に人殺しを楽しんだ。逃げ惑う弱者を残虐に残酷に殺して笑っていた。そして純粋真っ直ぐ君なオビオはそれを目の当たりにし、誰も守れなかった自分と、人殺しを楽しんでいた俺を憎んだ。多分、奴の住んでいた星の国では到底起こり得ない虐殺だったんだろうよ」
「わかりまんしたッ! 悪魔が殺しをするのは当然の事ッ! しかし契約が弱まっていた間の出来事とはいえッ! キリマルの責任は全て吾輩の責任ッ! 誠心誠意、吾輩が謝りますッ! なので、今すぐオビオ君を生き返らせてカキフシャシャラァァァー!」
ビャクヤは喋り終える前に、クルクルとドリルのように回った後にオビオを指差した。
最後なにを言ったんだ? 早く行って蘇生してこい的な? 相当俺に怒ってるな、ビャクヤは。
「仕方ねぇ・・・」
可愛い子孫の命令だ。
そもそも竜に变化したら元に戻らなかったんじゃないのか? Qよ。
オビオは人の姿に戻っているぞ。なんなら赤古竜の鎧もゆっくりと再生してんだが。
鎧のナノマシンが増殖を繰り返しているな。しかしそのスピードは遅い。悪魔の目は便利だねぇ。
「どけ」
俺はサーカを蹴り飛ばすと、後ろでビャクヤが「これっ!」と怒った。爺みたいな怒り方すんなよ。リンネか!
「貴様ァァァ!」
サーカがメイスを抜く。勿論メイスは【光の剣】の魔法で、ライトソードみたいになっている。
「うるせぇ! そこで黙って見てろ! 愛しい恋人を生き返らせたいんだろ?」
「ぐ・・・、ぐぎぎぎ」
サーカの耳は怒りによるものか、照れからくるものなのかはわからねぇが、真っ赤になっている。
「はぁ・・・。めんどくせぇ奴を生き返らせたくねぇなぁ・・・。なぁ、アマリよ」
「本気でそう思っている事を確認」
腰のインテリジェンスウェポンは感情なくそう答える。
生き返らせたくない、つまりずっとこのまま死んでいて欲しいと願いながらの一突き。
「・・・」
サーカは何も言わなくなった。こいつはアマリの力を知っているからな。あの集会場で人々が蘇る光景を目の当たりにしただろうから、サーカは確実にアマリの能力を知っているはずだ。
俺が殺意を込めて魔剣天邪鬼で斬った相手は暫くして蘇る。
それにしても、胸糞悪いシーンを見なくてよかったぜ。カルト村で死んだ騎士や村人が蘇ってハッピーエンド。オエッ!
だが俺自身が殺した奴は蘇らない。アマリで死体を刺さない限り。
確か数人は爆発の手で殺した。だから蘇生は無しだ。だからオビオは怒っていたのだ。
五分後、サーカはメイスを砂に落として、上体を起こすオビオに抱きついていた。
「馬鹿オビオ! お前なんか死んだままでよかったんだ! 剥製にしてクマのぬいぐるみを被せてやるつもりだったのに! 生き返ったからにはまた毎晩添い寝をしてもらうぞ! それから甘いデザートも毎日作れ! それから・・・それから・・。うわぁぁん!」
泣き出すサーカの頭を優しい顔で撫でたオビオが、次に俺を見た時には、やはりというか、目に憎しみが籠もっていた。
左手に干からびた何かを持っている事から、ビャクヤが触媒を使っているのが分かる。
こりゃあ特大魔法が来るぜぇ。
「ブチュリ・・・。ビヨーンド・・・。ウーーーーリタァァァリホォォンヌッ!」
なんだその詠唱は・・・。
高位のメイジ程、詠唱はいい加減らしい。それを簡略化とか効率化とか言っているが、要は魔法のイメージさえ掴めれば何を唱えようが、魔法名がデタラメでも発動するのだ。
「【極寒地獄】ッ!」
それを見たサーカが泣き喚く。
「氷系最上位魔法だと?! やめろぉぉ! なんとか躱せ、オビオォォォ!」
相手の魔法の総合能力をオーラで見ることのできる樹族にとって、この魔人族の発動させる魔法が常軌を逸するものだと分かる。
「この魔人族の魔法の総合能力は、闇魔女様以上だ! 聞こえているのか、オビオ!」
最早、自我を失っているように見えるオビオに、助言などしても無意味だと思うがな。
そもそもビャクヤの魔法を躱しようがない。
勿論、魔法無効化や魔法回避率という概念があるが、生まれついたその時からその数値は変わらない。
ヒジリやマサヨシのようなチート能力者じゃない限り、魔法なんてものは基本的に無効化できないのだ。
抵抗数値を上げる為のアイテムが見つかるのは稀で、目玉が飛び出るほどの高額なのに、上位冒険者たちが即買いしてしまうので、店からはすぐに消える。なので市場には中々出回らない。
よって普通の冒険者は基本的に、自前の魔法防御力と精神力による呪文抵抗に頼ってダメージを軽減するしかない。
ナノマシンで竜化したオビオがどこまで竜を再現しているのかによって、ビャクヤの最上位魔法のダメージ量が決まる。
あの姿が魔法に対してハリボテならば、魔法抵抗に成功しても瀕死、更に即死判定もある。二重の抵抗を試みるのは無理だ。
しかしオビオはヒジリと同じ地球から来た人間。普通よりは魔法抵抗力が高いはず・・・。
ヒト種というのは複数の魔法抵抗が必要な場合、ダメージ軽減を優先する。
オビオの体の芯から発生した冷気は、菌糸のように氷の枝を張り巡らせて竜の体を包み込む。
どうやらビャクヤの魔法が勝ったようだ。物理防御は高いが、竜のような高い魔法抵抗力は、ナノマシンでも再現できなかったらしい。
「ふぅ、やっぱ魔法使いってのは必要だな。物理攻撃が効かない相手にはビャクヤみたいなのが頼りだぜ」
俺がビャクヤを褒めるも、本人は項垂れている。
「はぁ・・・。吾輩は・・・・。善人を殺してしまった」
気落ちするビャクヤを、サーカが短い足を伸ばして蹴ろうとした。
「貴様ぁぁぁ! オビオを殺したな! 許さんぞ!!」
しかし、ビャクヤのマントが自動的にそれを弾いた。
「おい、勝負はほぼついただろ。お前単体でどうやって俺らに勝てるんだ? そもそもここはどこだ」
俺の言葉にサーカの勝気な目が返ってくる。
「うるさい! ここがどこかなんて、最早どうでもいい!」
諦めの悪い樹族だなぁ。
が、勝ちを確信したその時、氷が砕ける音がした。
「チィ! やっぱり簡単にはいかねぇか」
俺は空中に飛んで逃げようかと考えたが、結局その必要はなかった。
砕けた氷の中で竜も砕けて、機能を停止したナノマシンが氷の割れ目から灰のように風に飛ばされていく。
そして、浜辺に転がる死体が一つ。
オビオの亡骸が砂浜と波の間でうつ伏せになって倒れていた。
「オビオォォ!」
「もう諦めろ、サーカ」
腕の中で暴れるサーカのポニーテールの紐が解けて、モモと同じ色の髪がストレートになる。
俺はサーカを離すとしたいようにさせた。
サーカはオビオを波の近くから引っ張って砂浜へと移動させ、蘇生を試みる。
蘇生つっても鼻を摘んで接吻をして、息を通し心臓を押す、を繰り返しているだけだ。
「嫌だぁ! お前は私のクマちゃんなんだぞ! 死んでいいはずないだろ! 私をもうこれ以上、一人ぼっちにしないでよぉ!」
その光景を見たビャクヤが、仮面にショボーンとした顔を浮かべて俺を見ている。
やだねぇ、善人ってのはすぐに相手の感情に共感して可哀想がる。
「勿論、キリマルはオビオ君を生き返らせてくれますよねッ? (´・ω・`)
俺が渋っていると、段々顔を寄せてくる。ショボーンの顔に影が増す。
「顔が近いな! おい! いいか、ビャクヤ。あいつは俺を相当憎んでいる。生き返らせても厄介なだけだぞ。俺だけが憎まれるのはいいが・・・」
そこまで言って俺は言葉を飲み込んだ。
(お前をオビオの憎しみに巻き込みたくねぇんだわ)
「ウフフッ! 問題ありませんよッ! 吾輩、料理人に負けるほど弱くありませんからッ! それにしてもキリマルはどうしたのです? 金槌みたいな悪魔の心から親みたいな感情が伝わってきますんごッ!」
「こら、心を読むな! それから受け口で俺の顔マネをするな! 仮面が少し浮いているからわかるんだぞ! いいか、お前と離れていた間、おれは自由に人殺しを楽しんだ。逃げ惑う弱者を残虐に残酷に殺して笑っていた。そして純粋真っ直ぐ君なオビオはそれを目の当たりにし、誰も守れなかった自分と、人殺しを楽しんでいた俺を憎んだ。多分、奴の住んでいた星の国では到底起こり得ない虐殺だったんだろうよ」
「わかりまんしたッ! 悪魔が殺しをするのは当然の事ッ! しかし契約が弱まっていた間の出来事とはいえッ! キリマルの責任は全て吾輩の責任ッ! 誠心誠意、吾輩が謝りますッ! なので、今すぐオビオ君を生き返らせてカキフシャシャラァァァー!」
ビャクヤは喋り終える前に、クルクルとドリルのように回った後にオビオを指差した。
最後なにを言ったんだ? 早く行って蘇生してこい的な? 相当俺に怒ってるな、ビャクヤは。
「仕方ねぇ・・・」
可愛い子孫の命令だ。
そもそも竜に变化したら元に戻らなかったんじゃないのか? Qよ。
オビオは人の姿に戻っているぞ。なんなら赤古竜の鎧もゆっくりと再生してんだが。
鎧のナノマシンが増殖を繰り返しているな。しかしそのスピードは遅い。悪魔の目は便利だねぇ。
「どけ」
俺はサーカを蹴り飛ばすと、後ろでビャクヤが「これっ!」と怒った。爺みたいな怒り方すんなよ。リンネか!
「貴様ァァァ!」
サーカがメイスを抜く。勿論メイスは【光の剣】の魔法で、ライトソードみたいになっている。
「うるせぇ! そこで黙って見てろ! 愛しい恋人を生き返らせたいんだろ?」
「ぐ・・・、ぐぎぎぎ」
サーカの耳は怒りによるものか、照れからくるものなのかはわからねぇが、真っ赤になっている。
「はぁ・・・。めんどくせぇ奴を生き返らせたくねぇなぁ・・・。なぁ、アマリよ」
「本気でそう思っている事を確認」
腰のインテリジェンスウェポンは感情なくそう答える。
生き返らせたくない、つまりずっとこのまま死んでいて欲しいと願いながらの一突き。
「・・・」
サーカは何も言わなくなった。こいつはアマリの力を知っているからな。あの集会場で人々が蘇る光景を目の当たりにしただろうから、サーカは確実にアマリの能力を知っているはずだ。
俺が殺意を込めて魔剣天邪鬼で斬った相手は暫くして蘇る。
それにしても、胸糞悪いシーンを見なくてよかったぜ。カルト村で死んだ騎士や村人が蘇ってハッピーエンド。オエッ!
だが俺自身が殺した奴は蘇らない。アマリで死体を刺さない限り。
確か数人は爆発の手で殺した。だから蘇生は無しだ。だからオビオは怒っていたのだ。
五分後、サーカはメイスを砂に落として、上体を起こすオビオに抱きついていた。
「馬鹿オビオ! お前なんか死んだままでよかったんだ! 剥製にしてクマのぬいぐるみを被せてやるつもりだったのに! 生き返ったからにはまた毎晩添い寝をしてもらうぞ! それから甘いデザートも毎日作れ! それから・・・それから・・。うわぁぁん!」
泣き出すサーカの頭を優しい顔で撫でたオビオが、次に俺を見た時には、やはりというか、目に憎しみが籠もっていた。
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