殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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過去の大陸

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 まだ状況を理解していないおビオは、サーカを押しのけて立ち上がり、戦う意思を見せたが、ナノマシンを失い過ぎたせいかフラフラしている。

 今の地球人はナノマシンやチップによって強化されている反面、それらに頼りすぎているという弱点がある、とウメボシが言っていたような言ってなかったような。

 しかし押しのけられたサーカは引き下がらずにオビオの前に立つ。

「止めろ、オビオ! 聞きたくはないだろうが、お前は負けたのだ。自我を失って竜となり、魔人族の魔法の前に倒れた。そしてお前を生き返らせたのは、そこの悪魔キリマルだ」

 それを聞いたオビオは悔しがって、砂の地面を叩いた。ドォンと砂が巻き上がる。腐っても強化人間。オビオは俺が見透かした能力値の倍の性能を瞬間的に発揮できるっぽい。

「くそがぁぁぁぁ! 俺に借りを作ったところで! お前の罪は消えねぇぞ!」

 黒い癖毛を掻きむしって睨んでくる垂れ目野郎はサーカをもう一度押しのけて、怒気を纏いながら俺に近づいてくる。

 ・・・ほぉ? 死合を続行してもいいが、次は生き返らせてやんねぇぞ? 恐怖をたっぷりと染み込ませて殺してやろうか?

 俺は目の前まで来たオビオの頭を掴んで押さえつけ、無理やり跪かせた。

「ンンッ! 待ったはぁッ!」

 なんだよ、待ったはぁって。気が抜けるだろうが、ビャクヤ。

 空中で何回転してんだというぐらい、体を捻ったビャクヤは俺とオビオの間に着地すると、もう一度ジャンプしてダークのように全方位大回転土下座をした。

「うはッ! できたッ!」

 ビャクヤは嬉しそうである。しかし不謹慎な事を自覚してか咳払いをし、砂地に額を当ててオビオに謝る。

「申し訳有りません! オビオ君! 使役する悪魔の責任は主である吾輩にありまんもすッ! キリマルはうっかりと我が手元から離れ、制御できなくなってしまいまんしたッ! その間の悪行の数々、謝っても償いきれない事は十二分に承知しておりますッ! ですがッ! 今はなんとか怒りを収めていただきたいッ! キリマルはニムゲイン王国の司祭には奇跡の悪魔、聖魔と呼ばれていますッ! その所以は貴方が身を持って体験したのではッ? 元の時代に戻ればッ! キリマルに殺した者を必ず生き返らせるよう命令しますッ! だからッ! お許しあれッ!」

「くそ! くそ! くそ! ズルいぞ!!」

 オビオは俺の手を払い除け、涙を拭いて立ち上がり怒りのやり場の無さに悔しがる。

 そんなオビオを、毒舌のサーカが馬鹿にした。

「ふん、オビオは狭量だな、体はでかいくせに。悪魔の主がこれだけ謝罪しているのだ。魔人族も樹族に劣らずプライドが高い。その彼が土下座までして、自分の悪魔の尻拭いをすると言っているのだ。許してやれ」

「俺より狭量なお前が言うのかよ!」

 そうサーカにツッコミを入れたオビオは、ハァと溜め息を付いて項垂れた。

「わかったよ、キリマルを許すよ。殺した人を生き返らせてくれるんだろ? だったらいいよ。それからサーカ」

 オビオはサーカを引き寄せて、頬にキスをする。

「俺のために泣いてくれてありがとうな。竜化してからサーカが必死に俺の意識を戻そうとしてたのはわかってたんだ。でも体がいうこときいてくれなくてさ・・・。ごめん」

 するとサーカの顔と長い耳が真っ赤になった。

「なにっ? 私が泣いていただと? 馬鹿にするな! あれは目に砂が入っただけだ! 勘違いするなよ!」

 ツンデレが過ぎるぞ、サーカ。女版ベジータかよ。

「クマちゃん・・・」

 ビャクヤが小さな声でそう言うと、鼻の横と眉間にビキビキ皺を寄せてサーカは我が子孫を睨む。

「ひえっ! 邪悪なるピーター君並みに怖い顔ッ!」

 お前、ピーターのあの顔怖がってたのかよ・・・。

「我々は協力して元の時代に戻る方法を探らなければなりませんぬッ! そこでッ! 地味で申し訳ないのですが! 取り敢えずッ! 近くの人々から情報を得ようではありませぬかッ!」

「あぁ・・・」

 オビオがビャクヤに同意した後に差し向ける、疑うような目が心地よい。憎め~! 憎むのだ~! 悪意は俺を強くする~! 多分な~!

「丁度、人がいるぜ。林の奥にオーガが一匹、ゴブリンが三匹。更に人間が五十人程」

「妙な編成だな」

 オビオが体力を回復するためか、チョコ菓子を無限鞄から出して頬張った。くそっ! 美味そうだ。

「まぁ向こうもこっちに気が付いているみたいだし、話を聞くか」

 人間の集団がいる空き地まで走ろうとしたオーガとゴブリンたちの前まで俺は跳躍すると、両手を広げて威圧スキルを使う。

「通せんぼだぁ~! おとなしく死ね!」

「うわぁ! 見つかった! 嫌だ! 死にたくねぇ! あんたらさっきまで戦ってたのになんで手を組んだんだ?」

 賢そうなオーガが、一メートルほど飛び退って、死ぬまでの時間稼ぎのような質問をする。

「悪魔は主の命令に逆らえねぇだけだ。敵と戦うな、和睦しろと言われればそうする。もし我が主様が、お前を悪人だと判断して殺せと命ずれば、躊躇なく殺す。精々良い子ちゃんにしているんだな。クハハ!」

 額の冷や汗を拭いつつも、オーガは自分を落ち着かせようと黄色い髪を撫で付けた。

「そ、それは嘘だな。あの魔人族は善人っぽい。そうそう人を殺せなんて言うはずがねぇ」

「だが、我が主様は! (偽の)古竜を魔法で倒せるだけの力はある。そして数多の魔法を覚えていらっしゃるが、得意とするのは氷魔法。心も氷のように冷てぇ。少しでもビャクヤ様の気が触れれば、お前は氷漬けにされるだろうよ」

のではなくッ! 気に障れば、でしょうッ! ンキリマルッ! 我輩を冷酷な狂人みたいに言わないでくれたまへッ!」

 俺に追いついたビャクヤの言葉に、オーガはホッとする。

「ほらみろ。俺の名はドリャップだ。近くで砦の主をやっている。丁度霧の向こう側から人間族が現れたから奴隷にしようと思って、やって来たんだわ」

 すると、ビャクヤの後ろにいたオビオの目が険しくなる。

「奴隷制度はなくなりつつあるんじゃないのか?」

 めんどくせぇなぁ、正義の地球人さんはよぉ。

 奴隷制度がまだあるってこたぁ、ここが過去の時代って事だ。

 そしてニムゲイン王国の島でもない。あそこは建国以来、奴隷制度は表面上、無い事になってるからな。使い魔や下男下女はいるが。

「で、ドリャップとやら。ここはどこだ? 俺たちも霧の向こうから来たようなもんだ」

「ここは東の大陸の東側、荒れ地のトウデンだ」

「それは国名か?」

 サーカが怪訝な目つきで黄色い髪のドリャップに尋ねた。

「いいや、通称だ。まだ西の大陸みたいな国なんてねぇからよ。皆したいようにやるだけさ。俺たちが肩書を名乗るとすりゃあ、開拓者だな」

 開拓者か。

 聞こえは良いが――――、どうせ、西の大陸で弾かれたならず者の集団だろうよ。

「ッと、いうことはッ! ここは二千年前の東の大陸の更に東端、トゥルーデンですなッ! 暗殺者と初期キリマルのような技巧派剣士の発祥の地」

 流石は頭の良い坊っちゃんだ。

 愛おしい我が子孫、ビャクヤはすぐに年代を特定しやがった。祖先である俺は鼻が高い。ビャクヤの手柄は俺様の手柄。俺様の手柄は俺様の手柄。そう、ジャイアニズム。

「なるほど。オーガの鎧の古めかしさに合点がいく」

 サーカが、ドリャップの蔦の模様が入ったブレストプレートを見て頷く。

 異世界の元地球人の俺と、この世界の地球人のオビオは置いてけ堀だ。暇だから自己紹介でもしとくか。

「俺は悪魔キリマル。で、主は魔人族のビャクヤ。あっちのオーガはオビオ。料理人だ。樹族はサーカ・なんとか」

「サーカ・カズンだ! 阿呆を司る悪魔め」

「おい! クマちゃん! その豚耳を黙らせろ!」

 俺がそういうとオビオはフンと鼻を鳴らして横を向いた。まぁ奴に嫌われていようがなんだろうが、どうでもいいんだがな。

 俺はオーガのドリャップに向き直る。

「見た通り宿無しだ。砦を守ってやるから飯と酒と寝床を用意しろ。断れば殺す」

「あ、ああ。それは別に構わねぇが、そんな脅すような言い方は止めてくれ」

 オーガのくせに屁垂れだな。

「悪かった、悪かった。じゃあ宜しく頼むよ、チュピチュピ」

 小さな雀の真似をして腕を動かすと、ビャクヤがワンドで尻を叩いてきた。

「すまないねッ! この悪魔はひねくれ者なのだよッ! いや、悪魔とはッ! 本来そんなものッ! 暫く厄介になりますがッ! よいですかッ? ドリャップ殿!」

「勿論さ。こんな危険な僻地で戦力になる味方がついてくれれば百人力だわ。何かあればこの三人に言ってくれ。右からサジ、マジ、バーツ」

 どっかで聞いた事ある名前だな。大丈夫か? というか、ゴブリンの顔の見分けなんてできねぇ。
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