殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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その子を殺せ

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 轟々と音を立ててマナを噴出させる大穴の、断崖にある窓から魔法の灯りが漏れていた。

 その窓から見える部屋で数人と向かい合う魔法の本は、悪意を垂れ流すわけでもなく、ただそこで羽ばたいて浮いている。

 この世のあらゆる全てが書き記された魔法の本――――、コズミック・ノートがなぜそこにいるのか、アオには理解できなかった。

「あの・・・。お久しぶりです、コズミック・ノート様」

「うむ、よく来た。人々の総意を背負いし者たちよ」

 神として生きるヒジリ以外もこうなる運命だったのか、魔法の本は“総意を背負いし者たちよ”と答えた。

「その言い方だと全てを知っているといった感じだな。今、世界で起きている現象の原因は君と見ていいのかね?」

 ヒジリが腕を組んだまま皆の前に浮いて移動し、コズミック・ノートに質問する。

「残念ながら我に質問をする場合、その権利を得るに足る力を見せてもらわねばならぬ。それがアヌンナキに与えられし我が役割。それから以前に願いを叶えているアオはこの戦いに参加できぬ」

 コズミック・ノートは暫く無言で浮いて、ヒジリたちを観察していた。勿論、魔法の本に目が付いているわけでもなく、観察しているかどうかは分からない。

 が、見られているという気配は誰にでも感じ取る事ができた。

「強力な特異点が二人、か・・・。しかし、あくまで物語の中の特異点。マサヨシやキリマルのように物語の外にはおらぬ。他の者たちはベテランレベルの実力といったところか。オビオとやらの竜人化も本体が料理人でなければ、こちらの脅威になっていただろう・・・。取り敢えずは小手調べからといこうか」

 独りごちると禁断の魔本はページをパラパラとめくった。

 すると床に浮かぶ魔法陣が光って、ダイヤモンドゴーレムが現れる。

「あ、あれは!」

 アオの脳裏に苦い経験が蘇り、猫が嫌な気分の時に示す仕草――――鼻の下を舐めた。

 戦士のイエローを一撃で叩き潰した剛力の怪物。今度のダイヤモンドゴーレムは体全体が丸みを帯びており、攻撃をそらしやすくなっている。

 当たったとしても強固過ぎて、並の武器では歯が立たない。

 人修羅のキリマルですら、今自分が握りしめている脇差がなければ勝てなかった魔物が、今度は弱点を補うような形で現れたのだ。アオは自分が攻撃対象にならない事に安堵しつつも、皆を心配する。

「たかがゴーレム如き!」

 先手必勝とばかりに、【火球】の詠唱を開始したサーカにアオは忠告する。

「魔法の類は効きませんよ!」

「なに?」

 魔法が強味である樹族の存在意義を奪われて、サーカは動揺する。

 そのサーカの頭上で芯から響く声がした。

「その程度の魔物でいいのかね?」

 現人神ヒジリは腕を組んで浮いたまま目を閉じている。見る価値もないといった態度だ。彼の横にはウメボシがじっと魔法の本を分析しようと目を細めていたが、無理だとわかって諦めた。

 神を超える存在である自分の正体を見破ろうとして、諦めたウメボシを見て満足したのか、魔本は笑う。

「フハハ! 隣のアンドロイドのほうが余程賢明に見える。ヒジリ、貴様は傲慢なのだ。それゆえ、過去に小さな樹族の騎士に負けた」

「傲慢? 違うな。確かに以前は慢心して負けた事もある。が、今は己の実力を知っているからこその余裕だ。まぁしかし、コズミック・ノートがそういうのであれば万全を期そうか。セイバー、あのゴーレムの背後に回って大盾を構えていてくれ」

「はい」

 ヤイバの鉄傀儡のような青い全身鎧はいつもよりも赤く光っている。大量のマナに魔法の鎧や大盾が呼応しているのだ。

「では行くぞ、コズミック・ノートよ。人の総意を背負う“紛い物の神”の強さを思い知るがいい」

 声と共に現人神と自由騎士が瞬間的に消える。

 次に二人が現れたのはゴーレムの前と後ろだった。作戦通り、ダイヤモンドゴーレムはヒジリとヤイバに挟まれている。

「ヒジリ☆連弾!」

 恥ずかしい名前の必殺技を放つヒジリだが、彼はこの星の住人ではなく、マナにも頼っていないので、必殺技など使えない。パワーグローブから放つ、素の拳と蹴りの連撃を繰り出しているだけなのだ。

 しかし強化人間である上に、ピーキーに改造したパワードスーツのお陰で驚異的な力を発揮する。

 ヒジリのパンチや蹴りが入る度に、ダイヤモンドゴーレムは退いてダメージを分散させようとするが、背後には大盾を持った鉄騎士が立っているので、ダメージの逃げ場がない。

 なので現人神の攻撃は全てゴーレムに命中し、振動が全身に伝わる。

 ついでに黒いグローブからは紫電が放たれている。

 攻撃を受けて、ものの数秒でゴーレムは炭化して砕けてしまった。

「うそ! 私達はあんなに苦労したのに!」

 猫耳と尻尾を立ててショートボブの猫人は、驚いて両手で頬を押さえる。

「相性もあるだろうし、実力差もある。それだけのことだ」

 驚くアオにそう言うと、ヒジリはゴーレムの核であるコスモチタニウムを嬉しそうに手にとった。

「キリマルからコスモチタニウムの塊を貰ったイグナが、どれほど羨ましかった事か。結局彼女はこのゴーレムの核を譲ってはくれなかったからな」

「イグナは義理堅いですからね。黒竜から自分を守ってくれたキリマル様との思い出の品として、持っておきたかったのでしょう」

 ウメボシの言葉にオビオが眉をひそめる。

「あいつが・・・。あの悪魔が誰かを守る事なんてあるのか? 単に敵を倒すのに夢中だったんだろ」

 善悪が渾然一体な殺人鬼を、オビオはまだ心のどこかで認めたくないのだ。

「さて、小手調べは済んだのだろう? 次が本番かね? 私達には君と戯れる時間があまり残されていないのでな。察してくれたまえよ、コズミック・ノート」

「・・・」

 魔法の本は何も言わず、ただページを捲る。

 歴史上の最強人物、或いは最強の魔物でも探しているのだろうか?

 ページが止まり、魔法陣が光ると――――。

 女の子が現れた。何も知らない純粋無垢な雰囲気を漂わせる樹族の子供が・・・。

「彼女は何者かね?」

 ヒジリは困惑し本に尋ねるが、勿論答えなど返ってこない。

「さぁ。凄腕のメイジであるかもしれぬ。あるいは只の子供か」

「ここどこ? ママは?」

 どう見ても一般的な樹族の子供だ。

 樹族は緑色の髪に緑の瞳の者が多いが、金髪碧眼も多い。彼女は後者だった。

「汚いぞ! こんな可愛い子供を殺せるわけないだろ! ふざけるな!」

 真っ先にオビオが顔を真赤にして怒る。

「オビオ君に同意する。子は未来の宝。少々卑怯ではないかね? コズミック・ノートよ」

 不死である四十一世紀の地球人は、決して子供を殺さない。

 子供は平坦で退屈な人生に変化をもたらす貴重な存在だからだ。不死である事を止めた者の尊い命の代わりに、この世に生を受けた至宝。

「我とてこんな事はしたくない。しかしアヌンナキが敷いたシステムには逆らえぬ。我に与えられたシステムは質問者にとって、最も倒すのが困難な者を選ぶのだ。本意ではない!」

 そのシステムに逆らって答えたせいか、コズミック・ノートは何かしらのダメージを負った。

「ぐぅ・・・」

 一度地面に落ちてから、本は何事もなかったように浮かび上がる。

「さぁ、戦うのだ。現人神ヒジリとその仲間たち。覚悟を見せろ! 覚悟なき者に答えは与えぬ。その子を殺せ!」
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