殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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ひと段落

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「ピーターの前方に、フォースシールドを展開!」

「畏まりました!」

 ヒジリの命令を受け、食い気味にウメボシが従う。

 地走り族に向かう――――、鋭い牙の並ぶ顎が、突如現れた透明な壁に弾かれた。

「フォースシールドを解除しろ! 邪魔をするな!」

 エネルギーの付随するオビオの怒号に、ヒジリはたじろぐことはない。

「ピーターは何も間違ってはいない。彼の言う通り、我々は長々と言い争って時間を無駄に過ごしていただけだ。今こそ行動をするべき時なのだ!」

 ヒジリは指先を天井に向けて電撃を当てると、瓦礫を落として古竜を牽制する。

 その間にウメボシがピーターを浮遊させて、古竜の近くから引き寄せた。

「ピーター。死を覚悟したところを悪いが、君を死なせるとシスター・マンドルに顔向けができないのでな」

 ヒジリはオビオを止めるべく、前に出ると古竜の尻尾がハンマーのように襲いかかってきた。

 それを頭の上でクロスさせた腕で受け止めるも、ヒジリの体は床にめり込む。

「どうやらマナ粒子が君の味方をしているようだな。尋常ではない攻撃力だ」

 現人神は、自分の肩幅程もある大きな尻尾の攻撃を受けて、釘のように地面に埋まっていく。

「だが」

 それでも尚、お構いなしといった表情で、ヒジリは地面を削りながら前進する。

 そしてピーターに殺された樹族の子供を抱えると、ウメボシに放り投げた。

 幼い死体は人形のようにブラブラと飛んでいき、ウメボシの前で浮いて光る。

 メーカー不明の高性能アンドロイドは、主の意を汲んで再構成蘇生を開始しているのだ。

「セイバー・・・。いや我が息子ヤイバ。暫くウメボシを守ってやってくれないか。彼女は今、無防備なのだ」

「はい! 父さん! 味方に鉄の庇護を! 守りの盾!」

 半透明の盾がアンドロイドの前方で光る。ヤイバのスキルは守るべき対象の周囲に球体型のシールドを発生させた。直接体に触れるスキルではないので、その効果はヒジリにも及ぶ。

「守らせたら鉄騎士の右に出る者はいないな。彼のお陰で私は更にしぶとくなったぞ? どうするね、オビオ君」

「それでも!」

 オビオは広範囲を薙ぎ払う尻尾攻撃で、ヒジリとその後方にいるウメボシ、ヤイバ、ピーターを狙った。

 しかし、決して攻撃を貫通させないという意思の籠もったヤイバの作り出す強固な盾は、風を受けたドームのように攻撃を逸して誰にも怪我をさせてはいない。

「暫く気絶していてもらおうか、オビオ君」

 ヒジリは埋もれた地面からジャンプをして、空中で縦に一回転して体勢を整えると、今度は体を横に捻じり始めた。

「はぁぁぁ! 受けるがいい! ヒジリ☆サンダーキック!」

 絶望的にネーミングセンスのないドリルキックは、竜の大きな胴体を狙っている。

「私はオビオを守ると誓ったのだ、ヒジリ様ぁ!」

 オビオの背中にサーカが飛び乗って中盾を構えている。恐らく彼女は騎士のスキル【かばう】を発動させているだろう。

「ええぃ!」

 何の策もなく、ただ身を張るばかりの樹族の騎士に苛立って、ヒジリは回転を止めて空中で止まった。

 このまま攻撃をすれば、サーカは肉片となって死ぬからだ。

「自分の弱さを盾にするのか。賢しいな、仮隊員君。こうなっては仕方がない・・・・。どこぞの仮面のメイジの真似をするようで嫌だが・・・・」

 ヒジリはそう呟くと、パワードスーツの薄い装甲をパージして体中から蒸気を排出する。

「ヒジリ!!☆スーパー・ウルトラ・グレート・デリシャス・ワンダフル・ハイパーーーー!」

 自爆でもするのかと思うほどの光がヒジリから発せられ、その光が消えると現人神は回転しながら床にひれ伏していた。

「スピニング☆土下座!」

 変人科学者はその技名通り、地面でガメラのように高速回転をして土下座をしている。

「オビオ君! この件に関しては私が後で幾らでも責任を取る! だからこの場は怒りを沈めてくれないか! これこの通り!」

 声がパンニングする現人神の謝罪を見て、オビオは顎を落として動きを止めた。

「え?」

 空気が止まる中、樹族の幼女の蘇生が終了し、ウメボシがその報告をする。

「マスター、蘇生が完了しました」

「よし!」

「あのさぁ、ヒジリさん。俺の言った事が伝わってないのかな?」

 回転エネルギーがエントロピーを迎えて、土下座をするヒジリの体がゆっくりと制止すると、黒いパワードスーツの尻がオビオに向いていた。

「まぁ聞きたまえ。この子がオリジナルでなくなり、データから再構成された偽者であれ、魂は彼女のものだ。形はどうあれ、彼女は彼女なのだ」

「こっち向いて喋れよ。尻と喋っているみたいだろう」

 ゴホンと咳払いをしたヒジリは立ち上がると、オビオに向き直った。

 流石に恥ずかしかったのか、現人神の顔は真っ赤で、その光景が珍しいのかウメボシがあらゆる角度で主を嬉しそうに撮影していた。

「恥ずかしそうなマスター、萌~」

 そのウメボシをヒジリは腕を振って追い払う。

「ええぃ、撮影をするな、ウメボシ! そんな事よりも・・・。オビオ君。見たまえ! この安らかな寝顔を!」

 生き返ってすやすやと眠る樹族の少女をヒジリは抱きかかえた。

「君が原理主義者ならば、この子の生は絶対に容認できないはずだ。となると君はもう一度、彼女を殺さなくてはならない。できるかね? もしこの子を殺すというのであれば、悪いが私は神として君の攻撃を全力で阻止させてもらう」

 ヒジリはニヤリと笑った。

「くそ・・・。ズルいぞ!」

 オビオは熱い鼻息を吹いて、悔しそうに頭を下げる。

「はぁ・・・。分かったよ。俺の負けだ。ずる賢さではヒジリさんは一枚も二枚も上手だな」

「ん? 失礼な。一番ずる賢いのは彼だ」

 黒いグローブの人差し指が、しょぼくれる地走り族を指す。

「私が必ず助けると予測してたのだろう? ピーター。迫真の演技だったよ。あの状況であの芝居ができるなんて、中々肝が据わっている」

 ヒジリに褒められて、ピーターは小さな両手で口を押さえて可愛く笑いだした。

「うふふ! 馬鹿なオビオ。実際のところ、俺は自分の命の為なら人殺しも厭わないよ。オビオだっていつも俺のことを“邪悪なるピーター君”と呼んでいるだろう? そう、俺はお前の言う通り本当に邪悪なんだよ! 芝居に騙されやがって、阿呆が~!」

 ピーターの顔がこれまで見せた中で、一番とも言える邪悪さで歪む。

 今回ばかりはピーターの顔が本当に邪悪に見えたオビオは、「くそ!」と悔しさを吐き捨てた。

 小さな盗賊の属性アライメントに嘘偽りなく、混沌なる悪。あの涙も悔恨の表情も全て演技だったのだ。

「ピーターがそういう奴だって、俺が一番良く知っていたはずなのに・・・。あぁ、もう! 覚えてろよ・・・」

 竜化が解けたオビオは、力尽きて床の上で大の字になった。

「く~! 竜になるのは疲れるな・・・」

 耳が真っ赤なサーカがトテテテと走り寄ってきて、膝枕の上にオビオの頭を乗せた。

「こ、これからはずっと私が癒やしてあげるんだからな」

 先程愛の告白を受けたオビオはサーカに微笑むと、大人しくスタミナポーションを飲ませてもらった。

「なんだか体がこそばゆいが・・・。愛とは素晴らしいものだ」

 世界の終わりがすぐそこまで迫っている時に、愛を育んだ若い二人に、ヒジリは年寄りのような事を言う。

「父さんが言うと嘘くさいですよ」

 ヤイバが兜を脱いで、眼鏡の位置を直した。

「君はさっき、私が愛も絶望も知る男だと言ってなかったかね?」

「それは未来での話ですよ、父さん」

「まぁ! マスターにそっくり。ヤイバ様はマスターよりも中性的な顔立ちをしていますね」

 ウメボシはうっとりとした目でヤイバの素顔を眺め、周りを飛んでいる。

「さて、コズミック・ノートよ。私達は君の課したミッションをクリアしたぞ。質問に答えてもらおうか。質問の権利は勿論、一人一つだな? そうでなければ割に合わない」

「左様。一人一つ」

 ヒジリはいつもの癖で顎を撫でながら考える。どのような情報を得るべきかを。一つの質問で複数の答えが導けるようなやり方はないかを考えているのだ。

「最後に質問するのが得策でしょう、マスター。後になればなるほど、質問の選択を絞りやすくなりますから」

「そうだな。誰か先に質問をしてくれ」

 ヒジリがそう言って何もない空間に座ろうとすると、ウメボシが即座にソファーとテーブルをデュプリケイトした。

 そして本物のコーヒーで炒った豆を、粉にしてネルドリップして淹れる。

「おい! なんだよ、そのコーヒーは! 僅かにアンモニア臭がするぞ」

 疲労から回復した料理人オビオが、ズカズカとやって来てヒジリの手からコーヒーをぶんどって飲んだ。

「これは・・・。どこで手に入れたんだ? ヒジリさん」

「このコーヒー豆かね? ゴブリンに頼んで農園で作らせているのだがね」

「だったら、ゴブリンに言っといてくれ。良い豆を作ってるって!」

 食べ物や飲み物の事になると、これまでの遺恨はどこ吹く風。

 オビオはニッコリと微笑んでヒジリにサムアップをした。

「ただ、ウメボシさんのお湯の淹れ方が悪い。そんなにお湯を一気にドバドバ入れたら駄目だよ」

「あら、それは失礼」

 オビオは挽いた豆をウメボシから貰うと、亜空間ポケットから道具を取り出してコーヒーを淹れ始めた。

「まずは蒸らして20秒・・・」

「あの・・・。一段落して寛いでいるところ悪いのですが、誰か質問の権利を私に譲ってくれませんか? あ、厚かましいお願いなのは分かっています」

 戦いの間、スロープの近くにいたアオがキリマルの脇差を抱えながら、コーヒーを待ちわびる皆に近づいてきた。
 
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