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ヤイバのおまじない
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「クハハ! 辛ェ! 流石にスタミナが切れてきたな。だぁが! まだまだぁ!」
俺は強がって笑い、群がってくる恐怖の化身を爪で切り裂いた。
「クソみたいな攻撃力と防御力の雑魚ばかりかと思えば、こんな強いのもいる!」
紛い物のデビルマンみたいな悪魔の爪を闇の中で避けて、背後のバジリスクの石化睨みを分身に引き受けさせる。
分身が石化している間に、跳躍しながらバジリスクの首を切り、宙に舞うその頭を掴んで偽デビルマンに向けた。
当然、コウモリの羽を頭部に持つ悪魔は見事に石化した。
「恐怖の化身にはなんちゃって悪魔が多いな。悪魔は誰にとっても恐怖の対象になり易いってことか。嬉しいねぇ」
何らかの理由で実体化できた野良悪魔は、他の悪魔を襲うことはまずない。無駄な戦いで実体を不安定にさせたくないからだ。攻撃してくんのは、大概召喚主に命令された悪魔な。
まぁこの空間でその知識を披露する相手はいねぇが。
話し相手にアマリがいるが、俺がうんちく垂れたところで釈迦に説法だ。
闇の中で戦う分身があと何体いるかを数える。
「やべぇな。もう残り二体しかいねぇ。あと何体出せるやら」
俺はふと金剛切りの事を思い出した。
連続で戦い続けてもスタミナが減らないあの脇差は、本当に良い物だった。しかも、貫通力まで高めてくれる。
いくら常時即死攻撃が付随してても貫通しなけりゃ意味がねぇからな。命中率と貫通率はまた別の話だからよぉ。
余計な事を考えていると、闇の中から無数の穴の空いた顔がヌッと現れて、その穴から角栓のような、或いはウジムシのような何かを射出してきた。
当然、散弾銃の弾のようなそれを全て回避して、俺は刀の柄を握る。
「きめぇ!」
鞘に入ったままの魔刀で、そいつの顔面を叩き潰すと白い粘液が鞘に付いた。が、それ以上何か起こるということはない。鞘が溶けるとか、腐るとかな。
しかし・・・。
「ああああ! クセェ!」
白い粘液は、腐敗臭とおっさんの歯糞と銀杏を混ぜたような匂いを発してやがる。
「私が一番、悪臭に近い場所にいる!」
アマリが文句を言う。
「抜身じゃないだけ感謝しろ」
くそが。単純に強い相手はいい。爪でただぶった斬ればいいだけだからな。
こういう臭かったり汚ェ敵の方が、強力な状態異常持ちなんかよりも余程厄介だ。
こちらが先制攻撃出来た場合はいい。汚れそうな場所を避けて攻撃できるからな。
だが、後手に回るとこれこの通りだ。
絶え間なく正体不明の魔物や悪魔が次々と湧いてくるのだから、素早かろうが動体視力が良かろうが関係ねぇ。
連邦軍の物量作戦の前に屈するジオン軍の精鋭みたいなもんだわ。
「せめてスタミナを回復できりゃあな・・・。アマリ、スタミナポーションはもう尽きたのか?」
アマリは暇な時にポーションを作る趣味がある。錬金術師の才能があるのだ。
この閉鎖空間に入ってから何度かアマリのポーションに助けられている。
「もう・・・。ない」
「そうか。左手に金剛切りさえあれば・・・。こんだけ敵が無限に湧くってこたぁ、ここはマナスポットかなんかだろうに・・・。じゃあ俺の願いを具現化してくれてもいいだろうがよ! どっかの神さんよ!」
「断る」
アオの願いに即答したのはヒジリだった。
なぜ断るかの説明はせず、現人神はオビオの淹れたコーヒーを一口飲んで、その美味さに「ほう」とただ唸るだけだった。
現人神に断られたアオの視線は、オビオやサーカに向いた。
「お、俺達も目的があるから無理かな・・・」
ばつが悪そうにするオビオをアーモンド型の目が見つめる。
「君の目的とは惑星ヒジリでの永住権だろう?」
ヒジリの質問に、負い目を感じるのかオビオの返事は小さい。
「そ、そうだけど・・・」
「それなら私が許可しよう」
「え! ほんとうに?!」
植民星の主の権限は強い。地球を管理するマザーコンピューターでさえ、迂闊に主権侵害はできないのだ。
更に歴史上、前例のない――――、知的生命体が住む星を発見するという、偉業をなした科学者ヒジリが支配する星だ。
その惑星ヒジリの主が許可を出したのだ。地球政府も口出しはできない。そして、コズミック・ノートにこの星での永住権を得る方法を聞く必要もない。
「ああ、いいとも。この魔法の星の不思議な食材で料理をして、皆を喜ばせたいのだろう?」
「そうだ。いや、はい! そうです! ありがとうございます! ヒジリさん!」
一瞬、現人神がニヤリとしたような気がしたが、オビオは素直に頭を下げてガッツポーズを作って喜んだ。
「この星で生きるのに、ヒジリ様の許可がいるとは知らなかったな」
頭を下げるオビオの後ろで、サーカが腕を組んで皮肉を言った。
「恋人の君なら知っているだろうが、オビオ君は星の国出身なのでね」
「星のオーガには、星のオーガのルールがあるんだよ、サーカ」
余計なことを言って話をややこしくするなよ、という意思が籠もった目でオビオはサーカを見た。
「じゃあ、願いの叶ったオビオさんが、私に質問の権利を譲ってくれる、という事で良いですか?」
アオは初めて見る星のオーガ二人に緊張しながら尋ねる。
「そうだな。俺はこの新天地で皆に飯を食わせて、そのお返しに喜んでもらえたらそれでいいんだ。権利は快く譲るよ」
「ありがとうございます!」
アオが頭を下げると、ローブの緩い首元から猫人の胸が見えたのでオビオの目が泳ぐ。
「ど、どういたしまして(下着付けてないじゃん)」
「あ! オビオが猫人のオッパイをイヤラシイ目で見てたよ! 騎士様!」
同じく猫人の胸を見たピーターが告げ口すると、サーカが「うぉぉぉ!」と雄叫びを上げながら、メイスを振り回してオビオを追い回し始めた。
「あのバカップルはほっといてさ、ユー、さっさと質問しちゃなヨ」
ピーターは下心があるのか、格好をつけながら猫人にそう言った。
「あ、はい。では、権利を頂いたので質問しますね。この脇差をキリマルに返す方法を教えて下さい! コズミック・ノート様!」
覇気のないコズミック・ノートは、静かに端的に答えた。
「ここはどこかね、アークメイジのアオ。濃厚なマナが漂うこの遺跡で適切な魔法を使えば、その願いは通る。キリマルは次元と次元の狭間にいる。すぐ近くにいるとも言えるのだ」
「そんな簡単な事でキリマルの力になれるなんて! 【人探し】」
「待ってくれ、アオ君。その脇差を少し見せてくれないか?」
ヤイバが青い篭手を前に出すと、その手とアオの持つ脇差をヒジリが羨ましそうに見ている。
「そういえば君は私の特性を引き継いではいないのかね? マジックアイテムに触れると壊してしまうという特性を」
父であるヒジリは脇差へ興味を向けないように、ヤイバに尋ねる。
「ええ、僕は魔法の武器防具が装備できますよ? 父さんから引き継いだ特性かどうかは分かりませんが、生まれながらにして魔法レジスト率と魔法防御力は50%あります」
「半分も?!」
基本的に防具や指輪などで補ったとしても25%ほどである。素の状態でその倍の数値を叩き出すヤイバにアオは驚く。
「っと、今は驚いている場合ではありませんでした。この脇差を手にとってどうするのですか? 壊したりしませんよね?」
猫人の疑う目に少し傷ついたのか、ヤイバは眼鏡を外して潤んだ目でアオを見つめた。
「僕がそんなオーガに見えますか?」
ここでヤイバの魅力値21が炸裂する。
「きゃわわ! 危ない! マスター以外の人を好きになってはいけないのに!」
アオよりも先にウメボシが黄色い声を上げた。
「ほう、アンドロイドにも効果があるのかね」
ウメボシは主以外に惚れそうになった事を恥じ、話題を逸らそうとヒジリに耳打ちする。
「今、アオ様の股間からフェロモンが放出されました」
「そんな情報は必要ない」
アオは何も言わず、股間をモジモジさせながら魔刀金剛切りをヤイバに渡す。
「大丈夫、おまじないをかけるだけですよ。ありがとう。もう用は済みました。脇差を【転送】の魔法で送って下さい」
アオはコクリと頷いて、詠唱を開始した。
一体ヤイバは何がしたかったのかという目でヒジリは訊く。
「本当に、ただのおまじないだったのかね?」
ヤイバはただ脇差を握って目を閉じただけだ。
マナが充満するこの地で上位悪魔こそ見えはしたが、魔法関連の出来事がほぼ見えないヒジリにとってそれは本当にただのおまじないにしか見えなかった。
「秘密です」
「むぅ、眩いッ!」
魅力値21のヤイバの微笑みに眩しさを感じて、ヒジリは手でその光を遮った。
俺は強がって笑い、群がってくる恐怖の化身を爪で切り裂いた。
「クソみたいな攻撃力と防御力の雑魚ばかりかと思えば、こんな強いのもいる!」
紛い物のデビルマンみたいな悪魔の爪を闇の中で避けて、背後のバジリスクの石化睨みを分身に引き受けさせる。
分身が石化している間に、跳躍しながらバジリスクの首を切り、宙に舞うその頭を掴んで偽デビルマンに向けた。
当然、コウモリの羽を頭部に持つ悪魔は見事に石化した。
「恐怖の化身にはなんちゃって悪魔が多いな。悪魔は誰にとっても恐怖の対象になり易いってことか。嬉しいねぇ」
何らかの理由で実体化できた野良悪魔は、他の悪魔を襲うことはまずない。無駄な戦いで実体を不安定にさせたくないからだ。攻撃してくんのは、大概召喚主に命令された悪魔な。
まぁこの空間でその知識を披露する相手はいねぇが。
話し相手にアマリがいるが、俺がうんちく垂れたところで釈迦に説法だ。
闇の中で戦う分身があと何体いるかを数える。
「やべぇな。もう残り二体しかいねぇ。あと何体出せるやら」
俺はふと金剛切りの事を思い出した。
連続で戦い続けてもスタミナが減らないあの脇差は、本当に良い物だった。しかも、貫通力まで高めてくれる。
いくら常時即死攻撃が付随してても貫通しなけりゃ意味がねぇからな。命中率と貫通率はまた別の話だからよぉ。
余計な事を考えていると、闇の中から無数の穴の空いた顔がヌッと現れて、その穴から角栓のような、或いはウジムシのような何かを射出してきた。
当然、散弾銃の弾のようなそれを全て回避して、俺は刀の柄を握る。
「きめぇ!」
鞘に入ったままの魔刀で、そいつの顔面を叩き潰すと白い粘液が鞘に付いた。が、それ以上何か起こるということはない。鞘が溶けるとか、腐るとかな。
しかし・・・。
「ああああ! クセェ!」
白い粘液は、腐敗臭とおっさんの歯糞と銀杏を混ぜたような匂いを発してやがる。
「私が一番、悪臭に近い場所にいる!」
アマリが文句を言う。
「抜身じゃないだけ感謝しろ」
くそが。単純に強い相手はいい。爪でただぶった斬ればいいだけだからな。
こういう臭かったり汚ェ敵の方が、強力な状態異常持ちなんかよりも余程厄介だ。
こちらが先制攻撃出来た場合はいい。汚れそうな場所を避けて攻撃できるからな。
だが、後手に回るとこれこの通りだ。
絶え間なく正体不明の魔物や悪魔が次々と湧いてくるのだから、素早かろうが動体視力が良かろうが関係ねぇ。
連邦軍の物量作戦の前に屈するジオン軍の精鋭みたいなもんだわ。
「せめてスタミナを回復できりゃあな・・・。アマリ、スタミナポーションはもう尽きたのか?」
アマリは暇な時にポーションを作る趣味がある。錬金術師の才能があるのだ。
この閉鎖空間に入ってから何度かアマリのポーションに助けられている。
「もう・・・。ない」
「そうか。左手に金剛切りさえあれば・・・。こんだけ敵が無限に湧くってこたぁ、ここはマナスポットかなんかだろうに・・・。じゃあ俺の願いを具現化してくれてもいいだろうがよ! どっかの神さんよ!」
「断る」
アオの願いに即答したのはヒジリだった。
なぜ断るかの説明はせず、現人神はオビオの淹れたコーヒーを一口飲んで、その美味さに「ほう」とただ唸るだけだった。
現人神に断られたアオの視線は、オビオやサーカに向いた。
「お、俺達も目的があるから無理かな・・・」
ばつが悪そうにするオビオをアーモンド型の目が見つめる。
「君の目的とは惑星ヒジリでの永住権だろう?」
ヒジリの質問に、負い目を感じるのかオビオの返事は小さい。
「そ、そうだけど・・・」
「それなら私が許可しよう」
「え! ほんとうに?!」
植民星の主の権限は強い。地球を管理するマザーコンピューターでさえ、迂闊に主権侵害はできないのだ。
更に歴史上、前例のない――――、知的生命体が住む星を発見するという、偉業をなした科学者ヒジリが支配する星だ。
その惑星ヒジリの主が許可を出したのだ。地球政府も口出しはできない。そして、コズミック・ノートにこの星での永住権を得る方法を聞く必要もない。
「ああ、いいとも。この魔法の星の不思議な食材で料理をして、皆を喜ばせたいのだろう?」
「そうだ。いや、はい! そうです! ありがとうございます! ヒジリさん!」
一瞬、現人神がニヤリとしたような気がしたが、オビオは素直に頭を下げてガッツポーズを作って喜んだ。
「この星で生きるのに、ヒジリ様の許可がいるとは知らなかったな」
頭を下げるオビオの後ろで、サーカが腕を組んで皮肉を言った。
「恋人の君なら知っているだろうが、オビオ君は星の国出身なのでね」
「星のオーガには、星のオーガのルールがあるんだよ、サーカ」
余計なことを言って話をややこしくするなよ、という意思が籠もった目でオビオはサーカを見た。
「じゃあ、願いの叶ったオビオさんが、私に質問の権利を譲ってくれる、という事で良いですか?」
アオは初めて見る星のオーガ二人に緊張しながら尋ねる。
「そうだな。俺はこの新天地で皆に飯を食わせて、そのお返しに喜んでもらえたらそれでいいんだ。権利は快く譲るよ」
「ありがとうございます!」
アオが頭を下げると、ローブの緩い首元から猫人の胸が見えたのでオビオの目が泳ぐ。
「ど、どういたしまして(下着付けてないじゃん)」
「あ! オビオが猫人のオッパイをイヤラシイ目で見てたよ! 騎士様!」
同じく猫人の胸を見たピーターが告げ口すると、サーカが「うぉぉぉ!」と雄叫びを上げながら、メイスを振り回してオビオを追い回し始めた。
「あのバカップルはほっといてさ、ユー、さっさと質問しちゃなヨ」
ピーターは下心があるのか、格好をつけながら猫人にそう言った。
「あ、はい。では、権利を頂いたので質問しますね。この脇差をキリマルに返す方法を教えて下さい! コズミック・ノート様!」
覇気のないコズミック・ノートは、静かに端的に答えた。
「ここはどこかね、アークメイジのアオ。濃厚なマナが漂うこの遺跡で適切な魔法を使えば、その願いは通る。キリマルは次元と次元の狭間にいる。すぐ近くにいるとも言えるのだ」
「そんな簡単な事でキリマルの力になれるなんて! 【人探し】」
「待ってくれ、アオ君。その脇差を少し見せてくれないか?」
ヤイバが青い篭手を前に出すと、その手とアオの持つ脇差をヒジリが羨ましそうに見ている。
「そういえば君は私の特性を引き継いではいないのかね? マジックアイテムに触れると壊してしまうという特性を」
父であるヒジリは脇差へ興味を向けないように、ヤイバに尋ねる。
「ええ、僕は魔法の武器防具が装備できますよ? 父さんから引き継いだ特性かどうかは分かりませんが、生まれながらにして魔法レジスト率と魔法防御力は50%あります」
「半分も?!」
基本的に防具や指輪などで補ったとしても25%ほどである。素の状態でその倍の数値を叩き出すヤイバにアオは驚く。
「っと、今は驚いている場合ではありませんでした。この脇差を手にとってどうするのですか? 壊したりしませんよね?」
猫人の疑う目に少し傷ついたのか、ヤイバは眼鏡を外して潤んだ目でアオを見つめた。
「僕がそんなオーガに見えますか?」
ここでヤイバの魅力値21が炸裂する。
「きゃわわ! 危ない! マスター以外の人を好きになってはいけないのに!」
アオよりも先にウメボシが黄色い声を上げた。
「ほう、アンドロイドにも効果があるのかね」
ウメボシは主以外に惚れそうになった事を恥じ、話題を逸らそうとヒジリに耳打ちする。
「今、アオ様の股間からフェロモンが放出されました」
「そんな情報は必要ない」
アオは何も言わず、股間をモジモジさせながら魔刀金剛切りをヤイバに渡す。
「大丈夫、おまじないをかけるだけですよ。ありがとう。もう用は済みました。脇差を【転送】の魔法で送って下さい」
アオはコクリと頷いて、詠唱を開始した。
一体ヤイバは何がしたかったのかという目でヒジリは訊く。
「本当に、ただのおまじないだったのかね?」
ヤイバはただ脇差を握って目を閉じただけだ。
マナが充満するこの地で上位悪魔こそ見えはしたが、魔法関連の出来事がほぼ見えないヒジリにとってそれは本当にただのおまじないにしか見えなかった。
「秘密です」
「むぅ、眩いッ!」
魅力値21のヤイバの微笑みに眩しさを感じて、ヒジリは手でその光を遮った。
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