殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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世界は変わり太陽は近づく

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「またここか・・・」

 俺は浮かぶ闇の中で、燃える太陽を見てそう呟いた。死ぬと毎回ここだ。

 ここに来ると勿論もいる。

「・・・」

 コズミック・ペンを嵌めたであろう策士のゴブリンは、“記憶の太陽”と呼ばれる輪廻転生機関の光を禿頭に反射させて突っ立っていた。

「どうした? 今日はダンマリだな。おい、ヤンス。何か喋れよ」

「ヤンスは・・・。コズミック・ペンを殺したくはなかったでヤンス」

 やはり、こいつが確率を弄っていたのか。しかし、世界が終わるって時にそうは言ってられねぇわな。物語を作ったコズミック・ペンを消せば、無の侵攻が止まると思ってやったんだろうよ。

「ああ、魔筆が消えて気に病んでるのか。奴は死んでねぇ。俺がいた世界でしぶとく生きている」

 運命を司ると言われる古から存在する神は、俯いた顔を上げて、明るい顔でキリマルを見つめた。

「ホントでヤンスか! ・・・うん? “俺がいた世界”?」

「どうした? 俺の世界は俺の世界だろ。お前らの世界はページが幾つも重なり合って影響しあってた世界だ。だからコズミック・ノートが存在したんだろうよ」

「ああ、そうでヤンした。・・・一つ、キリマルに告げておく事があるでヤンス。世界は改変されてしまったでヤンス。統合される未来のシナリオは幾つかあったでヤンスが、いずれもコズミック・ペンたちが存在していた世界でヤンス。しかし今回ばかりは違ったでヤンス。無の侵攻で失った多くの領域を緊急で補う必要性があり、禁断の箱庭がキリマルの世界を模倣して補ったでヤンスよ」

「ああ、なんか言ってたな。泡の世界がどうとか」

「そうでヤンス。世界は・・・。一つの泡の世界に変わりやした」

「まぁ、俺らの世界は元々そうだったんだがなぁ。似たような世界が何枚も重なりあって影響し合う、お前らの世界のほうが余程変に感じる」

「勿論、この世界も時々泡が接触して、世界が変わる可能性があるでヤンス。だけども、基本的にヤンスが介入する事が難しくなったでヤンス」

「どういうこった?」

「つまり、あらゆるチャンスは一度限りって事でヤンス」

「俺にとっちゃ、それが当たり前なんだがな・・・」

「それから、一つ言いにくい事があるでヤンス。ダーク・マターの存在が消えたでヤンス」

「なにぃ! 俺様の子孫だぞ! なんで消した!」

 俺はヤンスの細い首を締め上げる。あまり力を入れると殺してしまいそうだったので加減をするが・・・。

 腕のクラックが真っ赤に光っているから、どうなるかはわからねぇ。

「ヤ、ヤンスはダークを消しでないでヤンズぅ・・・」

 ゴブリンの眼鏡の下で数字の3のような目が白黒している。

「おっと、そうだった」

 俺はゴブリンの首から片手を離すと、胡座をかいて座り腕を組んだ。

「どうせなら、ヒジリが消えりゃあよかったんだ」

「ヒジリも消えたでヤンスよ」

「なに? でかした!」

 俺はガッツポーズをしてから、「は?」とヤンスに返す。

「勿論、その他大勢も全員消えたでヤンス」

「おいおい、ヒジリが世界を救う予定だったんじゃねぇのか?」

「救ったでヤンスよ。あっさりと敵を倒して、箱庭のスイッチを押したでヤンス。しかし、世界を補完するにはあまりにも損失が大きかったでヤーンス・・・。ゴホッ!」

 話し終えると、四つん這いになって首を擦りながらゲホゲホと咳をする運命の神は、ふぅと一息ついて立ち上がる。

 俺はヤンスが呼吸を整えるまで我慢強く待ってから質問をした。

「いやいや、意味がわかんねぇな。あいつらが消えたなら、世界にとって、かなりの損失なんじゃねぇのか? なにせスーパーマンみたいな存在だったしよ」

「原因があって結果があるのが、キリマルの世界でヤンス。この世界を正常な世界にするには、大きな代価を払う必要があったでヤンス」

「その代価がヒジリたちだったと?」

「そうではないでヤンス。代価は時間でヤンス。簡単に言うとやり直しとか、巻き戻しみたいな感じでヤンス。コズミック・ペンの書き込みによる不具合が少ない時間まで巻き戻されたでヤンス」

「さっきお前が言った事と話を繋ぎ合わせて考えるに・・・。つまり俺の世界の時間まで戻されたって事か?」

「ヤンス」

 瓶底眼鏡ゴブリンはコクリと頷いた。

「じゃあ、ダークどころの話じゃねぇだろ! 元の時間に戻ったビャクヤやリンネだって・・・・!」

「いや、ビャクヤとリンネは今も攻め寄せてくる魔物から砦を守っているでヤンスよ。二人は存在可能な領域に留まったでヤンスから。魔物たちもそろそろ無の侵攻が止まった事に気づく頃だと思うでヤンスが・・・」

「まじか・・・! あいつら俺の言うことをきかなかったのか! クハハ! 流石は俺様の子孫ビャクヤ」

 俺は安心して寝転んだ。

「じゃあ、後はビャクヤが俺を召喚するのを待つか」

「それはどうでヤンスかね」

 ヤンスは振り向いて記憶の太陽を見つめる。

「キリマルの事を呼んでいるでヤンスよ、太陽が」

「はぁ? なに? じゃあ俺は輪廻転生するってぇのか?」

「キリマルは気づいてないでヤンスか? ジリジリと太陽に近づいていっている事を」

 そういや、俺は微かに太陽の方に引っ張られているな。

「なんで俺様が転生する必要があるんだ? 永遠に死なない悪魔なんだろうが?」

「キリマルはページ上を這い回る虫みたいな存在だったでヤンス。ページの上に落ちた影には死の概念が無かったから、今まで死ななかったでヤンスよ。魔筆と魔本のルール上では、それに値するのは悪魔か天使。他にはヤンスとかQとかの特別な存在のみ」

「ってことは・・・。この泡の世界での死は・・・」

「普通に死ぬのと同じ事でヤンス」

 俺はある事に気づいて腰回りを見る。

「そうだ! アマリ! あいつがいりゃあ、何とかなるんじゃねぇのか?」

「前にも言ったでヤンスが、彼女はこの空間には入れないでヤンス。あれは事象を曲げる神殺しの剣。ここでうっかり魔刀天邪鬼に斬り殺されては困るでヤンスからね」

「金剛切りはどうして入れるんだ?」

 俺は手に持つ脇差に気がついてブンブン振り回す。

「その脇差は意志を持っていないでヤンス。それにヤイバが付与した虚無の力も消えているでヤンスからね。それでヤンスを殺すのは無理でヤンス」

「なんで俺がお前を殺す前提になってんだよ。大体、お前みたいなクソカス、殺して何の得があるんだ」

「く、口を慎むでヤンス! 神の御前であるぞ!」

「自分で言うな。そういうのはお付きの者が言うセリフだ。それに力を失ったお前は最早、神を名乗れねぇんじゃねぇの?」

「むむっ! 確かにヤンスは皆のことを見守るしか出来ないでヤンスね・・・」

「クハハ! そうだろうよ! さてさて、無力な神様よ。俺は輪廻転生する気はねぇぞ。どうしたらいい?」

「えぇ・・・? そうでヤンスねぇ・・・。やっぱりビャクヤに召喚してもらうしかないでヤンス。記憶の太陽に吸い込まれる前に」

「じゃあ、念話かなにかでビャクヤにそう伝えてくれや」

「無理でヤンスね。ヤンスは【念話】の魔法を覚えていないでヤンスからね」

「魔法は残っているのか? 原因があって結果があるってぇ事は、魔法も科学で証明されねぇといかんだろ。でたらめなマナで創造される魔法は消えているはずだぞ」

「そう思うなら、なんでヤンスに念話しろとか言ったでヤンスか! 魔法もマナも存在するでヤンスよ。魔法は数千年前にサカモト博士が科学的に解明しているでヤンス。そもそも、魔法の仕組みを解明して体系立てたのは、あのサイド・モジャモジャ・ボンボリ禿げの博士でヤンスよ」

「まじか!」

「キリマルは暫く博士と一緒にいたでしょうが! 何を見ていたでヤンスか!」

「うるせぇな。じゃああんまり前と変わんねぇじゃねぇか」

「いや、変わったでヤンスよ。神が与えし能力が消えたでヤンス」

「つまり、今後は能力バトル漫画みたいな事にはならねぇってか」

「そうでヤンス。なんスか? 能力バトル漫画って」

「知らないなら知ったかぶりをするな。で、改めて訊くが、俺はどうすりゃあいい?」

「知らないでヤンス」

「あ? おめぇはこのまま俺様が輪廻転生してしまうのを、黙って見ているつもりか?」

「生温かい目で見守るしかないでヤーンス。ヤンスは力なき神でヤンスから!」

 ニヤニヤしやがって・・・。ってか、眼鏡が光を反射してヤンスの目が生温かいかどうかわかんねぇな。

「ビャクヤは賢いからよ。すぐに俺様を召喚するだろう」

「それはどうでヤンスかねぇ・・・。あの仮面のメイジはキリマルの事を、閉じられた空間で永遠に戦い続ける英雄的存在として認識しているでヤンスよ。ほら」

 ヤンスは懐から魔法水晶を取り出した。

 水晶には覚醒して灰色のオーラを纏うビャクヤが、押し寄せる魔物の群れに向けて魔法名を叫んでいる。

「我がご先祖さまに捧ぐ! 食らった者は全員即死! んんん! 【エターナル・フォース・ブリザードッ!】」

 それを見て俺はヤンスの首を締める。

「おい! ビャクヤはデタラメな魔法を唱えているぞ」

「ぐえぇ! 違うでやんす! あれは最上位広範囲魔法の一つ【氷地獄】でヤンス! ビャクヤが勝手に呪文名を変えているでヤンス!」

 そうだった。あいつは気分で魔法名をコロコロ変えるんだったわ。

 俺はヤンスを投げ捨てると、また胡座をかいて座る。

「う~む」

「ゲホホ! ち、因みに記憶の太陽は思ったよりも近いでヤンスから気をつけたほうがいいでヤンスよ、キリマル。持ってあと五分といったところでヤーンス」

「なーーーにぃーーー!」

 俺は芸人のような声を張り上げ、遠近感の測り難い記憶の太陽を見て汗を垂らした。
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