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狂い死に
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「ロン指揮官、現在アンノウンと交戦中! 我々では対処できませ・・・」
イヤホンからザッと音がして通信が途絶えた。
スマートフォンのマップを使い、今しがた通信してきた列兵の位置を確かめる。
「近いな。なんだ? 相手は日本の特殊部隊か? 平和ボケしたこの国に、迅速に対応のできる部隊なんて聞いた事がないな」
龍子豪(ロン・ズーハォ)は、縦長の瞳孔を更に猫のように細めた。
着ていたロングコートとズボンを裏路地で素早く脱ぐと、黒い全身スーツ姿となって風景に溶け込む。
「下級兵とはいえ、我が国の鍛え上げた兵士を簡単に屠る相手だ。少しは役に立てよ、カメレオンスーツ」
気配を消して、アンノウンのいる方向へ進む間に、ロンは今回の任務は簡単なものだという考えを捨てる事にした。柔軟に頭を切り替えないとこの世界では生きていけない。
(祖国がばら撒いたウィルスは世界に経済的打撃を与えた。医療機関の麻痺、デマによる混乱。それで人間の数をもっと減らせれば、この私が日本に来る事もなかったのに。忌々しい日本鬼子の坂本博士め。まさか特効薬を作って各国にデータを共有するとはな。アンノウンも奴の差し金か?)
ロンは、パフ菓子のように広がる白髪と大きな団子鼻の博士をスマートフォンで確認する。
「同じアヌンナキの子なのに、どうして我らレプティリアンは地に追いやられた? いつも行動を起こすと何かしらの邪魔が入る。地球の神は相当我らを嫌っている」
「ケーーーーーン!」
雉のような鳴き声がしたと思うと、近くのビルに頭を擦り付けられている仲間をロンは発見する。
当然、その兵士の頭はビルの壁の凹凸に削り取られて、磨り減っていく。
「ギキョカーーー!」
黒いハンマーのような頭を持つ大きな生き物は、スッと消えて任務を遂行する他の兵士の胴体に、手刀を埋め込んで腸を引きずり出していた。
「クハハハ!」
時々人間っぽい声を出す生き物を見て、ロンは呻く。
「なんだ? あの残虐性は。まるで・・・」
まるで――――悪魔だと言おうとして、視界が暗くなった。それから、プッ!と吐き出すような音がして視界が開ける。
誰かの頭のない体を真上から見つめた後、地面に激突するが痛みはない。
(ああ、目の前の首なし胴体は俺のものか。こんなに呆気なく死ぬとはな・・・)
ロンが悪魔に自分の頭を食いちぎられたと認識したは、意識がなくなる三秒前の事だった。
「クギギ・・・。中国兵の中に、リザードマンが混じってやがる・・・」
気を抜くと途切れそうになる意識を保ちながら、俺は精神を蝕む悪魔化になんとか抗っていた。
「リザードマンは魔法の星でも異質な存在。多種族と交わろうとはせず、好戦的で排他的で利己的だった」
「そういや、坂本博士の作ったトカゲ人は、もっとヒョウモントカゲモドキのように人懐っこい顔をしていたな。さっきのリザードマンはリアルで気持ち悪かった・・・。キエーーッ!」
クソが。奇声を抑えられない。殺人衝動が時を追うごとに激しくなってきやがる。
マナの少ない地球で影分身などすれば、継続的にスタミナを消耗してしまい、それだけ自身の存在を薄れさせる。なのに俺は分身を出して中国兵を殺しまくっていた。
時間が立てば周囲のマナでスタミナを回復ができた惑星ヒジリとは違って、ここでは消耗戦になるのは必然。
意識を保ちながらのスタミナ管理は至難の業だ。
自我をなんとか保てるのも、近くに俺を俺と認識してくれる存在がいるからだ。アマリが頻繁に話しかけてくる。
「魔法星でのリザードマンは繁殖力が高かったけど賢くはなかった。でも、この星のリザードマンは裏で糸を引く事を得意としているように見える。さっき殺したリザードマン以外は見かけないから」
「滅多に表に出てこねぇって事か。まるで樹族みたいだな」
「それからキリマルの五感が鈍くなってきている。だから代わりに私がやる。この大通りの先の建物の手前で待ち構えるリザードマンの匂いがある」
俺は無双ゲームのように、あちこちに潜む中国兵を分身で切り刻みながら進むと、バリケードの向こう側にリザードマンの姿を捉える。
なで肩で顔が異様にでかくて醜い。何となくカッパをリアルにしたイメージだな。そのカッパが口を開く。
「そこまでだ。日本鬼子。さっさとその黒い・・・。なんだ? パワードスーツ・・・なのか? よくわからんが、機動兵器から降りろ」
「嫌だと言ったらどうする? グェグェ」
俺は爪を出し入れして、気分を紛らわす。その間にも我が分身がひっそりと、中国兵を始末している事にリザードマンは気づいていない。
「子供が死ぬ」
「子供? 殺せよ。それに今死んでいるのは、お前の仲間なんだがなぁ・・・。クキーーー!」
この奇声はなんとかならねぇか。いまいち格好の悪い声ばかり出しやがる。
リザードマンはこちらを用心しつつも周囲を見渡して、白いカッパ顔を青くしていった。
中国兵の肉片があちこちに落ちており、遠巻きに俺の分身に囲まれている事にようやく気がついたのだ。
すると奴は車の影から、後ろ手に縛った子供を引き寄せて首元にナイフを当てた。
「今すぐ手を引かないと、この子供を殺す。いいのか? 公務員が一般人を見殺しにして。ここで子供を見殺しにして、議事堂に進んだとしても、後々国会で追求されるぞ」
「キハハハ! 俺様は公務員でもなんでもねぇ。悪魔だ! だからスパイ天国である日本の国会に追求されても、関係ねぇな!」
「なに? 民兵なのか? それでも法には触れるぞ!」
「うるせぇ! カッパ! 俺の属性はカオティック・イービルだ。法なんてクソ喰らえなんだよ。今からお前を細かく刻んでドブガメの餌にしてやるぜ。覚悟しろ! キョキキー!」
と言ったものの、奴を囲むポールが気になるな。
遮蔽装置でも付いているのか、ポール自体は見えにくくなっているが、不自然に空間が歪んでいるのでよく見れば分かる。
「罠があるな・・・」
「分身をぶつけるべき」
アマリの助言の後に、遠くから必死になって叫ぶ女の声が聞こえた。
「翠ーー! どこなのー!」
「お母さん、ここだよォーー!」
カッパに捕らえられている幼女が大きな声で応えた。
ミドリという名前を聞いて、体が段々と熱くなってきた。腕を見ると、クラックからマグマが吹き出そうなほど赤い。
「ギキキ・・・。ミド・・・リ? ミドリ! カナ! ビャクヤ! ダーク! ナンベル!」
「違う! キリマル! あれはミドリじゃない! あなたの子ではない!」
「ミドリ!」
体が勝手に動いていた。
俺を含む分身十人は、一斉に跳躍して罠に飛び込んでいく。それは殺虫灯に引き寄せられる昆虫のように。
「カパパ! 引っかかったな! プラズマフィールド展開!」
カッパが笑った途端、俺の下半身に青い光が走り、感覚が無くなった。
俺は咄嗟に他の分身の背中を押して、その場を離れる。分身たちはプラズマフィールドによって消えてしまった。
「随分と背が低くなったな、自称悪魔。まだ生きているという事は、サイボーグか何かか? 流石は坂本博士だな」
「ハ! この時代からサカモト博士の先祖はいたんだな」
「何を言っているかは知らんが、お前のような単独部隊はもういないだろうな? いや、ウィルスによる経済的打撃で、機動兵器を一体開発するのがやっとだったのだろう。いれば、既に国会に向かっているはずだ」
「何が目的だったんだ・・・? 俺の意識が消える前に教えてくれると嬉しいんだがな・・・。キキキ」
俺は上半身だけで地面の上に起き上がると、クラックを青く点滅させた。アマリと金剛切りは俺の背中で浮いている。
「通信機の類は・・・。持ってなさそうだな。逆探知される可能性を考慮してか。やはり一筋縄ではいかないな、坂本博士め」
カードのような機器で俺をスキャニングしながら、カッパは下唇を噛んだ。
えらく買いかぶられているな、サカモト博士のご先祖様は。
「良いだろう。死にゆくお前に教えてやる。地底で長き屈辱に耐えた我らレプティリアンは、これより人類半減計画に移る。今日まで中国、ロシア、ドイツ、イギリス、その他諸々の国に同志を潜り込ませて、この機会を待っていたのだ」
「ほぉ~。そうか、そうか。だがぁ、俺様には関係ねぇ話だなぁ・・・。キッキッキ!」
カッパの股の下から、俺の爪の切っ先が見えた。腕を伸ばして地面を爪で穿って進むのは、結構大変だったぜ。
「俺様は串刺し公であ~る! クハハハ!」
シャキンと音がして、カッパの串刺しが出来上がった。
「げぇ・・・。だが、私が死んでもまだ仲間はいる。今頃、国会議事堂を選挙している頃だろう・・・。我が同志は更に日本での計画を進め・・・。カパッ!」
肛門から頭の先まで悪魔の爪に貫かれて、ブランブランと揺れるカッパは、最期に悔しさを滲ませて息絶えた。と同時にプラズマフィールドも消える。
「クハハ! なんだその中ボスみたいな死に際のセリフは。お嬢ちゃん、危ないからこっちにきな」
俺は女の子を呼び寄せた。女の子は素直に走って来る。
「み、見てろよ、ミドリ。ととと、父ちゃんが素敵な花火を見せてやるからな? な?」
「キリマル。その子はミドリではない」
アマリの声が聞き取り難い・・・。
俺は爪を地面ギリギリまでしならせて、勢いよくカッパの死体を国会議事堂に飛ばした。
「ほら、ミドリ! 綺麗な花火が見れるぞ! た~ま・・・」
「た~まや~」と言い終わらないうちにドドーーーーーーン! と轟音がする。
小型の核爆弾でも落ちたかのような爆発が国会議事堂に起きて、弾丸のような瓦礫が飛んできた。
「かぁ~! やべぇ! こんなに威力があるとはな!」
俺はミドリを引き寄せると、爆風に背中を向け、飛んでくる瓦礫から守った。
爆風が止むともうもうと立ち上る灰色の煙の中から、顔中煤だらけの母親がとこからともなく現れる。
「翠!」
俺に怯えて近づくかどうか迷っているカナに、カーッ! と一喝する。
「このくらいの歳の子供ってぇのはな! ウロチョロしたがるもんなんだよ! しっかり手ェ繋いでろ! 次は離すなよ!」
そして俺はミドリに向いて、猫なで声を出す。可愛い可愛い俺の娘だ。
「カナは駄目な母ちゃんだな? ミドリ。どこか安全な場所まで逃げるんだぞ」
俺はミドリをカナに引き渡して、普段どおりの歪んだ声に戻す。
「都市部は確実に危ねぇぞ。カナの田舎はどこだったか・・・? あー・・・。とにかく樹族国の田舎・・・。クロス地方・・・。いや、あそこは国境沿いで危ないか・・・。まぁいいや、どこかに逃げろ。俺はお前らの匂いを辿って追いつくからよ」
カナはコクリと頷いて、ミドリの手を引っ張って行く。
「カナヅチのおじちゃん! 助けてくれてありがとう!」
ミドリは精一杯手を振っている。
「カナヅチのおじちゃん? 誰のことだ? ミドリは随分と大きくなったもんだ。なぁ? アマリ。ギキキッ!」
「キリマル・・・」
「ん? ってか地球にカナもミドリもいねぇよな・・・。どうしたんだ、俺は・・・」
「キリマルは思考が混乱している。体が消え始めているから・・・」
「なにィ? ちょっと待て! じゃあ、俺はあのカッパにやられたも同然じゃねぇか! イィィ! 嫌だ! 最凶最悪の! この俺様が! あんなクソ雑魚非力カッパ男に負けたなんて! それにここは、おい! 地球じゃねぇか! ろくな思い出がねぇ! 嫌だ! こんなところで死にたくねぇ!」
俺が上半身だけでジタバタして駄々をこねていると、アマリが話しかけてきた。
「キリマル。一つだけ誰にも負けずに死ぬ方法がある・・・」
アマリの声は涙声だ。
「自害すれば、誰にも負けていない事になる」
「キヒッ! キヒッ! そ、その手があったか! あああ、あれだ! “俺がビャクヤの素顔を見て射精しそうになった時、お前の口の中に出したからセーフ理論”かぁ! 懐かしいな!」
俺は咄嗟に左手で、背中右肩側にある刀を掴んで、素早く自分の心臓目掛けて一突きして、捻る。
「グエェ! これで・・・。俺はカッパに負けていねぇことになるな・・・。そうだろ? アマリ・・・。クハハ! こりゃあ自殺ってんだ!」
「そんな・・・。キリマル・・・」
最期に左肩から聞こえたのはアマリの悲しげな声だった。
イヤホンからザッと音がして通信が途絶えた。
スマートフォンのマップを使い、今しがた通信してきた列兵の位置を確かめる。
「近いな。なんだ? 相手は日本の特殊部隊か? 平和ボケしたこの国に、迅速に対応のできる部隊なんて聞いた事がないな」
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着ていたロングコートとズボンを裏路地で素早く脱ぐと、黒い全身スーツ姿となって風景に溶け込む。
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ロンは、パフ菓子のように広がる白髪と大きな団子鼻の博士をスマートフォンで確認する。
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「ケーーーーーン!」
雉のような鳴き声がしたと思うと、近くのビルに頭を擦り付けられている仲間をロンは発見する。
当然、その兵士の頭はビルの壁の凹凸に削り取られて、磨り減っていく。
「ギキョカーーー!」
黒いハンマーのような頭を持つ大きな生き物は、スッと消えて任務を遂行する他の兵士の胴体に、手刀を埋め込んで腸を引きずり出していた。
「クハハハ!」
時々人間っぽい声を出す生き物を見て、ロンは呻く。
「なんだ? あの残虐性は。まるで・・・」
まるで――――悪魔だと言おうとして、視界が暗くなった。それから、プッ!と吐き出すような音がして視界が開ける。
誰かの頭のない体を真上から見つめた後、地面に激突するが痛みはない。
(ああ、目の前の首なし胴体は俺のものか。こんなに呆気なく死ぬとはな・・・)
ロンが悪魔に自分の頭を食いちぎられたと認識したは、意識がなくなる三秒前の事だった。
「クギギ・・・。中国兵の中に、リザードマンが混じってやがる・・・」
気を抜くと途切れそうになる意識を保ちながら、俺は精神を蝕む悪魔化になんとか抗っていた。
「リザードマンは魔法の星でも異質な存在。多種族と交わろうとはせず、好戦的で排他的で利己的だった」
「そういや、坂本博士の作ったトカゲ人は、もっとヒョウモントカゲモドキのように人懐っこい顔をしていたな。さっきのリザードマンはリアルで気持ち悪かった・・・。キエーーッ!」
クソが。奇声を抑えられない。殺人衝動が時を追うごとに激しくなってきやがる。
マナの少ない地球で影分身などすれば、継続的にスタミナを消耗してしまい、それだけ自身の存在を薄れさせる。なのに俺は分身を出して中国兵を殺しまくっていた。
時間が立てば周囲のマナでスタミナを回復ができた惑星ヒジリとは違って、ここでは消耗戦になるのは必然。
意識を保ちながらのスタミナ管理は至難の業だ。
自我をなんとか保てるのも、近くに俺を俺と認識してくれる存在がいるからだ。アマリが頻繁に話しかけてくる。
「魔法星でのリザードマンは繁殖力が高かったけど賢くはなかった。でも、この星のリザードマンは裏で糸を引く事を得意としているように見える。さっき殺したリザードマン以外は見かけないから」
「滅多に表に出てこねぇって事か。まるで樹族みたいだな」
「それからキリマルの五感が鈍くなってきている。だから代わりに私がやる。この大通りの先の建物の手前で待ち構えるリザードマンの匂いがある」
俺は無双ゲームのように、あちこちに潜む中国兵を分身で切り刻みながら進むと、バリケードの向こう側にリザードマンの姿を捉える。
なで肩で顔が異様にでかくて醜い。何となくカッパをリアルにしたイメージだな。そのカッパが口を開く。
「そこまでだ。日本鬼子。さっさとその黒い・・・。なんだ? パワードスーツ・・・なのか? よくわからんが、機動兵器から降りろ」
「嫌だと言ったらどうする? グェグェ」
俺は爪を出し入れして、気分を紛らわす。その間にも我が分身がひっそりと、中国兵を始末している事にリザードマンは気づいていない。
「子供が死ぬ」
「子供? 殺せよ。それに今死んでいるのは、お前の仲間なんだがなぁ・・・。クキーーー!」
この奇声はなんとかならねぇか。いまいち格好の悪い声ばかり出しやがる。
リザードマンはこちらを用心しつつも周囲を見渡して、白いカッパ顔を青くしていった。
中国兵の肉片があちこちに落ちており、遠巻きに俺の分身に囲まれている事にようやく気がついたのだ。
すると奴は車の影から、後ろ手に縛った子供を引き寄せて首元にナイフを当てた。
「今すぐ手を引かないと、この子供を殺す。いいのか? 公務員が一般人を見殺しにして。ここで子供を見殺しにして、議事堂に進んだとしても、後々国会で追求されるぞ」
「キハハハ! 俺様は公務員でもなんでもねぇ。悪魔だ! だからスパイ天国である日本の国会に追求されても、関係ねぇな!」
「なに? 民兵なのか? それでも法には触れるぞ!」
「うるせぇ! カッパ! 俺の属性はカオティック・イービルだ。法なんてクソ喰らえなんだよ。今からお前を細かく刻んでドブガメの餌にしてやるぜ。覚悟しろ! キョキキー!」
と言ったものの、奴を囲むポールが気になるな。
遮蔽装置でも付いているのか、ポール自体は見えにくくなっているが、不自然に空間が歪んでいるのでよく見れば分かる。
「罠があるな・・・」
「分身をぶつけるべき」
アマリの助言の後に、遠くから必死になって叫ぶ女の声が聞こえた。
「翠ーー! どこなのー!」
「お母さん、ここだよォーー!」
カッパに捕らえられている幼女が大きな声で応えた。
ミドリという名前を聞いて、体が段々と熱くなってきた。腕を見ると、クラックからマグマが吹き出そうなほど赤い。
「ギキキ・・・。ミド・・・リ? ミドリ! カナ! ビャクヤ! ダーク! ナンベル!」
「違う! キリマル! あれはミドリじゃない! あなたの子ではない!」
「ミドリ!」
体が勝手に動いていた。
俺を含む分身十人は、一斉に跳躍して罠に飛び込んでいく。それは殺虫灯に引き寄せられる昆虫のように。
「カパパ! 引っかかったな! プラズマフィールド展開!」
カッパが笑った途端、俺の下半身に青い光が走り、感覚が無くなった。
俺は咄嗟に他の分身の背中を押して、その場を離れる。分身たちはプラズマフィールドによって消えてしまった。
「随分と背が低くなったな、自称悪魔。まだ生きているという事は、サイボーグか何かか? 流石は坂本博士だな」
「ハ! この時代からサカモト博士の先祖はいたんだな」
「何を言っているかは知らんが、お前のような単独部隊はもういないだろうな? いや、ウィルスによる経済的打撃で、機動兵器を一体開発するのがやっとだったのだろう。いれば、既に国会に向かっているはずだ」
「何が目的だったんだ・・・? 俺の意識が消える前に教えてくれると嬉しいんだがな・・・。キキキ」
俺は上半身だけで地面の上に起き上がると、クラックを青く点滅させた。アマリと金剛切りは俺の背中で浮いている。
「通信機の類は・・・。持ってなさそうだな。逆探知される可能性を考慮してか。やはり一筋縄ではいかないな、坂本博士め」
カードのような機器で俺をスキャニングしながら、カッパは下唇を噛んだ。
えらく買いかぶられているな、サカモト博士のご先祖様は。
「良いだろう。死にゆくお前に教えてやる。地底で長き屈辱に耐えた我らレプティリアンは、これより人類半減計画に移る。今日まで中国、ロシア、ドイツ、イギリス、その他諸々の国に同志を潜り込ませて、この機会を待っていたのだ」
「ほぉ~。そうか、そうか。だがぁ、俺様には関係ねぇ話だなぁ・・・。キッキッキ!」
カッパの股の下から、俺の爪の切っ先が見えた。腕を伸ばして地面を爪で穿って進むのは、結構大変だったぜ。
「俺様は串刺し公であ~る! クハハハ!」
シャキンと音がして、カッパの串刺しが出来上がった。
「げぇ・・・。だが、私が死んでもまだ仲間はいる。今頃、国会議事堂を選挙している頃だろう・・・。我が同志は更に日本での計画を進め・・・。カパッ!」
肛門から頭の先まで悪魔の爪に貫かれて、ブランブランと揺れるカッパは、最期に悔しさを滲ませて息絶えた。と同時にプラズマフィールドも消える。
「クハハ! なんだその中ボスみたいな死に際のセリフは。お嬢ちゃん、危ないからこっちにきな」
俺は女の子を呼び寄せた。女の子は素直に走って来る。
「み、見てろよ、ミドリ。ととと、父ちゃんが素敵な花火を見せてやるからな? な?」
「キリマル。その子はミドリではない」
アマリの声が聞き取り難い・・・。
俺は爪を地面ギリギリまでしならせて、勢いよくカッパの死体を国会議事堂に飛ばした。
「ほら、ミドリ! 綺麗な花火が見れるぞ! た~ま・・・」
「た~まや~」と言い終わらないうちにドドーーーーーーン! と轟音がする。
小型の核爆弾でも落ちたかのような爆発が国会議事堂に起きて、弾丸のような瓦礫が飛んできた。
「かぁ~! やべぇ! こんなに威力があるとはな!」
俺はミドリを引き寄せると、爆風に背中を向け、飛んでくる瓦礫から守った。
爆風が止むともうもうと立ち上る灰色の煙の中から、顔中煤だらけの母親がとこからともなく現れる。
「翠!」
俺に怯えて近づくかどうか迷っているカナに、カーッ! と一喝する。
「このくらいの歳の子供ってぇのはな! ウロチョロしたがるもんなんだよ! しっかり手ェ繋いでろ! 次は離すなよ!」
そして俺はミドリに向いて、猫なで声を出す。可愛い可愛い俺の娘だ。
「カナは駄目な母ちゃんだな? ミドリ。どこか安全な場所まで逃げるんだぞ」
俺はミドリをカナに引き渡して、普段どおりの歪んだ声に戻す。
「都市部は確実に危ねぇぞ。カナの田舎はどこだったか・・・? あー・・・。とにかく樹族国の田舎・・・。クロス地方・・・。いや、あそこは国境沿いで危ないか・・・。まぁいいや、どこかに逃げろ。俺はお前らの匂いを辿って追いつくからよ」
カナはコクリと頷いて、ミドリの手を引っ張って行く。
「カナヅチのおじちゃん! 助けてくれてありがとう!」
ミドリは精一杯手を振っている。
「カナヅチのおじちゃん? 誰のことだ? ミドリは随分と大きくなったもんだ。なぁ? アマリ。ギキキッ!」
「キリマル・・・」
「ん? ってか地球にカナもミドリもいねぇよな・・・。どうしたんだ、俺は・・・」
「キリマルは思考が混乱している。体が消え始めているから・・・」
「なにィ? ちょっと待て! じゃあ、俺はあのカッパにやられたも同然じゃねぇか! イィィ! 嫌だ! 最凶最悪の! この俺様が! あんなクソ雑魚非力カッパ男に負けたなんて! それにここは、おい! 地球じゃねぇか! ろくな思い出がねぇ! 嫌だ! こんなところで死にたくねぇ!」
俺が上半身だけでジタバタして駄々をこねていると、アマリが話しかけてきた。
「キリマル。一つだけ誰にも負けずに死ぬ方法がある・・・」
アマリの声は涙声だ。
「自害すれば、誰にも負けていない事になる」
「キヒッ! キヒッ! そ、その手があったか! あああ、あれだ! “俺がビャクヤの素顔を見て射精しそうになった時、お前の口の中に出したからセーフ理論”かぁ! 懐かしいな!」
俺は咄嗟に左手で、背中右肩側にある刀を掴んで、素早く自分の心臓目掛けて一突きして、捻る。
「グエェ! これで・・・。俺はカッパに負けていねぇことになるな・・・。そうだろ? アマリ・・・。クハハ! こりゃあ自殺ってんだ!」
「そんな・・・。キリマル・・・」
最期に左肩から聞こえたのはアマリの悲しげな声だった。
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