料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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黒の悪魔

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「あだ!」

 勢いよく走りだしたカースヤル機が持つビームソードは、確実にミャロス機の胴体を真っ二つにしたはずだった。しかし、断末魔の叫びが聞こえるどころか、返ってきた言葉は「あだ!」のみ。

「最後の言葉がそれかよ。キシャシャ!」

 微妙に声が違ったような気がしたが、聞き間違いだと思ったカースヤルは、ミャロス機を一瞥する事なく、モッコス機に襲いかかったが―――。

 やはり違和感が心の隅で引っかかり、ちらりと後ろを振り返る。

「いきなり何すんだ、オメー」

 ミャロス機の前に立っていたのは、身長三メートルほどのハンマー頭の化け物だった。

「またこの星の奇怪なる生物かよ」

 カースヤルはそう言って、ここに来る時に見た情景を思い浮かべる。

「海に行けば、巨大なイカやタコがいるしよ。空を飛べば羽の生えた怪獣だ。で、次は何だ? 悪魔か何かか?」

 黒い体に無数の赤いクラックを光らせて、ハンマー頭は答える。

「クハハ! ご名答。悪魔だ。ここへは菓子をもらいに来た。どうやら転移先を間違えたらしいな。ここにオビオの気配はねぇ」

 ギザギザの牙を見せて笑う悪魔に、カースヤルはやれやれとため息をついた。

「で、その悪魔様が、俺に何か用か?」

「あ? 人をいきなりビームソードで殴っといて、何か用かはねぇだろうがよ。謝れや」

「メンゴメンゴ!(笑) これでいいか~? じゃあ俺はこの二機を倒して、さっさと用事を済ませたいんだ。どっか行けよ」

「ん~。誠意が足りないなぁ。ちゃんとコックピットから出てきて、土下座をして謝らないと。涙を流して糞を漏らしながらなら、なお最高だぜ」

 悪魔は退屈そうに腰の刀を抜き差しして音を鳴らして、それに飽きたら今度は爪の手入れをしだした。

「どっか行けつってんだろ」

「うるせー。誠意をもって謝れつってんだ。早くしろ」

「調子に乗るな!」

 いつも気だるげで飄々としているカースヤルだったが、目の前のわけのわからない生き物の言葉に対し、怒りを露わにした。

 人の動体視力の限界を超越した動きで跳躍し、もう一段大きくなったビームソードを両手で構えてカースヤルは悪魔に襲いかかる。

 が―――。

 地面に着地したと同時に、ガランガランガラン、と音がして地面にカースヤル機の装甲が落ちて跳ねた。

 コックピットどころか、機体全体の中身が丸見えの現状に、カースヤルは戦慄する。

「キシャアア!」

 何が起きたのか本人にもわからない。

 どの時点で、装甲が切断されたのか。

 そもそも、どういう切り方をすればこうなるのか。

「あまり俺に力を使わせるなよ。特に爪での斬撃は難しいんだわ。力加減を間違えれば、時空に大穴を開けちまって世界が終る。刀を使っているうちは、まだ優しさを見せていると思え。さぁ謝れ」

 爬虫類人にも毛穴があるのか、カースヤルの肌が粟立った。

 刀を片手に持つ目の前の悪魔が、個人レベルの強さではないからだ。

 この黒いハンマー頭の言っている事が本当ならば、本気を出せばどうなるか。それは世界の終わりを意味するだろう。

 しかし、科学を信じて生きてきた自分にとって、まだこの悪魔の言葉を心から信用することはできない。

「シャシャ! 悪魔とかいう謎の存在を認めちまってる自分が情けないぜ。だがよー、伝聞で聞く悪魔は噓つきだ。人を騙して恐れさせ、心の隙につけ入る。つまり、だ。お前の世界を滅ぼす云々はブラフなんだよ!」

 装甲を失ったとはいえ、カースヤルのフォースアーマーはまだ機能する。

 剥き出しの機体の両肩部に装填された小型ミサイルが、悪魔を狙い撃った。

「死ねや!!」

「お前が死ね」

 自分を狙うミサイルを魔刀天邪鬼で切り裂き、悪魔キリマルは機体ごと、カースヤルの胴体を真っ二つにした。

 爆発を背にし、キリマルは刀から滴り落ちる青い血を振り払い、鞘へと納める。

「さて、オビオを探すか」

 オビオの気配を辿ろうとしていたキリマルだったが、それを止めて、達磨のようになった機体から出てきたニャロスとモッコスに向かって呼びかけた。

「おっと、忘れてた。そこの黒焦げトカゲは、五分後に生き返るから、縛るなりなんなりして捕らえておくんだな」

「どこの誰かは知らないけど、助けてくれたことに感謝するわぁ。そういえばオビオを探しているみたいだけど、オビオの知り合いなの?」

「あぁ。俺の名はキリマル。オビオとはトモダチ、いやマブダチかな? クハハハ!」

「悪魔と知り合いなんて、オビオは凄いミャロ。オビオならオライオンにいるミャ」

「そうか、なら行くとすっか」

 キリマルは注意深く小指の爪で空間を切り裂くと、開いた穴に入って消えた。



「三時間経ったが、カースヤルはまだ戻らないのか」

 炎のような毛色を持つフレアは、怒りでその毛が余計に赤く見えた。あの軽い男の言葉を信じた自分を愚かに思っているのだ。

「フレア様」

 犬人のマスクがフレアに耳打ちする。

「なに? いつの間に!」

「斥候の報告によると、現人神によるものだそうです」

「では義父上が危ないではないか。国境から樹族の援軍は来そうか?」

「いいえ。今のところ気配がありません。しかし、転移魔法でやって来る可能性もあります」

「いや、それはないな。軍隊を転移させるにはコストや時間が掛かる。まだしばらくは大丈夫だろう」

 転移魔法は最高位の魔法で、誰でもおいそれと使えるものではない。大人数を転移させようとすれば、パワーレベルを最大まで上げて百人が限界だ。それを少人数で繰り返し行うのだから、マナポーションがあったとしても、術者の身体的負担は大きい。

 フレアは他の獣人同様、魔法を胡散臭くは思っているが、それでも知識を得ているのは、少しでも対応策を講じやすくする為である。

「義父上を支援しに行くぞ。撤収の準備をしろ」
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