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ピーターの危機
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「孫婿殿」
ん? 何? 孫婿? 俺が?
「何ですか、ムダンさん。唐突に。孫婿って?」
ムダンさんは、少し孫婿呼びが照れくさいのか、立派なV字髭を何度も撫でている。
「貴殿はサーカ・カズンと付き合っているのであろう?」
「そそそ、そうですが?」
「そのうち結婚もするのであれば、孫婿殿と呼んでも差し支えないと思うが」
あっ! そうか、ガノダさんはムダンさん家の三男坊だった!
で、カズン家に婿養子に来たんだから、サーカはガノダさんの娘でもあるんだった! ムダンさんからしたら孫娘! その彼氏(婚約済み)の俺は孫婿になると!
「でも、いいんですか? 俺、オーガですよ? 家名に傷が付きませんか?」
「謙遜しすぎだ、オビオ。君は星のオーガ。現人神の眷属が孫娘の婿となれば、ムダン家も鼻が高い! しかも先の戦いの命の恩人でもある。ワシがお主を恥と思う理由がどこにあろうか」
「わぁ、なんだか嬉しいです。一気に親戚ができたような気がして」
「で、オビオ。この戦いが終わったら、サーカと結婚式を挙げてはどうか?」
話がいきなり過ぎる。いや、俺の事を孫婿と呼んでる時点で気が付くべきだったけど。
「俺、今年で十九歳ですよ? 早いですって~」
「確かに早いか。地走り族なら結婚適齢期を過ぎている頃だから、短命種のオーガもそうかと思ってな」
俺は地走り族じゃねぇし。でも確か、タスネ・サヴェリフェ子爵は俺より年上だったよな。で、独り身。あっ……! このことは胸の奥にしまっておこう。
「サーカだって成人してないですし、結婚は当分先ですよ~。ハハッ!」
「そうか、そうか。急かしてすまんかったな。ガハハ!」
太い指の付いた手が、俺の背中を叩いたその時、街はずれにある野営地が騒がしくなった。
「ひぃぃ! あ、悪魔! 悪魔が出たぞー!」
誰かが怖がってそう叫ぶと、「クハハハ!」としわがれた笑い声が聞こえてきた。
「あー、キリマルが来たのか。もうお菓子の催促? 早いなぁ」
時間の流れ方が違うのか、キリマルの来る頻度は高い。前に来たのは、ガノダさんとシニシさんとの結婚式だったな。
キリマルは樹族の姿になれるはずなのに、変身しておらず、本来の姿のままだ。当然、樹族の騎士からも獣人からも警戒され、怯えられているが、当の本人はお構いなしである。
その様子を見て、俺はため息をつく。キリマルは慎重派だが、時々無神経なのだ。
「おい、変身しろよ!」
「そんな事よりも聞いてくれ。ビャクヤの息子が、お前の作った菓子しか食わなくなって困ってるんだ」
「まじ? 嬉しいな~。……いや、変身しろって。皆、怯えているだろうが」
「チッ、面倒くさい」
キリマルは飛び上がると空中で一回転して、長身の樹族の姿になった。
とはいえ、今更誤魔化せるはずもなく、警戒を解かない周囲の反応を見て俺が困っていると、ムダンさんがフォローしてくれた。
「怯えるな、皆の者。こやつは任務で悪魔の姿をとっていただけだ。これが本来の姿である!」
野太い声がそう伝えると、皆は安心したのか、騒ぎは徐々に収まっていった。
「ありがとう、ムダンさん」
「何、気にするな。ガノダから敵を斬って生き返らせる剣士キリマルがいるとは聞いていたが、まさか悪魔だったとはな」
「内密にお願いしますよ。彼はそんなに悪い奴ではないですから(殺人狂だけど)」
「わかっておる。そもそも、オビオはカズン家の領地で悪魔を従わせておるし、今更もう一匹悪魔が増えたところで驚かんよ」
「俺の話はもういいだろ。早く菓子をくれ。ビャッコの宮殿で鉄傀儡と戦って腹が減ってんだ。俺の分とビャクヤの息子の分だ。あ、あとビャクヤとリンネの分も」
結局、全員の分じゃねぇか。
「なんだ、腹減ってんのか。……って待って! ビャッコ領で戦ってきただって? まさか樹族の鉄傀儡を破壊してきたんじゃないだろうな? 今、敵機と交戦中のはずだぞ!」
「安心しろ。破壊したのは敵機だ。いきなり襲い掛かってきたから返り討ちにしてやった。刀で斬ったから生き返るし問題ないだろ」
まじかよ! カースヤルを倒しやがった! あんまりこの世界に干渉したがらなかったキリマルが!
「でかした! キリマル! でもいいのか? このことがビャクヤにバレたら、怒られるんじゃないの?」
「怒られるかもな。しかし、売られた喧嘩は買う性分だ。高慢ちきなイキリトカゲ野郎の鼻柱を折るのは楽しかったぜ! クハハ!」
まさか、こんな形で俺やヒジリさんの杞憂が消えるとはな。
たった二機で、カースヤル機を迎え撃つのは少々不安だったんだ。タイミングよくキリマルが現れてくれて助かった!
ご都合主義と言われようが、これは運命の神の思し召し。
「そうだ! キリマルにドラコニアンを一掃してもらえば……!」
「それは、お前らでやれ」
「お菓子、おまけしとくから! ダメ?」
「うっかり本気出して、世界を滅ぼしてもいいならやるがな。時々、爪がウズウズするんだ。この爪を全力で使ったら、すげぇ気持ちいいだろうなぁってな」
「魔刀を使ってもダメ?」
「何かしらの自然発生的な関わりや縁ができない限り、基本的に俺は動けないんだわ。例えば、こっちが殴られて反撃するとか、運よく俺を召喚して戦わせるとかしないとな」
「そっか。なんかこれまで、自発的に動いてたような気がするけど?」
「気のせいだろ。とにかく、ダメなもんはダメだ」
くっそー。
運命の神の思し召しも、ここまでか。
「ちぇっ。わかったよ。カースヤルを倒しただけでも良しとしとく。お菓子は今、無いぞ。ブラックボックスの中にはアイスキャンデーが二本しかないし、そもそも甘味材料が枯渇してるからちょっと待ってて」
ブラックボックス。それは簡易亜空間生成装置。俺の持つ亜空間スペースに食料を入れると、謎の人物に盗まれてしまうからな。仕方なくブラックボックスを使っているが、物を入れられる量は少ない。
「まぁ、急ぎはしねぇ。ゆっくり待つさ」
俺は何となく周囲を見渡し、甘味になりそうな野草はないか探りつつも、視界に入ったバトルコック団を見て思う。
「それにしても、ピーターと二号はどこいったんだろ?」
そうぼやくと、サーカが近づいてきた。
「【人探し】の魔法で探ろうか?」
「頼むよ」
二号を探すのも最初からサーカの魔法に頼ればよかった。マナは貴重だから、つまらない事に魔法を使わせるのは気が引けるんだけども。
「【人探し】」
割と高位の魔法なんだけど、サーカはワンドも使わずに、指を鳴らしただけで、【人探し】の魔法を発動させた。
「いた。……なんで、敵の陣地にいるんだ、あいつら!」
「ん? どういう事? あいつら、オライオンにいるんじゃなかったのか? あ、でも一日経ってもいないって事はそういう事か」
「敵に捕まっているのか? 死んでたら面白いのにな。クハハ!」
キリマルが縁起でもない事を言って笑った。おい!
「いや、まだ生きている。動きからすると交戦中なのかもしれない」
サーカにはどう見えているのか分からないが、ピーターと二号がピンチなのは分かった。
「急いで助けにいかないと! 転移魔法を頼むよ、サーカ」
「わかった」
(帰り道に野イチゴを摘むかのように、気軽に情報収集をしようとするんじゃなかった……)
陰から勝手に出てしまった二号を見て、ピーターはそう思いながら下唇を噛む。
「なにも野営地のど真ん中にいるときに、陰から飛び出す事はないだろ!」
何を考えているのか分からないお荷物は、きっとなにも考えてはいない。
「あの鉄傀儡が来たら、俺たちはおしまいだぞ」
空から轟音が聞こえてくるんじゃないかと、ビクビクするピーターとは対照的に、二号は襲い掛かってきた獣人兵を掴むと、投げ飛ばしていく。
「チィ!」
投げ飛ばされて地面に仰向けになる獣人兵の真下の影から、ピーターは短剣を突き刺した。
しかし、ダガーを突き刺した獣人は、服の下に鎖帷子を着ていたせいか、致命傷にならず、起き上がって周囲に警告を出した。
「暗殺者もいるぞ! 皆、影に気を付けろ!」
こうなってはおしまいだ。暗殺者は影に潜み、不意を突いて敵を倒すのが常。警戒されてしまうと、盗賊並みの戦闘力しかない。
「二号! もっと暴れろ! 注意を引け!」
地走り族は種族特性として、ヘイトを集めにくい。
二号が暴れれば、ピーターへの警戒心も薄れるだろう。
戦士の指輪を持たない二号の戦闘能力は料理人時のオビオと同じだが、ナノマシンが活性化し、ヒジリモードになっている。
ビームダガーを片手に攻撃をしてくる獣人兵を相手に、回避しては柔道の技で投げ飛ばしていく二号は、簡単に敵の注意を引く存在となった。
「しめた!」
ピーターは敵の一人を仕留め、また陰に潜むと、状況を観察する。
「おかしい。野営地なのに敵の数が少ないな。……そうか! トウバはオライオンに進軍したんだ! ならやれる!」
調子に乗ったピーターは強い。勝てる勝負には滅法強いというべきか。
二号に視線を向ける獣人兵の背後から、鎧の隙間を狙い、ダガーを突き立てていく。
痛点の多い膝の裏を突けば、激痛と出血で動けなくなり、胸鎧と腰鎧の間を突けば、腎臓を抉れる。
獣人の性で戦いが始まると視界が狭くなるせいか、仲間が次々と倒れていっても気づかず、視線は二号に向いたままだ。
顔に邪悪な笑みを浮かべ、次の獲物に狙いを定めたピーターが、影から飛び出たその時、背後から風切り音が聞こえてきた。
ピーターは咄嗟に影に潜り、事なきを得たが、あのまま立っていれば、間違いなく誰かの放った矢に射抜かれていたことだろう。
「出てこい、ピーター!」
声と同時に、大人数の足音が聞こえてくる。
「援軍か!?」
ピーターはそう言うと、舌打ちをして、声の主を見た。
その聞き覚えのある声は、つい先日、情報収集のついでに翻弄したフレアである。
「くそ。こないだ眠らせた時に、殺しておくべきだった」
トウスに借りを作る為に生かしたが、トウバ共々始末しておけばよかったとピーターは後悔する。
なにせ向こうは、容赦なくこちらを攻撃してきたのだから。
「どうする、俺? 覚悟を決めてやるか?」
陰の中から二号を見る。彼はフレアに気づいていないが、多数の敵に囲まれても一歩も引いていない。
「今の勢いならやれる!」
陰から影に移動し、敵兵の影伝いにピーターはフレアに近づいた。
「無駄だ。お前の匂いは覚えた」
フレアは自分の影に、曲刀を突き立てた。
「うわぁ!」
咄嗟に影から飛び出し、曲刀の一撃を避け、ピーターはフレアの前で尻餅をつく。
影から出てきた暗殺者は、最早戦士の敵ではない。
怯えるピーターを見て、フレアは牙を見せて笑いつつ、曲刀を体の横で振り回し、刃に勢いをつけると叫ぶ。
「バトルコック団のエースもここまでだな。死ね! 邪悪なるピーター!」
ん? 何? 孫婿? 俺が?
「何ですか、ムダンさん。唐突に。孫婿って?」
ムダンさんは、少し孫婿呼びが照れくさいのか、立派なV字髭を何度も撫でている。
「貴殿はサーカ・カズンと付き合っているのであろう?」
「そそそ、そうですが?」
「そのうち結婚もするのであれば、孫婿殿と呼んでも差し支えないと思うが」
あっ! そうか、ガノダさんはムダンさん家の三男坊だった!
で、カズン家に婿養子に来たんだから、サーカはガノダさんの娘でもあるんだった! ムダンさんからしたら孫娘! その彼氏(婚約済み)の俺は孫婿になると!
「でも、いいんですか? 俺、オーガですよ? 家名に傷が付きませんか?」
「謙遜しすぎだ、オビオ。君は星のオーガ。現人神の眷属が孫娘の婿となれば、ムダン家も鼻が高い! しかも先の戦いの命の恩人でもある。ワシがお主を恥と思う理由がどこにあろうか」
「わぁ、なんだか嬉しいです。一気に親戚ができたような気がして」
「で、オビオ。この戦いが終わったら、サーカと結婚式を挙げてはどうか?」
話がいきなり過ぎる。いや、俺の事を孫婿と呼んでる時点で気が付くべきだったけど。
「俺、今年で十九歳ですよ? 早いですって~」
「確かに早いか。地走り族なら結婚適齢期を過ぎている頃だから、短命種のオーガもそうかと思ってな」
俺は地走り族じゃねぇし。でも確か、タスネ・サヴェリフェ子爵は俺より年上だったよな。で、独り身。あっ……! このことは胸の奥にしまっておこう。
「サーカだって成人してないですし、結婚は当分先ですよ~。ハハッ!」
「そうか、そうか。急かしてすまんかったな。ガハハ!」
太い指の付いた手が、俺の背中を叩いたその時、街はずれにある野営地が騒がしくなった。
「ひぃぃ! あ、悪魔! 悪魔が出たぞー!」
誰かが怖がってそう叫ぶと、「クハハハ!」としわがれた笑い声が聞こえてきた。
「あー、キリマルが来たのか。もうお菓子の催促? 早いなぁ」
時間の流れ方が違うのか、キリマルの来る頻度は高い。前に来たのは、ガノダさんとシニシさんとの結婚式だったな。
キリマルは樹族の姿になれるはずなのに、変身しておらず、本来の姿のままだ。当然、樹族の騎士からも獣人からも警戒され、怯えられているが、当の本人はお構いなしである。
その様子を見て、俺はため息をつく。キリマルは慎重派だが、時々無神経なのだ。
「おい、変身しろよ!」
「そんな事よりも聞いてくれ。ビャクヤの息子が、お前の作った菓子しか食わなくなって困ってるんだ」
「まじ? 嬉しいな~。……いや、変身しろって。皆、怯えているだろうが」
「チッ、面倒くさい」
キリマルは飛び上がると空中で一回転して、長身の樹族の姿になった。
とはいえ、今更誤魔化せるはずもなく、警戒を解かない周囲の反応を見て俺が困っていると、ムダンさんがフォローしてくれた。
「怯えるな、皆の者。こやつは任務で悪魔の姿をとっていただけだ。これが本来の姿である!」
野太い声がそう伝えると、皆は安心したのか、騒ぎは徐々に収まっていった。
「ありがとう、ムダンさん」
「何、気にするな。ガノダから敵を斬って生き返らせる剣士キリマルがいるとは聞いていたが、まさか悪魔だったとはな」
「内密にお願いしますよ。彼はそんなに悪い奴ではないですから(殺人狂だけど)」
「わかっておる。そもそも、オビオはカズン家の領地で悪魔を従わせておるし、今更もう一匹悪魔が増えたところで驚かんよ」
「俺の話はもういいだろ。早く菓子をくれ。ビャッコの宮殿で鉄傀儡と戦って腹が減ってんだ。俺の分とビャクヤの息子の分だ。あ、あとビャクヤとリンネの分も」
結局、全員の分じゃねぇか。
「なんだ、腹減ってんのか。……って待って! ビャッコ領で戦ってきただって? まさか樹族の鉄傀儡を破壊してきたんじゃないだろうな? 今、敵機と交戦中のはずだぞ!」
「安心しろ。破壊したのは敵機だ。いきなり襲い掛かってきたから返り討ちにしてやった。刀で斬ったから生き返るし問題ないだろ」
まじかよ! カースヤルを倒しやがった! あんまりこの世界に干渉したがらなかったキリマルが!
「でかした! キリマル! でもいいのか? このことがビャクヤにバレたら、怒られるんじゃないの?」
「怒られるかもな。しかし、売られた喧嘩は買う性分だ。高慢ちきなイキリトカゲ野郎の鼻柱を折るのは楽しかったぜ! クハハ!」
まさか、こんな形で俺やヒジリさんの杞憂が消えるとはな。
たった二機で、カースヤル機を迎え撃つのは少々不安だったんだ。タイミングよくキリマルが現れてくれて助かった!
ご都合主義と言われようが、これは運命の神の思し召し。
「そうだ! キリマルにドラコニアンを一掃してもらえば……!」
「それは、お前らでやれ」
「お菓子、おまけしとくから! ダメ?」
「うっかり本気出して、世界を滅ぼしてもいいならやるがな。時々、爪がウズウズするんだ。この爪を全力で使ったら、すげぇ気持ちいいだろうなぁってな」
「魔刀を使ってもダメ?」
「何かしらの自然発生的な関わりや縁ができない限り、基本的に俺は動けないんだわ。例えば、こっちが殴られて反撃するとか、運よく俺を召喚して戦わせるとかしないとな」
「そっか。なんかこれまで、自発的に動いてたような気がするけど?」
「気のせいだろ。とにかく、ダメなもんはダメだ」
くっそー。
運命の神の思し召しも、ここまでか。
「ちぇっ。わかったよ。カースヤルを倒しただけでも良しとしとく。お菓子は今、無いぞ。ブラックボックスの中にはアイスキャンデーが二本しかないし、そもそも甘味材料が枯渇してるからちょっと待ってて」
ブラックボックス。それは簡易亜空間生成装置。俺の持つ亜空間スペースに食料を入れると、謎の人物に盗まれてしまうからな。仕方なくブラックボックスを使っているが、物を入れられる量は少ない。
「まぁ、急ぎはしねぇ。ゆっくり待つさ」
俺は何となく周囲を見渡し、甘味になりそうな野草はないか探りつつも、視界に入ったバトルコック団を見て思う。
「それにしても、ピーターと二号はどこいったんだろ?」
そうぼやくと、サーカが近づいてきた。
「【人探し】の魔法で探ろうか?」
「頼むよ」
二号を探すのも最初からサーカの魔法に頼ればよかった。マナは貴重だから、つまらない事に魔法を使わせるのは気が引けるんだけども。
「【人探し】」
割と高位の魔法なんだけど、サーカはワンドも使わずに、指を鳴らしただけで、【人探し】の魔法を発動させた。
「いた。……なんで、敵の陣地にいるんだ、あいつら!」
「ん? どういう事? あいつら、オライオンにいるんじゃなかったのか? あ、でも一日経ってもいないって事はそういう事か」
「敵に捕まっているのか? 死んでたら面白いのにな。クハハ!」
キリマルが縁起でもない事を言って笑った。おい!
「いや、まだ生きている。動きからすると交戦中なのかもしれない」
サーカにはどう見えているのか分からないが、ピーターと二号がピンチなのは分かった。
「急いで助けにいかないと! 転移魔法を頼むよ、サーカ」
「わかった」
(帰り道に野イチゴを摘むかのように、気軽に情報収集をしようとするんじゃなかった……)
陰から勝手に出てしまった二号を見て、ピーターはそう思いながら下唇を噛む。
「なにも野営地のど真ん中にいるときに、陰から飛び出す事はないだろ!」
何を考えているのか分からないお荷物は、きっとなにも考えてはいない。
「あの鉄傀儡が来たら、俺たちはおしまいだぞ」
空から轟音が聞こえてくるんじゃないかと、ビクビクするピーターとは対照的に、二号は襲い掛かってきた獣人兵を掴むと、投げ飛ばしていく。
「チィ!」
投げ飛ばされて地面に仰向けになる獣人兵の真下の影から、ピーターは短剣を突き刺した。
しかし、ダガーを突き刺した獣人は、服の下に鎖帷子を着ていたせいか、致命傷にならず、起き上がって周囲に警告を出した。
「暗殺者もいるぞ! 皆、影に気を付けろ!」
こうなってはおしまいだ。暗殺者は影に潜み、不意を突いて敵を倒すのが常。警戒されてしまうと、盗賊並みの戦闘力しかない。
「二号! もっと暴れろ! 注意を引け!」
地走り族は種族特性として、ヘイトを集めにくい。
二号が暴れれば、ピーターへの警戒心も薄れるだろう。
戦士の指輪を持たない二号の戦闘能力は料理人時のオビオと同じだが、ナノマシンが活性化し、ヒジリモードになっている。
ビームダガーを片手に攻撃をしてくる獣人兵を相手に、回避しては柔道の技で投げ飛ばしていく二号は、簡単に敵の注意を引く存在となった。
「しめた!」
ピーターは敵の一人を仕留め、また陰に潜むと、状況を観察する。
「おかしい。野営地なのに敵の数が少ないな。……そうか! トウバはオライオンに進軍したんだ! ならやれる!」
調子に乗ったピーターは強い。勝てる勝負には滅法強いというべきか。
二号に視線を向ける獣人兵の背後から、鎧の隙間を狙い、ダガーを突き立てていく。
痛点の多い膝の裏を突けば、激痛と出血で動けなくなり、胸鎧と腰鎧の間を突けば、腎臓を抉れる。
獣人の性で戦いが始まると視界が狭くなるせいか、仲間が次々と倒れていっても気づかず、視線は二号に向いたままだ。
顔に邪悪な笑みを浮かべ、次の獲物に狙いを定めたピーターが、影から飛び出たその時、背後から風切り音が聞こえてきた。
ピーターは咄嗟に影に潜り、事なきを得たが、あのまま立っていれば、間違いなく誰かの放った矢に射抜かれていたことだろう。
「出てこい、ピーター!」
声と同時に、大人数の足音が聞こえてくる。
「援軍か!?」
ピーターはそう言うと、舌打ちをして、声の主を見た。
その聞き覚えのある声は、つい先日、情報収集のついでに翻弄したフレアである。
「くそ。こないだ眠らせた時に、殺しておくべきだった」
トウスに借りを作る為に生かしたが、トウバ共々始末しておけばよかったとピーターは後悔する。
なにせ向こうは、容赦なくこちらを攻撃してきたのだから。
「どうする、俺? 覚悟を決めてやるか?」
陰の中から二号を見る。彼はフレアに気づいていないが、多数の敵に囲まれても一歩も引いていない。
「今の勢いならやれる!」
陰から影に移動し、敵兵の影伝いにピーターはフレアに近づいた。
「無駄だ。お前の匂いは覚えた」
フレアは自分の影に、曲刀を突き立てた。
「うわぁ!」
咄嗟に影から飛び出し、曲刀の一撃を避け、ピーターはフレアの前で尻餅をつく。
影から出てきた暗殺者は、最早戦士の敵ではない。
怯えるピーターを見て、フレアは牙を見せて笑いつつ、曲刀を体の横で振り回し、刃に勢いをつけると叫ぶ。
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