22 / 336
ほの明るい地下墓地の幽霊 3
しおりを挟む
『ワイトの部屋』
は?
これまで通ってきた土壁の部屋や道から、急にレンガと石畳の部屋へと変わった。そして誰もが一番驚いたのが可愛い丸文字でワイトの部屋と書かれた看板だ。
「ここだけ壁や床が新しいな。割と最近のものだ。といっても数百年前のものだろうが・・・」
サーカが壁を触って確かめている後ろ、でピーター(可愛らしい顔しているから君付けで呼んでいたが、お前はもうピーターと呼び捨てにする!)がサーカの尻を触ろうとしたので、俺はその手にしっぺをした。
ピーターは手を擦って、あの邪悪な顔を俺だけに見える角度で向けた。まぁ怖くはないけど。
「じゃあワイトは大昔からいるってわけじゃないんだな。割と若い霊なのかもしれない」
「霊に若いも何もあるか。死んでいるのだぞ?」
確かに。でも一々煩いぞ、サーカ。
「メイジ戦は先手必勝が有利なんだよな? トウスさん」
「ああ、敵に接近して詠唱前に攻撃できれば、俺らの勝ちだ」
「そういう汚い戦い方は盗賊のピーターが得意なのだがな。あの様子じゃ使えそうにない」
フンと鼻を鳴らすサーカを見た後に、俺はちらりとピーターを見る。彼は勿論ブルブル震えていた。確かに駄目だな、ありゃ。あんな状態ならオオネズミににも負けそうだ。
「サーカ、魔法を使い過ぎるなよ。不意打ちなんだから、補助魔法は最低限でいい」
「ああ。今回は上手く制御できた」
よしよし、少しは成長したな、サーカ。今回は、いつものように焦ったり緊張している感じがない。
「じゃあいくぞ、皆」
「ああ」
「うむ」
「ひぃぃ」
ひぃぃってなんだよ。ちゃんと返事しろピーター。まぁ当てにはしてないけどな。
俺は可愛い丸文字の書いてある看板を、壊す勢いでドアを蹴り開けた。
部屋の中はピンク色の壁紙が貼られており、可愛いぬいぐるみがあちこちに落ちている。
そして部屋に入って真正面奥に、こちらに背を向けて座る白ローブのワイトの姿が見えた。あの状態なら振り返って、詠唱を始めるまでに十秒はかかるはずだ!
隣で魔剣蛇殺しを構えたトウスさんが吠えた。
「覚悟しろ! アンデッド!」
後ろでピーターが何かを叫んだような気がするが、前衛三人の俺たちには聞こえていなかった。
―――カチッ
嫌な音がする。多分誰かが罠の床を踏んだ。
シュウウウウウ!! という音がして煙が部屋に充満した。
「しまった眠り煙の罠だ! 煙を吸うな!」
しかし時すでに遅し。最初にトウスさんが倒れ、サーカが倒れ、俺が倒れ・・・・。
ピーターは部屋の外へと逃げた・・・。
気が付くと小さな生尻が目の前にあった。可愛らしい子供のような尻は、土下座をしているので菊門のシワ一つ一つがしっかりと見える。オエッ!
ワイトは俺たちを殺さなかったのか。代わりに何故かピーターが全裸で土下座だ。そう、相手に同情させ自己嫌悪させる究極の土下座。アルティメットスーパーウルトラグレート土下座。
「ちちち、地走り族は! 気が付かない内に物を拾う習性があるのです、ワイト様! だから・・・・」
「そんな事言っても駄目です。だったらすぐに返しに来てくれても良かったでしょう! 何故売ってしまったのですか、私の大事な人の写真が入っていたロケットペンダントを」
寝てから数分ぐらいか? サーカは気持ちよさそうに寝ている。うん、可愛い。寝てたらほんと可愛い。トウスさんは向こうを向いてうつ伏せで寝ているので、起きているのかどうかわからない。
「だって・・・僕の住む孤児院は貧乏だから、ポッケに高そうなペンダントが入っていたら、それを売って皆のパン代にしようって思うのは普通じゃないですか!」
嘘だね。大神聖が来たお蔭で食うに困らなくなったってシスター・マンドルが言ってたね。食料を庭で確保出来るようになったし、尚且つ星のオーガ教の信者が訪れて寄付金が増えたって言ってたよぉ。
樹族にしてはふくよかで甘ったるい顔をしたワイトは、腰に手を当ててプンプンと可愛く怒る。少しフランちゃんに似ているかも。
「私が白ローブだからって舐めないでね! 【読心】!」
あーあ、嘘がバレるぞ。終わったよピーター。直ぐに謝っておけば何とかなったかもしれないのに。
話から察するにピーターは地下墓地に閉じ込められた時にこの部屋に来ていたんだな。それでペンダントを盗んだと。だからワイトは怒って教会にポルターガイスト現象を起こしていたんだ。
「それからオーガさん! 起きているなら寝たふりをしないでください」
うは! 俺の寝たふりがバレてた。
「ははは、失礼・・・」
俺はむくりと起き上って胡坐をかいて座ると癖毛の黒髪を整えて恥ずかしそうに笑う。
「話を聞いてて大体解りましたよ、幽霊さん。ピーターがペンダントを盗んで売っちゃったんですね?」
「その通ぉりー。プンプン」
言い方が可愛くて怒られている感じがしない。それに眠らせた俺たちを拘束もしていない。最初から戦う気が無かったって事か・・・。俺達の空回り感、半端ねぇ・・・。
「でも、大事な人ってもうこの世にいないんじゃ?何故この世界に留まっているんです?」
「その大事な人が旅立ってないからですよ・・・。それから地走り族さん、もう服を着てもいいですよ。ペンダントを持っていない事は解りましたから」
まだ土下座している。足が痺れたんだな? ピーターは。バカだなぁ。いい加減服を着てくれ。お前の肛門はこれ以上見たくない。あ、俺が場所を変えればいいのか。
俺は立ち上がると、フードから長い耳を出している樹族の女幽霊に近づいてまた座った。敵意がない事を示したかったのだ。
「それで成仏できていない彼はどこにいるんです?」
「寒い・・・。むにゃむにゃ」
今から本格的に話を聞こうとしていたのに、サーカが冷たい床の上でブルブル震えた。仕方がないから抱きかかえてまた女幽霊の前に座った。
「暖かいよぉ、ママ・・・。えへへ」
クッ! 俺はサーカのお母さんじゃないけど、この笑顔、ずっと守りたい!
「好きなんですね、その方の事が」
白ローブのワイトは両手で口を隠して、ウフフと笑っている。
「いや、そんなんじゃ・・・。こいつは口が悪いし性格も悪いけど、旅のパートナーですから」
「私の彼も最初は冷たい感じで口が悪かったですよ。そうだ! 貴方なら私を連れて行く事ができるかもしれない! 私の話を聞いてくださいますか?」
「勿論ですよ。最初からこうしていれば良かったと後悔しています」
「ありがとう。私はかつて神学庁に務めるメイジでした。神学庁は僧侶ばかりが務める国の機関で、私は聖職者が奇跡を使った時に、適切な報酬を貰っているかの調査や、胡散臭い新興宗教がないかの監視、神話の解釈の研究等をしておりました。仕事柄、私は城へも報告に行く事がありました。そこで私はとある騎士様を好きになってしまったのです。彼は王国近衛兵騎士団独立部隊の騎士様で、幾度となく廊下ですれ違っていました。そうこうしている内にお互い意識するようになって恋人同士になったんです」
「王国近衛兵騎士団独立部隊? え! それってシルビィ様の隊じゃないですか。となると、貴方の彼氏はシルビィ様の先輩って事になるな」
「貴方、オーガなのに独立部隊の知り合いがいるの? すごぉい! わぁ! そう言えば胸にウォール家の紋章が!」
ワイトは俺のマント越しに浮かぶ紋章をまじまじと近くで見ている。近い、近い! 冷気が凄まじい!
「あ、ごめんなさい」
読心の魔法がまだ効果を発揮しているので、ワイトは気を使って離れてくれた。
「それで、ある日彼は諜報任務につく事になったの。本当は裏側がやる仕事だったのだけど、裏側も人手が足りないという事で、彼が獣人国レオンに赴く事になったわけです。任務の内容は、樹族国に対して不穏な動きをする獣人国の族長の監視でした。基本的にスパイ活動なので、見つかれば国際的には問題になる大変な任務です。彼は獣人国の数部族が樹族国へ戦争を仕掛けようとしていた血判書を見つけ、持ち帰ろうとしたのです。しかし逃げる間際に変装の魔法を見破られてしまいました。しかも使い魔の犬が逃げ遅れて、本国とのやり取りを全て獣人国の者に喋ってしまったのです」
「うわ・・・。あ! もしかして!」
「そうなんです・・・。彼は帰国後、獣人国の猛抗議で、死刑扱いとなり守り人にされてしまいました」
「おかしいだろ! 戦争を仕掛けようとしていた側が抗議だなんて!」
「獣人国の部族の一部は、同盟国に戦争を仕掛けようとしていたのは事実。国際的に信用を失うという大ダメージを受けるのですから、何か悔し紛れの掻き傷ぐらいは樹族国に与えたくなるものです。そうしないと全面的に獣人国が悪者扱いされますからね。少しは樹族も悪かった的な、アピールがしたいわけですよ」
「そのやり玉がスパイであった、貴方の彼氏だったわけですね・・・」
「ええ・・・」
女幽霊は顔を両手で押さえて泣き出した。
「私は・・・。私はその後、神学庁を辞めてこの墓地に研究所を作りました。闇の秘術である死霊術の研究を、必死になってしました。愛しい彼の魂がいつまでも解放されないのなら、解放されるその時まで私は幽霊になって待とうと思って・・・」
「うぅ・・・。なんて健気なんだ。おぉぉぉ」
思わず俺もつられて泣いてしまった。涙がサーカの口元に落ちると、寝ている彼女は舌でそれを舐めとる。
「スープ美味しいね、ママ!」
くそ! サーカはサーカで可哀想だ。きっと母親が健康だった頃の楽しい夢を見ているのだろう。
「それで、貴方は研究材料の豊富なここで研究の末にワイトになったのですね?」
「はい、これで彼の魂が解放される日まで私はこの世界に存在し続けられると喜びながら寿命を終えました。でもワイトになって一つ問題があったのです」
ローブの袖で涙を拭きながら、ワイトは出るはずのない鼻水を啜った。
「この地下墓地はアンデッドを地上へ逃さないように作られていたのです。風水的なものや結界の効果であり、アンデッドが地上に出る事は決してありません。だから彼の魂が解放されても、私は一緒に成仏する事ができないのです」
「そんな! じゃあ何のためにワイトになったか解らないじゃないですか!」
「でも一つ外に出る方法があります。それは誰かが私の骨の欠片を、口に含んで外に出る事です。口に含めば結界は私の骨を生者の体の一部だと判断して、外へ通してくれます。私の思いはこの骨に染み付いているのですから、私は外に出る事ができるのです」
「じゃあ俺がそれをやるよ。他の皆は気持ち悪がってやらないだろうからな」
「ほんとうですか? 嬉しい!」
「フン・・・」
胡坐をかいた俺の膝の上でサーカが目を覚まし、ゆっくりと起き上る。そしてワイトの冷気よりも冷たい顔で俺を見た。
「話は聞いていた。騙されるなよ、オビオ。こいつは地上に出て悪さをするつもりだ。これまで沢山の死体を弄んできたような者を、お前は信用するというのか。しかも禁断の死霊術を使うとは! 他の種族ならいざ知らず、樹族が死霊術を使ったのだ! 闇落ちした闇樹族同様の扱いをされても、おかしくはないのだぞ!」
あぁ、寝ていればいいものを厄介な奴が目を覚ました・・・・。
は?
これまで通ってきた土壁の部屋や道から、急にレンガと石畳の部屋へと変わった。そして誰もが一番驚いたのが可愛い丸文字でワイトの部屋と書かれた看板だ。
「ここだけ壁や床が新しいな。割と最近のものだ。といっても数百年前のものだろうが・・・」
サーカが壁を触って確かめている後ろ、でピーター(可愛らしい顔しているから君付けで呼んでいたが、お前はもうピーターと呼び捨てにする!)がサーカの尻を触ろうとしたので、俺はその手にしっぺをした。
ピーターは手を擦って、あの邪悪な顔を俺だけに見える角度で向けた。まぁ怖くはないけど。
「じゃあワイトは大昔からいるってわけじゃないんだな。割と若い霊なのかもしれない」
「霊に若いも何もあるか。死んでいるのだぞ?」
確かに。でも一々煩いぞ、サーカ。
「メイジ戦は先手必勝が有利なんだよな? トウスさん」
「ああ、敵に接近して詠唱前に攻撃できれば、俺らの勝ちだ」
「そういう汚い戦い方は盗賊のピーターが得意なのだがな。あの様子じゃ使えそうにない」
フンと鼻を鳴らすサーカを見た後に、俺はちらりとピーターを見る。彼は勿論ブルブル震えていた。確かに駄目だな、ありゃ。あんな状態ならオオネズミににも負けそうだ。
「サーカ、魔法を使い過ぎるなよ。不意打ちなんだから、補助魔法は最低限でいい」
「ああ。今回は上手く制御できた」
よしよし、少しは成長したな、サーカ。今回は、いつものように焦ったり緊張している感じがない。
「じゃあいくぞ、皆」
「ああ」
「うむ」
「ひぃぃ」
ひぃぃってなんだよ。ちゃんと返事しろピーター。まぁ当てにはしてないけどな。
俺は可愛い丸文字の書いてある看板を、壊す勢いでドアを蹴り開けた。
部屋の中はピンク色の壁紙が貼られており、可愛いぬいぐるみがあちこちに落ちている。
そして部屋に入って真正面奥に、こちらに背を向けて座る白ローブのワイトの姿が見えた。あの状態なら振り返って、詠唱を始めるまでに十秒はかかるはずだ!
隣で魔剣蛇殺しを構えたトウスさんが吠えた。
「覚悟しろ! アンデッド!」
後ろでピーターが何かを叫んだような気がするが、前衛三人の俺たちには聞こえていなかった。
―――カチッ
嫌な音がする。多分誰かが罠の床を踏んだ。
シュウウウウウ!! という音がして煙が部屋に充満した。
「しまった眠り煙の罠だ! 煙を吸うな!」
しかし時すでに遅し。最初にトウスさんが倒れ、サーカが倒れ、俺が倒れ・・・・。
ピーターは部屋の外へと逃げた・・・。
気が付くと小さな生尻が目の前にあった。可愛らしい子供のような尻は、土下座をしているので菊門のシワ一つ一つがしっかりと見える。オエッ!
ワイトは俺たちを殺さなかったのか。代わりに何故かピーターが全裸で土下座だ。そう、相手に同情させ自己嫌悪させる究極の土下座。アルティメットスーパーウルトラグレート土下座。
「ちちち、地走り族は! 気が付かない内に物を拾う習性があるのです、ワイト様! だから・・・・」
「そんな事言っても駄目です。だったらすぐに返しに来てくれても良かったでしょう! 何故売ってしまったのですか、私の大事な人の写真が入っていたロケットペンダントを」
寝てから数分ぐらいか? サーカは気持ちよさそうに寝ている。うん、可愛い。寝てたらほんと可愛い。トウスさんは向こうを向いてうつ伏せで寝ているので、起きているのかどうかわからない。
「だって・・・僕の住む孤児院は貧乏だから、ポッケに高そうなペンダントが入っていたら、それを売って皆のパン代にしようって思うのは普通じゃないですか!」
嘘だね。大神聖が来たお蔭で食うに困らなくなったってシスター・マンドルが言ってたね。食料を庭で確保出来るようになったし、尚且つ星のオーガ教の信者が訪れて寄付金が増えたって言ってたよぉ。
樹族にしてはふくよかで甘ったるい顔をしたワイトは、腰に手を当ててプンプンと可愛く怒る。少しフランちゃんに似ているかも。
「私が白ローブだからって舐めないでね! 【読心】!」
あーあ、嘘がバレるぞ。終わったよピーター。直ぐに謝っておけば何とかなったかもしれないのに。
話から察するにピーターは地下墓地に閉じ込められた時にこの部屋に来ていたんだな。それでペンダントを盗んだと。だからワイトは怒って教会にポルターガイスト現象を起こしていたんだ。
「それからオーガさん! 起きているなら寝たふりをしないでください」
うは! 俺の寝たふりがバレてた。
「ははは、失礼・・・」
俺はむくりと起き上って胡坐をかいて座ると癖毛の黒髪を整えて恥ずかしそうに笑う。
「話を聞いてて大体解りましたよ、幽霊さん。ピーターがペンダントを盗んで売っちゃったんですね?」
「その通ぉりー。プンプン」
言い方が可愛くて怒られている感じがしない。それに眠らせた俺たちを拘束もしていない。最初から戦う気が無かったって事か・・・。俺達の空回り感、半端ねぇ・・・。
「でも、大事な人ってもうこの世にいないんじゃ?何故この世界に留まっているんです?」
「その大事な人が旅立ってないからですよ・・・。それから地走り族さん、もう服を着てもいいですよ。ペンダントを持っていない事は解りましたから」
まだ土下座している。足が痺れたんだな? ピーターは。バカだなぁ。いい加減服を着てくれ。お前の肛門はこれ以上見たくない。あ、俺が場所を変えればいいのか。
俺は立ち上がると、フードから長い耳を出している樹族の女幽霊に近づいてまた座った。敵意がない事を示したかったのだ。
「それで成仏できていない彼はどこにいるんです?」
「寒い・・・。むにゃむにゃ」
今から本格的に話を聞こうとしていたのに、サーカが冷たい床の上でブルブル震えた。仕方がないから抱きかかえてまた女幽霊の前に座った。
「暖かいよぉ、ママ・・・。えへへ」
クッ! 俺はサーカのお母さんじゃないけど、この笑顔、ずっと守りたい!
「好きなんですね、その方の事が」
白ローブのワイトは両手で口を隠して、ウフフと笑っている。
「いや、そんなんじゃ・・・。こいつは口が悪いし性格も悪いけど、旅のパートナーですから」
「私の彼も最初は冷たい感じで口が悪かったですよ。そうだ! 貴方なら私を連れて行く事ができるかもしれない! 私の話を聞いてくださいますか?」
「勿論ですよ。最初からこうしていれば良かったと後悔しています」
「ありがとう。私はかつて神学庁に務めるメイジでした。神学庁は僧侶ばかりが務める国の機関で、私は聖職者が奇跡を使った時に、適切な報酬を貰っているかの調査や、胡散臭い新興宗教がないかの監視、神話の解釈の研究等をしておりました。仕事柄、私は城へも報告に行く事がありました。そこで私はとある騎士様を好きになってしまったのです。彼は王国近衛兵騎士団独立部隊の騎士様で、幾度となく廊下ですれ違っていました。そうこうしている内にお互い意識するようになって恋人同士になったんです」
「王国近衛兵騎士団独立部隊? え! それってシルビィ様の隊じゃないですか。となると、貴方の彼氏はシルビィ様の先輩って事になるな」
「貴方、オーガなのに独立部隊の知り合いがいるの? すごぉい! わぁ! そう言えば胸にウォール家の紋章が!」
ワイトは俺のマント越しに浮かぶ紋章をまじまじと近くで見ている。近い、近い! 冷気が凄まじい!
「あ、ごめんなさい」
読心の魔法がまだ効果を発揮しているので、ワイトは気を使って離れてくれた。
「それで、ある日彼は諜報任務につく事になったの。本当は裏側がやる仕事だったのだけど、裏側も人手が足りないという事で、彼が獣人国レオンに赴く事になったわけです。任務の内容は、樹族国に対して不穏な動きをする獣人国の族長の監視でした。基本的にスパイ活動なので、見つかれば国際的には問題になる大変な任務です。彼は獣人国の数部族が樹族国へ戦争を仕掛けようとしていた血判書を見つけ、持ち帰ろうとしたのです。しかし逃げる間際に変装の魔法を見破られてしまいました。しかも使い魔の犬が逃げ遅れて、本国とのやり取りを全て獣人国の者に喋ってしまったのです」
「うわ・・・。あ! もしかして!」
「そうなんです・・・。彼は帰国後、獣人国の猛抗議で、死刑扱いとなり守り人にされてしまいました」
「おかしいだろ! 戦争を仕掛けようとしていた側が抗議だなんて!」
「獣人国の部族の一部は、同盟国に戦争を仕掛けようとしていたのは事実。国際的に信用を失うという大ダメージを受けるのですから、何か悔し紛れの掻き傷ぐらいは樹族国に与えたくなるものです。そうしないと全面的に獣人国が悪者扱いされますからね。少しは樹族も悪かった的な、アピールがしたいわけですよ」
「そのやり玉がスパイであった、貴方の彼氏だったわけですね・・・」
「ええ・・・」
女幽霊は顔を両手で押さえて泣き出した。
「私は・・・。私はその後、神学庁を辞めてこの墓地に研究所を作りました。闇の秘術である死霊術の研究を、必死になってしました。愛しい彼の魂がいつまでも解放されないのなら、解放されるその時まで私は幽霊になって待とうと思って・・・」
「うぅ・・・。なんて健気なんだ。おぉぉぉ」
思わず俺もつられて泣いてしまった。涙がサーカの口元に落ちると、寝ている彼女は舌でそれを舐めとる。
「スープ美味しいね、ママ!」
くそ! サーカはサーカで可哀想だ。きっと母親が健康だった頃の楽しい夢を見ているのだろう。
「それで、貴方は研究材料の豊富なここで研究の末にワイトになったのですね?」
「はい、これで彼の魂が解放される日まで私はこの世界に存在し続けられると喜びながら寿命を終えました。でもワイトになって一つ問題があったのです」
ローブの袖で涙を拭きながら、ワイトは出るはずのない鼻水を啜った。
「この地下墓地はアンデッドを地上へ逃さないように作られていたのです。風水的なものや結界の効果であり、アンデッドが地上に出る事は決してありません。だから彼の魂が解放されても、私は一緒に成仏する事ができないのです」
「そんな! じゃあ何のためにワイトになったか解らないじゃないですか!」
「でも一つ外に出る方法があります。それは誰かが私の骨の欠片を、口に含んで外に出る事です。口に含めば結界は私の骨を生者の体の一部だと判断して、外へ通してくれます。私の思いはこの骨に染み付いているのですから、私は外に出る事ができるのです」
「じゃあ俺がそれをやるよ。他の皆は気持ち悪がってやらないだろうからな」
「ほんとうですか? 嬉しい!」
「フン・・・」
胡坐をかいた俺の膝の上でサーカが目を覚まし、ゆっくりと起き上る。そしてワイトの冷気よりも冷たい顔で俺を見た。
「話は聞いていた。騙されるなよ、オビオ。こいつは地上に出て悪さをするつもりだ。これまで沢山の死体を弄んできたような者を、お前は信用するというのか。しかも禁断の死霊術を使うとは! 他の種族ならいざ知らず、樹族が死霊術を使ったのだ! 闇落ちした闇樹族同様の扱いをされても、おかしくはないのだぞ!」
あぁ、寝ていればいいものを厄介な奴が目を覚ました・・・・。
0
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
キャンピングカーで、異世界キャンプ旅
風来坊
ファンタジー
東京の夜を走り続けるタクシードライバー、清水翔。
ハンドル捌きと道の知識には自信があり、理不尽な客にも笑顔で対応できる――不器用ながらも芯の強い男だ。
そんな翔が、偶然立ち寄った銀座の宝くじ売り場で一人の女性・松田忍と出会う。
彼女との再会をきっかけに、人生は思いもよらぬ方向へ動き出した。
宝くじの大当たり、そして「夢を追う旅」という衝動。
二人は豪華にバスコンをカスタムしたキャンピングカー「ブレイザー」を相棒に、日本一周を計画する。
――だが、最初のキャンプの日。
雷の直撃が二人を異世界へと連れ去った。
二つの月が照らす森で、翔は持ち前の度胸と行動力を武器に、忍を守りながら立ち向かう。
魔力で進化したブレイザー、忍の「鑑定スキル」、そして翔の判断力と腕力。
全てを駆使して、この未知の世界を切り開いていく。
焚き火の炎の向こうに広がるのは、戦いと冒険、そして新しい絆。
タクシードライバーから異世界の冒険者へ――翔と忍のキャンピングカー旅が、今始まる。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
本当の外れスキルのスロー生活物語
転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる