料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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ほの明るい地下墓地の幽霊 3

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 『ワイトの部屋』

 は?

 これまで通ってきた土壁の部屋や道から、急にレンガと石畳の部屋へと変わった。そして誰もが一番驚いたのが可愛い丸文字でワイトの部屋と書かれた看板だ。

「ここだけ壁や床が新しいな。割と最近のものだ。といっても数百年前のものだろうが・・・」

 サーカが壁を触って確かめている後ろ、でピーター(可愛らしい顔しているから君付けで呼んでいたが、お前はもうピーターと呼び捨てにする!)がサーカの尻を触ろうとしたので、俺はその手にしっぺをした。

 ピーターは手を擦って、あの邪悪な顔を俺だけに見える角度で向けた。まぁ怖くはないけど。

「じゃあワイトは大昔からいるってわけじゃないんだな。割と若い霊なのかもしれない」

「霊に若いも何もあるか。死んでいるのだぞ?」

 確かに。でも一々煩いぞ、サーカ。

「メイジ戦は先手必勝が有利なんだよな? トウスさん」

「ああ、敵に接近して詠唱前に攻撃できれば、俺らの勝ちだ」

「そういう汚い戦い方は盗賊のピーターが得意なのだがな。あの様子じゃ使えそうにない」

 フンと鼻を鳴らすサーカを見た後に、俺はちらりとピーターを見る。彼は勿論ブルブル震えていた。確かに駄目だな、ありゃ。あんな状態ならオオネズミににも負けそうだ。

「サーカ、魔法を使い過ぎるなよ。不意打ちなんだから、補助魔法は最低限でいい」

「ああ。今回は上手く制御できた」

 よしよし、少しは成長したな、サーカ。今回は、いつものように焦ったり緊張している感じがない。

「じゃあいくぞ、皆」

「ああ」

「うむ」

「ひぃぃ」

 ひぃぃってなんだよ。ちゃんと返事しろピーター。まぁ当てにはしてないけどな。

 俺は可愛い丸文字の書いてある看板を、壊す勢いでドアを蹴り開けた。

 部屋の中はピンク色の壁紙が貼られており、可愛いぬいぐるみがあちこちに落ちている。

 そして部屋に入って真正面奥に、こちらに背を向けて座る白ローブのワイトの姿が見えた。あの状態なら振り返って、詠唱を始めるまでに十秒はかかるはずだ!

 隣で魔剣蛇殺しを構えたトウスさんが吠えた。

「覚悟しろ! アンデッド!」

 後ろでピーターが何かを叫んだような気がするが、前衛三人の俺たちには聞こえていなかった。

 ―――カチッ

 嫌な音がする。多分誰かが罠の床を踏んだ。

 シュウウウウウ!! という音がして煙が部屋に充満した。

「しまった眠り煙の罠だ! 煙を吸うな!」

 しかし時すでに遅し。最初にトウスさんが倒れ、サーカが倒れ、俺が倒れ・・・・。

 ピーターは部屋の外へと逃げた・・・。





 気が付くと小さな生尻が目の前にあった。可愛らしい子供のような尻は、土下座をしているので菊門のシワ一つ一つがしっかりと見える。オエッ!

 ワイトは俺たちを殺さなかったのか。代わりに何故かピーターが全裸で土下座だ。そう、相手に同情させ自己嫌悪させる究極の土下座。アルティメットスーパーウルトラグレート土下座。

「ちちち、地走り族は! 気が付かない内に物を拾う習性があるのです、ワイト様! だから・・・・」

「そんな事言っても駄目です。だったらすぐに返しに来てくれても良かったでしょう! 何故売ってしまったのですか、私の大事な人の写真が入っていたロケットペンダントを」

 寝てから数分ぐらいか? サーカは気持ちよさそうに寝ている。うん、可愛い。寝てたらほんと可愛い。トウスさんは向こうを向いてうつ伏せで寝ているので、起きているのかどうかわからない。

「だって・・・僕の住む孤児院は貧乏だから、ポッケに高そうなペンダントが入っていたら、それを売って皆のパン代にしようって思うのは普通じゃないですか!」

 嘘だね。大神聖が来たお蔭で食うに困らなくなったってシスター・マンドルが言ってたね。食料を庭で確保出来るようになったし、尚且つ星のオーガ教の信者が訪れて寄付金が増えたって言ってたよぉ。

 樹族にしてはふくよかで甘ったるい顔をしたワイトは、腰に手を当ててプンプンと可愛く怒る。少しフランちゃんに似ているかも。

「私が白ローブだからって舐めないでね! 【読心】!」

 あーあ、嘘がバレるぞ。終わったよピーター。直ぐに謝っておけば何とかなったかもしれないのに。

 話から察するにピーターは地下墓地に閉じ込められた時にこの部屋に来ていたんだな。それでペンダントを盗んだと。だからワイトは怒って教会にポルターガイスト現象を起こしていたんだ。

「それからオーガさん! 起きているなら寝たふりをしないでください」

 うは! 俺の寝たふりがバレてた。

「ははは、失礼・・・」

 俺はむくりと起き上って胡坐をかいて座ると癖毛の黒髪を整えて恥ずかしそうに笑う。

「話を聞いてて大体解りましたよ、幽霊さん。ピーターがペンダントを盗んで売っちゃったんですね?」

「その通ぉりー。プンプン」

 言い方が可愛くて怒られている感じがしない。それに眠らせた俺たちを拘束もしていない。最初から戦う気が無かったって事か・・・。俺達の空回り感、半端ねぇ・・・。

「でも、大事な人ってもうこの世にいないんじゃ?何故この世界に留まっているんです?」

「その大事な人が旅立ってないからですよ・・・。それから地走り族さん、もう服を着てもいいですよ。ペンダントを持っていない事は解りましたから」

 まだ土下座している。足が痺れたんだな? ピーターは。バカだなぁ。いい加減服を着てくれ。お前の肛門はこれ以上見たくない。あ、俺が場所を変えればいいのか。

 俺は立ち上がると、フードから長い耳を出している樹族の女幽霊に近づいてまた座った。敵意がない事を示したかったのだ。

「それで成仏できていない彼はどこにいるんです?」

「寒い・・・。むにゃむにゃ」

 今から本格的に話を聞こうとしていたのに、サーカが冷たい床の上でブルブル震えた。仕方がないから抱きかかえてまた女幽霊の前に座った。

「暖かいよぉ、ママ・・・。えへへ」

 クッ! 俺はサーカのお母さんじゃないけど、この笑顔、ずっと守りたい!

「好きなんですね、その方の事が」

 白ローブのワイトは両手で口を隠して、ウフフと笑っている。

「いや、そんなんじゃ・・・。こいつは口が悪いし性格も悪いけど、旅のパートナーですから」

「私の彼も最初は冷たい感じで口が悪かったですよ。そうだ! 貴方なら私を連れて行く事ができるかもしれない! 私の話を聞いてくださいますか?」

「勿論ですよ。最初からこうしていれば良かったと後悔しています」

「ありがとう。私はかつて神学庁に務めるメイジでした。神学庁は僧侶ばかりが務める国の機関で、私は聖職者が奇跡を使った時に、適切な報酬を貰っているかの調査や、胡散臭い新興宗教がないかの監視、神話の解釈の研究等をしておりました。仕事柄、私は城へも報告に行く事がありました。そこで私はとある騎士様を好きになってしまったのです。彼は王国近衛兵騎士団独立部隊の騎士様で、幾度となく廊下ですれ違っていました。そうこうしている内にお互い意識するようになって恋人同士になったんです」

「王国近衛兵騎士団独立部隊? え! それってシルビィ様の隊じゃないですか。となると、貴方の彼氏はシルビィ様の先輩って事になるな」

「貴方、オーガなのに独立部隊の知り合いがいるの? すごぉい! わぁ! そう言えば胸にウォール家の紋章が!」

 ワイトは俺のマント越しに浮かぶ紋章をまじまじと近くで見ている。近い、近い! 冷気が凄まじい!

「あ、ごめんなさい」

 読心の魔法がまだ効果を発揮しているので、ワイトは気を使って離れてくれた。

「それで、ある日彼は諜報任務につく事になったの。本当は裏側がやる仕事だったのだけど、裏側も人手が足りないという事で、彼が獣人国レオンに赴く事になったわけです。任務の内容は、樹族国に対して不穏な動きをする獣人国の族長の監視でした。基本的にスパイ活動なので、見つかれば国際的には問題になる大変な任務です。彼は獣人国の数部族が樹族国へ戦争を仕掛けようとしていた血判書を見つけ、持ち帰ろうとしたのです。しかし逃げる間際に変装の魔法を見破られてしまいました。しかも使い魔の犬が逃げ遅れて、本国とのやり取りを全て獣人国の者に喋ってしまったのです」

「うわ・・・。あ! もしかして!」

「そうなんです・・・。彼は帰国後、獣人国の猛抗議で、死刑扱いとなり守り人にされてしまいました」

「おかしいだろ! 戦争を仕掛けようとしていた側が抗議だなんて!」

「獣人国の部族の一部は、同盟国に戦争を仕掛けようとしていたのは事実。国際的に信用を失うという大ダメージを受けるのですから、何か悔し紛れの掻き傷ぐらいは樹族国に与えたくなるものです。そうしないと全面的に獣人国が悪者扱いされますからね。少しは樹族も悪かった的な、アピールがしたいわけですよ」

「そのやり玉がスパイであった、貴方の彼氏だったわけですね・・・」

「ええ・・・」

 女幽霊は顔を両手で押さえて泣き出した。

「私は・・・。私はその後、神学庁を辞めてこの墓地に研究所を作りました。闇の秘術である死霊術の研究を、必死になってしました。愛しい彼の魂がいつまでも解放されないのなら、解放されるその時まで私は幽霊になって待とうと思って・・・」

「うぅ・・・。なんて健気なんだ。おぉぉぉ」

 思わず俺もつられて泣いてしまった。涙がサーカの口元に落ちると、寝ている彼女は舌でそれを舐めとる。

「スープ美味しいね、ママ!」

 くそ! サーカはサーカで可哀想だ。きっと母親が健康だった頃の楽しい夢を見ているのだろう。

「それで、貴方は研究材料の豊富なここで研究の末にワイトになったのですね?」

「はい、これで彼の魂が解放される日まで私はこの世界に存在し続けられると喜びながら寿命を終えました。でもワイトになって一つ問題があったのです」

 ローブの袖で涙を拭きながら、ワイトは出るはずのない鼻水を啜った。

「この地下墓地はアンデッドを地上へ逃さないように作られていたのです。風水的なものや結界の効果であり、アンデッドが地上に出る事は決してありません。だから彼の魂が解放されても、私は一緒に成仏する事ができないのです」

「そんな! じゃあ何のためにワイトになったか解らないじゃないですか!」

「でも一つ外に出る方法があります。それは誰かが私の骨の欠片を、口に含んで外に出る事です。口に含めば結界は私の骨を生者の体の一部だと判断して、外へ通してくれます。私の思いはこの骨に染み付いているのですから、私は外に出る事ができるのです」

「じゃあ俺がそれをやるよ。他の皆は気持ち悪がってやらないだろうからな」

「ほんとうですか? 嬉しい!」

「フン・・・」

 胡坐をかいた俺の膝の上でサーカが目を覚まし、ゆっくりと起き上る。そしてワイトの冷気よりも冷たい顔で俺を見た。

「話は聞いていた。騙されるなよ、オビオ。こいつは地上に出て悪さをするつもりだ。これまで沢山の死体を弄んできたような者を、お前は信用するというのか。しかも禁断の死霊術を使うとは! 他の種族ならいざ知らず、樹族が死霊術を使ったのだ! 闇落ちした闇樹族同様の扱いをされても、おかしくはないのだぞ!」

 あぁ、寝ていればいいものを厄介な奴が目を覚ました・・・・。
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