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カルト教団と修道騎士 3
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怯えて疲れ切った村人たちに少しでも元気になってほしいと思った俺は、甘いチャイを振る舞う事にした。
寸胴鍋の半分ぐらいに張ったお湯に、アッサムとセイロンを混ぜたコク深い茶葉を大量に入れていく。そこに生姜のスライスをこれまた大量にいれる。続いてシナモン、カルダモン、クローブを入れて煮込む。
五分ほど煮込んで、そこに大量の砂糖と塩味を少し感じる程度に岩塩を入れた。
それにしても砂糖を沢山使うチャイを百人分だから砂糖の量も半端ない。また買い置きしておかないと。樹族国では砂糖は滅茶苦茶高いんだよなぁ・・・。そのせいで甘いお菓子や飲み物は凄く喜ばれる。樹族以外は素直に反応してくれるから俺もやり甲斐があるんだ。
最後にミルクを入れてひと煮立ちしたら火を止めて完成。
俺は寸胴鍋を持って結界のあるドアの前に立った。すると結界が消える。修道騎士のメリィさんがさも当然のように俺の後ろをついてきて台所から出ようとしたが、結界は俺だけを通すように出来ているのかメリィさんは弾かれて尻もちをついてしまった。
「いたぁ~い」
後ろからメリィさんの間の抜けた声が聞こえてくる。振り返って大丈夫かと声を掛けたかったが、余所見をするとチャイが零れそうだったのでやめた。
俺は寸胴鍋を部屋の真ん中にある長テーブルに置いて素早く狂信者たちを観察する。集会所には入口に二人、テーブル付近に二人、村の入り口が見える窓に二人立ってる。
(どこかで結界を操っている奴がいるはずなんだがなぁ。誰がやってんのかわかんねぇ)
まぁ当然だわな。そんな簡単に見つかるなら苦労はしない。キリマルさんの刀も集会所にはないのか見当たらない。
「おい、そのお茶はお前がまず飲め!」
ぼーっと突っ立ってるように見える俺に樹族の信者は早速毒見をさせる気だ。ニヤニヤしてんなよ。毒なんて入ってねーっつの。死んだりしねぇっつーの。
「フーフー、ゴクゴク。あちぃ!あががが!」
なるべく間抜けなオーガを演じる為に俺はできる限り笑いを取るようお道化て見せる。
「ハ!アホなオーガめ!ナガラ、お茶を鑑定しろ」
ナガラという、この場に似つかわしくない薄幸そうな美少年樹族にリーダーっぽい男がそう命令をした。青葉のような色の髪と瞳の彼は寸胴鍋に光る手をかざしている。
【知識の欲】があるなら最初からそうしとけ、アホーーーっ!毒見役なんかいらんでしょうがーーー!
俺は心の中で白目でそう訴えた。こいつらは面白がって俺を連れて来たようだ。随分と余裕があるんだな。村の周りは今頃騎士団が囲んでいるかもしれないのに。・・・いつでも突入できるように囲んでくれているよな?
いや、ボケーっと村の入り口に立ってるのが集会所の窓から見えるぞ・・・。あいつら・・・。
「毒はありません、ホキキさん」
俺の毒見、ナガラの鑑定を見て安心したリーダー格の樹族、ホキキ(変な名前)はマグカップをそのまま寸胴鍋に入れてチャイを掬って飲んだ。
「スパイシーで甘いな・・・。良い仕事をするじゃないか。よし。配れ、オーガ」
狂信者ホキキに褒められても嬉しくないなぁ。と思いつつ俺は亜空間ポケットからマグカップを大量に出した。
「みーなさーん、並んでくっさーい」
「並んでくださいだろう、馬鹿オーガめ!オーガはろくに共通語も喋れないから面白いな。ぶははは!」
笑うがいいさ。いつか俺の主演男優賞クラスの演技で隙を作ってやるからな。でも待てよ、馬鹿オーガを演じる役者なんて見た事ないぞ・・・。
並ぶ村人たちにチャイを配っていく。死者があの世へ旅立とうとする列のようで村人たちの目に生気はない。命の軽いこの星ではある日誰だろうが突然簡単に死ぬ。だから、村人たちは少し先に待ち構える死を受け入れているのかもしれない。
でもよ、そんな事させるかよ!死なせるものか!俺は少しでも多くの人に自分の料理を食べてもらって、美味しさにほころぶ顔が見たいだよ!
「美味しいよ~!熱いからフーフーしてくさーい」
この寒い小屋の床に座らせられていた村人たちは震えながらチャイを受け取った後、自分の元居た場所に戻って熱々のチャイを啜った。
「体が温まる・・・」
「甘くて美味しい・・・」
ボソボソっと村人の感想が聞こえて来た。良かった、少し彼らの目に生気が戻った気がする。
俺は振り返ると、美味しそうにチャイを啜るホキキに声を掛けた。
「おで、子供達にもこの甘ーいチャイを飲んでもらいたい」
「はぁ?これを子供にやるのは勿体ない気がするのだがね」
「おで、料理人だかだ、なるべく大勢のシトに美味しい味を楽しんで欲しい!お願いしますだ!」
俺は跪いて小さな樹族の肩に手を置いた。勿論、彼の情報が頭に流れ込んでくる。
ホキキ・スピナッチ。樹族。84歳。生粋のメイジ。能力値は平凡なメイジと言った感じか。ん?イメージが流れ込んでくるぞ。
ん?どこだ?大聖堂か?誰だ、あの四角い顔の司祭は。星のオーガ教の司祭じゃないぞ、首に木のシンボルを下げている!なんでホキキが他の宗教の司祭に跪いているんだ!
「ええぃ!手を放せ!うっとおしい」
ホキキが俺の手に触れた途端、猛烈な疲労が襲い掛かってきた。一秒間に千回スクワットをやったような、体を壊すレベルの疲労感だ。ナノマシンや色々なチップが体内にある強化人間の俺じゃなければ死んでいたかもしれない。自分が地球人である事を神に感謝した。
「ぐう!」
流石に立っていられなくなってしゃがむと、ホキキは「ほう!」と驚いてちょび髭を伸ばし、顔を近づけてきた。結構毛穴に汚れが溜まっているな・・・。高価そうなダブレットを着ている割に不潔だ。サーカのように毎日水浴びか湯あみぐらいしろ。
「私は無礼な君を殺す気でいたのだがね・・・。まさか【死の手】をレジストするとは。運がいいじゃないか。直接相手に触れる即死魔法は防ぎ難いのだよ?まぁ、いいだろう。君の運の良さに免じて子供達にもチャイとやらを飲ませてやろうじゃないか」
待て待て待て、ハァハァ。【死の手】って確か闇魔法だろ!何で光側種族である樹族が闇魔法を習得しているんだよ!サーカが言っていたぞ!闇側に染まった樹族は黒髪になって闇落ちするって。こいつ、闇樹族なのか?でも髪は深緑だ。もう何が何だかわかんねぇよ!
「さっさと立ちたまえよ、ウスノロのオーガ君」
また【死の手】をされるのでは、という恐怖が全身を走った。
(そうだ、ここは魔法の星なんだ。魔法で簡単に人が死ぬ世界なんだった・・・)
魔法に慣れたつもりでいても、それが運んでくる死はとても身近なんだという現実を今、突きつけられている。
この星で死んだら・・・多分復活は無理だ。
大神聖や宇宙船カプリコンの目からなぜか隠れる事ができている現状で、死んだ時だけ都合よく彼らが俺を見つけてくれる保証はない。地球政府や大神聖の支援や蘇生はまず期待できないのだ。
(怖い・・・。やっぱ死ぬのはこえぇ・・・)
しかし俺の恐怖を感じ取ったナノマシンが動悸を整えて、【死の手】が奪った体力を元通りにしたかのように誤魔化していく。今、行動できるように誤魔化すだけだ。
体の中でナノマシンは老廃物をリサイクルし、脂肪を燃焼してエネルギーを作り出している。
今夜はその反動で気絶するかもしれない。今夜があればの話だけどよ・・・。
それでも歯を食いしばって立つと俺は残り少なくなったチャイの入った寸胴鍋を両手に持って歩き始めた。
「おお!立ち上がって歩けるのか!凄いな!流石はオーガ!スタミナや生命力がはずば抜けている種族なだけはある」
厭味ったらしい粘っこい拍手をしてホキキは喜んでいる。
くそ!覚えてろよ!反撃を開始したらお前をキャメルクラッチで半分に折ってから捏ねて拉麺にしてやるからな!
「まただ。またこの刀は納屋から勝手に出て悪魔に近づいている」
信者二人のうち一人が刀に触れないように、二本の棒を箸のように使って刀を納屋の中にしまった。
「呪いの武器の類なんだろうな。なにせ悪魔が持っていた武器だ。召喚した時にあの悪魔の持つ刀をホキキさんが魔法で弾かなかったら今頃は俺達全員死んでたぜ。刀がなくてもあいつはトームを殺しやがったんだ。それなのにホキキさんは・・・」
「おい、もう行くぞ。薄気味悪い刀なんかに俺は関わりたくねぇんだ」
「あぁ・・・」
信者二人の様子を茂みから見ていたピーターは何度も周囲を警戒した後、大きな納屋に近づいた。そして扉の隙間から無造作に地面に置いてある呪いの刀を見る。
鞘にはよく解らない文字が書かれており血のように濡れて光っていた。
「呪いの刀か・・・。売っても二束三文だろうな。それにしてもオビオのウスノロは何やってんだよ。そろそろ何か合図してくれてもいいだろ。まぁ事前にそんな約束もしてないし、素晴らしい救出計画があったわけでもないけどよ」
ピーターはサーカの計画性のなさに腹立たしくなり地面にペッ!と唾を吐いた。
「オビオと一緒にいれば美味い料理とお宝で美味しい思いができるんじゃねぇかと思ったのによ・・・。実際蓋を開けてみれば、うるせぇ騎士様の奴隷みたいなもんじゃないか。ここらで逃げるか?いや、でも逃げても行く当てはないだろ?じゃあ帰るか?孤児院にか?戻ればあのババァにボコボコにされるだけだぞ?」
自問自答する癖があるのかピーターは暫くブツブツ言った後、近くに人の気配を感じて少し尖っている耳を澄ませた。
「1,2,3,4・・・。十人ほどか。大人の咳と子供の泣く声がする・・・。納屋の奥だ」
納屋の中にある柱の陰や荷物の陰、干し草の影に入ると身を霞ませてピーターは進む。文字通りピーターの姿が霞むのだ。
どういう理屈でそうなるのかは本人も解っていないが、自分の生きる道を覚悟した者に神は力を授けると世間では言われている。
しかし世界を旅してきた見識の広いヤンスは、それは自身の想いがそうさせているのであって神の力ではないと言っていたがピーターにはどうでもいい事だった。
盗賊やスカウトは不意打ちの名人で一般的にメイジに強いと言われている。メイジは戦士に、戦士は盗賊に強いという三すくみがある。そして納屋の中にもいるフードを被った見張りはワンドを持っている。つまりピーターが倒しやすい相手ということだ。
(どうする?相手は一人だぞ。いくら屁垂れの俺でも今ならやれるかも!)
ドッドッドと高鳴る心音が、あの狂信者に届きませんようにと祈りながらピーターはスリングを構えた。
―――ビュッ!―――
人生のこれまでで一番の投げ方ができたとピーターは思った。スリングを振り回す力加減、石の大きさ、タイミング、どれをとっても完璧だと自負するほどに。
実際、スリングで投げた石は敵の後頭部にクリーンヒットし、ハンガーから落ちる服のように狂信者はスッと倒れた。
「ハァー!ハァー!(やれた!俺でもやれたぞ!これでオビオやサーカに馬鹿にされなくなる!)」
ピーターは興奮で顔を赤くしながらも、冷静に信者の胸元やポーチを探る。
「なんだこれ・・・。何かの印台リングか?」
ポーチの中にあった、後光が差す木の印が付いた指輪をピーターは取り敢えずポケットに入れて、藁の上で凍える子供たちに声を掛けた。
「おい、助けに来たぞ!お兄ちゃんが村の入り口まで連れてってやるから、急げ!」
しかし、間の悪い事に背後で納屋の扉が開く。
「こどもたち~、おでが暖かい飲み物をもっできたど!」
オビオだ。後ろに狂信者二人が見張りについている。
(糞みたいなタイミング出来やがって!)
地走り族がいくら子供のように見えると言っても、実際の子供の中にいると喉仏の大きさや筋肉の付き方で違いはすぐに分かる。オビオと共に来た樹族がピーターを見つけて叫んだ。
「お前、誰だ!蛇のように絡まれ!【捕縛】!」
両手を透明なロープに縛られたピーターは跪いて泣き始めた。。
「だから嫌だって言ったんだぉ!聞いてください!僕は騎士様に無理やり潜入させられたんだ!無理やりね!だから助けてください!助けてくださいよぉ!お願いしますぅ!」
何度かこういった泣き縋りでピンチを切り抜けてきたピーターだったが、星の棺桶の信者たちの目は冷たい。
(こいつら、本当に宗教家なのか?無慈悲な目をしやがってぇ!)
ピーターがいる事に驚いたオビオが寸胴鍋を落として中身をぶちまける。
「ピーター!どうして・・・!せっかく上手くいってたのに!サーカは・・・!!」
ウスノロオーガを演じていたのも忘れて喋ってしまい、オビオは慌てて口を閉じて誤魔化すように寸胴鍋を拾った。
が、鍋を拾った程度で彼らの疑いを帳消しにできるはずもなかった。
信者二人は目の前のオーガが流暢に共通語を喋った事をしっかりとその長い耳で捉えていた。
「そういう事か!オーガ!やはりお前はただのウスノロなオーガではなかった!何か企んでいたのだな?だが残念だったな!」
オビオもピーターと同じ魔法で両手を縛られて歩く事しかできなくなった。
「さぁ、ついてこい!お前らの処分はホキキ様が決められるだろう。まぁほぼ死刑が確定しているようなものだがな。ハハハ!」
ピーターはオビオを邪悪な顔で睨む。
(お前さえ来なければぁ!上手くいっていたのにぃ!)
睨んだものの、オビオの表情がいつもと違う事に気が付く。
(おかしいぞ・・・。こいつは俺と同じぐらいビビりなはずだ。いつもトラブルが起きるとすぐに慌てるし文句も言う。それから何らかの力で冷静になる。でも今回はそれが早い。というか最初から慌てていなかったように思える。どう転んでも問題ないって雰囲気だ。何故だ?)
下から見るオビオの口の端は一瞬、大きく上がったように見えた。
寸胴鍋の半分ぐらいに張ったお湯に、アッサムとセイロンを混ぜたコク深い茶葉を大量に入れていく。そこに生姜のスライスをこれまた大量にいれる。続いてシナモン、カルダモン、クローブを入れて煮込む。
五分ほど煮込んで、そこに大量の砂糖と塩味を少し感じる程度に岩塩を入れた。
それにしても砂糖を沢山使うチャイを百人分だから砂糖の量も半端ない。また買い置きしておかないと。樹族国では砂糖は滅茶苦茶高いんだよなぁ・・・。そのせいで甘いお菓子や飲み物は凄く喜ばれる。樹族以外は素直に反応してくれるから俺もやり甲斐があるんだ。
最後にミルクを入れてひと煮立ちしたら火を止めて完成。
俺は寸胴鍋を持って結界のあるドアの前に立った。すると結界が消える。修道騎士のメリィさんがさも当然のように俺の後ろをついてきて台所から出ようとしたが、結界は俺だけを通すように出来ているのかメリィさんは弾かれて尻もちをついてしまった。
「いたぁ~い」
後ろからメリィさんの間の抜けた声が聞こえてくる。振り返って大丈夫かと声を掛けたかったが、余所見をするとチャイが零れそうだったのでやめた。
俺は寸胴鍋を部屋の真ん中にある長テーブルに置いて素早く狂信者たちを観察する。集会所には入口に二人、テーブル付近に二人、村の入り口が見える窓に二人立ってる。
(どこかで結界を操っている奴がいるはずなんだがなぁ。誰がやってんのかわかんねぇ)
まぁ当然だわな。そんな簡単に見つかるなら苦労はしない。キリマルさんの刀も集会所にはないのか見当たらない。
「おい、そのお茶はお前がまず飲め!」
ぼーっと突っ立ってるように見える俺に樹族の信者は早速毒見をさせる気だ。ニヤニヤしてんなよ。毒なんて入ってねーっつの。死んだりしねぇっつーの。
「フーフー、ゴクゴク。あちぃ!あががが!」
なるべく間抜けなオーガを演じる為に俺はできる限り笑いを取るようお道化て見せる。
「ハ!アホなオーガめ!ナガラ、お茶を鑑定しろ」
ナガラという、この場に似つかわしくない薄幸そうな美少年樹族にリーダーっぽい男がそう命令をした。青葉のような色の髪と瞳の彼は寸胴鍋に光る手をかざしている。
【知識の欲】があるなら最初からそうしとけ、アホーーーっ!毒見役なんかいらんでしょうがーーー!
俺は心の中で白目でそう訴えた。こいつらは面白がって俺を連れて来たようだ。随分と余裕があるんだな。村の周りは今頃騎士団が囲んでいるかもしれないのに。・・・いつでも突入できるように囲んでくれているよな?
いや、ボケーっと村の入り口に立ってるのが集会所の窓から見えるぞ・・・。あいつら・・・。
「毒はありません、ホキキさん」
俺の毒見、ナガラの鑑定を見て安心したリーダー格の樹族、ホキキ(変な名前)はマグカップをそのまま寸胴鍋に入れてチャイを掬って飲んだ。
「スパイシーで甘いな・・・。良い仕事をするじゃないか。よし。配れ、オーガ」
狂信者ホキキに褒められても嬉しくないなぁ。と思いつつ俺は亜空間ポケットからマグカップを大量に出した。
「みーなさーん、並んでくっさーい」
「並んでくださいだろう、馬鹿オーガめ!オーガはろくに共通語も喋れないから面白いな。ぶははは!」
笑うがいいさ。いつか俺の主演男優賞クラスの演技で隙を作ってやるからな。でも待てよ、馬鹿オーガを演じる役者なんて見た事ないぞ・・・。
並ぶ村人たちにチャイを配っていく。死者があの世へ旅立とうとする列のようで村人たちの目に生気はない。命の軽いこの星ではある日誰だろうが突然簡単に死ぬ。だから、村人たちは少し先に待ち構える死を受け入れているのかもしれない。
でもよ、そんな事させるかよ!死なせるものか!俺は少しでも多くの人に自分の料理を食べてもらって、美味しさにほころぶ顔が見たいだよ!
「美味しいよ~!熱いからフーフーしてくさーい」
この寒い小屋の床に座らせられていた村人たちは震えながらチャイを受け取った後、自分の元居た場所に戻って熱々のチャイを啜った。
「体が温まる・・・」
「甘くて美味しい・・・」
ボソボソっと村人の感想が聞こえて来た。良かった、少し彼らの目に生気が戻った気がする。
俺は振り返ると、美味しそうにチャイを啜るホキキに声を掛けた。
「おで、子供達にもこの甘ーいチャイを飲んでもらいたい」
「はぁ?これを子供にやるのは勿体ない気がするのだがね」
「おで、料理人だかだ、なるべく大勢のシトに美味しい味を楽しんで欲しい!お願いしますだ!」
俺は跪いて小さな樹族の肩に手を置いた。勿論、彼の情報が頭に流れ込んでくる。
ホキキ・スピナッチ。樹族。84歳。生粋のメイジ。能力値は平凡なメイジと言った感じか。ん?イメージが流れ込んでくるぞ。
ん?どこだ?大聖堂か?誰だ、あの四角い顔の司祭は。星のオーガ教の司祭じゃないぞ、首に木のシンボルを下げている!なんでホキキが他の宗教の司祭に跪いているんだ!
「ええぃ!手を放せ!うっとおしい」
ホキキが俺の手に触れた途端、猛烈な疲労が襲い掛かってきた。一秒間に千回スクワットをやったような、体を壊すレベルの疲労感だ。ナノマシンや色々なチップが体内にある強化人間の俺じゃなければ死んでいたかもしれない。自分が地球人である事を神に感謝した。
「ぐう!」
流石に立っていられなくなってしゃがむと、ホキキは「ほう!」と驚いてちょび髭を伸ばし、顔を近づけてきた。結構毛穴に汚れが溜まっているな・・・。高価そうなダブレットを着ている割に不潔だ。サーカのように毎日水浴びか湯あみぐらいしろ。
「私は無礼な君を殺す気でいたのだがね・・・。まさか【死の手】をレジストするとは。運がいいじゃないか。直接相手に触れる即死魔法は防ぎ難いのだよ?まぁ、いいだろう。君の運の良さに免じて子供達にもチャイとやらを飲ませてやろうじゃないか」
待て待て待て、ハァハァ。【死の手】って確か闇魔法だろ!何で光側種族である樹族が闇魔法を習得しているんだよ!サーカが言っていたぞ!闇側に染まった樹族は黒髪になって闇落ちするって。こいつ、闇樹族なのか?でも髪は深緑だ。もう何が何だかわかんねぇよ!
「さっさと立ちたまえよ、ウスノロのオーガ君」
また【死の手】をされるのでは、という恐怖が全身を走った。
(そうだ、ここは魔法の星なんだ。魔法で簡単に人が死ぬ世界なんだった・・・)
魔法に慣れたつもりでいても、それが運んでくる死はとても身近なんだという現実を今、突きつけられている。
この星で死んだら・・・多分復活は無理だ。
大神聖や宇宙船カプリコンの目からなぜか隠れる事ができている現状で、死んだ時だけ都合よく彼らが俺を見つけてくれる保証はない。地球政府や大神聖の支援や蘇生はまず期待できないのだ。
(怖い・・・。やっぱ死ぬのはこえぇ・・・)
しかし俺の恐怖を感じ取ったナノマシンが動悸を整えて、【死の手】が奪った体力を元通りにしたかのように誤魔化していく。今、行動できるように誤魔化すだけだ。
体の中でナノマシンは老廃物をリサイクルし、脂肪を燃焼してエネルギーを作り出している。
今夜はその反動で気絶するかもしれない。今夜があればの話だけどよ・・・。
それでも歯を食いしばって立つと俺は残り少なくなったチャイの入った寸胴鍋を両手に持って歩き始めた。
「おお!立ち上がって歩けるのか!凄いな!流石はオーガ!スタミナや生命力がはずば抜けている種族なだけはある」
厭味ったらしい粘っこい拍手をしてホキキは喜んでいる。
くそ!覚えてろよ!反撃を開始したらお前をキャメルクラッチで半分に折ってから捏ねて拉麺にしてやるからな!
「まただ。またこの刀は納屋から勝手に出て悪魔に近づいている」
信者二人のうち一人が刀に触れないように、二本の棒を箸のように使って刀を納屋の中にしまった。
「呪いの武器の類なんだろうな。なにせ悪魔が持っていた武器だ。召喚した時にあの悪魔の持つ刀をホキキさんが魔法で弾かなかったら今頃は俺達全員死んでたぜ。刀がなくてもあいつはトームを殺しやがったんだ。それなのにホキキさんは・・・」
「おい、もう行くぞ。薄気味悪い刀なんかに俺は関わりたくねぇんだ」
「あぁ・・・」
信者二人の様子を茂みから見ていたピーターは何度も周囲を警戒した後、大きな納屋に近づいた。そして扉の隙間から無造作に地面に置いてある呪いの刀を見る。
鞘にはよく解らない文字が書かれており血のように濡れて光っていた。
「呪いの刀か・・・。売っても二束三文だろうな。それにしてもオビオのウスノロは何やってんだよ。そろそろ何か合図してくれてもいいだろ。まぁ事前にそんな約束もしてないし、素晴らしい救出計画があったわけでもないけどよ」
ピーターはサーカの計画性のなさに腹立たしくなり地面にペッ!と唾を吐いた。
「オビオと一緒にいれば美味い料理とお宝で美味しい思いができるんじゃねぇかと思ったのによ・・・。実際蓋を開けてみれば、うるせぇ騎士様の奴隷みたいなもんじゃないか。ここらで逃げるか?いや、でも逃げても行く当てはないだろ?じゃあ帰るか?孤児院にか?戻ればあのババァにボコボコにされるだけだぞ?」
自問自答する癖があるのかピーターは暫くブツブツ言った後、近くに人の気配を感じて少し尖っている耳を澄ませた。
「1,2,3,4・・・。十人ほどか。大人の咳と子供の泣く声がする・・・。納屋の奥だ」
納屋の中にある柱の陰や荷物の陰、干し草の影に入ると身を霞ませてピーターは進む。文字通りピーターの姿が霞むのだ。
どういう理屈でそうなるのかは本人も解っていないが、自分の生きる道を覚悟した者に神は力を授けると世間では言われている。
しかし世界を旅してきた見識の広いヤンスは、それは自身の想いがそうさせているのであって神の力ではないと言っていたがピーターにはどうでもいい事だった。
盗賊やスカウトは不意打ちの名人で一般的にメイジに強いと言われている。メイジは戦士に、戦士は盗賊に強いという三すくみがある。そして納屋の中にもいるフードを被った見張りはワンドを持っている。つまりピーターが倒しやすい相手ということだ。
(どうする?相手は一人だぞ。いくら屁垂れの俺でも今ならやれるかも!)
ドッドッドと高鳴る心音が、あの狂信者に届きませんようにと祈りながらピーターはスリングを構えた。
―――ビュッ!―――
人生のこれまでで一番の投げ方ができたとピーターは思った。スリングを振り回す力加減、石の大きさ、タイミング、どれをとっても完璧だと自負するほどに。
実際、スリングで投げた石は敵の後頭部にクリーンヒットし、ハンガーから落ちる服のように狂信者はスッと倒れた。
「ハァー!ハァー!(やれた!俺でもやれたぞ!これでオビオやサーカに馬鹿にされなくなる!)」
ピーターは興奮で顔を赤くしながらも、冷静に信者の胸元やポーチを探る。
「なんだこれ・・・。何かの印台リングか?」
ポーチの中にあった、後光が差す木の印が付いた指輪をピーターは取り敢えずポケットに入れて、藁の上で凍える子供たちに声を掛けた。
「おい、助けに来たぞ!お兄ちゃんが村の入り口まで連れてってやるから、急げ!」
しかし、間の悪い事に背後で納屋の扉が開く。
「こどもたち~、おでが暖かい飲み物をもっできたど!」
オビオだ。後ろに狂信者二人が見張りについている。
(糞みたいなタイミング出来やがって!)
地走り族がいくら子供のように見えると言っても、実際の子供の中にいると喉仏の大きさや筋肉の付き方で違いはすぐに分かる。オビオと共に来た樹族がピーターを見つけて叫んだ。
「お前、誰だ!蛇のように絡まれ!【捕縛】!」
両手を透明なロープに縛られたピーターは跪いて泣き始めた。。
「だから嫌だって言ったんだぉ!聞いてください!僕は騎士様に無理やり潜入させられたんだ!無理やりね!だから助けてください!助けてくださいよぉ!お願いしますぅ!」
何度かこういった泣き縋りでピンチを切り抜けてきたピーターだったが、星の棺桶の信者たちの目は冷たい。
(こいつら、本当に宗教家なのか?無慈悲な目をしやがってぇ!)
ピーターがいる事に驚いたオビオが寸胴鍋を落として中身をぶちまける。
「ピーター!どうして・・・!せっかく上手くいってたのに!サーカは・・・!!」
ウスノロオーガを演じていたのも忘れて喋ってしまい、オビオは慌てて口を閉じて誤魔化すように寸胴鍋を拾った。
が、鍋を拾った程度で彼らの疑いを帳消しにできるはずもなかった。
信者二人は目の前のオーガが流暢に共通語を喋った事をしっかりとその長い耳で捉えていた。
「そういう事か!オーガ!やはりお前はただのウスノロなオーガではなかった!何か企んでいたのだな?だが残念だったな!」
オビオもピーターと同じ魔法で両手を縛られて歩く事しかできなくなった。
「さぁ、ついてこい!お前らの処分はホキキ様が決められるだろう。まぁほぼ死刑が確定しているようなものだがな。ハハハ!」
ピーターはオビオを邪悪な顔で睨む。
(お前さえ来なければぁ!上手くいっていたのにぃ!)
睨んだものの、オビオの表情がいつもと違う事に気が付く。
(おかしいぞ・・・。こいつは俺と同じぐらいビビりなはずだ。いつもトラブルが起きるとすぐに慌てるし文句も言う。それから何らかの力で冷静になる。でも今回はそれが早い。というか最初から慌てていなかったように思える。どう転んでも問題ないって雰囲気だ。何故だ?)
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