料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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カルト教団と修道騎士 8

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 このまま倒れて、俺は人生にサヨナラセイグッバイだと思うだろ?

 ところがどっこい! しぶとさは恐らく大神聖以上だ。俺の回復力を見くびるなよ。

 今ナノマシンが出血を止めたのが解る。痛みも引いていく。

 が、不用意に動けば傷が開くので動けない。暫くは床とにらめっこだ。ついでだから再生の魔法も唱えておくか・・・。

「幾度となく・・・、癒せ!【再生】・・・」

 ホキキの【死の手】のせいで、体力の限界をとっくに過ぎている俺の最期の悪あがきだと思ったのか、メリィさんが神に祈り始めた。それってまさか死にゆく俺への、鎮魂の祈りじゃないだろうな・・・?

「我が主、運命の神よ、どうか、忠実な下僕たる私の願いを、聞き届けたまえ。この者がまだ死すべき運命にない事を示す奇跡を我に!」

 違った。ありがてぇ! 致命傷を癒す祈りだ。

 このタイミングで、ヤンスさんがくしゃみをした。なんでだよ。今から俺が光に包まれて、フワ―っと起き上がる感動的な瞬間なんだぞ!

「無駄無駄、お前の祈りは遅すぎた。俺は何度も味方を癒そうとする冒険者を見てきたし、殺してきた。なので回復はタイミングが命だって事を知ってんだわ。俺の経験上、致命傷を受けた者は、2分以内に回復させないと効果は出ねぇ! で、俺がオビオと抱き合ってた時間は余裕で二分以上だ。だからな、その癒しの祈りは無意味なんだよぉ! ヒーーーハハハ」

 笑いながら刀を振るうキリマルの攻撃は、一層激しくなった。キンキンと金属音が煩い。

「え、まじで?」

 そう言いながら、俺はスッと何事もなかったように立った。いや驚いて立ってしまったのだ。

 じゃあさ・・・。俺、あのかっこいい癒しの光に包まれないの?

「なにぃ?」

 キリマルの余裕ぶっこいた顔が崩れた! おほぉ! ザザザ、ザマァぁぁぁあ!

 それにしても・・・。俺はなんで普通に立っているのですかねぇ・・・。

 もっとこう・・・、なんか奇跡を受けましたー! 的なエフェクトが欲しかったんだけど・・・。

 試練の塔前で何度も見たぞ!フ ランちゃんが致命傷を負った騎士を癒す姿を。神々しい光に包まれた死にかけの騎士が、浮き上がって元気に着地したのをな!

 何で俺にはそれがないんだよ! つまりあれか、ナノマシンと【再生】のコラボで、ここまで傷が回復したって事か。致命傷だったんだぞ・・・?

「オビオォ!」

 おわ! サーカが抱き着いてきた。おい! 鼻水が汚い! 離れろ! 俺は料理人なんだぞ! 衛生面には気を付けないといけないんだ。

「なぜあんな無茶をした! あの修道騎士とまぐわって情が移ったのは解るが、だからと言って、命を張る事はないだろ! たった一度限りのまぐわいなんかで・・・。それに・・・。こ、今回のエッチはノーカウントだからな!」

 まぐわってねぇよ! なんだよノーカウントって。大体エッチのカウントなんて気にする必要あるのかよ。

 ピーターが走り寄って来る。

「イチャイチャすんなよ。でもすごいな、オビオ! 流石はトロ・・・オーガだな」

 今トロールって言いかけましたね? ピーター。

「ピーターももう少し早く、あれをキリマルに食わせてくれてたらなぁ・・・」

「馬鹿言えよ。あの殺人鬼は恐ろしく素早いんだぞ。オビオが動きを止めなかったら、三枚のクッキーを全て撃ち尽くしてたって」

「クッキー?」

 サーカは俺のマントで鼻水と涙を拭くと、クッキーの事を訊ねた。

「ああ、ほら俺試練の塔で、うっかり毒キノコを飾りにしたクッキーを作っちゃっただろ。あのクッキーが残ってたんだ。で、その毒クッキーをピーターが、パチンコで飛ばしてキリマルに食べさせたんだよ」

「では、そろそろ効果が出てくるのではないか?」

 そう願いたい。

 ハッキリ言って現状で、この殺人鬼を物理的な攻撃と魔法で倒すのはほぼ不可能だ。

 サーカやトウスさんみたいな中級冒険者や小規模な騎士団なんかではなく、それこそ近衛兵騎士団みたいな大きな騎士団を投入してようやく倒せるレベルだ。

 だから・・・、外からの攻撃が無理なら、体の中からって作戦なんだけど、奴は種族名が、世界の理に囚われし者という糞長い名前だったからなぁ・・・。普通の人間とは違うみたいだ。果たして毒キノコの乗った痺れクッキーは効果があるのだろうか・・・。

 でも効いてくれなきゃ困るぜ。

 もうそれ以外、手段がないように思える。キリマルの実力値だって、トウスさんの二倍の20だ。っていうか、トウスさんもよく格上と渡りあってるな。

 そういえば相手の実力値が上だからといって、必ずしも強いってわけじゃないってアルケディアの本屋で読んだ本に書いてあったな。強力な魔法を唱える高レベルのメイジが、初心者盗賊のスリング一発で倒されたって話も掲載されてたし。

 多分実力値ってのは、その人物の一番優れた部分を基準に表示されているんだ。核爆発のような強烈な魔法を唱える凄い有名魔導士が、実は生命点が10しかありませんでしたって事もあるに違いない。

 なので平均したらトウスさんの方が、キリマルより戦闘能力が上回っているんじゃないかな、この戦いを見た感じでは。

 実際、トウスさんは強かった。致命傷レベルの攻撃を、かすり傷程度に済ませて回避している。着ている鎖帷子も質が良いせいか、中々頑丈だ。もともと斬撃に強いしな。

 暫く二人の戦いを見ていると、ついにクッキーの効果が目に見えて表れ始めた!

 トウスさんの持つ段平が、キリマルに当たり始めたのだ!

「チッ! どういうことだぁ? 腕が重い・・・」

 キリマルはトウスさんから距離をとって、刀を構える。

 キリマルとの戦いでクッキーの話が聞こえていなかったトウスさんは、腕をだらりとさせる殺人鬼を見て、嬉しそうに指を差した。

「俺ぁなんとなく解るぜ。お前、さっき飛んできたクッキーを食べたろ。多分あれのせいだ。やるじゃねぇか! オビオとピーター!」

 吠えたトウスさんがの体から気迫のようなものが、ブワッブワッっと風のように発生する。あれは自己強化スキルを発動させているんだ。

「これは俺の得意技だ。よく見ておけよ、殺人鬼! 食らえ! 獅子連撃!」

 剣、爪、牙、格闘術。あらゆる攻撃が休みなく続く。獅子人がやるから獅子連撃という名前なのではなく、誰がやっても、あの必殺技は獅子連撃だ。俺は本屋で必殺技の本を読んだので知っている。

 この星には必殺技という、漫画やアニメみたいなトドメ技があるのだ。それも魔法が関わっていると書いてあったが、その先は読んでない。必殺技の挿絵ばかり見てたからな・・・。

 その攻撃をキリマルは全部受けてしまった。痺れて体が動かないのだから当然だ。

「うごぉ! げふぅ! こはぁ!」

 ボロ雑巾のようになるキリマルを見て、俺は漫画の三下脇役のように「いっけぇぇー!」と叫んで拳を振り上げて叫んでしまった。
 
 吹き飛んで集会所の木の壁にぶつかり、キリマルは重力によって床に叩きつけられる。

「げふぉっ!」

 俺はゆっくりとキリマルに近づき、まるで自分が倒したかのような顔をして、キリマルを見下ろした。立場が逆転した事で、ちょっと少し調子こいてます。

「これで少しは他人の痛みや恐怖が解ったか? キリマル・・・」

「へへへ・・・。わかんねぇな・・・。人なんて殺してナンボだろうが。虫を殺すのと何が違うんだ。ゴフッ!」

「最後までどうしようもない奴だったな。俺を騙して、多くの人を殺して・・・、クソッ!」

 殺されても仕方がないような信者もいた。しかしナガラのように、殺すほどでもない信者もいた。俺は首のないナガラの胴体を見てから、逃げ遅れて背中を斬られ、うずくまったまま死んだ村人の地走り族を見る。

 心のどこかで「オビオ、お前のせいだ」と自分を責める声がするが、胸が苦しくなると脳にある感情抑制チップが作動した。そしてまた平らな気持ちになる。

「俺はよぉ、オビオ・・・。呪われてんだわ・・・」

 喉に溜まる血でゴロゴロと言わせながら、キリマルが死に際の自分語りを始めた。

「死んでも別世界で生き返る呪いでよぉ、何度でも蘇るけど、死に際の苦痛も同じ数だけ味わうんだ・・・」

「だったら・・・」

「それでも改心なんて出来ねぇ奴もいるって事よ・・・。俺は今まで異世界をフラフラと渡り歩いてきたが、今、この瞬間、俺を完全に契約で縛り付ける阿呆が現れた。いいタイミングだな、ビャクヤ。ってことだからよぉ、俺は奴が願う限り、何度でもこの世界に復活するんだわ! 召喚主が定まった悪魔だからな! ケヒヒヒ」

 その話が本当ならな・・・。でも二つ名が宇宙の理に囚われし者だもんな・・・。あり得るぞ・・・。

「なぁ、オビオ。こんな胸糞悪い奴、さっさと始末しようぜ。俺ぁこういう根っからの悪人が許せない性質でよ」

 とトウスさんは言うが、本当は早く楽にしてやりたいのだと思う。優しいからな、この人。

「もうすぐ俺は死ぬ。まぁ待てや、獣人」

 キリマルは震えている。体温が維持できなくなっているのは、出血死の兆候だ。

「もう一つ呪いがあってな。俺は多分それを見ずに死ねるのだから、ざまぁみろって感じなんだがな、それでも呪いは呪いだ。妖刀天邪鬼はな・・・」

 そこまで言ってキリマルの目から光が消えた。と同時に、彼の遺体と刀はどこかに瞬間移動したかのように消えてなくなった。

「なんだよ! もう一つの呪いって! ここにいる全員が呪われるとか、そんなのだったら怖いだろうが!」

「いや、待て。オビオ。奴は呪いを見ずに逝ける事を喜んでいたぞ」

 サーカはいつものように指の腹で唇を触って、考え事をしつつそう言った。

 俺は知恵袋であるヤンスさんを振り返って見た。なにか妖刀アマノジャクについて知っているかもしれない。

 ヤンスさんは唇から少し血を滲ませているが、元気そうだ。トトトと歩いて来て、俺の心を読んだかのように質問に答える。

「呪いとはキリマルにとっての呪いでやんす。そしてその効果は、妖刀の名前の通りでやんすよ」

 なんでそこまで解るんだよ。というかこの人、絶対【読心】の魔法を憶えているでしょ・・・。

「ってこたぁ・・・」

 トウスさんが周りを見る。すると斬り殺されたはずの信者や村人が、何事もなく生き返った。首を刎ねられたナガラですら、パッと元通りになったのだ!

「えええ!」

 俺とピーターは驚いて目を剥いた。

「持ち主の殺意に反応して、あの刀は逆の事をするというわけか・・・。つまり斬り殺した相手を、蘇生させる妖刀。なんともわけのわからない刀だな」

 サーカが眉間に皺を寄せて、困った顔で笑う。

「刀を持つ以上、殺意なんて捨てきれないからな。殺人鬼にしてみれば、斬り殺した相手が蘇るなんてのはよ、地獄のような苦しみに違いないぜ」

 トウスさんは相変わらず渋い声だ。

 全て終わった感の漂う広い集会所に、菜の花騎士団の副団長が響く。

「カルト教団、星の棺桶の信者を確保しろーー!」

 信者たちはもう抗う気はないのか、次々と騎士達の魔法で拘束されていく。勿論、気絶して横たわっているホキキもそうだ。

「こいつさえいなけりゃ、こんな大変な事にならなかったのにさ! 全くもう!」

 ピーターはつま先で、ホキキの太腿をツンツンしている。

「まぁ取りあえず俺たちは、キリマルを倒したんだ。村も救った。全て丸く収まったんだ! お祝いに料理でも作って皆で騒ご・・・。って、あれ?」

 俺の意識はプツンと途切れた。そうだった・・・。体力がこれ以上無いってほど限界だったんだわ・・・。
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