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異世界人の住む塔 3
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焼き肉パーティが終わると、午後はやる事が多かった。なにせこいつらにここで生き延びる最低限の術を教えないといけないからな。
サーカは塔の中でマジックアイテムを鑑定している。本来俺がやった方がいいのだけど、俺も鑑定以外でやることがあった。
トウスさんはここいらに出没する魔物や動物の倒し方を、男子たちに実演している。
塔とその周辺は結界が張ってあるので動物や魔物は寄ってくることはない。なので少し結界から出なければいけなかったが、出た途端にタイミングよく鬼イノシシと遭遇した。
「いいか、鬼イノシシってのは頭が悪い。真っ直ぐ進んでくるから、直前で避けて岩や木に激突させるんだ」
そう言ってトウスさんは丸腰のまま、鬼イノシシの突進を簡単に避けてしまった。
ドシーンと大きな音をさせて、岩にぶつかった鬼イノシシが脳震盪を起こして倒れる。
「ほうほう! でも一歩間違えたら死にますよね?」
ひろゆきが腕を組んで、平和ボケした顔でそう言ったので、俺はトウスさんに翻訳する。
「当然だ、たらこ唇のニンゲン。向こうだって生きるために、死ぬ気でかかってきているのだから、こちらも死を覚悟しなければならない」
至極当然の答えだ。
ひろゆきの”自分の身は一体誰が保証してくれるのだ“的な態度ではこの先、生き残れない。
トウスさんは腰からダガーを抜くと、鬼イノシシの首の動脈を切って絶命させた。
「ひっ!」
男子たちが血を流す猪を見てたじろぐ。
「なんだ? お前らは警官が狩った猪を解体しなかったのか?」
「うん、それも警官がやってくれた。子供にやらせるのは酷だからって・・・」
甘やかしすぎだ。まぁ俺も最近まで解体なんてできなかったんだけどな。こいつらも最初は兎から始めた方が良かったのかも。
「血抜きが面倒ならしなくてもいいぞ。ここいらは温かい死体に集る吸血鳥がいるからな。ちょっと血を流させるだけでいい」
トウスさんがそう言うと小さな鳥が、鬼イノシシに集り始めた。よく見ると舌が長いストロー状になっており、それを突き刺して血を飲んでいる。
「ひぃぃ! こ、この鳥は襲ってこないのですか?」
のぶすけが気味悪そうに小鳥たちを見ている。俺も気味が悪いわ。初めて見た。
のぶすけの言葉をトウスさんに伝えた。通訳めんどくさいな・・・。サーカが【通訳】の魔法を覚えてたような気がするけど、どうだったかな? おっと、彼らに魔法は無意味だった・・・。
「ああ、普段は樹液や花の蜜を吸っているのだが、どういうわけか新鮮な死骸を見つけると、こうやって集ってくる。害はないぞ」
「道理で警官たちの死体の残った部分は穴だらけで、妙に肌が白かったわけだ・・・」
秀一が眼鏡の位置を直して眉間に皺を寄せた。
ヴォーパルバニーに殺された警官の亡骸を見つけたのは、数時間経ってからだったんだな。その間、警官たちはこの吸血鳥に血を吸われていたわけか・・・。
トウスさんは手際よく鬼イノシシの腹をダガーで割いていき、内臓を持つと傷つけないように取り出した。灰色の内臓がどろりと出てきて男子たちが呻く。
「うわぁ・・・」
軽自動車ぐらいある大きさの鬼イノシシから出る内臓は大きい。レバーだけでも、皆の一回の食事分くらいにはなりそうだ。
次に皮を剥いでいく。
ダガーが脂で使いづらくなる前にトウスさんは素早く皮を剥いでしまった。普通なら一時間以上はかかりそうな工程なのだけど、怪力のトウスさんは三十分ほどで終わらせている。
トウスさんは前足と後ろ足の骨を外して肉を切ると手を止めた。ここから後は俺の仕事だ。脂塗れのトウスさんは温泉で体を洗ってくると言って行ってしまった。
男子たちは解体作業をスマホで撮影していたので、大凡の解体の仕方は解ったと思う。まぁでも何回もやらないと上手く捌けないだろうな。
俺は肉を素早く保存食用と今日食べる用に切り分けていった。保存食用に切り分けた肉は塩や醤油や砂糖、他にも胡椒やその辺に生えていたハーブなどで作った調味液に漬けたい。なので一旦皆で肉を塔に持ち帰る事にした。
「鬼イノシシの肉が無くなる前に、狩りの仕方を習得しないと・・・」
秀一は思いつめたように肉を見つめ、塔にあった大がめに入れていく。
まぁ帰る方法がわかるまで暫くは我慢だ。
皆が大がめに肉を入れていく合間合間に、俺は調味液を入れて肉が万遍無く浸かるようにした。肉は大量にあるので、大がめが二つは必要だったが、丁度あったのは幸いだ。
「ふー、これでいいか。今日食べる分は、石でできた棚にでも入れておくから、自分らで焼いて食べるんだぞ? 秀一」
「ああ、ありがとう」
一息つくとピーターがやってきた。乾いた竹を沢山抱えている。
「こんだけあればいいか」
竹をバラバラと床に置くと、いきなり弓を作り出したので俺がストップをかける。
「ちょい待ち、まだ誰もスマホで撮影していない。皆、スマホで撮影を開始してくれ」
男子たちは言われたとおりにする。
「もう作ってもいいか? オビオ」
「ああ。続けて」
ピーターは器用に竹を割いて成型し、簡単な弓を作っていく。この星の竹は地球のものよりも、強度がありしなやかだ。
人間には子供に見える地走り族が、あっという間に紐を張って弓を完成させてしまったのだから、高校生たちは驚く。
「器用過ぎんだろ。この子供・・・」
皆が感心しながら自分の作業を見とれている事に、居心地が悪そうにしているピーターだったが、まっすぐな棒の先を鋭く削ると、塔の主の所有物だった触媒入れの中の羽で、矢羽を作っていく。
「一々、オーオー言うなよ、お前ら。こんな弓は誰でも作れるぞ。俺たち地走り族は、扱いが難しいスリングの方が得意だけど、お前ら素人なら、これがあればヴォーパルバニーや魔犬を仕留めやすくなるだろうさ」
ピーターは次々に矢を作りながら説明するので俺は翻訳する。
「ヴォーパルバニーには、なんていうかさ、捕食者の傲りみたいなのがあってさ、索敵能力が低いんだよ。可愛い見た目をしているから、馬鹿な肉食獣が勝手に襲い掛かってきてくれるのを、目立つ場所でじっと待ってる。だから遠くから狙えば、気付かれないまま弓を撃ち放題なんだよ。気付かれてもあいつらは意外と足が遅いし、スタミナもない。だから逃げれば大丈夫。追跡を諦めるのも早い。完全に待ち特化の捕食者なんだ。ただ仕留めてもすぐに獲物を取りに行ったら駄目だ。周りに仲間がいないかを、よく確認してからにするんだぞ」
あの頼りないピーターが先生面している。威張るな。
「次に魔犬だけどさ。こいつらは結構厄介かな。群れで動くし、頭も良い。ボス犬だけを残すと、やられた仲間の魂を吸って強くなるから、ボス犬は早く倒した方がいい。ボス犬は角がひときわ大きいからすぐに判別できるよ。あと魔犬は習性で、一度逃げるふりをするけど深追いせずに、こっちも逃げた方がいい。調子に乗って追いかけるとクルッと向きを変えて、角で一突きしてくるからな。ここいらに出てくる危険生物はそれぐらいかな。後は知らない魔物や動物には手を出さないこと。弱くても厄介な能力を持っていたりするからね」
だそうだ。俺が説明していると、女子たちの健康診断をしていたメリィが真剣な顔で俺に耳打ちをした。
「大変だよぉ。あの女の子の中に病人が何人もいるの。祈りも効果がなくてぇ、どうしよう? オビオ」
喋る内容量に対して吐き出される息が多い。くすぐったくて俺は堪らずにメリィから耳を離し、二人で部屋の隅に移動した。
「異世界人は祈りも拒絶するのか・・・。で、どんな病気なんだ?」
「あのね、お股から血が出る病気」
「え? それって生理じゃなくて? 病気?」
「セイリ・・・? セイリってなにかなぁ?」
どういう事だ? 女性の月一のものじゃないのか? 41世紀の女性はナノマシンでそういった症状が出ないけど、昔の女性は結構苦しんだと聞いた事があるぞ。というかいくらメリィの頭が悪いとはいえ、生理は自分だってなるだろ?
「メリィだって月に一回ぐらい、お股から血が出るだろ?」
何の話してんだ俺は・・・。こういう話は同じ女同士のサーカにしてくれればいいのに。
「ううん、出ないよ?」
え?
「月に一回お腹痛くなったりするだろ?」
「ならないよぉ?」
「メリィはそういう体質なのかな?」
「ううん? 皆ならないよぉ?」
なんですとーっ! この星の女性には生理が来ないだとー? 流石は異星人! やっぱり体の作りが違うのだろうか?
「そっか・・・。多分、血が出ているのは病気じゃないと思うぞ。とはいえ、こんな場所に生理用品なんてあるわけないしな・・・。彼女らも幾らかは持っているかもしれないけど・・・。うーん・・・。そうだ!」
俺はその辺にあった適当な麻の布をしゃぶった。ナノマシンを移動させているのだ。ナノマシンよ、移動しろと念じながらしゃぶらないと移動してくれないのでそうする。
「なにしてるのぉ? オビオ? なにか悔しいのぉ?」
わしゃ、ハンカチを咥えて悔しがる、ザーマスママかよ!
「俺の中の”虫“を布に移しているんだ。虫はすぐに布いっぱいに繁殖してくれる。で、この布を股に当てて置けば生理用品の代わりをしてくれるんだ。虫がすぐに血や老廃物を綺麗に分解してくれるから汚れることはないぞ」
本当は直接体にナノマシンを送り込みたいのだけど、異世界人の女子たち全員とディープキスなんてしたら、サーカ達に白い目で見られる。それにナノマシンが体に合わなかった場合、体調不良どころか死ぬ。
「じゃあ、これを女子たちで切り分けて、使うようにジェスチャーで伝えてくれ」
「わかったぁ!」
メリィは大きな胸とお尻を弾ませて女子たちのいる部屋へと走って行った。鎧を着ておらず簡素な白と黒のワンピース姿だと殺人的なエロさだな・・・。男子たちも目が釘付けだ。おいこら! 修道女様をそういう目で見るんじゃない!(自戒含む)
それにしても物がないってのは辛いな。俺はまだまだ恵まれているほうか? 亜空間ポケットに何かしら入っているからな・・・。
塔にあるマジックアイテムの識別が済んだのか、サーカが螺旋階段を下りてきた。
「どうだった?」
「うむ・・・。殆どのマジックアイテムのマナが尽きかけていた。永続的に効果のある物もな」
「どういう事だ? 永続的に効果のあるマジックアイテムって、自動的にマナを集めるんだろ? それが尽きかけているってのはおかしい話じゃんか」
俺の戦士の指輪や上位識別の指輪もそうだ。俺の体からだったり、空気中に漂っているのを集めたりするので効果を失う事はない。俺レベルの付魔師だとエンチャントして数日で効果がなくなるけど、この塔にあるマジックアイテムはどれも一流品だろ?
「ニンゲンは魔法の一切を拒絶するのだったな。恐らく彼らが無暗にアイテムを触ったのだろう。それで使い物にならなくなった。一年ほど時間を置けばマナは戻って来るから、彼らには触らないよう伝えてほしい」
「わかった。で使えそうなのはなんだ?」
「持ってきてある」
つまりは持って来れる程度の数しか残ってなかったと。
「魔法の片手剣が三振り。魔法書が二冊。無限矢のクロスボウが1つ。【解除】の魔法の巻物が1つ。あと透視眼鏡があったが、ピーターがろくでもない事に使いそうなので、目立たないところに隠しておいた」
「ん・・・。邪悪でスケベなピーター君なら、間違いなくサーカ達の裸を見て楽しむだろうな(隠し場所はどこだ! 欲しい!)」
俺は透視眼鏡が欲しいという邪念を払い、鞘に収まっている魔法のロングソードを手に取って鑑定してみた。
「なになに・・・。げぇ! なにこれ! 名前はありきたりの魔法のロングソードなのに、敵の回避力を無効にして尚且つ貫通力を高めるだと! つまり絶対に当たる剣だ! 当たる剣だけに当たりだぞ! これ!」
「そこまで鑑定はできなかったのだが、確かに凄い剣だな。手数で命中精度の低さを補っていたトウス向きだな。もう一本はどうだ?」
俺は鞘と鍔を触って鑑定する。柄を握ると呪いの武器だった場合大変だからだ。魔刀アマノジャクみたいなのを俺が持ったら狂人化するかもしれないし。
「これはハズレだな。名前は・・・、名剣ナマクラだってよ・・・。名剣なのかナマクラなのかどっちだ! 魔法効果は斬撃を打撃に変えるだけだけ・・・。じゃあメイスでいいじゃん。なんなら鞘に入れたまま殴ればいいじゃん・・・。でも攻撃力が両手剣並みってのが救いかな」
「プハハ! それは要らないな! 置いていくか。最後の一本はどうだ?」
「ん~。ああ、これはメリィ向きというか、聖騎士と修道騎士と神殿騎士しか装備できない。えっ・・・!」
アイテムから流れ込むこれまでの持ち主の記憶。その中でも持ち主の想いが一番強いものが流れ込んでくる。
見えた映像には赤いパワードスーツを着た地球人が見える。聖や俺以外にも異世界人じゃない地球人がいたのか!
サーカは塔の中でマジックアイテムを鑑定している。本来俺がやった方がいいのだけど、俺も鑑定以外でやることがあった。
トウスさんはここいらに出没する魔物や動物の倒し方を、男子たちに実演している。
塔とその周辺は結界が張ってあるので動物や魔物は寄ってくることはない。なので少し結界から出なければいけなかったが、出た途端にタイミングよく鬼イノシシと遭遇した。
「いいか、鬼イノシシってのは頭が悪い。真っ直ぐ進んでくるから、直前で避けて岩や木に激突させるんだ」
そう言ってトウスさんは丸腰のまま、鬼イノシシの突進を簡単に避けてしまった。
ドシーンと大きな音をさせて、岩にぶつかった鬼イノシシが脳震盪を起こして倒れる。
「ほうほう! でも一歩間違えたら死にますよね?」
ひろゆきが腕を組んで、平和ボケした顔でそう言ったので、俺はトウスさんに翻訳する。
「当然だ、たらこ唇のニンゲン。向こうだって生きるために、死ぬ気でかかってきているのだから、こちらも死を覚悟しなければならない」
至極当然の答えだ。
ひろゆきの”自分の身は一体誰が保証してくれるのだ“的な態度ではこの先、生き残れない。
トウスさんは腰からダガーを抜くと、鬼イノシシの首の動脈を切って絶命させた。
「ひっ!」
男子たちが血を流す猪を見てたじろぐ。
「なんだ? お前らは警官が狩った猪を解体しなかったのか?」
「うん、それも警官がやってくれた。子供にやらせるのは酷だからって・・・」
甘やかしすぎだ。まぁ俺も最近まで解体なんてできなかったんだけどな。こいつらも最初は兎から始めた方が良かったのかも。
「血抜きが面倒ならしなくてもいいぞ。ここいらは温かい死体に集る吸血鳥がいるからな。ちょっと血を流させるだけでいい」
トウスさんがそう言うと小さな鳥が、鬼イノシシに集り始めた。よく見ると舌が長いストロー状になっており、それを突き刺して血を飲んでいる。
「ひぃぃ! こ、この鳥は襲ってこないのですか?」
のぶすけが気味悪そうに小鳥たちを見ている。俺も気味が悪いわ。初めて見た。
のぶすけの言葉をトウスさんに伝えた。通訳めんどくさいな・・・。サーカが【通訳】の魔法を覚えてたような気がするけど、どうだったかな? おっと、彼らに魔法は無意味だった・・・。
「ああ、普段は樹液や花の蜜を吸っているのだが、どういうわけか新鮮な死骸を見つけると、こうやって集ってくる。害はないぞ」
「道理で警官たちの死体の残った部分は穴だらけで、妙に肌が白かったわけだ・・・」
秀一が眼鏡の位置を直して眉間に皺を寄せた。
ヴォーパルバニーに殺された警官の亡骸を見つけたのは、数時間経ってからだったんだな。その間、警官たちはこの吸血鳥に血を吸われていたわけか・・・。
トウスさんは手際よく鬼イノシシの腹をダガーで割いていき、内臓を持つと傷つけないように取り出した。灰色の内臓がどろりと出てきて男子たちが呻く。
「うわぁ・・・」
軽自動車ぐらいある大きさの鬼イノシシから出る内臓は大きい。レバーだけでも、皆の一回の食事分くらいにはなりそうだ。
次に皮を剥いでいく。
ダガーが脂で使いづらくなる前にトウスさんは素早く皮を剥いでしまった。普通なら一時間以上はかかりそうな工程なのだけど、怪力のトウスさんは三十分ほどで終わらせている。
トウスさんは前足と後ろ足の骨を外して肉を切ると手を止めた。ここから後は俺の仕事だ。脂塗れのトウスさんは温泉で体を洗ってくると言って行ってしまった。
男子たちは解体作業をスマホで撮影していたので、大凡の解体の仕方は解ったと思う。まぁでも何回もやらないと上手く捌けないだろうな。
俺は肉を素早く保存食用と今日食べる用に切り分けていった。保存食用に切り分けた肉は塩や醤油や砂糖、他にも胡椒やその辺に生えていたハーブなどで作った調味液に漬けたい。なので一旦皆で肉を塔に持ち帰る事にした。
「鬼イノシシの肉が無くなる前に、狩りの仕方を習得しないと・・・」
秀一は思いつめたように肉を見つめ、塔にあった大がめに入れていく。
まぁ帰る方法がわかるまで暫くは我慢だ。
皆が大がめに肉を入れていく合間合間に、俺は調味液を入れて肉が万遍無く浸かるようにした。肉は大量にあるので、大がめが二つは必要だったが、丁度あったのは幸いだ。
「ふー、これでいいか。今日食べる分は、石でできた棚にでも入れておくから、自分らで焼いて食べるんだぞ? 秀一」
「ああ、ありがとう」
一息つくとピーターがやってきた。乾いた竹を沢山抱えている。
「こんだけあればいいか」
竹をバラバラと床に置くと、いきなり弓を作り出したので俺がストップをかける。
「ちょい待ち、まだ誰もスマホで撮影していない。皆、スマホで撮影を開始してくれ」
男子たちは言われたとおりにする。
「もう作ってもいいか? オビオ」
「ああ。続けて」
ピーターは器用に竹を割いて成型し、簡単な弓を作っていく。この星の竹は地球のものよりも、強度がありしなやかだ。
人間には子供に見える地走り族が、あっという間に紐を張って弓を完成させてしまったのだから、高校生たちは驚く。
「器用過ぎんだろ。この子供・・・」
皆が感心しながら自分の作業を見とれている事に、居心地が悪そうにしているピーターだったが、まっすぐな棒の先を鋭く削ると、塔の主の所有物だった触媒入れの中の羽で、矢羽を作っていく。
「一々、オーオー言うなよ、お前ら。こんな弓は誰でも作れるぞ。俺たち地走り族は、扱いが難しいスリングの方が得意だけど、お前ら素人なら、これがあればヴォーパルバニーや魔犬を仕留めやすくなるだろうさ」
ピーターは次々に矢を作りながら説明するので俺は翻訳する。
「ヴォーパルバニーには、なんていうかさ、捕食者の傲りみたいなのがあってさ、索敵能力が低いんだよ。可愛い見た目をしているから、馬鹿な肉食獣が勝手に襲い掛かってきてくれるのを、目立つ場所でじっと待ってる。だから遠くから狙えば、気付かれないまま弓を撃ち放題なんだよ。気付かれてもあいつらは意外と足が遅いし、スタミナもない。だから逃げれば大丈夫。追跡を諦めるのも早い。完全に待ち特化の捕食者なんだ。ただ仕留めてもすぐに獲物を取りに行ったら駄目だ。周りに仲間がいないかを、よく確認してからにするんだぞ」
あの頼りないピーターが先生面している。威張るな。
「次に魔犬だけどさ。こいつらは結構厄介かな。群れで動くし、頭も良い。ボス犬だけを残すと、やられた仲間の魂を吸って強くなるから、ボス犬は早く倒した方がいい。ボス犬は角がひときわ大きいからすぐに判別できるよ。あと魔犬は習性で、一度逃げるふりをするけど深追いせずに、こっちも逃げた方がいい。調子に乗って追いかけるとクルッと向きを変えて、角で一突きしてくるからな。ここいらに出てくる危険生物はそれぐらいかな。後は知らない魔物や動物には手を出さないこと。弱くても厄介な能力を持っていたりするからね」
だそうだ。俺が説明していると、女子たちの健康診断をしていたメリィが真剣な顔で俺に耳打ちをした。
「大変だよぉ。あの女の子の中に病人が何人もいるの。祈りも効果がなくてぇ、どうしよう? オビオ」
喋る内容量に対して吐き出される息が多い。くすぐったくて俺は堪らずにメリィから耳を離し、二人で部屋の隅に移動した。
「異世界人は祈りも拒絶するのか・・・。で、どんな病気なんだ?」
「あのね、お股から血が出る病気」
「え? それって生理じゃなくて? 病気?」
「セイリ・・・? セイリってなにかなぁ?」
どういう事だ? 女性の月一のものじゃないのか? 41世紀の女性はナノマシンでそういった症状が出ないけど、昔の女性は結構苦しんだと聞いた事があるぞ。というかいくらメリィの頭が悪いとはいえ、生理は自分だってなるだろ?
「メリィだって月に一回ぐらい、お股から血が出るだろ?」
何の話してんだ俺は・・・。こういう話は同じ女同士のサーカにしてくれればいいのに。
「ううん、出ないよ?」
え?
「月に一回お腹痛くなったりするだろ?」
「ならないよぉ?」
「メリィはそういう体質なのかな?」
「ううん? 皆ならないよぉ?」
なんですとーっ! この星の女性には生理が来ないだとー? 流石は異星人! やっぱり体の作りが違うのだろうか?
「そっか・・・。多分、血が出ているのは病気じゃないと思うぞ。とはいえ、こんな場所に生理用品なんてあるわけないしな・・・。彼女らも幾らかは持っているかもしれないけど・・・。うーん・・・。そうだ!」
俺はその辺にあった適当な麻の布をしゃぶった。ナノマシンを移動させているのだ。ナノマシンよ、移動しろと念じながらしゃぶらないと移動してくれないのでそうする。
「なにしてるのぉ? オビオ? なにか悔しいのぉ?」
わしゃ、ハンカチを咥えて悔しがる、ザーマスママかよ!
「俺の中の”虫“を布に移しているんだ。虫はすぐに布いっぱいに繁殖してくれる。で、この布を股に当てて置けば生理用品の代わりをしてくれるんだ。虫がすぐに血や老廃物を綺麗に分解してくれるから汚れることはないぞ」
本当は直接体にナノマシンを送り込みたいのだけど、異世界人の女子たち全員とディープキスなんてしたら、サーカ達に白い目で見られる。それにナノマシンが体に合わなかった場合、体調不良どころか死ぬ。
「じゃあ、これを女子たちで切り分けて、使うようにジェスチャーで伝えてくれ」
「わかったぁ!」
メリィは大きな胸とお尻を弾ませて女子たちのいる部屋へと走って行った。鎧を着ておらず簡素な白と黒のワンピース姿だと殺人的なエロさだな・・・。男子たちも目が釘付けだ。おいこら! 修道女様をそういう目で見るんじゃない!(自戒含む)
それにしても物がないってのは辛いな。俺はまだまだ恵まれているほうか? 亜空間ポケットに何かしら入っているからな・・・。
塔にあるマジックアイテムの識別が済んだのか、サーカが螺旋階段を下りてきた。
「どうだった?」
「うむ・・・。殆どのマジックアイテムのマナが尽きかけていた。永続的に効果のある物もな」
「どういう事だ? 永続的に効果のあるマジックアイテムって、自動的にマナを集めるんだろ? それが尽きかけているってのはおかしい話じゃんか」
俺の戦士の指輪や上位識別の指輪もそうだ。俺の体からだったり、空気中に漂っているのを集めたりするので効果を失う事はない。俺レベルの付魔師だとエンチャントして数日で効果がなくなるけど、この塔にあるマジックアイテムはどれも一流品だろ?
「ニンゲンは魔法の一切を拒絶するのだったな。恐らく彼らが無暗にアイテムを触ったのだろう。それで使い物にならなくなった。一年ほど時間を置けばマナは戻って来るから、彼らには触らないよう伝えてほしい」
「わかった。で使えそうなのはなんだ?」
「持ってきてある」
つまりは持って来れる程度の数しか残ってなかったと。
「魔法の片手剣が三振り。魔法書が二冊。無限矢のクロスボウが1つ。【解除】の魔法の巻物が1つ。あと透視眼鏡があったが、ピーターがろくでもない事に使いそうなので、目立たないところに隠しておいた」
「ん・・・。邪悪でスケベなピーター君なら、間違いなくサーカ達の裸を見て楽しむだろうな(隠し場所はどこだ! 欲しい!)」
俺は透視眼鏡が欲しいという邪念を払い、鞘に収まっている魔法のロングソードを手に取って鑑定してみた。
「なになに・・・。げぇ! なにこれ! 名前はありきたりの魔法のロングソードなのに、敵の回避力を無効にして尚且つ貫通力を高めるだと! つまり絶対に当たる剣だ! 当たる剣だけに当たりだぞ! これ!」
「そこまで鑑定はできなかったのだが、確かに凄い剣だな。手数で命中精度の低さを補っていたトウス向きだな。もう一本はどうだ?」
俺は鞘と鍔を触って鑑定する。柄を握ると呪いの武器だった場合大変だからだ。魔刀アマノジャクみたいなのを俺が持ったら狂人化するかもしれないし。
「これはハズレだな。名前は・・・、名剣ナマクラだってよ・・・。名剣なのかナマクラなのかどっちだ! 魔法効果は斬撃を打撃に変えるだけだけ・・・。じゃあメイスでいいじゃん。なんなら鞘に入れたまま殴ればいいじゃん・・・。でも攻撃力が両手剣並みってのが救いかな」
「プハハ! それは要らないな! 置いていくか。最後の一本はどうだ?」
「ん~。ああ、これはメリィ向きというか、聖騎士と修道騎士と神殿騎士しか装備できない。えっ・・・!」
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言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
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何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
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