料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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サーカ逝く

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 おでん汁での火傷と、サーカの電撃による痺れで、ダーレは本日二回目のスタン。

「このまま戦ったら、ダーレを殺してしまうかもしれない」

 俺は心の中の憂いを、ついつい口に出してしまった。結局どうやったら女戦士が救えるのかわからないからだ。

「それで?」

 サーカは憎たらしく返事をする。

「ダーレは辺境伯に命令されたから、俺たちと戦っているだけで、なんも悪いことしてねぇんだぞ? 死んで良いような奴じゃねぇ!」

「だから?」

 一々腹の立つ女だな。俺は少し怒り気味に言葉を吐いた。

「なんとかして、ダーレを気絶させられねぇか?」

「はぁ? 我々のどこに、そんな余裕があるというんだ? 殺らなければ殺られる。今の状況はまさにそれだ。手加減をしていると、こちらが一撃で沈むんだぞ。それに、こういった殺伐とした世界に生きてきた事を忘れたか? 賢きコックのオーガ殿?」

 横目で俺を見るサーカの顔からは、ニヒルな笑みが消え、真剣さしかなかった。

 そうだ・・・。

 異世界のゴブリンと戦った時のことを忘れたか? 俺。

 塔の上から雨あられのように降ってくる矢を、中華鍋で防いでいた、あの時の心細さよ。そして異世界のゴブリンはやたらしぶとかった。

 大神聖のような超人と違って、一般人の俺はいつ死んでもおかしくはない。

「それでも・・・」

 それでも何か策があるはずだ、と俺はサーカにつっかかる。

「それでもも、杓子もない。女々しいな、オビオ。彼女がスタンから回復したら、今度こそ私達は終わりなのだぞ。それだけエリート種とノーマル種には差があるのだ。よく考えてみろ。ここの領民は、常に霧の魔物と戦っている。そこから得られる経験値は段違いだ。ベテラン級や英雄級がゴロゴロいるのも伊達ではない」

「そういう事だ。オビオ。寧ろ、俺たちを甘く見ていたブラッド辺境伯に感謝しないとな。もしこれが、エリート種パーティとの戦闘であれば、俺らには一片の勝ち目も無かった」

 トウスさんまで・・・。

「君はオーガのくせに甘いのだね。我が信仰しせし、星のオーガ様も、君ほど甘かったのだろうか? だったら残念だね」

 ウィングが、パーティ全員にスタミナ回復の祈りを施した。俺の上がっていた息が平常に戻った。

 なんだよ、皆して。

 そうだった。この星の住人は死生観は、地球人とは違う。地球人も大概冷徹だが、俺にとって、この星の住人のそれも冷淡に見える。

 でも・・・。なんだか釈然としない。

「だったら、賭けをするよ。もしトウスさんの獅子連撃を受けて、ダーレが気絶したなら、俺は即座に再生の魔法を使って彼女を助ける」

「ノックアウトの可能性があるのは、剣と爪以外の攻撃だ。右脚の蹴り、左脚の蹴りで相手をノックアウトできるのは十回に一度の割合だから、あまり期待はするなよ」

 白い獅子人の眉は、ハの字になっていた。呆れ顔で力を溜めているのだ。まぁそんな顔したくなるわな。俺は敵を助けると言っているのだから。

「トウスさんの攻撃は、魔剣の力で必中。連撃が全部貫通すると、ダーレが即死する可能性が高い。そしたら再生の魔法も無意味になる。なんとか手加減してくれよ!」

「と言われてもなぁ。こればっかりはボードのルール次第だ。俺がどうこうする事はできねぇ。リュウグと運命の神に祈るこったな」

「あ、そうか・・・」

 そうだった。この戦い、リュウグの意思と一致しない限り、俺は自由に動けないんだった。

 いくらダーレを助けるつっても、体がそのように動くとは限らない。

「くそ! 頼むぞ! リュウグ! 俺に彼女を助けさせてくれ!」

 叫びは届いただろうか? ターンは終了した。恐らくダーレは次ターンで、倍打の獅子連撃を食らうはず。

 そして、その時はすぐに来た。

 ――――カン! カン! ドン! ドン!

 高速の連撃がダーレに決まる。動きが速すぎて、暗闇の中では音で判断するしかねぇ。

 最初の斬撃二つは貫通しなかった音だ。

 問題は後の二撃・・・。

 闇の中で目を凝らすと、攻撃がしっかりと決まっているのがわかった。

 丸太で殴りつけるに等しいその蹴りは、ダーレの脇腹の左右を大きく凹ませていた。

 即死。

 そう思えるほど、尋常じゃない凹みを見て、俺は驚き、胃液がこみ上げてきた。

(悪人でもない人を殺してしまった!)

 彼女は、メイスと盾を落として地面に倒れる。

「終わったな」

 サーカが構えを解いて、ダーレを冷たく見下ろす。

「なんでそんなに冷静なんだ、サーカ。人が死んでいるんだぞ!」

「はぁ? 寧ろ、いつでも死を受け入れ、死人を見送る覚悟をしているべきだろう」

「以前、お前は死にたくないって、必死になってたじゃんかよ!」

「あ、あれはやり残した事があったからだ。今はムダン様やシルビィ様の後ろ盾があるからな。私や母上の地位や名誉の回復は済んだ」

 言い合っていると急にトウスさんが吠えた。

「おい! サーカ! まだだ! まだ構えを解くな!」

 ――――トスッ!

 鈍く赤色に光るスティレットは、サーカの胸当てを豆腐のように貫通し、心臓まで達していた。

「ただで負けるものか・・・。ブラッド様には、長年養ってもらった恩が・・・、ある・・・のだ」

 そう言ってダーレは気絶した。

「え? なんで? サーカ?」

 ゲームが終了したのか、動きによる制限はなくなった。

 俺は崩れ落ちるサーカを抱いて受け止め、急いで【再生】の魔法を唱えた。

「おい、サーカ?」

 サーカを揺すったが反応はない。鑑定の指輪から流れてくる彼女の情報――――、状態は“死”だ。

「うそだろ?」

 俺は更にサーカを揺すったが、ウィングが肩に手を置いて止めさせようとした。

「無駄だよ、オビオ」

 無駄だと言いつつもウィングは、サーカに回復の祈りを唱えていた。そして、やっぱり駄目だったと首を振る。

 すがるような目でメリィを見たが、彼女もウィングと同じ事を既にやっていたのだ。

「ごめんなさい、オビオ。私はまだ、蘇生の祈りを習得していないの」

「う、うそだろ? ははっ。人ってこんな簡単に死ぬのか? さっきまで憎まれ口を叩いていたんだぞ、サーカは」

「俺は手加減なんてしてなかった。それなのにこんな結果になってしまった。すまない、オビオ」

 手加減してくれとトウスさんに懇願していた、さっきの自分を張り倒したい!

 ハァハァと荒い息をして倒れているダーレは生きている。それなのにサーカは息をしていない。

「これは、公平ではないね」

 ウィングがそう言って細い目を更に鋭くし、這いつくばるダーレを睨んだ。

 俺は彼が何をしようとしていたのか解っていた。でも、サーカを殺したダーレが憎いという感情が、ウィングの背中を後押しする。

「やめろ、ウィング」

 表向きの言葉を俺は吐いた。こんな時も自分の体裁を気にしている。本心では「ダーレを殺せ!」と叫んでいるのに。

「ヒュッ!」

 ウィング・ライトフットは息を吐きながら、エペをダーレの首元に突き刺した。

 その切っ先は確かに、首元に垂れる鎖帷子を貫通したはずだった。

 しかし、誰が唱えたのか、ダーレの前に現れた【物理障壁】によって攻撃は阻まれ、ウィングにダメージが跳ね返る。

「なに?」

 跳ね返ったダメージに吹き飛び、なんとか着地したウィングは、部屋の片隅にいた観察者ウォッチャーに目を向けていた。
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