料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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夢の中で

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「オビオ、どこ?」

 霧の中で、か細い声がする。サーカの声だ。

「ここだ。サーカ」

 返事をすると安堵するため息が聞こえてきた。

「ここはどこだ?」

「知らないわ」

 いつもなら「知るか、馬鹿者!」と返ってくるのだが、今日は妙にしおらしい。

「私ね、ずっとオビオの事を見てたの」

 サーカは走って俺のもとへ来る。

「ずっと?」

「ええ。ずっと。私のために泣いてくれたでしょ?」

「うん、サーカを失って、俺、凄く悲しかった。サーカのことが大好きなんだって思い知ったよ」

「うふふ。嬉しい。私もオビオの事、大好きだよ」

 あぁ、これは夢か。こんな優しいサーカを未だ嘗て見たことがない。俺の理想像が夢に出てきたんだ。

「サーカは死んでからどうしてたんだ?」

「ずっとね、暗闇の中にいたの。誰も返事してくれないどころか、音すらしなかった。私ね、怖くてうずくまっていたの。そしたらオビオの泣く声が聞こえてきて、一瞬にして大部屋に戻ってきたわ。大部屋の中でオビオは、蛇やキリマルと戦っていた」

 夢の中のサーカは、俺に抱きつき手にキスをしてきた。唇柔らかいな・・・。

「私は、オビオ勝って! 絶対死なないで! って祈った! なのに、神様は二度も貴方を連れて行ったわ」

「二度?」

「覚えてないの? 一度目は蛇に乗っ取られた私の魔法で。二度目はキリマルの刀で」

「一度目はあんまり覚えてなかった。そういや、神様に出会ったような・・・。誰だっけ? 俺たちの良く知っている人なんだが」

「それはわからないわ。オビオの魂のグループと、私の魂のグループは違うもの。だからオビオの死んだ後の事はわからないの」

「グループ? まぁ、いっか。それよりも今、大変なんだ。サーカの体に俺の魂があって、俺の体にサーカの魂がある。どうも入れ替わっちゃったみたいでさ・・・。何とかして神様が元に戻してくんねぇかな?」

「クハハ!」

 サーカがいきなりキリマルに変わった。体中に鳥肌が立つ。

「キ、キリマル!」

「おめぇ、運命の神に掴みかかってたのを忘れたか? 奴のメガネを放り投げ、多くはない毛を毟ってまで、生き返らせろと抗議していたんだぞ? そんな奴の言うことを、ヤンスがきくと思うか? キヒヒ」

 身長三メートルくらいある黒い悪魔は、ギザギザの牙を見せて笑っている。笑う度に、体中のクラックから、黄色い光が漏れる。

「覚えてねぇよ! そんな細かい事まで!」

「普通は丸っきり忘れるもんなんだがなぁ。俺ですら何度か神域に行ったが・・・」

「なんで夢の中でお前と会わなければならないんだよ! キレイなサーカを出せ!」

「キレイなジャイアンみたいに言うんじゃねぇよ。サーカはもう出ねぇ。奴は目覚めている」

「じゃあ、神様を出せ! ヤンスさんを出せ!」

「神様、ねぇ。ヤンスやヒジリは厳密に言うと神様じゃねぇんだがなぁ。名付けるなら、人の総意を背負いし者だ。本当の神様は、お前らに対して関心がない。というか存在すら知らない。そのくせ、個々の魂が得た経験や感情を吸い取って、腹を満たしている。クソみたいな奴だ」

「えっ? マジ?」

「ああ。俺は嘘つきだが、この話は本当だ。あの存在のせいで、俺の反逆という二つ名が消えねぇ。数多の世界システムを壊してきた俺でさえ、何年経とうが、あの忌々しい太陽には勝てねぇ」

「キリマルって実力値いくらなんだ?」

「666」

 いかにも悪魔って感じの数字だな! おい!

 っていうか! 英雄とか神人とかのレベルじゃねぇ! 俺たちがあっという間に殺されたわけだ!

「いいか、オビオ。神様なんかに頼るな。ただひたすら他人の経験をスポイルする豚糞野郎に頼らず、自分や仲間を頼れ」

「え? 嘘だろ・・・? お前の口から、少年漫画みたいなセリフを聞くとは思わなかったわ」

「これは経験則からくる話だ。俺の性根がクズな事とは関係ねぇ。それから、お前が思っているほど、物事は悪い方に進まないぜ。目が覚めたら、全ては元通りだ。安心しろ」

 なにこの悪魔。優しい。夢の中のキリマルはめっさ優しい。現実もこうだったら、もっと高感度上がったんだけどなぁ。

「おっと、俺も目覚めるようだ。いかねぇと。じゃあな。ただの料理人、オビオ」

「お、おう。さようならだ、悪魔キリマル」

 悪魔が消えると共に世界は暗くなった。

 


 暗転して目が覚めると、サーカの顔が目の前にあった。ピンクの髪が顔にかかっていて、相変わらず可愛いが、いつもより歪んで見える。

「おおおお、オビッ! 汚ビッチ! オビビビ! オビオッ!」

 誰がビッチだ!

「どういった理由でこうなっている? 随分と身長差がある私とお前だが、尻に追いつこうとして突っつく、硬い棒状のモノはなんだ? もう少しで?」

 やべぇ! いきり立つ我が息子が、サーカのヌルヌルした聖なる門を叩こうとしているッ!

「違う。これは男の生理現象で! 朝になるとこうなるんだよ! ってか、お前濡れ・・・」

「言い訳無用! 【雷撃】!」

「ズギャァァァーーー!」

 いつもの朝が始まった。

 パーティーメンバーが俺の悲鳴を聞いて、慣れた感じで大部屋に入ってくる。

「おはようさん。うまくやったか? いや、この様子だと失敗したようだな。ハハハ!」

 白獅子は破顔して陽気に笑う。

「昨日は結局、宿屋の食堂で寝てもうたけど、サーカと変な事してないやろな? オビオ! したんやったら、私にも平等に、やで!」

 可愛い妖精さんが、そんな事言うんじゃありません!

 プスプスと焼け焦げた俺を、指差し棒で突っつく奴がいる。どこで手に入れたんだよ、その指差し棒!

「朝飯の用意しろよ。俺は腹ペコなんだよ」

 うるせぇ! そのへんの草でも食ってろ! ピーター!

「私ねぇ、オビオの作るクロワッサンが食べたいなぁ~」

 メリィが、焼け焦げた皮膚を、手で払ってくれている。ちょっとくすぐったい。

 いいですとも! 作りましょうぞ、クロワッサン! クロワッサンを考えたクロワッさん、バンザイ!

「ワインを少し入れた紅茶が、飲みたいのだがね」

 女に化けて、甘えてくるウィングを手でどけて、俺は半身を起こした。

「おはよう、皆! 今から世界で一番の朝食を作ってやっから、待ってろ!」

 俺の言葉を聞いて皆、にっこりしている。

 俺の料理は美味いからな! 今日も皆を、料理の力で笑顔にしてやるさ! 昨日の戦いとか、キリマルへのトラウマとか関係ねぇ!

 だって俺は、この星で一番のコックを夢見る料理人だもの!
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