料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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仮面のメイジ

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 秋も深まって寒くなってきた。今日もまた夜が来たよ。

 いい加減、棒と布だけで作ったテントだけで寒さを凌ぐには辛い。夜露は布を通り抜け、地面は冷える。

 辛いのは寒さだけかい? ピーター。

 ううん。それだけじゃない。人肌が恋しくて辛いんだ、ピーター。

 見てご覧よ、あれ。

 あのオーガは毎晩、女子とベッドの上でキャッキャウフフしてる。当の本人は地獄だって言ってるけど、本当かな?

 あはは。嘘に決まっているだろ、ピーター。あの顔が嫌がっているように見えるかい?

 見えないね。

 ムクにメリィに。・・・なぜか男の姿をしたままのウィングも、オビオに抱きついて暖かそうだ。ピーターも、あの楽園のようなベッドに行けばいいのに。

 嫌だね。俺は自分の力でモテモテになるんだ。オビオの残り湯を飲むような真似はしたくない。

 君は変なところで無駄にプライドが高いね。生きるためなら泥でも啜るってのに。

 うるさいな。・・・おやっ?! 騎士様がいないぞ?

 水浴びに行ったのでは?

 きっとそうだ! 僕も丁度足の裏に生える毛の汚れを、落としたいと思っていたところなんだ。

 それなら仕方ないね。行こう。泉まで。

 うん、行こう。泉まで。



「なんでお前がいるんだよ! さっきまでベッドの上で、女子に囲まれていただろ!」

 ピーターは同じ茂みの中で、俺を睨んでいる。

「俺はお前みたいに、サーカの裸を覗きに来たわけじゃねぇぞ」

「じゃあ何で隠れてんだ?」

「サーカが水浴びをしているとは、思ってなかったからだ」

「嘘くせ~。な~んか嘘くせ~」

 疑うピーターに、俺は粘液の付いたマントを見せた。

「メリィがくしゃみしたら、鼻水が飛んできて、マントについちゃったんだ。洗い流さないと、カピカピになるだろ」

「泉に来なくても、いつもの調理台を使えばいいだろ。あれは蛇口から水が出るから、それで洗い流せばいいじゃんか」

「おい! それは料理人に対する侮辱だぞ! 調理台は料理を作る為にあるんだ! 鼻水を洗い流す為じゃない!」

「だったら、今すぐ泉にまで行って洗えよ。オビオ。さぁ行けって」

 邪悪な顔しやがって! 行ったら雷ビリビリだろうが!

 俺がピーターに何か言い返そうとしたその時、木の上で人の気配がした。

「クククッ!」

 その笑い声を聞いて、ピーターが舌打ちをする。

「チィー! 今夜も来やがったか」

「暗殺者か?」

「そうだよ」

「でもこんなに気配を消さない暗殺者がいるか?」

「ぺーぺーの暗殺者だろ」

「だったらお前は、近づかれる前に気づいているはずだぜ? ピーター」

「・・・! 確かに。構えろ、オビオ!」

 サーカも敵に気づいたのか、素早く下着を付けると、ワンドを構えて周囲を警戒している。

「誰だ!」

「俺だ、オビオだ! 気をつけろ、サーカ。木の上に暗殺者がいるぞ!」

「なんで貴様がいるのだ!」

「訳は後だ。詠唱の準備をしておけ」

 大きな満月に突き刺さるようにして立つ木の上に、怪しい男はいた。月光の影になってよく見えない。

 木の上の怪しい男は、何やら喋り始めた。

「失せ人探して幾星霜。ついに路銀は尽きにけり! 気高き我が身を堕落させ、魔人の力をふり絞るッ! 今宵! その時がッ! ついに来たッ!」

 魔人? 魔人族なのか? 珍しいな。 ナンベルさん以来じゃないか。それに、路銀が尽きたから暗殺者をやっているみたいだけど、冗談だろう?

「とぁー!」

 シルクハットにマントの魔人族が、木から飛び降りて、着地に失敗する。

「グキリッ! 嫌な音がしたんぬッ!」

 膝を抱えて転がりまわる魔人族のシルクハットは、何故か外れない。魔法のシルクハットだな?

「名を名乗れ。暗殺者め!」

 サーカが白い下着のままで、ワンドを魔人族に向けた。

「クククッ! 我が名を聞きたいかッ! ならば答えてやろうッ! 闇底の最奥にそそり立つ! 絶望を咲かせし一輪の花! 我が名はッ! うわぁ! ちょっと!」

 魔人族が答える前に、サーカが【雷撃】を撃った。

 ――――バチバチ!

 電撃は魔人族の足元を通って地面に消える。

「名前を名乗らせなさいよッ!」

 ウォーズマンみたいな仮面の魔人族は、タップを踏んでから拳を振り上げ、怒りを表している。

「貴様のようなふざけた暗殺者は、名乗る前に死んだほうがいい」

 穏やかじゃないねぇ。なにも殺そうとしなくてもいいでしょ、サーカ。

「貴方がッ! 名乗れって言いたのでッ! しょーがッ!」

 まぁそういう返しをするわな。しかし、なんだこいつ・・・。サーカの魔法が効いていないってのはどういう事だ?

「聞いても無駄だとは思うが、雇い主は誰だ?」

「あーあー! 聞こえませんねッ! 馬耳東風ッ!」

「ならば死ね!」
 
 もうどっちが悪者かわからないな。あっ! 魔人族の背後にピーターがいる! 終わったな、魔人族。

 ――――カン!

「はっ?」

 俺は思わず驚きの声が漏れた。

 ピーターの短剣によるバックスタブ攻撃が、魔人族のマントに弾き返されたのだ。ピーターのバックスタブは防御無視の一撃だぞ?

「ありえねぇ!」

 ピーターがそう叫んだ後に、その場に倒れ込んだ。

 【死の手】か?! いや、でもあの魔人族がピーターに触れたようには見えなかったぞ!

「ピーターが、やられた!」

 茂みからサーカに告げる。

「見ればわかる! 仮面の貴様! ピーターを殺したのか?」

「クククッ! 心配無用ッ! 邪悪なるピーター君はッ! 麻痺しているだけですッ!」

 邪悪なる、という二つ名を使うなんて馴れ馴れしい奴だな。

 こいつは暗殺者というよりかは、スペルキャスターだな。

「オビオ! そいつに攻撃しようと思うなよ。まだ【麻痺の雲】が効果を発揮している!」

 確かに魔人族の周りよく見ると、黄色い雲が微かに漂っている。闇魔法の使い手か。まぁ闇側種族だから当たり前だな。樹族の上位互換みたいな種族、魔人族。

「魔法に秀でた種族か・・・」

 俺は魔法防御と魔法無効化率が高い。運が良ければ、奴の懐に飛びこみ、なんとかなる・・・。ならないか。

 ピーターの一撃を余裕で防いだもんな。

 くそ。防御が鉄壁で魔法も優秀。まるでいつぞやの自由騎士を相手にしているような気分だ。

 なぁ、誰か答えてくれよ。俺たちはなんで、いつも厄介な敵ばかり相手してんだ?
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