料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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ビャクヤ・ウィン

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 メイジに抱きついた女は、ウィング・ライトフットだ。まさかとは思うけど、あの司祭はメイジを誘惑しようとしているのか?

「久しぶり~! あ、もしかしてー! 私のこと忘れた~?」

 仮面のメイジは、細目の美少女に動揺して、アワアワしている。

「吾輩の旅路はッ! 果てしなく長かったゆえッ! 数多の人々の顔をッ! 一つ一つ、覚えてはおりませんぬッ! ごめんなさいッ!」

「ひど~い」

 ウィングはあざとく泣き真似をしていた。

 うわぁ・・・。美少女の正体が男だと知ったら、あのメイジはどうなってしまうのだろうか? それぐらいデレデレしてる。

「見ろよ。あのメイジ、鼻の下伸ばしてるぜ」

「オビオだって、ウィングが男だと知らなかったら、ああなるだろう?」

「ならねぇよ!」

「ふん、どうだか」

「ところでさっき、俺に何を言おうとしたんだ?」

 サーカの口が∞の形になった。

「煩い、黙れ。さっさと現状を何とかしろ!」

 無茶ばかり言うな、こいつは。樹族って交渉事が得意なんだろ? だったお前が行けよ、サーカ。

 しかし、サーカはその場から動こうとはしない。まぁ、相手がほぼ全裸の変態メイジだからな、当然か。

 そうこうしている間に、ウィングが変態メイジに、体を押し付け始めた。聖職者が色仕掛けをするってのはどうなんだ?

「ねぇ、お願い。私の仲間を捕まえようとしないで? あのオーガはただの料理人なのよ? 狙われるなんて、何かの間違いだわ」

「ですがッ! あれは人を捕まえては料理にする、悪鬼羅刹のオーガッ! 捕まえねば、犠牲者が増えるばかりッ!」

 そんなことだろうと思ったぜ。あいつは完全に雇い主に騙されている。そして、俺達のことを知らないって事は完全に余所者。東の大陸か、或いはどっかの島から来たのだろうぜ。

 俺はもう数秒、メイジを観察する事にした。

 白い幾何学模様が青い色をした体に張り巡らされている。魔人族の特徴を、こうやってまじまじ見るのは初めてかもしれない。以前に出会ったナンベルさんは、うぐいす色のボディスーツに、ボロボロのマントを羽織ってたからな。

 あのレベルのメイジになると、恐らく【読心】の魔法は習得しているだろう。にも限らず、雇い主を精査せず依頼を受けたのは、余程急いでいたからだろう。

「なぁ、あんた。凄いメイジなんだから【読心】の魔法ぐらいは使えるんだろ? 俺の心を視てくれよ。賢いあんたなら、それで全てを察する事ができるはずだぜ?」

 色んなポーズで暫く考えた後、メイジはウィングから離れて、マントを体に巻き付けた。ちょっと前かがみになっているところを見ると、こいつ股間のイキリタケが、とんでもない事になってるな?

「いいでしょうッ! そこまで言うのであればッ! 貴方の記憶を視て差し上げますッ! だがしかし! 吾輩にはッ! 記憶を偽装する魔法が通じない事をッ! ご承知下さいッ!」

「わかった」

 敵意がない事を示すため、俺は上鎧を脱いで、マントも外す。すると、胸のウォール家の刻印が服の上で赤く光った。

「!!」

 盾の刻印を見たメイジの仮面が、一瞬だけ驚いたように見えたが、彼は何事もなかったような所作で、俺の腕に触れる。

 【読心】及び、【鑑定】の魔法が苦手なのか、彼はマントの内側で、動物の干からびた目玉に触れている。触媒だ。やっぱ得手不得手は、どんな魔法使いにもあるんだな。

「・・・。あ、貴方は! いや・・・。星のオーガではあるが、運命の円環に関わってはいない! しかしッ! 近すぎる! そして! ああ! なんと! 彼は行ってしまった! どうしてッ! いつも! 空回りのすれ違いなのかッ!」

 勝手に納得して、気が抜けたようにへたり込む彼に、俺は金貨を三枚ほど渡した。

「あんた、安請け合いし過ぎだよ」

 俺の上位鑑定の指輪が見せてくれたメイジの情報は、あまりなかった。それだけこのメイジのレジスト率が凄まじいって事だ。

 仮面のメイジの記憶の中の雇い主は、フードを目深に被っており、種族すらわからない。その相手から、このメイジは金貨1枚と銀貨5枚で仕事を引き受けたのだ。

 正直、人さらいにしては安すぎる値段だが、それはこのメイジが世間知らずなのを見抜いてのことだ。

 ――――?!

 うわぁぁぁ! キリマルだ! このメイジの記憶の中で、悪魔キリマルが現れた! こいつはキリマルの関係者だ!

 なんかキリマルが喚きながら、泣いてるように見えるぞ・・・・。

 ・・・この世界の果ての隅々まで行ったが、お前の呪いを解く術は一つも無かった、とか言って悔しがっている。

 仮面のメイジは一度、何かしらの強力な呪いを受けたんだ! でも今は呪いが解けている。

 突然、ヒジリの顔が浮かんできたぞ・・・。いつもの自信満々の顔だ。

 ってことは、解呪にはヒジリが関係している!? どのように関係しているかはわからねぇが。

 おっと! またキリマルが出てきた! 急に出てくるなよ、お前の歯はギザギザしてて怖いんだよ。「俺様が唯一、しっかりと絆を結べた者がお前なんだ。お前は俺様の全て」と仮面のメイジに言っている。
 
 うわぁ・・・。あのクソ悪魔がデレてるところを見るのは気持ち悪いな・・・。

 なになに?

 二度とお前が呪われねぇよう、全ての世界を渡り歩いて、防呪のアイテムを見つけてくるだと?!

 仮面のメイジが止めるのを無視して、キリマルは消えた。

 多次元宇宙の全てを渡り歩くってか! やっぱり、あいつは神や悪魔の次元を超えている!

「ふふふ、視る者もまた、視られている、ですかッ!」

 項垂れていたメイジが立ち上がって、金貨を無限かばんの中にしまった。

「ああ、悪いな。でもお互い様だから、いいだろ?」

「ええ、仕方がありません。私はまた彼を追いかけたいと思いますッ! 彼は悪魔ゆえッ! 行った先々で、人を殺めたり、何かしらを破壊したりしますのでッ!」

 魔人族のメイジは、すっと手を前に出した。この星には無い挨拶の仕方。それは握手。

 その握手を知っているのだから、このメイジは間違いなく地球人と関わりのある者でもある。

「お金をありがとう、ミチ・オビオ君」

 俺も勢いよく彼の手を握る。

「どういたしまして! ビャクヤ・ウィン!」

 ナンベルさんの親戚かもしれない彼は、シルクハットを脱いで深くお辞儀をしてから頭を上げ、呪文の名前を叫んだ。

「グレーター・テポーテンションぬッ!」

 最後の「ぬ」が気になったが、訛りか何かだろう。

 数多の世界を移動する悪魔を追いかける彼もまた、多次元宇宙を移動できる才能の持ち主。その彼が瞬く間に消えた。

「あの混沌の悪の象徴であるキリマルに、愛されているメイジとはなぁ」

 きっとあのメイジは、俺の知らないところで世界を救ったりしているヒーローなのかもしれねぇ。

 そこで生まれたキリマルとの絆。

 ただの料理人である俺には、理解できない絆ってのがあるのかもな。
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