料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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幻の肉

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「わかりました・・・」

 カクイ司祭は肩を落とし、俺の右手に光る上位鑑定指輪を見て答えた。

「先日、我らと縁を切ったワンドリッター家やブライトリーフ家は、奴隷商人と癒着しておりました。そして、我が国もも同じく・・・・。ご存知でしょうが、商業都市国家ポルロンドや神聖国モティでは、闇側の住人の居住も容認しております。となれば、後はご想像がつくでしょう」

 臭みの酷い寸胴鍋に、ローリエの葉とニンニクを入れて、ヘコキスズメの出し汁が、普通に飲めるスープにならないかを試みる。

「自国の闇側住人を、樹族国の奴隷商人に売っていた、或いはモティは奴隷売買を黙認していた。その代わりに多額の援助金を、ワンドリッターたちから貢いでもらっていたと。そういう事か?」

「はい。なので、貴方への刺客の中には、両領主の手のものもいたはずです。なにせ貴方は、奴隷商人と直接出会い、事情を聞いているのですから」

 あぁ、ギルさんの事か。いや、ギムって名前だったっけ? 酒場で飲んだくれていた伯爵・・・。俺の作ったキャベツパンを美味しそうに食ってたなぁ。

 そういや。あの人、無事に田舎に帰れたのかな?

「彼らの刺客は、どんくらいいたと思う?」

「さぁ、詳しくはわかりませんが、貴方がシルビィ様と関わりが深くなった時点で、手を止めたと思います。彼らは用心深いですからね。とはいえ、悪事が裏側にバレてしまいましたが。今頃、責任逃れの人身御供を、探しているでしょう」

 お玉で出し汁を掬い、軽く味見をしてみる。・・・まだ駄目だな。パセリとセロリでも入れてみるか。

「今、オーブンで焼いているのは、パンか?」

「ええ」

 でかい俺は、這いつくばるようにして、背の低いオーブンの中を確かめた。まだ焼けていないな。

「で、あんたはどうして、俺にハンターならぬ、暗殺者を送ったんだ?」

「いや、それは神に誓って、誤解だと言えます! 私めは、ハンターしか送っておりません!」

「ほーん。じゃあ、触って調べてみるぞ?」

 俺は樹族の顔を覆えるぐらいの大きな手を、カクイ司祭に見せる。

 カクイ司祭は、白いローブをギュッと握って、少し怒ったような顔をした。

「ええ! そこまで言うなら、どうぞ! ご自由に!」

 そういや、指輪印からの情報で見た時のカクイは黒ローブだったような。ローブの色は、個人の信条を表している。白なら善。赤なら中立。黒なら悪。・・・まぁ性格は、視ればわかるか。

 まだこいつが犯人かどうか悩む俺は、それでも一つまみの塩程度の憎しみを込めて、カクイ司祭にベアクローを決めた。

 ベアクローを受けたカクイ司祭の顔から軋む音が聞こえる。ちょっと握り過ぎたかな?

「あた! いたたた! そんなに力を込めないでください!」

 うるせぇ、鯰髭。俺たちが、これまでに使ってきた気苦労を返せ。

「なになに? 名前カク・カクイ。職業、司祭。属性・・・。ローフル・グッド?! ええ? 嘘だろ! てっきりローフル・イービルかと思ってたのに!」

 次いで、ウィング・ライトフットとの思い出が流れ込んできた。彼に読み書きや算数を教える場面や、魔法を教える場面。ウィングが悪に進まないよう、神の教えを説いてもいる。

 そして、ハンターを送ったのも事実だ。どういう事だ?

 まだ何かある。こいつ、能力者だ。相貌失認そうぼうしつにん? 確か人の顔を覚えられない病気の名前だよな? それが能力なのか? 

「あぁ、肉が焦げています!」

 フライパンから煙が上がり、司祭が慌てふためいている。

 俺は慌てて、フライパンを見るが、肉は焼き焦げていた。

「おかしいな。薪の火はちょうど良かったんだけど。これはもう駄目だ。他に肉のストックはあるか?」

 もったいないな、と思いつつもゴミ箱に焦げ肉を捨てて、素早くフライパンをたわしで洗う。

「ええ、魔法の氷戸棚にあります。が、オビオ様のお気に召す肉はあまり無いかと」

 えー、鬼イノシシの肉なんていう、ありふれた物を俺たちに食べさそうとしていたのか? モティでは珍しいのかな? 鬼イノシシの肉って。

「まぁでも、俺も誤解していたみたいだな。なんか悪かった。ベアクローとかしちゃってさ」

「いえいえ。どうも、どこかで情報が捻れていたようで。何者の仕業かはわかりませんが、誤解が解けて何よりです」

 でも、こいつも教皇も、奴隷売買に加担してたのは事実だしな。

 ステコ・ワンドリッターに縁を切られて、司祭が絶望するシーンも見た。上納金が少なくなっては、村に影響が出るとかいって悩んでいるけど、そんな事、俺には関係ないし。

「戸棚の中の肉を見ていいかい?」

「どうぞ。気に入らなければ、後でウィングに肉を買いに行かせますから」

「そういえば、ウィングは今、どこにいるんだ?」

「彼なら亡くなった両親の墓に、花を持っていきましたよ。最近、病気で亡くなりましてね。死に目に会えなかったと後悔しておりました」

 ずっと俺と一緒にいたからな。可哀想だ・・・。なんて言葉をかければいいのかわからないけど、美味しい料理を作ろう。それで元気を出してもらうしかない。

 ちょっと気持ちが沈んじゃったけど、やる気を出さねば。腑抜けた気持ちで、美味しい料理なんてつくれないからな。

 俺は両手で頬を軽く叩いて、戸棚を見る。

「えーっと、何肉があるのかな?」

 魔法で冷えた戸棚(教会で唯一、非常に高価な物)の戸を壊さないようにスライドさせ、中を確認する。

「んん? これは何の肉だ? というか、毛が付いてる。マジか・・・。下処理から始めないと駄目なのかよ・・・」

 ぼやきながら奇妙な肉を横にずらし、他の肉を探した。意外と暗くて見えねぇ。

「あれ?」

 なんかの動物の頭があるな。まぁ、あってもおかしくはないか。頬肉とか美味いしもんな。でも不気味だなぁ。目を見開いてこっちを見てるよ・・・。

「うわぁ!」

 咄嗟に声が漏れる。まさか、こんなものが! ここにあるはずがない! 幻か? 幻に違いない!

「どうしました? オビオ様」

 心配そうに司祭が駆け寄ってきたので、俺は動物の頭を戸棚から引っ張り出して、四角い顔に突きつけた。

 もう半ば混乱気味なので、自分が何をしているのかわからない。

「こここ、これ! ギギギギ、ギル伯爵の頭ーーーっ!」

「ひやぁぁぁ!!」

 司祭は驚いて、床に尻餅をついた。
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