料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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トウスの説得

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 走る獅子人の右肩でムクが叫ぶ。

「何でオビオお兄ちゃんを、置いていくの?」

「もう生きちゃいねぇからだ」

「どうして、そんな事がわかるの?」

「感性の強いお前にだって、わかったはずだ。あいつの吐く息の音、いつでも無警戒な足音。そして何かしらの危険を知らせる合図。そのどれもが無かった。オビオは身構える間もなく殺られたんだ。恐らく魔法だろうな」

「でも、オビオお兄ちゃんは、魔法に凄く強いよ?」

 半泣きのムクにトウスは諭す。

「あぁ、オビオはそう簡単に死んだりはしない。だが、あの司祭が放った魔法は、ちょっとやそっとじゃなかったって事だ。あの司祭はきっと悪魔に魂を売ったんだ。【魔法探知】を常駐させるサーカが気づかなかった」

「そんな。うわぁぁん」

「泣いてる暇はないぞ、ムク。今は逃げる事に専念するんだ。周りを見ろ。そして音を聞け。敵はいるか? おっちゃんは、走るのに夢中で匂いがわかんねぇんだ」

 ムクは目を擦って涙を止め、辺りを警戒した。

「敷地の外の森に、沢山いるよ! あと、後ろから誰かがついてきてる! ウィングお兄ちゃんだよ!」

「チィ! 森の中の奴らは何とかなっても、問題は後ろのはウィングだな。あいつは俺たちの事を、知りすぎている」

 森の中から、神殿騎士がぞろぞろと現れた。

「神殿騎士か。名前は偉そうだが、ただの騎士だ。脚だけで十分!」

 両肩にムクとメリィを担ぐトウスは、脚を水平に振った。

「真空脚!」

 足から衝撃波が発生し、森の木ごと神殿騎士をなぎ倒していく。

「相手は英雄クラスだぞ! 力を出し切れ!」

 真空脚の範囲の外にいた神殿騎士の一人がそう叫ぶと、彼らは自分を鼓舞するかのように雄叫びを上げた。

「うぉぉぉ!!」

「大層な人数を用意してくれたもんだ。そこまでして俺らを殺したい理由はなんだ?」

 その質問に答える神殿騎士がいるはずもなく、彼らはハルバードを突き出して陣形を組み、開けた森を突進してくる。

「バカの一つ覚えか。獣人を舐めるなよ」

 敵の実戦経験のなさに白獅子は呆れる。数で押し切ろうという作戦が見て取れた。空中に跳躍して、連続で真空脚を繰り出し、神殿騎士の鎧を切り裂いていく。

「ウィングに追いつかれる前に、押し切らねぇと・・・」

 焦るトウスだったが、あっさりと神殿騎士の囲いを突破できた。

「なんでぇ、肩透かし野郎どもめ。それにしても、国境まで歩きだと一週間はかかるな」

 無尽蔵のスタミナを持っているかの如し獅子人は、戦いの後でも、国境に向かって走り続けていた。

(果たして、メリィとムクを守りながら脱出できるだろうか? できたところで、ポルロンドに行くのは愚行だ。あそこは神聖国モティとグラス王国の傀儡国家だからな。となると東リンクス共和国に逃げるのが定石)

 トウスが色々考えているところで、足に違和感を感じた。

「土系魔法か?」

 脚に絡みつく魔法の蔦を、強引にレジストして引きちぎり、獅子人は木の上に逃げる。

「ウィングか?」

(いや、ウィングは風属性の司祭だ。土魔法はあまり得意としない)

「おじちゃん、メイジがあちこちにいるよ」

「神殿騎士の次はメイジか」

 魔法は厄介だ、とトウスは小さく舌打ちをした。

 今までスペルキャスターの相手はオビオが盾となり、次に魔法防御力の高いサーカがサブ盾兼アタッカー、そして背後からピーターがとどめを刺す。

(メイジ相手に、俺の出番は無かった。だが、今は出番がどうたら言っている場合じゃねぇぞ)

「お前ら木の上で待ってろ。俺が敵を巻く」

「でも、メイジがあんなに沢山いたら、おじちゃん死んじゃうよ!」

「メリィがいる限り、俺はなんとでもなる。それにおっちゃんも、ピーターほどじゃないけどよ、潜めるからな。死んだりはしねぇ」

 ムクの顔に我が子四人の顔を思い浮かべ、トウスは二人の元から跳躍する。そして単独でいたメイジを爪で倒し、周囲の者を挑発した。

「おい! 竜の牙、白獅子のトウスはここだ! お前ら雑魚が何人いようが! オビオの作る綿菓子のように消してやるぜ!」

 犬のような遠吠えをして、トウスは自己強化スキルを発動させる。回避上昇、レジスト率アップ、攻撃力上昇。それらのスキルが発動する度に空気が震え、神殿騎士やメイジ達をも震えさせる。

「ひぃぃ!」

 その神殿騎士やメイジがトウスに怯え、逃げようとしたその時、彼らを巻き込むようにして竜巻が発生した。

「君たち騎士は逃げる事を、不名誉だと思っているんじゃなかったかな? 敵前逃亡は問答無用で処刑だよ」

「ウィング助司祭!」

 レジストできなかった騎士やメイジは、竜巻に跳ね上げられて地面に叩きつけられ、気絶する。

 トウスは以前にも受けた事のある魔法を体が記憶していたせいか、咄嗟にレジストこそできたが、体中が傷だらけだ。が、少し離れた木の上からメリィが、その傷をあっという間に回復してしまった。

「メリィがどこかに潜んでいるね。白獅子は僕に任せたまえ。君たちは修道騎士と魔物使いを探せ」

 神殿騎士はヘルムの下で安堵のため息を漏らし、メイジは【魔法探知】で周囲を捜索し始めた。

「おめぇ、以前に俺に負けたよな? それでもやるのか?」

「あれから僕は成長したのさ。君たちのお陰でね。あの時と同じと思われては困るよ」

 エペを両手で構え、細い目でトウスを睨むウィングの表情は硬い。

「オビオはカクイ司祭に殺されたんだぞ。そしてスープの具にされた。料理人のくせに、自分が料理されちまったんだ。それに見ただろ? 奴のローブが黒に染まるのを」

「それはきっと・・・。きっと何かの見間違いだ」

 多少動揺するウィングを見て、横に唾を吐いて、トウスは牙を見せる。

「おめぇとは俺は進む道が違う。俺は混沌を求め、お前は秩序を求める。だが、お互い根っこでは、善を良しとするはずだ。そんなお前が、闇堕ちした司祭に仕えるのか?」

「・・・。違う! カクイ司祭は、悪に堕ちていない!」

 ウィングのエペから、今にも魔法が発動しそうなのを見て、トウスは身構えながら事実を述べる。

「現実を見ろ! もう一度言う。カクイは悪魔に魂を売って、オビオを殺した!」

「・・・悪魔になんて!」

 心のどこかで迷いがあったウィングは碧眼から涙を零し、視線を落とした。それを見て、トウスは少し魔剣を握る手を緩める。

「いいか、追い詰められた者は何だってする。司祭が悪魔に魂を売っても、何もおかしくはねぇ。俺も追い詰められた結果、今がある。俺ぁ悪魔にこそ魂を売ってはいねぇがよ、クソみたいな過去に後悔しながら生きているんだぜ? 散々人々を扇動して圧政に立ち向かおうとしたくせによ、結局は戦いには破れ、妻や仲間を見捨て、我が子だけを連れて、樹族国に逃げてきたんだ!」

「・・・」

「選択を間違えて、俺のように一生後悔して生きてぇのか? お前の神はなんて言っている? 今この時、星のオーガは、お前に何か助言を与えようとしているはずだ」

「僕は聖騎士じゃない! 神との対話なんてできない!」

「うるせぇ!! 心の中にいる神の声を聞け!!」

 トウスの言葉に、ウィングは顔を上げて、目を見開いた。

「心の中の・・・?」

「そうだ。お前の心の中のハイヤット・ダイクタ・サカモト神はなんて言ってる?」

 ウィングが口を開きかけた時、遠くで声がした。

「修道騎士のメリィを見つけました! 助司祭!」

「チィ!」

 トウスは剣戟の音を聞いて、メリィが戦っている事を察し、走り出す。そして後ろのウィングに言った。

「俺を討ちたいなら、今すぐ魔法を撃つんだな。背中を見せている今がチャンスだぞ」
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