料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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星のオーガの利用価値

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 客間にある食卓の上座に王の盾を探したが、その姿が無かった事にサーカは胸を撫で下ろした。

 そのサーカの視線を感じ取ったのか、シルビィがにやりと笑って上座に座った。

「父上が冒険者や騎士に会う事なぞ、滅多にないぞ」

「逆にいなくてよかったよ。あんなのがいたら緊張して、食べ物の味がしないね」

「こら! ピーター!」

「あははは!」

 職場では時々厳しい顔をし、きつい言動をするシルビィだったが、家ではあっけらかんとしている。父親が食事の場にいなかくて良かった、と言われているのに笑っているのだ。

「すみません、隊長。ピーターは孤児院出身の盗賊なもので・・・」

「知っているぞ。ヒジリ猊下から話を聞いているからな。欲望に任せて、あの闇魔女の胸を揉んだのだろう? あの歳にして、イグナの胸は既に私よりも大きいからな。サヴェリフェ家の巨乳姉妹達は、少年たちの欲望をくすぐる、いけない果実を持っている」

「そうさ、僕は何も悪くないよ」

「ピーター!」

 長いピンクの前髪の下で、サーカはこれでもかというほど目を開いて、ピーターを睨んだが、当の本人は前菜のスープをペチャペチャと音を立てて飲んでいる。

(こいつ、いつもより行儀が悪いぞ! 私に恥をかかせるつもりだな?)

「そちらの御人は?」

 食事マナーの悪い地走り族を気にせず、シルビィはほぼ全裸の樹族を見て、少し頬を赤らめた。彼の身を隠していたマントは外套掛けにある。

「彼はモティでピーターと私を助けてくれたメイジです。名前は・・・」

「吾輩はビャクヤ・ウィンです、シルビィ閣下」

 外見はともかく、食事マナーや所作の一々が貴族のそれで、ピーターとは真逆なメイジに、シルビィは興味を持った。

「出身を聞いても良いかな?」

 仮面を少し持ち上げて、スープを飲んでいたビャクヤは、スプーンを置くとふきんで口を拭う。

「吾輩は暗黒大陸のはるか北、ノーム島の南東、大海に浮かぶ島国、ニムゲイン王国より来ました」

「ほお! あそこの空も海も渦を巻いていて、時々ノームが飛空艇で迷い込む程度としか聞いた事がないのだが、どんな国なのかね?」

「国の規模は中位。騎士団が大まかに分けて二つ。竜騎兵団と魔導団。種族はこちらでいう、レッサーオーガとエルフが主です」

「竜騎士! それにレッサーオーガとエルフの国!」

 驚く隊長の顔を見ながら、シルビィは心の中で、この嘘つきメイジめ! とビャクヤを罵った。

「はい、閣下。竜騎士はワイバーンに跨り、海からやって来る魔物をいち早く見つけ、魔法やドラゴンランスで仕留めてしまいます」

「ドラゴンランスだって?!」

 疑うことをしないのかと、サーカは隊長を呆れて見る。

「ええ、閣下。竜騎士の跳躍力は凄まじく、害をなすドラゴンなどを見つければ、操作するワイバーンから跳躍し、ドラゴンランスでドラゴンの脳天を突き刺すのです」

「なんという戦法だ。我が国にも竜騎士がいれば、ツィガル帝国の空飛ぶ鉄傀儡と渡り合えるかもしれん。それにしてもワイバーンを手懐けられる騎士がいるとは。世界は広い。では君は、ニムゲイン王国の魔導団所属なのか?」

「いいえ、ただの野良メイジです」

 ビャクヤが奇妙な喋り方をしていない事に、サーカは今頃気づく。

(こいつ、場をわきまえる狂人だったか。厄介な)

「馬鹿を言え! 君のようなメイジが野良であってたまるか。闇色のオーラを纏うメイジは、この国でも闇魔女イグナだけだ。そうだ! 仕事を探しているのなら、私に仕えないか? いずれ魔法院を復活させようと思っているのだ。その時に君のような人材がいれば、樹族国も安泰だ」

「大変嬉しい申し出ですが、閣下。吾輩は、悪魔を追って世界中を旅しておりますので・・・」

「そうか・・・。何やら事情があるのだな。目的を果たしたならば、樹族国にも寄ってくれ」

「是非とも」

 話が一段落し、暫く沈黙の中、食事は続く。

「白獅子はどうしたね? トウス・イブン・トウバは」

 鹿肉のステーキにナイフで切れ目を入れながら、シルビィが唐突に聞いた。

「彼は・・・。恐らくカクイの館から逃げたのだと思います」

「恐らく? はっきりしないな」

「私はその時、恥ずかしながら魔力暴走を起こしてしまい、ピーターの当身で気絶させられていましたから」

 シルビィに今度こそ怒鳴られるだろうと思っていたサーカは、視線を皿の上にやり、ナイフとフォークを動かし、その時を待った。

「そうか」

 落胆されたのか、サーカは怒られる事はなかった。それはそれで傷つく。

「トウスさんなら、神殿騎士を掴んで窓に放り投げて、逃げ道を作っていたよ。影に沈む前に、僕は見たんだ」

 ピーターの言葉に、シルビィは「ふふ」と笑った。

「流石は獣人国の首長の息子。豪快な逃げ方だ。他の仲間は?」

「修道騎士のメリィ・メリィと魔物使いのムク。どちらも地走り族だから、トウスさんに軽々と担がれて一緒に逃げたよ」

「それにしても、パーティの半分が地走り族なんて珍しいな。地走り族の多くは冒険者になるにはなるが、結局生まれた場所に留まって安穏とした生活を送るか、危険な地に赴いて、好奇心のせいで死んでしまうか、なのに」

「僕たちは、そのどちらでもなかったって事っすよ」

「そうだな。まるでサヴェリフェ家の姉妹のようだ」

 シルビィは皆がメインディッシュを食べたのを見届けると、手を叩いて召使いを呼んだ。

 召使いは既に準備をしていたのか、それぞれの前に粗末な木のボウルを置いた。

 どこか覚えのある匂いに気づき、訝しむサーカを見て、シルビィは蓋を取るよう手で促した。

 サーカは促されるまま、ボウルの蓋を取るとそこには臓物の煮込みが入っていた。

「こ、これは・・・」

 料理を見て突然泣き出したサーカを見て、ピーターは片眉を上げた。

「なんで泣いているんだ? サーカ」

「ヒッグ・・・。これは、オビオと初めて出会った作戦の時に、彼が作ってくれた臓物の煮込みだ」

「そっか・・・」

 ピーターは、さして珍しくもない臓物の煮込みを口に入れた。生姜とニンニクの風味が香り、臓物の嫌な匂いが見事にかき消されている。そして柔らかくて食べやすく、甘辛くて美味しい。

「美味い! なんだこれ! オビオの味付けにそっくりだ!」

 サーカも一口食べると、急に椅子から立ち上がった。

「失礼!」

 慌てて部屋から出ようとする彼女を、シルビィが呼び止めた。

「期待させてしまったか? すまない。厨房にオビオはいないぞ。オビオと作戦を共にした騎士から聞いて、この料理を再現させてもらったのだ」

 がっかりして席に戻るサーカは、涙を零しながら俯いた。

「なぜ・・・。そんな酷なことをするのですか? シルビィ様」

「これが返事だからだ。詫びのつもりでオビオの料理を作ったのだがな。サーカから話を聞いた私は、すぐにヒジリ殿のもとへ、オビオを生き返らせてくれるよう手紙を送った。が、返事は良いものではなかった。ヒジリ殿曰く、のこのこと敵のもとに出向いたオビオが不用心だったとの事。グランデモニウム国王が、その尻拭いをする義理はないそうだ」

「えぇい!」

 ドン! といきなり仮面のメイジが机を叩いた。

「あの人の言いそうなことだ! 冷淡で、無駄に合理主義で・・・!」

 驚いて自分を見る皆を見て、ビャクヤは冷静さを取り戻して、咳払いをし、着席した。

「な、何でもありません。ちょっとサーカ殿に感情移入してしまいました。お許しを」

「ヒジリ殿の事を、知っているのかね? ビャクヤ殿」

「いえ、私はかつて星のオーガの信者でしたが、どんなに祈っても、神が応じてくれる事はありませんでした。それで神を捨てたのです」

「ふむ、その割には知っているような口ぶりだったが、まぁいい。・・・それから、サーカ。落胆するにはまだ早い。一つの手段が無くなっただけのことだ。もう少し情報を集めさせてくれないか? 八十年生きてきた中年の勘なのだが、オビオが死んだとは思えないのだ」

「そうやって期待させておいて、またがっかりさせるんだろ」

 ピーターが少し怒ったような顔で、シルビィを睨んだ。

「おっと、これは手厳しいな。だが、根拠はある。まず、オビオには利用価値があるからだ。彼の料理は、食べた者の能力を大幅に底上げするだろう?」

「それは、料理上手のミトンのお陰で・・・」

 サーカの言葉を遮って、シルビィは話を続ける。

「いや、料理の腕は彼の経験値も関わっている。君たちは歴史史上、英雄クラスの料理人を見た事があるか?」

「自分の知る限りでは・・・」

「いや、いないのだよ。そんな者。それにオビオはトロール以上の、凄まじい再生能力の持ち主でもある。錬金術師のブラッド辺境伯が、彼を捕らえ、実験体にしていない事が不思議でならないほどにな」

 ビャクヤが、食べ終えた料理の食器を少し奥にやり、テーブルに手を置いた。

「なるほど。ヒジリ猊下が現れて以降、神聖国モティの暴挙は日に日に露骨になりだした。何故なら、神に関わる利権を現人神様に脅かされているから。となれば、どうするか? モティは新たなる神を、担ぎ上げるかもしれませんねぇ」

「ああ。君は外国人にしては、西の大陸の情勢に詳しいな」

「世界を旅しておりますゆえ」

 サーカがまさかという顔をして、顔を上げた。

「もしかして、オビオを神に仕立て上げるつもりなのですか? でも彼はただのオーガ・・・」

 ウォール家の特徴である赤い瞳が、まっすぐにサーカを見つめる。

「彼はただのオーガではない。星のオーガだ」
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