料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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騎士修道会

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「ホッホウ」

 窓枠に鉤爪を食い込ませて鳴くフクロウの脚から、手紙を解き、カクイは読む。

「神殿騎士50名、魔法使い50名、僧侶50名を貸し与える、か」

 それで? と呟いて、黒ローブの司祭は手紙に隠されたメッセージがないかを【魔法探知】で探ったが、何も出てこないかった。

「フローレス様は表立って、樹族国とやり合う気はないというわけですね。一領主が外国と紛争を起こした事にしたいと」

 クククと笑って、カクイは手紙を【火の手】で焼いて、皿の上に落とす。

「上手くやってみせますよ、教皇様。なんでしたら、樹族国から賠償金をふんだくってみせましょうか」

 司祭は徐に黒のローブの裾をたくし上げて、自分の影を踵で叩いた。

「悪魔さん、悪魔さん? 大量殺人がしたいのでしょう?」

 踵で蹴られた影は、しわがれた声で返事をする。

「ああ、少し禁欲し過ぎたせいで、俺という存在が陽炎のように揺らめいている。この世界に留まるには贄が必要だ・・・」

「贄なら、これから沢山やってきます。存分に味わってくださいな」

「そうか。おっと、それから約束を忘れるなよ。悪魔を出し抜く事はできねぇからな」

「わかってますよ」




 ウォール邸の客室で、ピーターの腹は鳴りっぱなしだった。

「あんなチマチマした朝食じゃ、腹いっぱいにならねぇよ。ウィングに貰ったおやつの干しリンゴだけじゃ、全然足りないや」

 忍び足で厨房にやって来たピーターは、料理が残ってないか棚やテーブルを調べ始めた。

「やった、ぶどうパンがあった!」

 平たい木のボウルに山盛りのパンが置いてある。一つ手にとって一口齧ったところで、後ろに立つ気配を感じ取ったピーターは身構えた。

「なにをやっている? ああ、聞く必要はないか。盗賊が盗賊らしい事をしているだけだな」

「んだよ、サーカかよ。お前も盗み食いか?」

「お前と一緒にするな」

「じゃあ、何しに来たんだよ」

 ピーターの質問を無視して、サーカは厨房にぶら下がっている鍋を取ると、水を入れている。

「白湯でも飲むのか?」

「うるさい。腹を満たしたならさっさと部屋に戻れ。戻ったらウィングやトウスと連携技の打ち合わせでもしておくのだな」

「ウィングなら独立部隊の取り調べで連れて行かれたし、トウスさんは、子供の様子を見に孤児院に向かったよ。それに、そもそも修道騎士会の返事待ちで暇なんだよ。メリィが動けない事には、大義が立たないだろ」

 好奇心旺盛な地走り族は時に煩わしい。厨房から立ち去ろうとしないので、サーカは更に無視をして作業を進めた。

 ――――ザラザラ。

 サーカが小さな布袋から何かを鍋に入れたので、ピーターは彼女の横に立って中身を見る。

「これ! お米じゃん! 樹族国じゃ滅多に手に入らないだろ? どうしたの?」

「隊長に無理を言って、用意してもらったのだ」

「なんで? どうして?」

「今日のお前は、ムク並に知りたがりだな! あっちへいけ!」

「やだね! 教えてくれなきゃ、作業中にずっとサーカの尻を触るね!」

 苛ついたサーカは、ピーターの一本角のようなアホ毛を掴んで、引っ張り上げる。

「そんな事してみろ! 灰になるまで【電の手】をお見舞いするからな」

「わかったって! 邪魔しないから、何を作るのか教えてくれよ!」

 アホ毛を引っ張るのをやめて、サーカは水の中に沈む米をどうするか悩み始めた。

「ここからどうしていたかな・・・」

「あぁ! わかった! おにぎりを作る気だな?」

「そうだ。オビオはどうやって作っていた?」

 地走り族の性質上、興味を持って見たものを覚えているピーターは、すぐに答えを教える。

「お米を洗っていたよ!」

「洗う? 泡葛か石鹸でか?」

「何言ってんの? 普通に手でお米を研ぐようにして洗っていたよ」

「そ、そうか」

 大丈夫か、こいつ――――、と白眼視してくるピーターの顔を押しのけて、サーカは米を洗い始めた。

「乙女の顔してるなぁ。サーカは」

 最近までピーターは自分の事を騎士様と呼んでいたのに、今は名で呼んでくる。しかし、共に一年近く旅をしてきたせいか、サーカは不思議と腹が立たなかった。

「オビオが腹を空かせているだろうと思ってな」

 今頃、拷問に近い人体実験を繰り返されているかもしれない。苦痛に歪むオビオの顔を想像してしまい、サーカは危うく貴重な米を流してしまうところだった。

 そんなサーカを茶化す気は無かったピーターだったが、ふとオビオに言われた事を思い出した。

「でもオビオは、飢餓状態になることは無いって言ってたよ。体内の虫が周囲の有機物、無機物関係なく吸い取ってエネルギーに変換するとか言ってたな。言葉の意味は解らないけど、とにかく飢えないんだってさ。残念だったな、サーカ」

「それでも構わん。いつもオビオに作ってもらっていたのだ。たまにはお返しをしないとな」

「そっか・・・。あ、米を洗ったら、暫く水に浸けとくんだよ。冬は一時間とか言ってたかな。それから最初は中火で・・・」




 
 吸魔鬼を復活させてしまい、更にそれを放置していたシオ・ラーザ男爵の不祥事で、領地取り上げとなったクロス公領の端に、騎士修道会の古めかしい本拠地はある。

 久しぶりに帰ってきたメリィは、緊張した面持ちで古めかしい館の扉を開いた。

「おかえり」

 笑顔の仮面を被る修道騎士が、いきなり抱きついてきたので、メリィは戸惑うも笑顔で応じる。

「キミ様。お久しぶりですぅ~」

 扉をくぐってすぐに、食卓兼客間のテーブルの奥で、怒りの仮面の騎士と泣きの仮面の騎士が、こちらを見ているので、メリィは二人にも挨拶をした。

「ソレイ様にダレイ様も、ヒジリ様の守護中に呼び出してすみませぇん」

「構わんよ」

 怒りの仮面のソレイは頷いた。口調が柔らかいので、仮面の下では微笑んでいるのだろう、とメリィは思った。

「バトルコック団での活躍は聞いたよ、メリィ。もう蘇生の祈りが使えるようになったんだってね」

 泣き顔の仮面を被るダレイは、緩やかなウェーブをする栗色の髪を弄っている。仮面の三姉妹の中でも一番の人見知りで、一年近く会わなかっただけで、メリィに対して尻込みをしているのだ。

「姉上の仇は見つかったか?」

 次女ソレイの無遠慮な質問に、長女のキミが「ソレイ!」と語気荒く呼んだ。

「いいんだよぉ、キミ様。お姉ちゃんを見つける決定的な手がかりは無かったよぉ。存在消しの短剣は自由騎士様が持ち去ってしまったから・・・」

「くそ! メリアの仇すら討てないのか!」

 怒りの仮面の下でも怒るソレイは、テーブルを拳で叩いた。

「でもね、モティの谷底にある暗殺者ギルドのバガー兄弟が、自由騎士様を狙っていたわぁ。だから、存在消しの短剣の出どころはモティだと、私は思うのぉ」

 真剣な顔で意見を述べるメリィに、笑顔の騎士ダレは首を横に振る。

「推測だけで誰かを疑ってはいけませんよ、メリィ。貴方の気持ちはわかりますが」

 三編みを羊の角のように巻いているキミの諌めに、メリィは頷いた。

「だから、今一番怪しい証拠が揃っているカクイ司祭に、神前審問をしようと思ってぇ・・・」

 座っていた次女と三女が、椅子から立ち上がって驚く。

「なんだと?! 神降ろしをするのか? メリィ!」

 怒りの騎士のあまりの驚き様に、メリィは思わず「フフッ」と笑った。

「そうだよぉ~?」

 当然のように神降ろしをやると言うメリィに、三女のダレイが尊敬の眼差しを向けている。

「すごぉい! 私達は星のオーガ教に改宗したし、神前審問しようと思ったら、ヒジリ様を説得して連れていくだけだもん。精神体の神様を呼び出すなんて、凄いよ!」

 あの変わり者の現人神を説得するのはダレイが言うほど簡単ではない。思いの外、現物主義で、それなりの対価を要求してくるし、怒りの沸点が奇妙な場所にあり、どこで機嫌を悪くするかわからないのだ。

「う~ん、ヒジリ様を連れて行く方が難しいんじゃないかなぁ? 私の神様は、地走り族の信者が多い運命の神様だから、きっと願いに応じてくれると思うよぉ」

 キミはもう一度、メリィにハグをし、彼女の銀色の髪を撫でた。

「貴方ならきっと、運命の神を呼び出せるでしょう。騎士修道会は、貴方を全面支持します。シュラス国王陛下にもその旨を伝えておきますので、思う存分やりたいようにやってきなさい。神は正しい答えを導き出してくれるはずです。星のオーガと運命の神の御加護があらんことを!」

「ありがとぉ! 神前審問が終わったら、お土産沢山持って帰ってくるねぇ~」

 今来たばかりなのになぁ、とソレイは言ってメリィにハグをし、続いてダレイもそれに続く。

 ただの平凡な修道騎士だったメリィが、ここまで成長するとは思わなかったキミは、嬉し涙を仮面の下で流して、馬車に向かう彼女の背中を見送った。
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