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ムダン侯爵と息子のガノダ
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教会を中心に周りにバリケードを築き、本陣にしているカクイ司教は、戦の前にお互いに戦う理由を言い合う儀式にすら参加しなかった。
「我が名は、ムダン・ムダン! カク・カクイ司祭に物申す! 戦場に現われよ!」
ムダン侯爵の呼びかけを無視して、カクイ側はいきなり鏑矢を鳴らして戦の合図を出したので、ムダンの騎士達は口々に「無礼者め」と喚いて、怒りながら馬を進めた。
武闘派で知られるムダンの騎士達は、魔法を使わずとも、ロングメイスだけで神殿騎士を、田んぼのカカシのようになぎ倒していく。
「神殿騎士は、練度も士気も低い」
ムダン侯爵は鼻の下に太く長く伸びる立派な髭を扱いて、残念そうにため息をつく。
「謀略だけに生きてきた者とは、戦場にてこれほどまでに弱いのか」
グランデモニウム王国と長年戦ってきたムダンは、休戦状態になった今でも騎士の訓練を欠かさなかった。
神の代理国家という威光を他国に見せつけ、安穏と暮らしてきた神聖国モティの戦力は、拙劣の極みと言える。
「それにしても・・・」
ムダンは、紫陽花騎士団に組み込まれたビャクヤを見て一人呟く。
「あんな有能なメイジが、なぜ無名のままなのだ」
王都から紫陽花騎士団50名を転移させ、ムダン侯爵の館前の庭に、轟音と共に現れた時は敵襲かと思ったが、たった一人のメイジが騎士団を転移させたのだと気づくと、そのとてつもない魔力に感嘆したものだった。
「そしてついでのように、150名の我が騎士団も、モティまで転移させよった・・・」
隣に立って戦況を見守る息子に、闇魔女以上の才能を持つメイジの名前をムダンは聞いた。
「ガノダ、あれの名前はなんと言ったか?」
「はい、父上。ビャクヤ・ウィンです」
「ウィン・・・!? まさかな。あれは樹族。魔人族ではない」
「魔人族であれば、宿敵ナンベル・ウィンの親戚か何かでしょう。が、彼は遠い異国から来た流れ者。ウィン家の者が変装している可能性は低いでしょう。見破りの眼鏡で見ても、姿に変化はありませんでした」
「そうか。闇色のオーラを纏うメイジはそうはおらん。是非、家来にしたいものだが」
筋肉質な父親とは逆に、太った体型のガノダはフホホと笑った。
「既にシルビィが打診して断られておりますよ、父上。ビャクヤは、どうも悪魔を追って旅をしているのだそうです」
「ほう、仇討ちか何かか? ならば呼び止めるのは気の毒だな」
そう言ってから、何気なく紫陽花騎士団の団長の横に立つサーカを見たムダンは、また口ひげを扱いた。
「以前、闘技場で会った時とは比べ物にならん程になった」
ガノダは父親の視線を追って、サーカを見る。
「サーカ・カズンですか? 本当に美人ですよね。あの綺麗なストロベリーブロンドの髪。僕は一目惚れしそうになりましたよ」
息子と視点が違う事に、ムダンは呆れる。
「確かに美人ではあるが、ワシが言いたいのは、そこではない。強くなったという事を言いたかったのだ。オーラを見てみろ」
樹族は相手の魔法の総合力を、オーラの色で知ることができる。ガノダは目を細めて彼女を見た。
「やや闇色の混じった赤ですな」
「うむ。噂では、彼女が全マナを込めた攻撃魔法は、樹族国随一の威力を誇るらしい」
「闇魔女が戦場で大勢を相手にするのを得意とするならば、彼女は一対一で最強かもしれないと言うことですか?」
「そういう事だ。総合的に見て、ビャクヤ、闇魔女、ステコ・ワンドリッター、サーカの順に強かろう」
ワンドリッターの名を聞いて、ガノダは周囲を見渡す。
「え? もしかしてステコが来ているのですか?」
「ああ、恐らくはカクイが余計なことを言わないように見張っているのだろうな。ここに来ていると、裏側から聞いてはいる」
「彼は、いつもワンドリッター家の尻拭いをさせられているなぁ」
「かつての冒険仲間を心配しているのか? ガノダ」
「ええ」
「はぁ・・・。何を言う。奴は王国近衛兵騎士団にまで出世し、尚且父親ソラスの無理難題に対応する内に、実力値が英雄クラスになったのだぞ? それに比べ、お前ときたら、毎日ぐうたらと過ごし・・・」
まさか戦場で父親の小言が始まるとは思わなかったガノダは、エリムス・ジブリットが率いる紫陽花騎士団を指差して、白々しく叫んだ。
「あ! 父上! 作戦通り、ビャクヤ達が転移魔法で本陣に突っ込みますよ!」
その言葉通り、ビャクヤが奇妙なポーズをした後、「テレポーテーションぬ!」と叫んで、騎士団もバトルコック団も転移して消えた。
「全く・・・。ガノダは相手の悪意や敵意を逸らす事ばかり優秀になりおって・・・。では、我らも作戦に本腰を入れるとする。と言っても、戦場で派手に暴れるだけだがな。なるべく、敵兵を我らに釘付けにしておくのだ。紫陽花騎士団及び、バトルコック団への負担を最小限にするのが一番の任務。樹族国の者に手を出し、修道騎士の神前審問を拒否した奴らに、大義がない事を知らしめるのだ。存分に暴れてくるのだぞ、ガノダ」
頬肉を震わせ、おかっぱ頭を逆立てて、ガノダは目を剥く。
「え! 僕もですか? 父上!」
「ガハハ! 心配するな! ワシも行く」
「大将自ら戦場に出ては、意味がありませんよ! 誰が後方で指揮をするんですか!」
「煩い! そのへんは軍師にでも任せておけ。さぁワシに続くのだ! ガノダ!」
隻眼の騎士は雄叫びを上げると、棘と鎖のついた鉄球を振り回して、戦場へと馬を走らせる。
「くそう! えぇい! こうなったらやぶれかぶれだ! 見ていろよ、ステコ。僕だって武功を上げて、のし上がってやるからな!」
半泣きのガノダは、馬が走る度に顎肉を上下させて、父親の後を追った。
「我が名は、ムダン・ムダン! カク・カクイ司祭に物申す! 戦場に現われよ!」
ムダン侯爵の呼びかけを無視して、カクイ側はいきなり鏑矢を鳴らして戦の合図を出したので、ムダンの騎士達は口々に「無礼者め」と喚いて、怒りながら馬を進めた。
武闘派で知られるムダンの騎士達は、魔法を使わずとも、ロングメイスだけで神殿騎士を、田んぼのカカシのようになぎ倒していく。
「神殿騎士は、練度も士気も低い」
ムダン侯爵は鼻の下に太く長く伸びる立派な髭を扱いて、残念そうにため息をつく。
「謀略だけに生きてきた者とは、戦場にてこれほどまでに弱いのか」
グランデモニウム王国と長年戦ってきたムダンは、休戦状態になった今でも騎士の訓練を欠かさなかった。
神の代理国家という威光を他国に見せつけ、安穏と暮らしてきた神聖国モティの戦力は、拙劣の極みと言える。
「それにしても・・・」
ムダンは、紫陽花騎士団に組み込まれたビャクヤを見て一人呟く。
「あんな有能なメイジが、なぜ無名のままなのだ」
王都から紫陽花騎士団50名を転移させ、ムダン侯爵の館前の庭に、轟音と共に現れた時は敵襲かと思ったが、たった一人のメイジが騎士団を転移させたのだと気づくと、そのとてつもない魔力に感嘆したものだった。
「そしてついでのように、150名の我が騎士団も、モティまで転移させよった・・・」
隣に立って戦況を見守る息子に、闇魔女以上の才能を持つメイジの名前をムダンは聞いた。
「ガノダ、あれの名前はなんと言ったか?」
「はい、父上。ビャクヤ・ウィンです」
「ウィン・・・!? まさかな。あれは樹族。魔人族ではない」
「魔人族であれば、宿敵ナンベル・ウィンの親戚か何かでしょう。が、彼は遠い異国から来た流れ者。ウィン家の者が変装している可能性は低いでしょう。見破りの眼鏡で見ても、姿に変化はありませんでした」
「そうか。闇色のオーラを纏うメイジはそうはおらん。是非、家来にしたいものだが」
筋肉質な父親とは逆に、太った体型のガノダはフホホと笑った。
「既にシルビィが打診して断られておりますよ、父上。ビャクヤは、どうも悪魔を追って旅をしているのだそうです」
「ほう、仇討ちか何かか? ならば呼び止めるのは気の毒だな」
そう言ってから、何気なく紫陽花騎士団の団長の横に立つサーカを見たムダンは、また口ひげを扱いた。
「以前、闘技場で会った時とは比べ物にならん程になった」
ガノダは父親の視線を追って、サーカを見る。
「サーカ・カズンですか? 本当に美人ですよね。あの綺麗なストロベリーブロンドの髪。僕は一目惚れしそうになりましたよ」
息子と視点が違う事に、ムダンは呆れる。
「確かに美人ではあるが、ワシが言いたいのは、そこではない。強くなったという事を言いたかったのだ。オーラを見てみろ」
樹族は相手の魔法の総合力を、オーラの色で知ることができる。ガノダは目を細めて彼女を見た。
「やや闇色の混じった赤ですな」
「うむ。噂では、彼女が全マナを込めた攻撃魔法は、樹族国随一の威力を誇るらしい」
「闇魔女が戦場で大勢を相手にするのを得意とするならば、彼女は一対一で最強かもしれないと言うことですか?」
「そういう事だ。総合的に見て、ビャクヤ、闇魔女、ステコ・ワンドリッター、サーカの順に強かろう」
ワンドリッターの名を聞いて、ガノダは周囲を見渡す。
「え? もしかしてステコが来ているのですか?」
「ああ、恐らくはカクイが余計なことを言わないように見張っているのだろうな。ここに来ていると、裏側から聞いてはいる」
「彼は、いつもワンドリッター家の尻拭いをさせられているなぁ」
「かつての冒険仲間を心配しているのか? ガノダ」
「ええ」
「はぁ・・・。何を言う。奴は王国近衛兵騎士団にまで出世し、尚且父親ソラスの無理難題に対応する内に、実力値が英雄クラスになったのだぞ? それに比べ、お前ときたら、毎日ぐうたらと過ごし・・・」
まさか戦場で父親の小言が始まるとは思わなかったガノダは、エリムス・ジブリットが率いる紫陽花騎士団を指差して、白々しく叫んだ。
「あ! 父上! 作戦通り、ビャクヤ達が転移魔法で本陣に突っ込みますよ!」
その言葉通り、ビャクヤが奇妙なポーズをした後、「テレポーテーションぬ!」と叫んで、騎士団もバトルコック団も転移して消えた。
「全く・・・。ガノダは相手の悪意や敵意を逸らす事ばかり優秀になりおって・・・。では、我らも作戦に本腰を入れるとする。と言っても、戦場で派手に暴れるだけだがな。なるべく、敵兵を我らに釘付けにしておくのだ。紫陽花騎士団及び、バトルコック団への負担を最小限にするのが一番の任務。樹族国の者に手を出し、修道騎士の神前審問を拒否した奴らに、大義がない事を知らしめるのだ。存分に暴れてくるのだぞ、ガノダ」
頬肉を震わせ、おかっぱ頭を逆立てて、ガノダは目を剥く。
「え! 僕もですか? 父上!」
「ガハハ! 心配するな! ワシも行く」
「大将自ら戦場に出ては、意味がありませんよ! 誰が後方で指揮をするんですか!」
「煩い! そのへんは軍師にでも任せておけ。さぁワシに続くのだ! ガノダ!」
隻眼の騎士は雄叫びを上げると、棘と鎖のついた鉄球を振り回して、戦場へと馬を走らせる。
「くそう! えぇい! こうなったらやぶれかぶれだ! 見ていろよ、ステコ。僕だって武功を上げて、のし上がってやるからな!」
半泣きのガノダは、馬が走る度に顎肉を上下させて、父親の後を追った。
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