料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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追い詰められるカクイ

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 アグニの出現、そしてその怒りの精霊をキリマルが退治し、更に悪魔の施した蘇生の奇跡で、王と王の盾が復活した事に、広間がまだザワザワとする中、これまで何が起きようが全く身動きしなかったカクイが、ゆっくりと振り返ってヤンスさんを見つめる。

 後ろ手に縛られている彼は、何処と無く偉そうに見え、少し不愉快だ。

「どういう事ですか?」

 何か心当たりがあるのか、カクイの垂れ目に鋭さが増したような気がする。

「あんたは、双子なんでヤンスよ」

「いいえ、私は双子などではありません」

 澄ました顔をしているが、俺にはカクイの動揺を感じ取れた。

「異議あり! 呼ばれてもいないゴブリンの言葉は、なんら証言にはなりません」

 モティの使者が手を上げて抗議したが、意識を取り戻したシュラス国王は、頭を振りながら、背もたれの無くなった椅子に座った。直ぐに裏側が、これまでの経緯を王に話す。

 因みに王の盾も、その後に意識を取り戻し、夢でも見ていたのかといった様子で当たりを見渡した後、定位置についた。

「異議は認めない。そこな吟遊詩人は、運命の神からの神託を預かっており、歴史を書き記す者と名乗った。更に樹族国の転移結界を突破し、尚且、ワシの都合で魔法結界を張ったり解いたりできるこの広間まで転移してきた。樹族国となんの関係もないゴブリンが、果たしてそこまでするかね? 続けなさい、ヤンス殿」

 ぐるぐる眼鏡のゴブリンは丁寧にお辞儀をして、喋りやすくするためか、出っ歯を舌でペロリと舐めた。

「ありがとうございます、シュラス国王陛下。簡単に言いますと、彼の中には双子の弟がいるでヤンス」

 王は頷いて、知識を探っているように見える。

「ふむ。デュアルか。葡萄を噛み砕くと、中からもう一つの皮付き葡萄が現れたりするあれだな。では、料理人のオビオが言っていた黒ローブのカクイとは、弟だったというわけじゃな」

 そういう事か! 俺が視た黒ローブのカクイは別人だったんだ。だから白ローブのカクイを視ても、なんの証拠も得られなかった!

「しかし、それをどうやって証明するね?」

 王様の言う通り。どうやって、カクイの中から悪の弟を引きずり出すんだ?

「簡単でヤンスよ」

 ヤンスさんは、腰袋からマイクを取り出した。

「まさか。あのチート級のマイクパフォーマンスをするのか?」

 俺は思わずそう言って驚いた。

 吟遊詩人は味方を強化する支援効果を発揮する歌や楽器演奏をするらしいが、それはある意味吟遊詩人の、味方の生存確率を上げたい、という気持ちが具現化したものだ。

 だが、ヤンスさんのマイクパフォーマンスは次元が違う。支援どころか、言霊に近い。現実可能な範囲であれば、全てがヤンスさんの言った通りになる。

「おおっと~!」

 始まった!

「カクイの名もなき弟が! 表層に出てきた~~~!」

 デン、デンデン。デン、デンデン。

 マイクパフォーマンスを盛り上げるかのように、低音の効いた太鼓の音が聞こえてきた。

 しかし太鼓を鳴らしている人なんてどこにもいない。

 ヤンスさんが、床を踏み鳴らしているのだ。体重の軽いゴブリンが、床を踏んだところでこんな音はしないので、恐らく何かの魔法の効果なんだろう。

「小賢しいゴブリンめ」

 ヤンスさんを睨みつけるカクイの瞳に闇が灯ると、髪は漆黒に染まり、肌が浅黒くなっていく。それは紛うことなき、闇堕ちした樹族の姿だ。

 傍聴席から、カクイを忌む声が飛び、諸侯たちがワンドを悪の司祭に向ける。

「そうだったな。樹族国では闇堕ちした者は、許されざる者として扱われるのだった。そこのゴブリンよりも扱いが酷い」

 と同時に変化した黒ローブの周囲から、煙が撒き散らされる。

「あぁ~っと、悪の司祭が闇魔法【猛毒の雲】を撒き散らした~!」

 チィと王の盾が舌打ちをする。

「この広間のアンチ魔法効果は、闇魔法に対応していない」

 毒を吸い込む前に決着をつけよう思ったのか、リューロックさんは魔法の金棒を構えて、カクイに突撃する。

「しかし、カクイの毒雲を闇魔女が浄化する~~!」

 ヤンスさんがそう言うと、イグナちゃん動いた。

「スキル! 魔力貫通!【清浄なる空気】!」

 イグナちゃんが、杖を掲げると光魔法が猛毒の雲を浄化した。

「魔封じの間の意味とは・・・?」

 魔法封印の効果がある広間で、簡単に魔法を使うイグナちゃんを見て、ステコさんが困惑している。

「ありがたい!」

 無限のスタミナを持つリューロックさんは、金棒の連撃をカクイに向かって何度も続ける。しかし、モティの使者とカクイがそれを、【岩の壁】や【物理障壁】で邪魔をした。

 【物理障壁】はダメージを反射するので、リューロックさんはその反射を、後ずさって避けた。

「陛下、敵のタイミングで、魔封じを解くのは、お止めてください」

 リューロックさんは眉間に皺を寄せて、王様を睨んだ。

「す、すまん。上手くいかんもんじゃな。ええい、ならば! これより、この広間の魔封じを解く! 誰でも良い! モティのならず者どもを、存分に懲らしめよ!」

「おおっと~! 悪の司祭が【魔法障壁】を唱えた~!」

 チートゴブリンの言葉通り、カクイは詠唱して、魔法を反射する障壁を身に纏った。

「ヤンスさん・・・。一体どっちの味方をしてんだ?」

 俺が思わず言うと、サーカが「いや、寧ろ」と口を挟んできた。

「ヤンスが先に教えてくれなければ、この場にいる者全員が、カクイに魔法を撃って大惨事になっていただろう」

 傍聴席でワンドを構える関係者も、咄嗟に詠唱を止めている。

「誰も迂闊に魔法を撃てなくなったな。ビャクヤ、わりいが前衛に【魔法障壁】を頼む。出番が来た」

 トウスさんが仮面のメイジビャクヤに頼むと「それぐらいの干渉であれば! まぁッ! 良いでしょうッ!」と言って、魔法を前衛になりそうな三人にかけた。

 パワー系がここぞとばかりに、カクイの周りに集まる。リューロックさん、ムダンさん、それにトウスさんだ。

「まずはワシから!」

 少し離れたところで、武器を振り回すムダンさんは、カクイの【物理障壁】を無視して鎖付き鉄球を投げた。

 鉄球はカクイとモティの使者の【物理障壁】を破壊する。しかも、中距離からの攻撃なので反射ダメージをムダンさんが受ける事はない。

「あぁ~っと! 悪の司祭、万事休すか~! 堪らず【闇の雲】を唱えたぁ~!」

 視界を遮る闇を周囲に振りまき、司祭は消える。

「しゃーねぇな。王の盾に、華を持たせてやるか!」

 トウスさんはそう叫んで、闇の雲に突っ込んでいった。

「ずわぁ!」

 闇の雲から、モティの使者が二人、ズタボロになって弾き飛ばされる。鼻の効くトウスさんの爪攻撃を受けたんだろうな。痛そう。

「ダウン~! モティの使者は、戦闘不能~! 闇魔女がまた【清浄なる空気】を唱える~!」

 ヤンスさんの言う通り、イグナちゃんがまた雲を消し去った。

「汚名返上の機会を感謝する、白獅子!」

 魔法の金棒を一回転させてから、突き出した先に、カクイの鳩尾があった。

「ぐふぅ! 何やってんだ・・・。リューロックさんよぉ!」

 ん? カクイからトウスさんの声がする・・・。

 俺は慌てて周囲を見渡した。カクイ、カクイ、カクイ! カクイだらけだ!

「くそ! やられた! カクイの能力が発動したんだ! 後ろ手に縛られているカクイが本物だ! それ以外は攻撃すんな!」

 無詠唱で魔法を唱えられる司祭がこの部屋にいる。やべぇぞ。匂いで相手を判別できるトウスさんは、今の一撃で気絶してしまった。

「いや、【解錠】の魔法で、手首の縄を解いている可能性もある! 誰一人、その場から動くな!」

 サーカが叫ぶと、皆がピタリと止まった。

「転移魔法で逃げた可能性は? サーカ」

「それはないな、オビオ。神託を受けたヤンスや、大魔法使いのビャクヤならまだしも、カクイはそこまでじゃない。結界を突破するのは無理だ」

「そうか・・・」

 焦りが脇の下を湿らせたが、直ぐにナノマシンが汗を吸収する。

「ヤンスさん、『オビオが、カクイを見つけた~』とか言ってくんない?」

「その可能性は、あまりに低過ぎて意味がないでヤンス・・・。神が与えたもう能力は、何者にも効果を発揮するでヤンスよ」

 ヤンスさんのマイクパフォーマンスがいくらチート級とはいえ、可能性が低すぎるんじゃどうしようもないよな・・・。

「イグナちゃん、読心の魔法を・・・」

 イグナちゃんに頼ろうとしたが、ビャクヤがそれを止めた。

「スタァァップ! オビオ殿! 読心の魔法は基本、対一だと思ってくださいッ! 沢山の声を聞くとッ! 闇魔女殿はッ! 発狂しマンスッ!」

「そっか・・・。危うく無理させるところだった。ごめんな、イグナちゃん。じゃあムク! カクイの居場所を教えてくれ! 勘でも何でも良いからさ!」

「わかった!」

 感覚で索敵ができる魔物使いのムクは、暫く目を閉じて当たりを探ったが、肩を落として首を横に振った。

「心を閉じたり、無にする人が多くてわからない。ごめんね、オビオお兄ちゃん」

 小さいカクイ(ムク)の頭を撫でて、俺は更に考えを巡らす。

 俺がカクイだったらどうする? この広間に範囲魔法を放って、混乱させている間に逃げるだろうな。

「・・・しない」

 ん? この声はメリィか? メリィが俺の後ろで目を覚ました。

「大丈夫か? メリィ」

 誰もがお互いを監視する中で、カクイ(メリィ)は輝きの小剣を杖のようにして、立ち上がる。

「カクイを! 逃したりなんかしない!」

「でも能力が発動してんだぞ。どうやって見分けるんだ?」

 生まれ持った能力は、何者にも通用するとヤンスさんが言っていた。

 ということは、あの現人神ヒジリにも通用するって事か。じゃあヒジリがこの場にいても・・・。いや、かの科学者には、優秀なアンドロイドのウメボシがついているから、遺伝子レベルスキャニングとかして簡単に見抜くか・・・。

「もう運命の神には、頼らない!」

 メリィの言葉に、一瞬ヤンスさんが「えっ?」という顔をしたような気がする。

「ウィングの信仰しせし、星のオーガよ! 我に力を貸したまえ!」

 今度は、ビャクヤの仮面が動いた。明らかに怒っている。なんで、そこまで星のオーガを憎むんだよ。

 メリィは、今をもって運命の神から星のオーガに神を変えた。変えるだけの恩恵があるのだろうか?

 彼女が静かに輝きの小剣を掲げると、ヤンスさんがマイクを口元にやって、息を吸い込んだ。

「あぁ~っと・・・」

 ゴブリン詩人の声がなぜか、切ない涙声だった。ついでに覇気がないというか。

 でも今はヤンスさんを気にしている場合じゃない! なんたって、カクイを見つけられるんだからよ!
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