料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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恐怖の対面

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 早朝、ヒジリは脇の下から聞こえるサイレンに驚いてベッドで跳ね起きる。

「何事かね?! ウメボシ!」

 脇の下で寝ていたはずの彼女は、赤い瞳をして怒っていた。

「不法入星者です! マスター!」

 ヒジリはビキニパンツ一枚の姿でベッドから出て欠伸をしてから、部屋の隅で自立しているパワードスーツのもとへと向かった。

「何者だ? 地球にあるデータから、該当者は見つかるか?」

「少々、お待ち下さい」

 改良に改良を重ねたパワードスーツは、ヒジリが近づいただけで、パーツごとにパージして体に密着する。

「マザーコンピューターは一体何をやっている。これで二人目だぞ。以前に来た不法入星者は折良く、リツが倒して強制送還できたから良かったものの。流石に二回目となると、地球のセキリュティシステムに問題があると疑いたくもなる」

「データ照合完了。日本地区の大阪千林に住む料理人見習いの、ミチ・オビオ、現在18歳ですね」

「ん? オビオ?」

 どこかで聞き覚えのある名前だが、最近は内政に忙しかったので、ヒジリは少し前の出来事も忘れがちだった。

「前回同様、ヴィラン遺伝子を隠し持った地球人かもしれません。迎撃に行きますか?」

 ウメボシの提案に、ヒジリは顎を擦って考える。

「ふむ、どこに向かっている?」

「ゴブリン谷を通って、真っ直ぐにゴデの街に向かっております」

「では、その必要はないな。暫く様子を見るとしようか。オビオから目を離すなよ、ウメボシ」

「はい、マスター」



 
 ここゴブリン谷は、現人神を見ようと樹族国からやって来た信者で賑わっている。ゴブリンも道脇に露天を出して一儲けしているようだ。樹族嫌いのゴブリンだが、金が絡むと敵味方関係ないようだ。

「木彫りの現人神様に・・・、安っぽい星型のお守りペンダント。あとは・・・。なんだこりゃ。コケシ?」

 俺は奇妙にデフォルメされたヒジリコケシを指差して、サーカに訊いた。

「し、知らない!」

 何で顔を真赤にしてんだよ。

「おやおや? 彼女にセクハラなんて良くないなぁ? オビオさんよぉ」

 ピーターがニヤニヤしながら、わけのわからん事を言う。

「なんでセクハラなんだよ! ただのコケシだろ!」

「コケシとやらが、なんだか知らないけど、オビオが指差した物は、御婦人方が使う張り型だよ。クキキッ!」

 張り型って、確か男性器に似せた性具の事だっけか。

「ゲェ! まじかよ! これは神様に対して不敬だろ!」

 俺はチラリとムクを見たが、彼女は棒付き飴をトウスさんにねだっていた。トウスさんは父性をくすぐられたのか、ニコニコ顔でそれを彼女に買い与えている。

「ムクに聞かれてなくて良かった・・・。まぁ子宝に恵まれるようにという意味をこめた、お土産だと思っておくよ」

「そういや、ムクはメリィについていかなかったんだな。メリィの精神安定剤みたいな役目だったんだろ?」

 ピーターは今頃になってメリィの心配をしている。

「今朝、お前は寝坊してビャクヤの転移に立ち会わなかったもんな。ビャクヤの闇魔法の中には、精神を一時的に安定させる魔法があるそうな。ビャクヤ曰く、光の中にばかりいるとッ! 眠れなくなってッ! 気が狂いますがッ! 闇は恐怖を感じさせる反面、心の安寧を与える側面もありマンモスッ! って言ってたぞ」

「似てない物真似すんなよ。こう見えて、俺はビャクヤをリスペクトしてんだぞ?」

 驚いた。ローフル・グッドのビャクヤとは属性が真逆のピーターが、まさかのビャクヤ推し。だったらビャクヤが出立する時ぐらい起きてこいよ。

「おーい、トウスさん! 行くよー!」

 飴を嬉しそうに舐めるムクを抱くトウスさんが、変顔をしている事に気がついた。フレーメン反応だ。

「どうしたの? トウスさん」

「いや・・・。ムクが買った飴から、クソの臭いがすんだわ」

 クソの臭いがする飴って、どんな飴だよっ!

「何味を買ったんだ? ムク」

「えーっとね、ヘカティニス味だって!」

 どういう事だってばよ。ヘカティニスって、樹族国の斥候隊や帝国の鉄騎士を、追い返したり倒したりしてきた英雄傭兵だろ? それがクソ味って・・・。

「そ、そっか・・・。臭いはアレだけど、美味しいのか?」

「うん、とっても甘いよ!」

 パーティ内で微妙な空気が流れる中、俺達はさっさとゴデの街門を通り抜けた。

「さて、どうするべきか・・・」

 俺が腕を組んで悩んでいると、サーカが「どうしたの?」と言って、下から顔を覗き込んできた。くそっ! デレてからのサーカは鬼可愛い。

「キリマルの助言通りに、このままヒジリ猊下に会いに行くか、それとも無視してマナの大穴に向かうかを考えていたんだ」

「会いに行くほうがいいんじゃない?」

 そうですか。サーカがそう言うなら行きます。ええ、行きますとも。

「でもさ、この行列に並ぶの、俺は嫌だよ」

 ピーターが言う通り、町中に入った途端に行列ができており、それはヒジリやサヴェリフェ姉妹が住む桃色城まで続いていた。

「確かにこれは時間がかかりそうだな。事後報告でもいいか。よし、大穴へ向かおう。今日中に用事を終わらせよう。おっと、その前に宿屋の確保だな。ムクはそこで待っててくれるかい?」

 飴を舐めていたムクの動きがピタリと止まり、大口を開けて騒ぎ出した。

「ヤダヤダヤダ~! 私も行く~! オビオお兄ちゃんの意地悪~!」

 く、くせぇ! ムクが喚くとウンコ臭がすげぇ! トウスさんが何度も、からえずきをしている。

「でも、マナの大穴は凄い危険だからさ、ムクを守り切る自信が、お兄ちゃんには無いんだ。ごめんな。ここで待っててくれよ~!」

 俺は両手を合わせてムクに頼んだが、彼女はむくれてそっぽを向いている。

「参ったな・・・。まぁ取り敢えず、宿屋を探そう。以前に行ったオーガの酒場はどうかな? そこでいいか? 皆」

 オーガの酒場はヘカティニスの母親が経営している有名な酒場だ。ヒジリとも関わりが深い酒場だけあって、宿泊料金は高い。それでも、聖地巡礼者には人気があるので、泊まれるかどうかはわからない。

「ああ、俺は構わねぇぜ。あそこの料理は、オビオの料理の次くらいに美味いからな」

 トウスさんはいつも俺を持ち上げていい気分にさせてくれる。だから大好きだ。

「じゃあ行きますか」

 俺達は巡礼者や商人や要人が並ぶ列の横を歩いて、オーガの酒場に脚を一歩踏み入れた。

 ――――その途端。酒場の高い天井から、何かが下りてきた。

「どうやって侵入したかはわかりませんが! 堂々とマスターの庭に入ってくるなんて、いい度胸ではありませんか」

 げぇーーー! 球形型の体に一つ目、ピンク色のアンドロイド、ウメボシだぁ! 覚悟はしてたけど、こうしてあからさまに敵意を向けられると、流石にこえぇ!

「この遮蔽フィールドに囲まれた惑星ヒジリに、どうやって侵入したのかね? 地球から惑星ヒジリに転移するには、遮蔽フィールドに空いた穴は限りなく小さいはずだがね。そんなに精度の良い転送装置があるなら、私も見てみたいものだ」

 背後から、シャア・○ズナブルみたいな声が聞こえてきた。

「ま、待ってくれよ! ヒジリ様! オビオは俺の仲間なんだよ! 前にもオビオには会っただろ?」

 ヒジリの顔見知りであるピーターが、人差し指と薬指を折って、三本指を見せて敵意がないことを示す。

「やぁ、ピーター。確かに前にも君たちには会ったが、そこのオビオという地球人は知らないな」

 ああ! そうだった! あの時の俺は死人の顔の皮を被って、ウスノロオーガを演じていたんだった!

「前に来た時はオビオは変装してたし、ウメボシがいなかったから、ヒジリ様は気が付かなかったんだよ!」

「なに?」

 ピーターの説明を聞いたヒジリが、怒気を纏ったような気がする・・・。

「では、君たちは不法入星した犯罪者の片棒を担いでいたわけか」

「何の事?」

 ピーターに地球の事情なんてわかるわけないだろ。馬鹿なのか? ヒジリは。

「マスター。彼らに地球の法律の話をするのはどうかと。この件の問題は、そこのミチ・オビオにあります」

 ウメボシの目は冷たい。明らかに俺がヴィラン遺伝子を持った悪人だと思っているようだ。これまでに最低十回はスキャニングをされた。

「問答無用って雰囲気だな、オビオ。どうする?」

 トウスさんは、俺の前面に立ち、サーカは俺の後方に立った。ピーターはムクの手を掴んで影に潜む。皆、自分が何をすべきかわかっているところが素晴らしい。

「こうなったら仕方ねぇ! 最終奥義を見せてやんよ! 安物だけど、学習能力の高いナノマシンを持つ一般人の底力を舐めるなよ! さぁ刮目しろ! 現人神ヒジリ! そしてウメボシ!」

 俺は「うぉぉぉぉ!」と声を上げて、踏ん張って加速を発動させ、体を青白く発行させた。

「とぅ!」

 俺は目にも留まらぬ速さで跳躍して、オーガの酒場の壁を突き破り、外にいるヒジリに襲いかかった。
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