料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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ヘカティニス

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 何を言っているのかわからないかもしれないが、ヒジリに飛びかかったと思ったら、俺はパンツ一丁で正座をしていた。

 顔もボコボコである。服はなぜかパンチを食らった時にビリビリに破れた。俺の裸なんて、誰得なんだよ。

 すっと頭を下げて、俺は惑星ヒジリの主に謝る。

「襲いかかって、すんませんでしたぁ」

 くそっ! 愛しいサーカの前で、俺はイケメンに負けたイキリ三太郎(イキリ三太郎って誰だよッ! とセルフつっこみ)みたいなシチュエーションになっているじゃないか。

「あまり私を舐めないほうが良い。本業は科学者だが、格闘術にも自信がある」

 そのシャアみたいな声やめろ。バンダイに怒られるぞ。

「マスターのそれは、通信教育で習った格闘術ですが」

「うるさい。威厳が無くなるだろう。黙っていたまえ、ウメボシ」

 今どき通信教育ってなんだよ。ボランティアポイント払って、頭の中に格闘術をダウンロードすればいいだけだろ。

 でも紙媒体で知識詰め込んで、この強さって事は、やはりヒジリは超人なんだな。

「マスター。彼は隠れヴィランではありませんでした。恐らくですが、我々と同じく転移事故でやって来たのだと思われます」

 お、ウメボシは助け舟を出してくれているのか?

「だとしてもだ、ウメボシ。惑星間法や移民星法の下、彼は重罪人。そしてこの星の主である私には、裁量権がある」

 くそ頑固科学者め!

「カプリコン! ミチ・オビオを地球に送還しろ。後の裁定はマザーコンピューターに任せる」

 ああ、最悪だ。なんの言い訳もできないまま、俺は地球に帰されるのか。

「待って下さい! ヒジリ様!」

 サーカが俺の横で同じく土下座した。

 プライドの高いサーカまでが、俺のために・・・。目頭が熱くなってきた。上手く魔本のしおりの話をしてくれよ。どうもヒジリは俺の話は聞いてくれなさそうだからよ。

「私は! 私はオビオを愛しているんです! オビオがいなくなったら、寂しさで死んでしまいます!」

 えっ! そっち!? 同情作戦?

 俺達を遠目で見ている野次馬がざわめく。その中のゴブリンの声が耳に入ってきた。

「騎士が、料理人のオーガを好きになるなんてあるのキャ?」

 力こそ全てという考えがまだ残る闇側の国では、戦闘職の者が生産職の者を好きになる事は、ないのかもしれない。

「ああ、なんと痛ましい事か。誇り高き樹族の騎士が、色恋沙汰で土下座など・・・」

 聖地巡礼に来ている樹族が、白々しく額に手を当てて、目を閉じている。

「マスターーー!」

 急にウメボシが興奮して、主の周りを飛び回り始めた。

「わわわ、私からもお願いします。二人の恋を成就させてやって下さい!」

 なんかウメボシの様子がおかしい。

「貴方達は本当に恋人同士なのですか? どうやって知り合ったのです? いつから恋心が芽生えましたか? もう合体は済ませましたか? ハァハァ」

 かの一つ目アンドロイドさんは、こういった話に弱いようだ。目がめっちゃキラキラしている。

 これはサーカの同情作戦が功を奏した、と言えるのかもしれない。

「駄目だ。カプリコン! 早くオビオを転送しろ!」

 かー! このバカチンの冷血人間ヒジリが!

「カプリコンはんは、メンテナンスで地球に帰ってまっせ」

 突然、辺りにダミ声が響く。宇宙船の声がダダ漏れじゃねぇか。

「なに? ならば君は誰だ?」

「カプリコンはんの代わりにやってきた、サジタリウスの乗組員、カエールやけど?」

 カプリコンは一世代前の宇宙船。更にその前の世代の宇宙船がサジタリウス。

 どこからか聞こえる声に、野次馬達は慄いている。別の神の声だとか、悪魔の声だとか言って。

「むむ。あの悪名高きサジタリウスか・・・。宇宙船と一体化したAIではなく、三人のアンドロイドが操作するという・・・。まぁいい。オビオを早く地球に送還したまえ」

 ヒジリは眉根を寄せて、サジタリウスに嫌悪感を示している。そんなに悪名高い宇宙船なのか?

「嫌や、めんどくさい。カプリコンはんと違って、ワイらの船は転送させるのに、色々と手間がかかるんや」

 えーーー! アンドロイドが人間に逆らってるぅーー!

「君では話にならんな。他の二人はどうしている? イッヌーとキーリンは。カエールは下がっていたまえ」

「二人は故郷のフィッレンツェに帰っとるわ。ほなな。通信終わり!」

 勝手に通信を終えたカエールの塩対応に、ヒジリは唖然としている。現人神がこんな顔をするのを、俺は初めて見たかもしれない。

「なん・・・なのだ?! マザーはこんな非常識なアンドロイドを採用しているのか・・・」

「あー、これは最低でも、カプリコン様が帰ってくるまで、二人を引き離す事なんてできませんね? マスター? うふふ、ふひっ!」

 ひとまず助かったのか? これで魔本のしおりの説明ぐらいはできるだろう。

「では仕方がない。砦の戦士達、バトルコック団を捕らえて、牢屋に入れておけ!」

 そんな~! 話ぐらい聞いてくださいよぉ~!

「へ~い!」

 オーガの酒場から酔っ払ったオーガがゾロゾロと出てきた。

 これがかの有名な砦の戦士達か・・・。帝国の鉄騎士と対等に渡り合うという・・・。

「バトルコック団ねえ。強いつっても樹族国での話だろ? じゃあザック一人で十分だな」

 ベテランの戦士が、俺を一目見て直ぐに酒場に戻っていった。

 バトルコック団は砦の戦士一人で十分だとでも言うのか? 舐められたものだなぁ。

「おーい! ザック! ザックはどこだ!」

 酒場の中から、ザックを探すベテラン戦士の声がする。

「ザックは下痢でトイレに篭りっきりでさぁ、スカーの旦那!」

「あいつは酒飲むと、いっつも下痢してんなぁ・・・。誰かバトルコック団を取り押さえて、牢屋にぶち込んでおけ」

「だったら、オデが行く」

 ん? 酒場から女の声がしたぞ?

「いや、ヘカちゃんはいいよ。お前さんは砦の戦士じゃないし。ミカ母ちゃんの手伝いをしててよ」

 スカーと呼ばれたオーガが、軽い口調でヘカちゃんの申し出を断った。

 ん? ヘカちゃんって、もしかして英雄傭兵ヘカティニスか? 冗談だろ?

「いや、最近体が鈍ってるから運動するのに丁度いい。お前ら砦の戦士は相手の力量すら見抜けないアホだ。バトルコック団は、ザック一人でどうにかなる相手じゃないど」

 酒場から、長い銀髪に、秋の小麦のような瞳色のオーガが出てきた。彼女がヘカティニスだろう。

「チッ! ヘカティニスかよ」

 トウスさんが舌打ちをして、ヘカティニスの後から嫌そうな顔をして出てきた。

「噂は何度も聞いているけど、そんなに強いの?」

 俺はトウスさんに近づいて、ヘカティニスの事をこっそりと訊く。

「力と体力と素早さに秀でている英雄レベルの戦士が、強くないわけねぇだろ」

 だよね。

「特にあの魔剣には気をつけろ、オビオ。あれが有名な魔剣へし折りだ」

 小豆バーみたいな無骨な剣。叩き潰すのに特化している。別名ジャイアントバスターだったか? 大きい敵に対して有効なんだとか。当たった相手は確実に骨が折れる。

「ヒジリ聖下。俺たちにはどうしても譲れない目的があります。もし、ヘカティニスに勝ったら、話だけでも聞いていただけないでしょうか?」

 俺がじっとヒジリを見つめていると、ウメボシも潤んだ目で主を見ていた。

「ウメボシからもお願いします。私は二人の恋の行方が知りたいのです、マスター」

「ううむ。まぁ、いいだろう。とはいえ、ヘカティニスは強いぞ。黒竜でさえ、ヘカティニスの攻撃を嫌って、ずっと動きを封じていたくらいだからな」

「ま、まじか・・・」

 ごくり・・・。古竜や金竜の次に強い黒竜も恐れるヘカティニス。果たして俺らは彼女に勝てるのだろうか?
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