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サーカの活躍は尻穴に消える
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「当たらなければどうということはない」
とか格好つけて言いたかったが、どでかい得物を持ってこちらに突っ走ってくるヘカティニスを見て、俺の脚は竦みそうになった。
「狙いはサーカだ。真っ先にヒーラーやスペルキャスターを狙うのが戦士の定石! 彼女を守れ! オビオ!」
オビオ! とか言われても、当たれば必ず骨が折れる魔剣を前に、どうやってサーカを守ればいいんだ。ってか、あっさり横をすり抜けられてんじゃねぇぞ、トウスさん。
サーカは俺を信頼しているのか、一気に決着をつけるための大技魔法を詠唱している。
「バトルコック団も大した事ねぇなぁ」
野次馬の中のオークがそう喚く。お前の顔覚えたからな。まぁオークの顔は見分けがつかねぇけど。
「加速!!」
さっきヒジリにやってみた加速。現人神は動体視力が良すぎて効果がなかったけど、ヘカティニスには上手くいくんじゃないかな?
俺は即座に動いて、ハリケーンミキサーを仕掛ける時のバッファローマンのような迫力で走ってくるヘカティニスの横に並走し、鉄のお玉で籠手を決めた。
「しめた! やっぱり俺の速さについて来れるのは、現人神だけだ!」
喜びたくもなる。魔剣へし折りを両手持ちする彼女の左手が、ダラリと垂れたのだから。
「なんだぁ?」
急に左手に力が入らなくなったヘカティニスは、原因を探ろうと動きを止めるかと思いきや――――。
右手だけで、剣とは名ばかりの無骨な殴打武器を薙ぎ払った。多分本能的にそうしたのだと思う。
油断していた俺だが、バックステップでそれを躱す。
いや、躱したつもりだったが、ヘカティニスが俺の方を向いた為、剣のリーチが伸びた。咄嗟に両腕でガードしたが、それが不味かった。
「うわぁぁぁ!!」
剣はかすった程度だったのに、両腕の骨が激痛とともにベキベキと音を立てて折れた。
「オビオ!」
標的を俺に変えたヘカティニスと俺の間にトウスさんが割って入る。魔剣必中で英雄傭兵の上段切りを受け止めた。
「大丈夫か? オビオ!」
苦痛で意識が飛びそうになったが、トウスさんの声で目の焦点が合った。
「あぶねぇ。戦士の指輪を付けてるのに、痛みで失神しそうになった。でも大丈夫だ。傷は回復した」
俺は手を握ったり開いたりして確認すると、お玉でヘカティニスの顎を狙う。
――――カスッ!
まぁ避けるだろうな。お玉は英雄傭兵の顎先をちょっと叩いただけだった。
しかし、ヘカティニスは大きく跳躍して後退した。
「やるじゃねぇか、オビオ。見ろ、ヘカティニスが酔っ払ったみたいにふらついている。ありゃ、脳震盪を起こしてるぞ」
このまま一気に攻めるかどうか、決めあぐねているとウメボシの声が聞こえてきた。
「彼がマスターに襲いかかった時にも思ったのですが、安物のナノマシンで、あそこまで動けるなんて、ウメボシには到底思えないのです」
「ふむ。確かに興味深いな。オビオのナノマシンのタイプは?」
「進化型です。我々のようにアップデートを必要としない代わりに学習をしていきますが、その性能は低く成長も著しく遅いです」
「マナが関係しているのか? 再生能力も異常だ。研究材料が一つ増えたな、ウメボシ」
俺に対するヒジリとウメボシの目つきが変わったような気がする。あれは、探求者のそれだ。知識のためなら手段を選ばない冷徹な目。
ブルッと身震いして、俺はトウスさんと共にヘカティニスを追撃する事にした。
白い毛皮付きの革鎧を着た、フワッフワのヘカティニスは頭を振って、脳震盪と戦っている。
「ヒャッハー! チャーーンス!」
三下小物キャラみたいな声を上げて、俺は跳躍し、ヘカティニスの頭を狙う。
トウスさんは地面を滑空するようにして、ヘカティニスに近づき、穿孔一突きという必殺技を放った。
「竜巻!」
英雄傭兵が俺たちの気配に気づいて、魔剣を薙ぎ払うと、魔法の【竜巻】とは別の―――、技としての竜巻が発生した。
「ピーンチ!」
チャーンスとか言っていた、さっきまでのイキリ顔が俺から消える。
まぁ俺はいい。俺は直ぐに再生出来るからな。でもトウスさんは別だ。メリィやウィングがいない今、バトルコック団のヒーラーは実質俺だ。俺の再生パンじゃ、骨折までは治せない。
「クソッタレー!」
竜巻が俺たちに届く前に、跳躍を止めて地面に急降下して、咄嗟にトウスさんを抱え込む。
トウスさんは必殺技の途中だったので、その攻撃を俺は腹で受けた。背中から剣が突き出ているのが解る。
「オ、オビオ?!」
動揺するトウスさんと共に俺は、空中に舞い上がり竜巻の中でぐるぐる回って地面に叩きつけられた。
「ゴハァ!」
全身の骨という骨が砕ける。そして穴という穴から血が吹き出す。勿論、刺された傷からも。
「オビオォ!」
自分を庇って瀕死な俺を見て、トウスさんは涙目だ。良かった、トウスさんは無傷だ。
「勝負あったな」
ヒジリの声が聞こえてきた。奴は試合中止の合図を出そうと、手をあげようとしている。
「ま、待った! まだ終わっちゃいねぇ!」
俺は血を吐きながら立ち上がろうとした。頑張れ、俺の膝! ガクガクすんな!
――――ピー! ピー!
これだけのダメージを受けたからか、サブAIが頭の中で警報を鳴らし始める。
この星に来てから全く動作しなかったはずのAIが、緊急事態に備え、俺の体を支配しようとしているのだ。いや、多分カクイ戦でもAIの乗っ取りは発動したと思うから、二度目か?
駄目だ。発動させたら恐らく、ヘカティニスを殺してしまう。そうなったらヒジリが大激怒するだろう。地球の蘇生技術で、いくら生き返らせる事ができるとはいえ、殺してしまった相手はオリジナルじゃなくなる。それはもう、全く同じ、別の誰かになるのだ。
「再生に全力を・・・」
俺はサブAIに命令すると、警報が鳴り止んだ。まだ意識を保てて良かったぜ。
「いや、この勝負はもう・・・」
ヒジリがそう言って、サーカの前に立って試合を終わらせようとしたその時。
「トウス! オビオを抱えてその場から離れろ!」
サーカがそう喚いた瞬間、ウメボシが叫んだ。
「マスター! 上に跳躍して下さい! サーカ・カズンから荷電粒子砲の放射前と同等の性質を感じます!」
「なに?! 物理系魔法か! しかし、それでは国民に当たる可能性がある。サーカへの当身も間に合いそうもない。・・・ウメボシ! フォースシールドを最大展開!」
ヒジリの命令でウメボシは街の通りの道幅いっぱい――――、サーカの数メートル手前にフォースシールドを張る。
その前で、装甲を浮かせて、サーカの放つ攻撃魔法を反射させるつもりでいるのか、現人神は大きく手を広げて大の字になった。
俺がトウスさんに抱えられて、建物の屋上に着地して直ぐに、サーカは魔法を発動させる。
――――シュボボボボ!! バリバリバリ!
「な、なんだ? あんな派手な魔法は見たことねぇぞ」
野太いレーザービームのような魔法が通り全体を飲み込もうとするが、ヒジリがその身に受けて遮っている。
「いや、いくら何でも無理だって!」
俺は、あんなに憎らしく思っていたヒジリの心配をしていた。
物理魔法で代表的なのは【核爆発】だ。あれは爆発と放射線の影響をもろに受ける。サーカの魔法が、そういった類の物ではなく、純粋にエネルギー系の魔法でありますようにと願った。
パワードスーツからパージした装甲が、ヒジリの前面で魔法を防いでいるが、それらは直ぐに爆発してビームを反射できなくなる。
「チィ! やってくれる!」
ヒジリは限界まで謎の魔法を身に受けて、ビームが細くなるのを待ち、後はウメボシのフォースフィールドに任せて、横に回避した。
「頼んだぞ! ウメボシ!」
「かしこまり!」
ンギギギギと呻きながら、ウメボシフォースシールドを維持して、サーカの魔法に抗っている。
「なにくそ、えーい!」
真面目そうだが、どこか愛嬌のあるウメボシの張り切った「えーい!」という声とは逆に、ビームはフォースフィールドを簡単に突破してしまった。
「幾らか細くなったが・・・。ヘカ! 魔剣を盾にして受け止めたまえ!」
真っ直ぐにヘカティニスに向かうビームを見て、彼女はヒジリの言う通り、魔剣を盾にして跪いた。
いくら魔剣でも、受け止められるはずがない。それとも魔剣へし折りには、そういった特殊効果があるのか? そう言えば、どっかのドワーフが特殊効果が複数ある武器を所有していると聞いたことがあったな。誰だったっけ。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
俺は今度はヘカティニスが心配になってきた。心の中で「頑張れ、ヘカちゃん!」と馴れ馴れしく応援する。
彼女の後ろには野次馬が沢山いる。中には怯えて腰の抜けた子供たちもいた。
「早く逃げろ!」
俺はそう言って野次馬に避難を呼びかけた。俺の呼びかけに応えるかのように、彼らは避難していく。これで一安心だ。
「ドッセーイ!」
ヘカティニスがサーカのビームを魔剣で受け止めて気合を入れている。恐らくレジスト率を高める掛け声かなんかだと思うが、物理魔法にはあまり意味がないと思うけど。
しかし、奇跡は起きた!
魔剣へし折りが青い光を纏っている! その光に吸い込まれるようにして、ビームが徐々に小さくなっていった。
「おいおい・・・。あれはナノマシンの発光現象じゃないか」
あの魔剣はナノマシンと魔法を融合させた物なのか? ヒジリが作ったのだろうか?
「どぅはは! この勝負、どうやだ、おでの勝ちだな!」
ヘカティニスが笑うのも解る。ビームが跡形もなく消えたからだ。
「なんだろう。悔しいけど、被害が出なくて良かったよ。それにしてもスゲェな、サーカは」
俺は完全に敗北を認めていた。だが、現人神や英雄傭兵をここまで追いやったサーカが、実に凄く誇らしく思えてきた。
爽やかな敗北。こんな気持ちのいい戦いは初めてかもしれない。
「どぉッ!!」
ん? 俺が万感の思いで余韻に浸っていると、ヘカティニスの悲鳴が聞こえてきた。
「クキキキキッ! 油断したな! ヘカティニスさんよぉ!」
ゲェーーー! ピーターだ! 奴がヘカティニスの影から現れて、彼女の尻に張り型をぶっ刺してるぅ!! いつの間に、そのお土産を買ってたんだよーー!
尻穴を押さえてのたうち回るヘカティニス。その彼女を追いかけて、ムクが両手を顔の横に大きく広げ、息を吐きかけていた。
「口臭波! 口臭波!」
そんな技はない。どうせ、ピーターが教えたんだろ・・・。やめろよぉ、ムク。お前は、いつまでも純真無垢なままでいてくれぇ!
「く、くせぇ!」
鼻と尻を押さえて、ヘカティニスは失神した。
「カーッカッカ! お前の負けだ! ヘカティニス! そして! バトルコック団の勝利だぁぁ!!」
アシュラマンの物真似か? ピーターの勝利宣言で、野次馬たちがざわめく。
「バトルコック団が勝ちやがった・・・。そういや、あいつら冒険者だったんだわ。どんな手を使ってでも勝つのが冒険者。・・・納得いかねぇがよ、仕方ねぇ」
オーガが不満そうに言う。
「ああ、なんて破廉恥な勝ち方なのかしら! 貴方は樹族国に恥をかかせたのよ!」
地走り族の修道女が、ピーターを睨みつけているが、ピーターは知った事かと、アホ面で修道女に返した。
「おい! ヘカちゃんが負けたぞ!」
騒ぎを聞きつけて、酒場からゾロゾロと飲んだくれの砦の戦士が出てくる。
「誰だぁ! ヘカちゃんの尻に、張り型突っ込んだ奴はぁ!」
ヘカティニスの尻穴処女を奪ったピーターは、すっと影に溶け込んでいなくなった。ムクを残して。
「嬢ちゃんがやったのか? 確か嬢ちゃんも、バトルコック団の一員だったよなぁ?」
名前の通り、顔に傷があるスカーは格闘家なのか、ムクの前で拳を構えてステップを踏み始めた。
「うわぁぁ! ムクが危ない!」
俺はトウスさんの肩を借りてムクの前に着地し、ムクを抱き寄せた。
「ムクがやったんじゃない! それに勝負はついただろ! 俺らバトルコック団の勝ちだ!」
「うるせぇ!! 俺らのアイドルにこんな事しやがって!」
スカーにネックハンギングされて、俺は持ち上げられた。トウスさんは、他の砦の戦士を威嚇して近づけないようにしている。
アイドル・・・。確かに童顔たぬき顔でヘカティニスは可愛いけども。こんなクソ強いアイドルがいてたまるか!
「待て、スカー」
おお、ヒジリ・・・様! 救いの手を差し伸べて下さるのか! ヒジリ聖下から神味を感じる。
「カキシャラ、フラブシャラァァァ!!」
えっ! ヒジリ、めっちゃブチ切れてるやん! 猫みたいなキレ方してるやん! そういや、この人、怒りの沸点がおかしい狂気の科学者だった!
「よくもヘカをこんな目に・・・。彼女はまだ処女なんだぞ! バトルコック団のリーダーには、責任を取ってもらわないとな」
スカーに首を吊り上げられながら、拳をゴキリと鳴らすヒジリを見て、俺は喉をゴクリと鳴らすしかなかった。
とか格好つけて言いたかったが、どでかい得物を持ってこちらに突っ走ってくるヘカティニスを見て、俺の脚は竦みそうになった。
「狙いはサーカだ。真っ先にヒーラーやスペルキャスターを狙うのが戦士の定石! 彼女を守れ! オビオ!」
オビオ! とか言われても、当たれば必ず骨が折れる魔剣を前に、どうやってサーカを守ればいいんだ。ってか、あっさり横をすり抜けられてんじゃねぇぞ、トウスさん。
サーカは俺を信頼しているのか、一気に決着をつけるための大技魔法を詠唱している。
「バトルコック団も大した事ねぇなぁ」
野次馬の中のオークがそう喚く。お前の顔覚えたからな。まぁオークの顔は見分けがつかねぇけど。
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「しめた! やっぱり俺の速さについて来れるのは、現人神だけだ!」
喜びたくもなる。魔剣へし折りを両手持ちする彼女の左手が、ダラリと垂れたのだから。
「なんだぁ?」
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右手だけで、剣とは名ばかりの無骨な殴打武器を薙ぎ払った。多分本能的にそうしたのだと思う。
油断していた俺だが、バックステップでそれを躱す。
いや、躱したつもりだったが、ヘカティニスが俺の方を向いた為、剣のリーチが伸びた。咄嗟に両腕でガードしたが、それが不味かった。
「うわぁぁぁ!!」
剣はかすった程度だったのに、両腕の骨が激痛とともにベキベキと音を立てて折れた。
「オビオ!」
標的を俺に変えたヘカティニスと俺の間にトウスさんが割って入る。魔剣必中で英雄傭兵の上段切りを受け止めた。
「大丈夫か? オビオ!」
苦痛で意識が飛びそうになったが、トウスさんの声で目の焦点が合った。
「あぶねぇ。戦士の指輪を付けてるのに、痛みで失神しそうになった。でも大丈夫だ。傷は回復した」
俺は手を握ったり開いたりして確認すると、お玉でヘカティニスの顎を狙う。
――――カスッ!
まぁ避けるだろうな。お玉は英雄傭兵の顎先をちょっと叩いただけだった。
しかし、ヘカティニスは大きく跳躍して後退した。
「やるじゃねぇか、オビオ。見ろ、ヘカティニスが酔っ払ったみたいにふらついている。ありゃ、脳震盪を起こしてるぞ」
このまま一気に攻めるかどうか、決めあぐねているとウメボシの声が聞こえてきた。
「彼がマスターに襲いかかった時にも思ったのですが、安物のナノマシンで、あそこまで動けるなんて、ウメボシには到底思えないのです」
「ふむ。確かに興味深いな。オビオのナノマシンのタイプは?」
「進化型です。我々のようにアップデートを必要としない代わりに学習をしていきますが、その性能は低く成長も著しく遅いです」
「マナが関係しているのか? 再生能力も異常だ。研究材料が一つ増えたな、ウメボシ」
俺に対するヒジリとウメボシの目つきが変わったような気がする。あれは、探求者のそれだ。知識のためなら手段を選ばない冷徹な目。
ブルッと身震いして、俺はトウスさんと共にヘカティニスを追撃する事にした。
白い毛皮付きの革鎧を着た、フワッフワのヘカティニスは頭を振って、脳震盪と戦っている。
「ヒャッハー! チャーーンス!」
三下小物キャラみたいな声を上げて、俺は跳躍し、ヘカティニスの頭を狙う。
トウスさんは地面を滑空するようにして、ヘカティニスに近づき、穿孔一突きという必殺技を放った。
「竜巻!」
英雄傭兵が俺たちの気配に気づいて、魔剣を薙ぎ払うと、魔法の【竜巻】とは別の―――、技としての竜巻が発生した。
「ピーンチ!」
チャーンスとか言っていた、さっきまでのイキリ顔が俺から消える。
まぁ俺はいい。俺は直ぐに再生出来るからな。でもトウスさんは別だ。メリィやウィングがいない今、バトルコック団のヒーラーは実質俺だ。俺の再生パンじゃ、骨折までは治せない。
「クソッタレー!」
竜巻が俺たちに届く前に、跳躍を止めて地面に急降下して、咄嗟にトウスさんを抱え込む。
トウスさんは必殺技の途中だったので、その攻撃を俺は腹で受けた。背中から剣が突き出ているのが解る。
「オ、オビオ?!」
動揺するトウスさんと共に俺は、空中に舞い上がり竜巻の中でぐるぐる回って地面に叩きつけられた。
「ゴハァ!」
全身の骨という骨が砕ける。そして穴という穴から血が吹き出す。勿論、刺された傷からも。
「オビオォ!」
自分を庇って瀕死な俺を見て、トウスさんは涙目だ。良かった、トウスさんは無傷だ。
「勝負あったな」
ヒジリの声が聞こえてきた。奴は試合中止の合図を出そうと、手をあげようとしている。
「ま、待った! まだ終わっちゃいねぇ!」
俺は血を吐きながら立ち上がろうとした。頑張れ、俺の膝! ガクガクすんな!
――――ピー! ピー!
これだけのダメージを受けたからか、サブAIが頭の中で警報を鳴らし始める。
この星に来てから全く動作しなかったはずのAIが、緊急事態に備え、俺の体を支配しようとしているのだ。いや、多分カクイ戦でもAIの乗っ取りは発動したと思うから、二度目か?
駄目だ。発動させたら恐らく、ヘカティニスを殺してしまう。そうなったらヒジリが大激怒するだろう。地球の蘇生技術で、いくら生き返らせる事ができるとはいえ、殺してしまった相手はオリジナルじゃなくなる。それはもう、全く同じ、別の誰かになるのだ。
「再生に全力を・・・」
俺はサブAIに命令すると、警報が鳴り止んだ。まだ意識を保てて良かったぜ。
「いや、この勝負はもう・・・」
ヒジリがそう言って、サーカの前に立って試合を終わらせようとしたその時。
「トウス! オビオを抱えてその場から離れろ!」
サーカがそう喚いた瞬間、ウメボシが叫んだ。
「マスター! 上に跳躍して下さい! サーカ・カズンから荷電粒子砲の放射前と同等の性質を感じます!」
「なに?! 物理系魔法か! しかし、それでは国民に当たる可能性がある。サーカへの当身も間に合いそうもない。・・・ウメボシ! フォースシールドを最大展開!」
ヒジリの命令でウメボシは街の通りの道幅いっぱい――――、サーカの数メートル手前にフォースシールドを張る。
その前で、装甲を浮かせて、サーカの放つ攻撃魔法を反射させるつもりでいるのか、現人神は大きく手を広げて大の字になった。
俺がトウスさんに抱えられて、建物の屋上に着地して直ぐに、サーカは魔法を発動させる。
――――シュボボボボ!! バリバリバリ!
「な、なんだ? あんな派手な魔法は見たことねぇぞ」
野太いレーザービームのような魔法が通り全体を飲み込もうとするが、ヒジリがその身に受けて遮っている。
「いや、いくら何でも無理だって!」
俺は、あんなに憎らしく思っていたヒジリの心配をしていた。
物理魔法で代表的なのは【核爆発】だ。あれは爆発と放射線の影響をもろに受ける。サーカの魔法が、そういった類の物ではなく、純粋にエネルギー系の魔法でありますようにと願った。
パワードスーツからパージした装甲が、ヒジリの前面で魔法を防いでいるが、それらは直ぐに爆発してビームを反射できなくなる。
「チィ! やってくれる!」
ヒジリは限界まで謎の魔法を身に受けて、ビームが細くなるのを待ち、後はウメボシのフォースフィールドに任せて、横に回避した。
「頼んだぞ! ウメボシ!」
「かしこまり!」
ンギギギギと呻きながら、ウメボシフォースシールドを維持して、サーカの魔法に抗っている。
「なにくそ、えーい!」
真面目そうだが、どこか愛嬌のあるウメボシの張り切った「えーい!」という声とは逆に、ビームはフォースフィールドを簡単に突破してしまった。
「幾らか細くなったが・・・。ヘカ! 魔剣を盾にして受け止めたまえ!」
真っ直ぐにヘカティニスに向かうビームを見て、彼女はヒジリの言う通り、魔剣を盾にして跪いた。
いくら魔剣でも、受け止められるはずがない。それとも魔剣へし折りには、そういった特殊効果があるのか? そう言えば、どっかのドワーフが特殊効果が複数ある武器を所有していると聞いたことがあったな。誰だったっけ。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
俺は今度はヘカティニスが心配になってきた。心の中で「頑張れ、ヘカちゃん!」と馴れ馴れしく応援する。
彼女の後ろには野次馬が沢山いる。中には怯えて腰の抜けた子供たちもいた。
「早く逃げろ!」
俺はそう言って野次馬に避難を呼びかけた。俺の呼びかけに応えるかのように、彼らは避難していく。これで一安心だ。
「ドッセーイ!」
ヘカティニスがサーカのビームを魔剣で受け止めて気合を入れている。恐らくレジスト率を高める掛け声かなんかだと思うが、物理魔法にはあまり意味がないと思うけど。
しかし、奇跡は起きた!
魔剣へし折りが青い光を纏っている! その光に吸い込まれるようにして、ビームが徐々に小さくなっていった。
「おいおい・・・。あれはナノマシンの発光現象じゃないか」
あの魔剣はナノマシンと魔法を融合させた物なのか? ヒジリが作ったのだろうか?
「どぅはは! この勝負、どうやだ、おでの勝ちだな!」
ヘカティニスが笑うのも解る。ビームが跡形もなく消えたからだ。
「なんだろう。悔しいけど、被害が出なくて良かったよ。それにしてもスゲェな、サーカは」
俺は完全に敗北を認めていた。だが、現人神や英雄傭兵をここまで追いやったサーカが、実に凄く誇らしく思えてきた。
爽やかな敗北。こんな気持ちのいい戦いは初めてかもしれない。
「どぉッ!!」
ん? 俺が万感の思いで余韻に浸っていると、ヘカティニスの悲鳴が聞こえてきた。
「クキキキキッ! 油断したな! ヘカティニスさんよぉ!」
ゲェーーー! ピーターだ! 奴がヘカティニスの影から現れて、彼女の尻に張り型をぶっ刺してるぅ!! いつの間に、そのお土産を買ってたんだよーー!
尻穴を押さえてのたうち回るヘカティニス。その彼女を追いかけて、ムクが両手を顔の横に大きく広げ、息を吐きかけていた。
「口臭波! 口臭波!」
そんな技はない。どうせ、ピーターが教えたんだろ・・・。やめろよぉ、ムク。お前は、いつまでも純真無垢なままでいてくれぇ!
「く、くせぇ!」
鼻と尻を押さえて、ヘカティニスは失神した。
「カーッカッカ! お前の負けだ! ヘカティニス! そして! バトルコック団の勝利だぁぁ!!」
アシュラマンの物真似か? ピーターの勝利宣言で、野次馬たちがざわめく。
「バトルコック団が勝ちやがった・・・。そういや、あいつら冒険者だったんだわ。どんな手を使ってでも勝つのが冒険者。・・・納得いかねぇがよ、仕方ねぇ」
オーガが不満そうに言う。
「ああ、なんて破廉恥な勝ち方なのかしら! 貴方は樹族国に恥をかかせたのよ!」
地走り族の修道女が、ピーターを睨みつけているが、ピーターは知った事かと、アホ面で修道女に返した。
「おい! ヘカちゃんが負けたぞ!」
騒ぎを聞きつけて、酒場からゾロゾロと飲んだくれの砦の戦士が出てくる。
「誰だぁ! ヘカちゃんの尻に、張り型突っ込んだ奴はぁ!」
ヘカティニスの尻穴処女を奪ったピーターは、すっと影に溶け込んでいなくなった。ムクを残して。
「嬢ちゃんがやったのか? 確か嬢ちゃんも、バトルコック団の一員だったよなぁ?」
名前の通り、顔に傷があるスカーは格闘家なのか、ムクの前で拳を構えてステップを踏み始めた。
「うわぁぁ! ムクが危ない!」
俺はトウスさんの肩を借りてムクの前に着地し、ムクを抱き寄せた。
「ムクがやったんじゃない! それに勝負はついただろ! 俺らバトルコック団の勝ちだ!」
「うるせぇ!! 俺らのアイドルにこんな事しやがって!」
スカーにネックハンギングされて、俺は持ち上げられた。トウスさんは、他の砦の戦士を威嚇して近づけないようにしている。
アイドル・・・。確かに童顔たぬき顔でヘカティニスは可愛いけども。こんなクソ強いアイドルがいてたまるか!
「待て、スカー」
おお、ヒジリ・・・様! 救いの手を差し伸べて下さるのか! ヒジリ聖下から神味を感じる。
「カキシャラ、フラブシャラァァァ!!」
えっ! ヒジリ、めっちゃブチ切れてるやん! 猫みたいなキレ方してるやん! そういや、この人、怒りの沸点がおかしい狂気の科学者だった!
「よくもヘカをこんな目に・・・。彼女はまだ処女なんだぞ! バトルコック団のリーダーには、責任を取ってもらわないとな」
スカーに首を吊り上げられながら、拳をゴキリと鳴らすヒジリを見て、俺は喉をゴクリと鳴らすしかなかった。
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たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
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フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
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S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
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平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
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第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
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