料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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逃げて生きてきた

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 キリマルは霊山オゴソの頂きから、ヒジリたちの住む桃色城を遠視で見ているが、自分の見ているものがカオス過ぎて混乱していた。

「なぁ、ビャクヤ。オビオは今、何をしている思う?」

 霊山でマナを補充するビャクヤは、座禅を組んだまま面倒くさそうに片目を開けて、下僕兼ご先祖様を見る。

「料理でしょうッ!」

 時空も次元も超越する事のできる悪魔は、ビャクヤのありきたりな返事に欠伸をする。

「あばば~はぁ。あいつは今、上半身裸でヒジリと殴り合っているぜ?」

「へ?」

 ビャクヤは少し腰を浮かせて驚く。

「ピーターは、アマリのを持ったヘカティニスに追い回されつつ、時々反撃している」

「ふぁぁ? ワイルダーを持ったヘカさんに反撃ですと?」

 右手を仮面に添え、左手を天高く上げ、腰を曲げたビャクヤは更に驚く事になる。

「トウバの息子は、鉄騎士団団長リツ・フーリーの鉄壁の防御を崩して、よろめかせてやがる」

「えぇ!? 神殺しのリツさんをよろめかせた?!」

 ブリッジをして、股間を強調する主を見たキリマルは、そのもっこりに向けて超高速の石つぶてを投げたが、あっさりと回避されてしまった。

「サーカ・カズンはウメボシの防御シールドを魔法で破りやがった。ムクはタスネを師匠にして、魔物使いとしての修行を受けている」

「はぁぁ?」

 ビャクヤはキリマルが嘘をついて、暇つぶしをしているのだと最初は疑った。

「嘘はよくありませんよッ! ムラサメ・キリマルッ!」

「フルネームで呼ぶな」

「その話が本当なら、バトルコック団はこの一週間で飛躍的にッ! 能力がッ! 向上した事になりますッ!」

「まぁ、そういう事になる」

「なにゆえッ! 現人神はオビオ君達にッ! 協力的になったのでしょうかッ!」

「さぁな。オビオの料理が美味かったんじゃねぇのか?」

 野で花飾りを作っていたメリィが、キリマルの言葉を聞いて振り返る。

「私、オビオの料理が恋しいなぁ~」

 ドロンと音がして、キリマルの刀が人化した。

「私もオビオの料理を食べたい。きなこ棒美味しかった」

 しかし、ビャクヤは仮面を押さえて苦悩する。

「すみません、アマリッ! 吾輩はッ! あの現人神にッ! 会いたくないのですッ!」

「どうしてぇ?」

 銀髪の修道騎士はビャクヤを不思議そうに見ている。

「君の心の内にある姿はッ! 吾輩によく似ているッ! 神を信じきれなかったところまではッ! しかしッ! メイリィさんはッ! 神自体を捨てたりはしなかったッ! 信仰の対象をッ! 星のオーガに神を変えたのみッ! そして、貴方はッ! 内包する闇と向き合いましたがッ! 私は神から・・・」

 そこまで言って、ビャクヤは肩を落として、岩に腰掛けた。

「逃げたのです」

「逃げたのは、神だけか?」

 キリマルの辛辣な言葉にビャクヤは傷つき、自分を抱える。

「いえ、お祖父様の死からも、Qの好意からも・・・。吾輩はッ! 駄目魔人なのですッ!」

「キリマルがよく、抗え抗えって言っているのは、ビャクヤが逃げているからぁ?」

 悪魔はその辺を飛び回る甲虫を捕まえて、口に放り込んでから噛み潰し、メリィに答える。

「にがっ! 土臭っ! 俺が抗えって言っているのは、そういう存在の悪魔だからだ。お前らが当たり前だと思っている真実が、実は変な事だと気づくようにな」

「どういう事?」

 悪魔はぐちゃぐちゃになった虫を吐き出して、メリィに顔を向けた。

「輪廻転生が、なぜ有るかを考えた事があるか? 前にも言ったかもしれねぇが、お前らは神に搾取されてんだわ。必死こいて生きてきた人生は、ブタみたいな神の脳の肥やしになるのみ。そしてその神も、更に高次元の神に搾取されている。どういうわけか、どの存在も、ある程度文明が発達すると、仮想世界を作って、その中に入り込み、自分が何者かだったか忘れたり、神を気取って偉ぶったりする。そんなのおかしいと思わねぇか? その作られた世界で生まれた者たちの、――――本当の意味で自由に生きる権利はどうなる? 神に美味しく咀嚼され、味がなくなったら吐き捨てられ、また味がつくように再生工場に回収される者達の気持ちを考えろってんだ。俺様はそれが気に入らねぇんだよ。だから気に入らねぇ世界は、神もろともぶっ壊すんだ!」

「よくわからないけどぉ、キリマルの話は矛盾があるような気がするぅ~」

「俺様は反逆と矛盾の悪魔だからな。クハハ! それから、いつまでも落ち込むなよ、ビャクヤ。お前は結局、世界の終わりからは逃げずに戦ったんだ。最後の最後で逃げなかったんだから、それでいいじゃねぇか。背筋をしゃんと伸ばせ。そして現人神とも向き合え。精神生命体となった未来のヒジリが、お前を助けなかったのは、何か意味があったんだ」

 頭を抱えていたビャクヤだったが、立ち直りが早い性質なのか、素直なのか、膝をついて両手を大げさに広げる。

「確かにッ! キリマルの言う通りッ! 今がッ! 自分と向き合うッ! その時かもしれませんぬッ!」

「そうだよぉ。元気出しなよ~」

 メリィは馴れ馴れしくビャクヤの肩を揺すった。

「闇に飲まれかけてッ! オビオ君のッ! 首を絞めていた人がッ! 言うセリフですかッ!」

「えへへ~」

「さぁ、オビオらにマナの大穴に行くよう促しに行くぞ」

 キリマルがそう言って飛び跳ね、縦に一回転すると人間の姿になった。

 腕や脚が蜘蛛のように長い黒コートの男が、魔刀天の邪鬼と金剛切りを腰の定位置に浮かせ、三白眼を細めてニヤリと笑う。

「おほッ! なんとも懐かしい姿ッ!」

「クハハ! そうだろう?」

「わぁ~。カルト教団に雇われていた頃のキリマルだぁ~」

 メリィはそう言ってから後悔する。あの時のキリマルは、誰彼見境なく襲いかかる殺人鬼だったからだ。

 ブルッと身震いしてから、それでもキリマルの顔に興味があるのか、メリィは彼の顔を覗き込んだ。

「やっぱりあの時と同じ怖い顔だぁ~。黒くて真っ直ぐで長い髪の下に、堀の深い目、高い鼻。ピーターも真っ青の邪悪顔だねぇ~」

「クハハ! 死にたいのか? メリィ!」

 キリマルは手が早い。そういった時には既に抜刀していた。

「おやめなさいッ!」

 しかし、その斬撃をビャクヤがマントで弾き返した。

「そんな事よりッ! このままメリィさんをッ! バトルコック団に帰してもッ! 回復役以外では役に立ちそうもありませんねッ! それではッ! なんだか、我々がメリィさんの成長を阻害してしまったようでッ! 気分がよろしくありませんッ!」

 そう言われ、人間の姿をとるキリマルは、天の邪鬼を鞘に戻して、少ししゃくれた顎を撫でて考える。

「確かに。そうだなぁ。メリィ、お前はお人好しのオビオと違って、善と悪が表裏一体なところがある。暗黒騎士の素質が高いんだわ。もしかしたら、あの技が使えるかもしれねぇなぁ」

「あの技?」

「まぁ普通は聖騎士や修道騎士には使えない必殺技なんだが、負の感情が抑えきれなくなった時のお前なら、多分使えるだろ」

「使えるかなぁ~?」

「お前らの職業システムは、自分を枠に嵌めて制限を作る事を代償にして強さを得られる。比較的、なりやすい錬金術師や召喚師が弱いのはそういう事だ。お前は愛欲を断ち、清貧の中で生き、神の下僕を演じる事で、祈りや光魔法を使えるってわけだ。だが、そんな枠はよぉ、瞬間的になら取り払える」

「愛欲ぅ~?」

「おセッセの事ですッ!」

「おセッセぇ?」

 ビャクヤは悶絶して、困り顔のメリィを見る。

「ぬはッ! 知らないのならッ! 良いのですッ! 忘れて下さいッ! ごめんなさいッ!」

 愛欲塗れで生きてきた自分が急に恥ずかしくなって、ビャクヤは謝った。

「悪魔の技を、修道騎士が習得してもいいのかなぁ~? 仮面の三騎士様に怒られないかしら? 習得したところで技の威力を輝きの小剣に相殺されそうだけどぉ・・・」

「騎士修道会の事なぞ知ったことか。まぁ、今から教える技は、威力とか関係ねぇ。全てを断ち切る技だ。よく見て憶えておけ。そして、いざって時に使え」

 キリマルは腰を落として、ゆっくりと魔刀天の邪鬼の柄を握った――――。
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