料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
216 / 331

悪魔はもういない

しおりを挟む
「げふぅ!」

 肋の折れる音が聞こえて、俺は吹っ飛ぶ。

「オビオ!!」

「来るな!」

 サーカが来たところで、犠牲者が増えるだけだ。即死しなけりゃ、俺が負った傷や骨折なんかすぐに治る。

「次のチャンスを作るには・・・。もうフラッ君に頼るしかないのか?」

 もうピーターの悪魔はいない。俺のために魔刀金剛切りを使うチャンスを作ろうとして、尽く消えていったんだ。アークデーモンのコウメイ。グレーターデーモンのブリザード。ウコバクのウンコバク。

 真っ先に消えていった阿修羅のアスラやグレーターデビルのオデイの事も忘れちゃいない。皆にもっと俺の料理を食べてもらいたかった。

 残るはフラッ君のみ。だが、この小さな死神は、俺の悪魔だ。もう愛着が湧いている! 駒扱いなんてしたくない!

「おやつの時に、余計な事を聞かなきゃ良かったよ」

 お喋りなストーンインプのニクタラが、クッキーを頬張りながら放ったあの言葉。

「俺、ぜってぇゴーレムになんか負けないよ! 何せ、アッシャー界に来る権利を、やっとこさ得たんだからね! 負けたらまた魔界に戻って、権利を得る為に武闘会を勝ち抜かなきゃならないもん!」

 あの笑顔は、もうここにはない。ゴーレムの薙ぎ払いで消えた。

「一日で復活できるんじゃなかったのかよ。最初にコウメイがそう言ってたぞ」

 俺の独り言にフラッ君が答える。

「人の世界と魔界では流れる時間が違いますから。この世界の一日は魔界の千日。上位悪魔なら、その千日を戦い抜いて、またこの穴に戻ってこれましょう。しかし、私やニクタラのように微妙な強さの者に、次はないのです」

 それだけ魔界は強者でひしめき合っている。だから大概、偉大な召喚士に呼ばれた悪魔や、マナの吹き溜まりに自然発生する悪魔は強い。

「ハァハァ」

 俺はなんとかフラッ君に引っ張ってもらって、ゴーレムの攻撃範囲の外に出てから、仰向けになる。その頃には、横腹の打撲傷は完治していた。

「大丈夫?」

 サーカが頭を抱き起こしてくれた。若草の匂いがする。彼女の汗の匂いだ。この匂いは心を落ち着かせてくれる。

「うん・・・」

 俺がキュンとした顔でサーカと見つめ合っていると、邪魔するどんぐりが一つ。

「何やってんだよ、役立たず」

 お前がそれを言うのか、ピーター。

「折角、俺が手懐けた悪魔達が、犠牲になって作ってくれたチャンスを、無駄にしやがって!」

「うるせーなー! だったらお前がやれよ! これでも何とかして、金剛切りを胴体に当ててきたんだからな! 当てただけじゃねぇ! ちゃんと鉄のお玉で、胴体に衝撃も加えた!」

「じゃあ、なんであのお宝ゴーレムに、ヒビ一つ入ってないんだよ!」

「知らねーよ!」

「多分だが・・・」

 トウスさんが、腕を組んでから顎を撫でた。

「力が足りなかったんだ。オビオの力は13だからな。戦士としては底辺レベルだ。お前はどちらかというとスカウトに近い」

「同じパーティに! 似たようなのが、二人も要らねぇんだよ!」

 どんぐり族、もとい、地走り族の蹴りが太ももに当たる。奴の蹴りは鞭のようにしなやかだ。

「いてぇ!」

「大袈裟」

 普通に痛ぇわ! 邪悪なるピーター!

 それに! お前と俺では全然キャラが違う! エンチャント出来て、肉壁にもなれて、料理によるバフを付与できるスカウトがそうそういるか! バーカバーカ!

 まぁ、ピーターなんかと言い争っていても仕方がない。俺はトウスさんに向いた。

「確かにトウスさんの言う通り、俺の力が足りてないのかもしれない。キリマルがダイアモンドゴーレムを倒した時には、金剛切りで傷を作った後に、パワーファイターがバトルハンマーを使って砕いていたもんなぁ」

「本来なら、そのパワーファイターが俺の役目なんだろうが、生憎、この手で握る打撃武器のスキルは高くねぇ。かといって、サーカのメイスに頼るわけにもいかねぇし。参ったな」

 トウスさんが申し訳無さそうに頭を掻いている。でも彼は、片手剣や両手剣を得意とするのだし、しょうがないよ。

 元々サブが格闘家だったトウスさんは、俺との旅で、成長の速さを優先して生粋の戦士になった。サブジョブを捨てたのだ。格闘家としての能力を捨てていなければ、獅子連撃の終わりに繰り出す蹴りが有効だったかもしれない。

「ったくよ~。どいつもこいつも役立たずだなぁ」

 そう言いながら、ピーターは昼食に食べなかった白パンを千切っては、ゴーレムに投げつけている。

「おい! 食べ物を粗末にするな!」

 俺は食い物を大事にしない奴が嫌いだ。

「仕方ねぇだろ! 石がねぇんだからよ!」

 さっきからパンなんか投げて、なにやってんだ? こいつは。

「お前はいつも、石とかどんぐりで腰袋をいっぱいにしてんだろ! それを投げろよ!」

「オビオがモタモタしてっから、使い果たしたんだよ!」

 そう言って、ピーターはパチンコを見せて、腰袋の弾が無い事を見せつけてくる。

 そうか、こいつなりにゴーレムの隙を作ろうと援護してくれていたんだな・・・。

「ん? そういや、無限に弾が出るクロスボウはどうしたよ?」

「借金返すのに、売ったよ! バーカ!」

「馬鹿はお前だろ! ギャンブル中毒!」

「うるせぇ!」

 言い合ってても埒が明かない。ここは俺が大人にならねば。

「で、さっきからなんで、パンなんか投げてんだ?」

「ゴーレムの攻撃範囲を、正確に知ろうと思ってな」

 お? とうとうピーターがやる気を出したか?

「そんなもん知ってどうすんだ?」

「何も近寄って、打撃を与えなくてもいいだろ。ここに投擲のプロがいることを忘れたのか?」

「でもお前、力は俺以下じゃん」

 ピーターが目の中で瞳を一周させてから、ため息をついた。

「スリングを使うんだから、力は関係ないよ」

 そうだった。遠心力でなんとかなるから、腕力は関係なかった。どちらかというと器用さが大事。

「なるほど! それで何処まで近寄れるかを調べているわけだな?」

「そういう事」

「でも、石無いじゃん」

「煩いな! 気を利かせて、どっかから調達してこいよ!」

「調達って・・・。石を探しにあの森のある中層階まで戻れってか?」

「じゃあ、そこの排水口から大きな石が流れ出てこないか、見てみたらどうだ? そこの水、森と繋がってるだろうからよ!」

 ピーターが適当な事をぬかす。確かに部屋の隅の天井に大きな排水口があるが、あんなところから勢いよく出てくる石を、キャッチできるわけないだろ。

 キャッチできたとしても、勢い余って下の穴に落ちる。それにそうそう丁度いい石なんて流れてくるわけもなく。

 一応、滝のような排水口までやって来て流れる水を見つめる。水・・・。水・・・。

 ――――水?!

 そういや、水でダイヤモンドを切れるよな。水圧カッターで。

 まぁ、水圧カッターなんて物は持ってませんが。

 俺がヒジリだったら、その手の道具を飄々とした顔で、亜空間ポケットから出していただろうさ。いや、あの現人神なら道具なんてなくとも、ゴーレムを倒したに違いない。

「くそ、羨ましいな。神の力に科学の叡智。俺にあるのはHな気持ちだけだ」

 死と隣合わせなせいか、さっきから子孫を残したくてムラムラしている。サーカの汗の匂いを嗅いでしまったからかもしれない。

 感情制御チップが壊れてしまったせいもあるだろう。水の中に頭をつっこみ、頭を冷やそう。

「ふぁぁぁ~。冷たくて気持ちいい~」

 俺が一休さんなら、この間に何か名案でも思いつくんだけどさ、生憎、ただの料理人なんだよね・・・。なんならサーカと一体さんになりたいとか考えているんだよね。邪な。

「オビオぉ?」

 背後から間の抜けた声と、ブレストプレートの金具が鳴る音が聞こえる。メリィだ。

 俺の勘が囁く。

 きっとキリマルかビャクヤに教えてもらった最終手段を、やるかどうかの相談に来たんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ
ファンタジー
『残念ながらお2人の人生は終わってしまいました』 なんてよくあるフレーズから始まった、ブラコンで狂信者な女の子の物語。 アーチャーのシスコン兄を始めとして出会っていく仲間……タンクのエルフ、マジシャンのハーフエルフと共に、時に王様や王様の夫人…更に女神や眷属まで巻き込みつつ旅先で料理を広めてゆく事に。 ※作中は以下の要素を含みます、苦手な方はご注意下さい 【近親愛・同性愛(主に百合)・クトゥルフな詠唱】

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

役立たずとパーティーからもこの世からも追放された無気力回復師、棚ぼたで手に入れたユニークスキル【銀化】で地味にこつこつ無双する!!

佐藤うわ。
ファンタジー
 超ほのぼの追放・ユニークスキルものです。基本は異世界ファンタジーギャグラブコメ、たまに緩い戦闘がある感じです。(ほのぼのですが最初に裏切ったPTメンバー三人は和解したりしません。時間はかかりますがちゃんと確実に倒します。遅ざまぁ)  最初から生贄にされる為にPTにスカウトされ、案の定この世から追放されてしまう主人公、しかし彼は知らずにドラゴンから大いなる力を託されます……途中から沢山の国々が出て来て異世界ファンタジー大河みたいになります。

処理中です...